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最後の最後で

「ユーマ、ちょっとこい」

 ゴールキックとなって、尾道の正岡忠満監督はテクニカルエリア(ベンチ前の点線で囲んだエリア。試合中監督が動き回れるところ)に茅野を呼びつける。未だシュート1本の攻撃を打開するべく、策を耳打ちした。

桂城ヤタローに言ってくれ。『秀吉(荒川)にこだわるな、自分から仕掛けて秀吉を流れに巻き込め』と」

「うすっ!」

 伝言を受けた茅野を見送って、正岡監督は右腕の佐藤コーチに伝える。

「山田の準備お願いします。後半頭から行きます」

「誰と代えますか?」

「亀井と代えます。後半は2トップで行ったほうがよさそうだが・・・ホセ、攻撃にはどういうカードがいい」

「シンプルに芳松でいきましょう。秀吉をフィニッシャーに徹させれば活路が見えます。それに、元々相性もいい」

「よし。佐藤コーチ、芳松にも準備を」

「わかりました」


 動き出した尾道ベンチに対して、和歌山ベンチのバドマン監督は腕組みしてベンチに座ったままだ。

「向こうは動いてますが・・・どうしますか」

「いや、まだ大丈夫だ。前半は動かずに見ていよう。ただ、リザーブの諸君にウォームアップの強度を上げさせてくれ。状況は常に変わるものだからね」

 指示に従って松本コーチは体を動かしている選手たちのもとに向かった。




 蔵からのロングボールを受けた竹田は、江川の執拗なマークに耐えてなんとか桂城に繋ぐ。受けた桂城はチョンに対して、パスコースを探す仕草を見せてから、いきなり急加速して振り切った。

「!」

「よしっ!」


 自由を得た桂城は、そのままドリブルを仕掛ける。


「ちっ!おいっ、お前はそのポンコツ見てろっ!」

 チョンに露骨なまでに舌打ちして、小宮は内村に指示して桂城に襲いかかった。


「あいつの口の悪さはなんとかなんねえのか?」

 荒川は内村に愚痴をこぼす。内村は肩をすくめながら返した。

「あんたにゃ名称がついてるだけマシじゃね?俺は呼び捨てにすらされなかったっしょ。あの口の悪さは、生まれ変わった時にしつけるさ」

「・・・ちげえねえや」


「ヤマトっ!」

「オッケ」


 桂城は止めにかかる小宮を避けて竹田に流し、受けた竹田は攻め上がってきた結木に託す。結木はそのままゴールライン手前までかけ上がって、ゴール前にクロスを上げる。抜きんでた長身選手がいない中ならば、跳躍力のある友成が光る。パンチングでそれを弾き出すと、一斉に選手が群がる。


「このっ」

「なんの!」

 猪口のクリアを荒川が肩で弾いて勢いを殺す。力のないボールが転がる。これを谷本が拾う。前を見た瞬間、谷本には見えた。

(行けるかも・・・一か八かだ!)

 谷本は強引にミドルシュートを狙う。地を這うボールがゴールポスト横の給水ボトルを弾き飛ばした。線審がコーナーキックを指示した。意表をついたシュートに反応できなかったソンの足に当たったようだった。前半はもうすぐアディショナルタイムに入ろうとしていた。



『アディショナルタイムが近づくなかのコーナーキック。蹴るのは・・・イデのようですねえ』

『イデはなかなか面白いキックしますからねえ、今日は味方に高さがないんで、もしかしたら狙うこともあるかもしれませんねえ』

『あるいは上がってきた橋本を狙うかさあどうかクロス、橋本がねらうがあああポスト、まだボールは生きている!結木が拾う。竹田とのワンツー中に入って、一旦戻す。谷本、谷本シュートに行く!友成弾く、荒川押し込む、チョンかきだし、布施飛び込んだあぁっ!!!』



 混戦の最中、チョンのクリアミスに布施が頭から飛び込む。自分ごとゴールマウスに飛び込んで、主審がゴールを認めるホイッスルを高らかに響かせた。

 ゴールから出てきた布施に味方が次々とのしかかり、先制ゴールを祝福する。遠くから混戦を見守っていた尾道サポーターも、状況を理解して歓喜し、旗をはためかせながらチャントを熱唱した。



 ほどなくして前半終了のホイッスル。両監督が試合を中継するNHKのアナウンサーからインタビューを受けていた。

「放送席、放送席。アガーラ和歌山バドマン監督です。前半終了間際に先制点を許しましたが、後半に向けてはどんな指示を出しますか」

「ええ、失点に関してはただただ、向こうの執念がその瞬間上回っただけであって、44分間のほとんどは我々のペースで進めていましたから、できている部分は大事にして、攻撃について微調整はするつもりです」

「内村選手と小宮選手というトップ下タイプの二人をセンターバックで起用した意図は?」

「向こうにはもともと高さのある選手が少なく、攻撃もパスをつないで展開するパターンが多かったので、二人のポジショニング能力に期待して、パスコースを遮断させるために起用しました」

「後半の展開はどうなるとお考えですか?」

「う~そればかりは始まらないと分かりませんが、勝つつもりで最後まで戦います」

「ありがとうございました。放送席どうぞ」


 笑顔を見せてベンチに引き下がったバドマン監督に松本コーチが駆け寄った。

「向こうは山田をロッカーに連れていきました。多分頭から行くみたいです」

「だろうね。向こうの亀井君は、今日は普段の脅威を感じられなかったからね」

「うちはどうしますか」

「うむ。こちらも手を打っておこうか。両サイドバックの推進力を活かしきれていないからね」

「誰を呼びますか?」

「大森を。システムも大きく変える」







 同じ時間帯、ハーフタイム明けに使用するインタビューが尾道サイドでも行われていた。

「なかなか苦しい中で何とかゴールをこじ開けましたね」

「まあ選手たちには常に最後まで集中しろと言ってあるので、それが形になったかなとは思ってますけど、ただ全体的に相手のいいようになっていたので、なるべくウチのペースにね、持ち込みたいと考えています」

「後半に向けてはどうお考えですか?」

「まあ選手にしろ攻撃パターンにしろどうにか手を変えなきゃいけないかとは思ってますね。向こうのほうがベンチにいいカードを忍ばせているんで、自分たちが主導権を握り続けるようにしんしゅにつたえるつもりですね」

「ありがとうございました。尾道の正岡監督でした」

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