突然の…
王者広島に逆転勝ちし、名門鹿島を完封。J1初陣のアガーラ和歌山は堂々たる戦いぶりを見せていた。続く相手は天翔杯王者の横浜。リーグ戦開幕からの5試合は強豪続きで気が休まらない。横浜の次はホームでリーグ杯王者柏、3月の締めくくりはアウェーでタレント軍団セレーノ大阪とやりあうのである。新人潰しの如く作為的な日程だ。ただ、下手をすれば5連敗の可能性もあっただけに、勝ち続ければムードは良くなり勢いも持続できる。問題はそこから生まれる若さ故の過ち…ならぬ、慢心である。
「勝ってるのはいいことなんすけど、これで勘違いしないように気張るのが逆にしんどいっすね」
ある日の練習後、鹿島戦のマン・オブザ・マッチ(その試合のMVPと考えればいい)に選ばれていた友成は、取材で正直な心境を吐露した。ちなみに取材しているのは、Jペーパーの浜田友美記者だ。友成の言葉は、他人に対して以上に自分に厳しい男の言葉だけに説得力がある。
「開幕戦もスタンドから見させてもらいましたが、友成選手の活躍は際立ってましたよ。J1でやっていける手応えは、何か感じました?」
浜田記者の次の質問に、一瞬頬が緩んだが、答えは照れ隠しのように素っ気ない。
「…まあ、高めに採点してくれたのはありがたいし、スピードに対しては手応えはなくはない。でも、清水とか大宮、名古屋にはバカみたいにデカイ代表クラスいますよね。そいつらと空中戦やってからっすね」
「今年はW杯イヤーですけど、友成選手は、代表に興味ありますか」
「…まあ、なくはないっすけど。でも今は目の前の試合で手一杯すよ。うちのディフェンスはザルいんで」
そこに内村が通りがかり、友成を冷やかした。
「お、友成。今話題の守護神様は違うなあ。年上のお姉さんと楽しく会話か?羨ましいねえ〜」
「う、うっせ。受けたかったらてめえも結果だせばいいだろ。ま、小宮に敵うかはあんた次第だろうけど」
「しっかし、浜田さんの言うように、代表狙ったっていいんじゃね?こないだの鹿島戦なんか無双だったじゃん」
「あれは向こうのフィニッシャーがひどかっただけだ。ブラジル人の…デビィだっけ。どっちかっつったらデブイだけど」
「前節はゴールなかったけど、J1でもいつもどおりの戦いできてるんじゃない?」
「いやーまだまだっすよ。ま、開幕戦のゴールは俺らしかったから、不満はないっすね」
別の場所では、クラブのオフィシャルライター玉川に、剣崎が取材を受けていた。
「しかし、決勝ゴールも驚いたけど、あのロングシュートはしびれたよ。あれは狙ってたの?」
「当たり前じゃないっすか。つーか、俺には見えたんすよ、ゴールへの道が。だからぶちこめたんすよ」
「見えるねえ…。さすが『人類無双』、あれを蹴っちゃうあたりが普通じゃないけどね」
度々取材を受けるなかで親しい仲にある二人の会話は軽い。玉川はまるで、友人と話すように聞く。
「今のところ代表とか得点王とか、なんか意識してるのある?」
「ん〜…得点王はなるつもりですけど、代表は特に興味ないっすね。ゴール前でいちいちかわすの見てると腹立って仕方ねえけど」
代表はともかく、得点王についてさらっと「なる」と言い切るあたりが剣崎らしく、玉川は苦笑する。
「しかし、リオを目指す五輪代表は今一つだし、もしかしたら召集あるかもよ?」
「呼ばれたら呼ばれたで構わないっすけど、俺には点とることしかできねえから役に立つかわかんねえっすよ」
「その『点とること』が一番日本人は苦労してるからな。とりあえず10ゴールになれば呼ばれるかもな」
「10?んじゃあっという間だ。今月中に決めてやるぜっ」
現在リーグ戦2得点の剣崎が二桁に乗せるには、横浜、柏、セレーノの3試合で2得点がノルマで、うち二戦でハットトリックをする必要がある。現実的ではないが、できそうな気をさせるのが剣崎の魅力であろう。
「2連勝か。できすぎだなぁ。選手はともかく周りが浮かれてるからなぁ。マスコミのコントロールが必要だな」
「でも今石GM。まだ序盤ですしし、広報としてはできるだけ取材をOKしたいんですが…」
「ま、スケジュール調整は気をつけてくれよ三好ちゃん。あと、相手がどういう人間か裏もとっとけ。結果残してるっつっても、まだまだガキな連中ばっかなんだからよ」
そのころ今石GMは、三好広報からの報告を聞きながらクラブハウスの玄関にいた。そんな中、ふらりと一人の男が駐車場の正門付近にたたずんでいた。黒い帽子を目深く被り、グラサンとマスク。黒いジャケットにジーンズ。おまけに軍手。花粉対策にしては大袈裟でかなり怪しい。会話の最中、三好広報はその人物に目が止まり「何、あの人…」とポツリ。今石GMも会話を止めて男を見た。誰もがただならぬ雰囲気を感じ、側にいた警備員が男に近づいた。
瞬間、男は警備員を振り払い、ジャケットのポケットから何かを取り出して右手に握った。それは太陽の光を受けて鈍く光った。そして男が、マスク越しに奇声を挙げ、右手を振り上げながら走り出した。
三好広報の叫び声が響き、剣崎と友成がダッシュでクラブハウスに走った。
先についたのは友成。友成が見たのは、刃物を振り回す男に襲われている今石GMだった。
「死ねえっ!うらぁっ!」
「な、なんだてめぇ、うわっ!」
大降りなのでかわせていたが、そのうちに足がもつれて今石GMが転倒。男は勝機とみて刃物を振り上げる。が、振り下ろされた右手に、友成がハイキックを叩き込んだ。弾かれた右手から刃物が離れる。
「なんなんだてめぇは。あぁっ!?」
「ぐっ…くそっ!」
ドスの効いた声で友成が怒鳴ると、刃物を失い、右手首のしびれが取れない男は逃亡を図る。そこに剣崎が駆けつけた。
「てんめえっ!!オヤジに何しやがんだぁっ!!」
逃げる男の背後から剣崎は飛びついた。
「ぐわっ!!」
プロレスラーのような体格の剣崎にがっちりと抱きつかれ男は転倒、駆けつけた警備員に取り抑えられた。倒れた時に男の帽子は脱げ、グラサンが外れた。そこから現れた顔に、今石GMは声を上げた。
「あ、あんた…」
たまにはこういうのありかと。豪放磊落な人間は意外と恨みを買う印象がありますので。




