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やっぱゴールが面白い

とってつけたようですが、前の話を投稿した後に、この試合に実況と解説がいたのを思い出しました(笑)

 劣勢の中、ようやく牙をむいた和歌山の攻撃。それを実らせた剣崎の一撃で、試合の流れはがらりと変わった。反撃の口火からわずか3分後、ソンが強引に中に切れ込んだところを、イデが後ろからユニフォームを引っ張ってしまいフリーキックを与えてしまう。直接放り込むことも可能な、キーパー蔵から見て、ゴールの左40度の位置。距離は15メートルとそんなに遠くない。ゴール前では両軍の選手たちが激しくポジションを取り合う。ボールの近くには栗栖と小宮が立った。


「狙っていいもんか?」

「どうだろうな。お前は行けるだろうけど」

「だが直接ぶち込むだけじゃただ同点に追いついたってことで割り切られるだけだ。俺飛び越すから、お前が蹴れ」

 普段はフリーキックを蹴りたがる小宮が、珍しく栗栖に譲る。思わぬ行動に栗栖は吹き出した。

「おいおい珍しいな。美味しいとこ持ってくぜ?」

「気が乗らねえんだよなんか」

「なんだそりゃ」

「あのバカにアシストする具合のボールが・・・もう一つわかんねえんだよ」

「なるほどね。それは俺の領域だ」


 二人は左右対称な動きでボールから離れていく。レフェリーが笛を吹き、まず小宮が駆け出す。同時に剣崎はファーサイド、というよりゴールから離れていった。

(なんだ?)

 マークに突いていた橋本が一瞬呆気にとられる。小宮の動きにつられてほかの選手がゴール前に飛び込んでいく中、剣崎は一瞬だが完全にフリーになった。

 そしてそこからがすごい。フリーの状態からあえて選手が密集する地帯に突っ込んでいき、小宮につられてゴールに走りこむ選手たちの合間を縫い、ゴールのほぼ正面の位置につく。そこに栗栖がふわりとした緩いボールを上げた。




『さあ小宮が動き・・・栗栖が緩いボール。あーっ、剣崎っ!出てきたっ!跳び上がったっ!オーバーヘッドだあぁぁっ!!!!入ったあっ!!!』

『うはあっ、すぅごいぃっ!!』

『一人動きを遅らせた剣崎ぃ、オーバーヘッドで同て~ん、同点っ!!』

『うわもうやってらんないですよねえ。これ一回剣崎逆に動いてマークはがしてるんですけど~、そこから加速して一気にゴール前来たんですよ。この瞬発力ハンパないですね~』

『しかもオーバーヘッドですよこれ』

『いやあ魅せますねえホント。今の日本は幸せだホント』








「ナイスだぜこの野郎が!!」

「お前も、相変わらず派手だな」

 放送席が沸いている頃、ホットラインがタッチをかわし、和歌山の選手たちが次々と飛び掛かって歓喜の輪を広げ、尾道の選手たちはしばし立ち尽くす。

「アーリークロスを左足、フリーキックを右足、どっちもバイシクル。派手でいて完璧にぶちかます・・・すげえ年下がいたもんだな」

 布施は笑うしかなかった。




 同点に追いつかれた尾道は、最後の交代枠をここで切った。茅野に代えてサイドバックの深田を投入。左のそのポジションに入れ、イデを一列前に上げた。ほどなくして第4審判がアディショナルタイムを掲示。手にしていたボードには『3』と記されていた。

「3分か、十分逆転できるぜ」

 剣崎はそう言って味方に吠えた。

「いいかっ!延長なんか考えんじゃえぞ!この3分でケリつけるぞ!!」

「もっかいここ集中だっ!全員で粘るぞ!!」

 同じように尾道サイドも、ベテラン山田が味方を鼓舞する。アディショナルタイムは8:2の割合で和歌山が仕掛けたが、キーパー蔵ととにかく体を投げ出す尾道ディフェンス陣の分厚く粘り強い守備をこじ開けきれないままホイッスルが鳴り響く。勝負は延長戦に入った。


 追いつかれた尾道の正岡監督は、円陣を組んだ選手たちにいつもよりもやや熱く選手たちに、入念に可能な限りの指示を出した。

「さっきまでの90分間でやってきたこと。これをもう一回思い出そう!全員で守り、ワンチャンスを生かそう!その上で芳松。お前がどれだけ体を張れるかだ」

「うすっ!荒川ヒデさんみたいにゃいかねえけど、作ったチャンスは何が何でも離さないっすよ!」

橋本ハシ布施キンゴ結木チヒロ、深田。お前たち最終ラインがどこまで粘れるかにもかかってる。向こうのFWはまだまだ元気だ。頼むぞ!」

「はいっ!!」

 正岡監督の言葉に、橋本が全員を代弁して力強く返事した。


 一方でバドマン監督は、栗栖と猪口のダブルボランチ、佐川を左サイドハーフに回し、小宮に右サイドハーフにスライドと中盤をまたいじった。そして、たった一言だけ伝えた。

「勝ってきたまえ!!!」

 対して野太いよく通る声が響いた。



 延長前半。90分の肉弾戦を経た選手たちは、足が止まりはじめるものと、まだまだバリバリ動けるものとがはっきりしてくる。途中交代で出場した選手たち、特に後半のアディショナルタイムから入った深田はバリバリ元気だった。

「みんな足止まっとるさかいにな。ワイが気張って盛り返すで!」

「そりゃ無理な話だな」

「うおぁっ!」

 気合いを入れてドリブルを仕掛けていた深田だったが、対峙した小宮にあっさりとボールを奪われる。

「おま、90分やってんのに、思たより動けてるやんけ」

 あまりの俊敏な動きに、深田は思わず愚痴る。それを聞いた小宮は、逆撫でする一言を返した。

「才能の差だな。体力で補えないぐらいのな」


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