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炸裂、小宮節

 プレスカンファレンスはいよいよイベントの時間となった。参加した選手たちはユニフォームに着替えて登壇した。

 まずは各クラブの代表者が新シーズンへの意気込みを語る。ディビジョンごとに選手が入れ替わり、J1の18人の番になった。1年でのJ1復帰を果たしたヴォイス神戸、ガリバー大阪に続いてアガーラ和歌山の番。小宮はクラブフラッグを、まるで畑仕事に出る農夫の鍬のように、肩に担いで登壇した。胸をはった堂々した歩調だったが尊大さが際立ち、和歌山関係者の傍らでそれをいぶかしんだり失笑する声がもれ、竹下社長、三好広報は共に肩身が狭い思いにかられた。

「はぁ…。彼には“謙遜”という発想はないんでしょうか」

「…あの振る舞い見てる限りは、ないでしょうねぇ」

 さすがに今石GMも苦笑いを浮かべた。

「まあ、今に始まったことじゃないでしょ。恨むなら監督恨んでください」

「おぉ責任転嫁かね?私は推薦はしたが、決定は君がしたのだよ、今石君」

 バドマン監督はそうとぼけたが、笑う余裕があったのは今石GMだけだった。そうこうしているうちにインタビューが始まり、小宮にインタビュアーが近づいた。


「続きまして、今シーズン唯一のJ1初挑戦クラブ、昨年のJ2を圧倒的な攻撃力て優勝したアガーラ和歌山からは、今シーズン東京ビクトリーから加入した新10番、小宮榮秦選手です。よろしくお願いします」

「ども、お願いします」

「今シーズン和歌山は初めてのJ1に挑むわけですが、小宮選手にとってもJ1初挑戦となります。今どんなお気持ちですか?」

「まあ不安はなくはないっすよ。やっぱやったことないところでサッカーするんで。ただ今の自分がどこまで通じるかも楽しみですね」

 予想に反して淡々と、そして丁寧に受け答えする小宮。大人な印象を見せる一方、聞く側からすればやや拍子抜けとも言えた。

 ただインタビュアーの次の質問に対する答えは、会場を凍りつかせた。

「初めて戦うJ1、まず目標は残留ということになりますかね」

「まあ初心者なんでそれが普通ですけど…Jリーグって結構ドングリだらけなんでやりようによっちゃ上にいけますけどね」

 ドングリとはむろん皮肉である。一昨年のG大阪、去年の磐田を引き合いにどんな名門でもJ2に落ち、3年前の柏のように昇格早々優勝する可能性もある。俺たちだって優勝する力はある。小宮なりの宣戦布告である。

「…そ、それでは、小宮選手ご自身の目標は何かありますか?」

 気を取り直したインタビュアーに、小宮は止めを差すように言い切った。

「まあうちには化け物みたいなストライカーがいるんで、俺が20回ゴールに絡んで、あいつが得点王とれりゃ優勝も見えるんでまずそれを目指します。うちの攻撃力は今の日本代表が束になっても相手にならないくらいヤバいんで、J1の先輩方は覚悟しといてください。以上っす」

「…ありがとうございました」


 ドヤ顔の小宮。謙遜も遠慮もない、他の17クラブに向けての宣戦布告である。



 その後、各選手のコメントが終わり小宮は再びタキシードに着替えて席に戻ってきた。早々にバドマン監督は茶化した。

「ずいぶんと派手にやってきたね。君らしく素晴らしかったよ」

「おほめに預かり、恭悦至極。まあ実際できますよ」

「しかし、ハードルはずいぶん高くなったねえ。私もそうだが、君も言った以上はクリアしなければならないよ」

「…まあ望むところですよ。それに、ハードルは高ければ高いほどいい。飛び越えりゃ称えられるし、越えれなくても笑われるだけだし」

 小宮の顔には自信と覚悟が浮かんでいた。






 そしてこの日のメインイベント、剣崎の出番もきた。

 このカンファレンスの1ヶ月ほど前から、Jリーグの公式サイトやサッカー関係各媒体では「あなたが選ぶ日本人ストライカーと言えば?」というアンケートを開催。Jリーグ全クラブのFW登録選手を選び、その上位5人を表彰、ついでに今シーズンの具体的な目標を壇上で発表するという催しだ。ただし、各クラブには“そのクラブ内で最も票を集めた選手が誰か”ということしか伝えられておらず、J1J2から集められた40人のうち、35人にものぼる呼ばれなかった選手はなんの見せ場もなく終わるというわけだ。

「まず第5位は…」

 ドレスを身にまとった女性の司会者が発表を始めると、ドラムロールと共にライトが右往左往する。そして一人の男を照らし出した。

「ジェミルダート尾道、荒川秀吉選手です」

 光が集まった瞬間、この男らしからぬキョトンとした表情のまま立ち上がり、案内されて登壇。プレゼンターから記念品を苦笑いで受け取り、インタビューを受けていた。


「いいなあヒデさん。うらやましいぜ」

「そうでもねえだろ。あとは座ってるだけだ。真っ先に呼ばれても後が暇だし、たかが5位で表彰されても嬉しがるほうがおかしな話だ」

 うらやましがる剣崎に、小宮は嫌みたっぷりに言う。

 今回のアンケートでは、ただ一人のJ2からの選出(無論この場では発表されない)。昨年最終節でのハットトリックをはじめ印象的なゴールを決めるなど、勝負強さが選出の理由らしい。そもそもしばらく音信不通だったが「知る人ぞ知る」という選手。コアなファンから得票を集めたようだ。

 続いて呼ばれたのはJ1連覇の立役者、サジタリッセ広島の瀬藤弘人。J1J2合わせたゴール数184はJリーグ史上最大。今シーズンは史上二人目、ダンこと中川隆志(元磐田、札幌)以来のJ1通算150ゴールを射程に捉えている。それに対する期待が表を集めた。

 3位は昨年のJ1得点王。川崎バレイアスの小久保嘉樹。セレーノ大阪やヴォイス神戸に在籍した生粋のストライカーは、攻撃的スタイルを伝統とするクラブと噛み合い、今年は悲願のリーグ制覇、あるいはタイトル獲得の期待がかかる。



 この辺りになるとJ2クラブの関係者は無論、会場の大多数が一位をある選手に予感していた。

 セレーノ大阪、そして日本代表の新エース、晴本京四郎である。セレーノの日本語の意味、晴れを名前に冠したクラブの至宝は昨年大ブレイク。神がかり的なボールタッチを武器とし、芸術的なゴールを量産。得点力に泣く日本代表でもコンスタントにゴールを挙げW杯本大会でも活躍が期待されている。それを一位と想定する空気が会場を占め、「二位が誰だ」と探る様子はなかった。だが、女性司会者は会場の期待を覆す名前を呼ぶ。晴本が2位で呼ばれたのである。


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