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完膚無き格の違い

 2トップのゴールで2点のリードを得た和歌山。ロッカールームでは、大はしゃぎとはいかないまでも、イレブンがハイタッチをかわしまくるなど盛り上がっていた。


「いやあめっちゃ気持ちいいゴールだったぜ。我ながら惚れ惚れすっぜ」

「七回もその前にふかしてんだから、あれぐらいやってもらわねえと割に合わねえよ、バカ」

 浮かれる剣崎を小宮がけなす。友成は小宮を援護する。

「ただでかいだけのお前らがゴールできたのは俊也のおかげだろが」

「あんだとこのやろ!」

「いっ、俺も巻き添え!?」

 思わぬ巻き添えをくらった野口は、剣崎の抗議以上の大声で返す。

「まあまあ、別に俺のお陰なんて思ってないから気にすんなって。後で金一封くれたらいいから」

 かばっているようで自己主張している竹内に、一同は吹き出した。ロッカーのノリは、部活動のそれだった。



「諸君は本当に賑やかだな。はしゃぐのなら、・・・心からはしゃいだらどうだい。目はまだ戦意をやどったままだよ?」

 現れていた選手に声をかけたバドマン監督。指揮感の指摘に、栗栖は苦笑いを浮かべた。

「心から?はは、そりゃありえないっよ。リードしてるけどまだ試合は終わってませんからね。『時間のある限り全力を尽くせ』ってのが、このクラスのポリシーでしょ。そういうあんたも目が全然笑ってないっすよ」

 栗栖の指摘に、今度はバドマン監督が笑った。そして後半に向けて指示を出した。

「ククク。それがわかっているのなら問題ない。今の清水には、この状況を打開できる起爆剤は存在しない。そもそもできていないからJ2降格となったのだからね。カウンターとセットプレーに徹して、最後まで気持ちをひとつに戦いたまえ。栄光に辿り着くには、最後の一歩が大事なのだからね」



 和歌山ボールで後半開始のキックオフ。その立ち上がりは清水の守備に苦戦する。開き直ったかのようなアグレッシブなディフェンスに、何度かカウンターを受ける。今も高見が裏を抜けて、友成との一対一を迎える。


「くらえっ」

「ないない」


 しかし、至近距離にも関わらず友成は冷静に反応。右手でシュートを防ぎ、こぼれ球はバゼルビッチが遠くに蹴り飛ばして、清水の攻撃を遮断した。

「向こうも必死だな。確かに大胆にはなったが、顔に書いてるぜ?『開き直りなんてできない』ってな」

 にやけながら、小宮は強烈なパスを左サイドに出す。そこには竹内に代わって後半から左サイドに入った桐嶋がいた(これに伴い佐川は右サイドにポジションチェンジ)。


「3年も世話になったんだ。最後になんか残してやる」

 受けた桐嶋は得意のドリブルで中央に切れ込むと、すぐさま右に流す。誰もいない所へのパス・・・のはずが、剣崎の伸ばされた左足のつま先が、そこのあった。

「さすがだぜ。どっかに空間があれば必ずそこを見つけてくる。来年から敵になるから恐ろしいぜ」

 スライディングでボールに飛び込み、つま先でそれをゴールに押し込んだ剣崎を見て、桐嶋は改めて恐れるのであった。


「カズぅっ!!ナイスボールだぜ」

「お前こそナイスゴー・・・るって、ムギュっ!!」

 飛び掛かってきた剣崎を桐嶋は迎えたが、体格が違うために押しつぶされしまう。そこに小宮もやってきた。

「ふん。ちっとは成長したな。俺様のパスに反応できるとはよ」

「ヘン、凡人には凡人なりの意地があんだよ。来年は覚悟しとけよ?必ずレギュラー取ってお前らを苦しめてやるからな」


 開幕前はいがみ合っていた両者は、言葉を握手を交わした。





 剣崎の2点目は試合は決まった。そう言いきって過言ではなかった。小宮の指摘通り、開き直り切れなかった清水の選手たちは、空元気で無理に奮い立たせていた戦意を、根元からボッキリと折られてしまった。

 それに追い討ちをかけるように、バドマン監督は佐川に代えて藤崎、野口に代えて久岡を投入。2トップを剣崎と小宮の「古きよき」コンビに変えて清水をさらに混乱させた。


「なんでタクが交代すんだよ。そんでお前と組むのかよ・・・」

「何で不満なんだ。この俺様がお前に『エサ』を与えやすいところに来たんだ。感謝するんだな」

「ケッ、ハットトリックさせてくれんなら考えてやるよ」


 そういがみ合うように会話を交わした二人だが、波長が合うのか何度も決定的なシーンを生み出す。しかし、これ以上恥の上塗りはゴメンと、清水の守備陣も最後の意地を見せゴールを割らせない。さらに長身の長峰、切り札の村井とフレッシュなFWを次々投入し、1点を奪いにくる。攻撃に転じる清水だったが、ここで三度友成が立ちはだかる。DFへの的確なコーチングで自分の守備範囲外のコースを消し、飛んできたシュートは見事な反応ですべて掴み取った。


「くそっ!!またかよ~!」

 途中交代ですでに2本のシュートを放った村井は、天を仰いで悔しがる。そんな村井を、友成は嘲った。

「はは。おめでたいね、あんた。そんなにゴールできないことが悔しいか?」

「ああ!?何だとてめえ」

 年下からの敬意のない物言いに、村井は突っかかるが、次の一言で思わず口をつぐんだ。

「あんたの考え当ててやろうか?『せめて1点取ってやる』だろ?そんなんじゃ千本シュート打たれても俺は止めれるね」

 ひるんだ村井に、友成はこう吐き捨てた。

「そんなんだからあんたらは降格ちたんだよ。ウチの剣崎バカなら、たとえ99点差で負けてたとしても、真顔で『100点取ってやる』って言い切るね。歴史のメンツを保つだけに取りに来るゴールなんざ怖くもなんとない。J2(した)でその辺、鍛え直しなさいよ」



 すべてにおいて格の違いを見せつけた和歌山。友成がボールを大きく蹴りだした瞬間に、試合終了を告げるホイッスルが響く。


 その瞬間の、剣崎の第一声。


「いよっしゃってちくしょうぉっ!!ハットトリックしたかったぁっ!!!」


 嬉しいような悲しいような、ゴールにどん欲な剣崎らしい雄たけびだった。

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