負けじと剣崎も
引き延ばしたわりには、今回グダグダの短文です。
「おい。あの娘読み間違えてないか?」
イベントの舞台裏、晴本の名前が読み上げられて登壇するまでの間、スタッフのチーフクラスが部下に尋ねた。
「いえ、Jリーグ事務局から届いたリストにも、晴本選手は2位です」
「なんでだあ?日本代表のエースより注目の選手なんているのか?」
一方で壇上に立った晴本は、いたって冷静にインタビューに答えていた。
「いろいろな方が僕を選んでくれたわけなんで、今年はもっと期待に応えられるように頑張らないといけないですね」
一方で内心はどうだったか。得てして栄誉を掴むようなスターは負けず嫌いの気がある。やはり一番でないことに少なからず不満はあった。
(リーグ戦に加えて日本代表でも結果残してる俺より表を集める奴らおるんかい…。得点王の小久保さんでも俺より下やのに、誰やねん一体)
会場のほとんどが疑念にかられるなか、注目の1位の発表が始まる。それまでよりもやや長めのドラムロールが響き、鳴りやむと同時にスポットライトも消灯されてしばしの沈黙が会場を支配した。そして女性司会者が切り出した。
「アガーラ和歌山、剣崎龍一選手です!!」
「いよっしゃあっ!」
読み上げられた瞬間、光が集まる前に剣崎は雄叫びを挙げ、光が集まったころにはすでに立ち上がってガッツポーズを作っていた。胸をはり、堂々とした歩みでステージに上がった。記念品を受けとると子供のような満面の笑みで、それを誇らしげに掲げた。よく言えば純粋だが、いささか子供じみた振る舞いは歓声よりも失笑を起こした。竹下社長、三好広報の二人の顔がイチゴよりも真っ赤になったのは言うまでもない。
ただ荒川以外のFWたちは、ストライカーの嗅覚がなせるのか、雰囲気で剣崎がただ者ではないことを理解した。
(緊張してもおかしくないこの場で堂々とした態度…なるほど、J2の記録を塗り替えたのは伊達ではないわけだ)
(得点王争い。晴本もそやけど、こいつも要注意やな)
(…)
「いやあまさかこんな場に選ばれるなんてマジビックリっすね。そんだけ期待されてるってのがはっきりわかったんで頑張らなアカン思いましたね」
壇上でインタビューを受け、剣崎はトロフィー片手に雄弁に語った。
「自分はとにかくへたくそなんで、ゴールを奪うことだけ考えてサッカーやってきたんす。それで結果を出すことができて、こうやって皆さんに覚えてもらえてホンマに嬉しっすね」
「それでは最後に初めてのJ1に向けて、目標を教えてください」
マイクを向けられた剣崎は、同じ壇上に立つ選手を見渡しながら言い切った。
「ここに上がったこの人らに勝てれば、俺ももっと上に行けて、アガーラ和歌山も上位目指せると思うんで…この人らよりゴールを決めて得点王になって、アガーラ和歌山をACL連れてい…きます。ACL行きますっ!!」
迷いもなく言い切った。会場は当然どよめく。目の前で戦線布告を受けた選手たちは、剣崎の心意気は買った。そしてこう思った。
(受けて立ってやる…)




