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どこが「中立地」なんだろう

沼田政信さんの「幻のストライカー~X爆誕~」との恒例コラボです

 今年の天翔杯はいつもと違う。

 決勝の会場が国立競技場でもなければ、決勝の日が元旦でもない。そのあおりで、準決勝がリーグ戦の最中に組まれた。しかもそのカードがかなりいびつなもので、清水エスポワルスとJ2のモンテビアンコ山形の試合が高知の春野市陸上競技場で、そしてアガーラ和歌山とジェミルダート尾道との試合が神奈川の三ツ沢球技場で行われることになった。

 ここ数年、縁もゆかりもない地域での試合開催という問題を抱えている天翔杯だが、これを機になにかしらの論議は起きてほしい。休日ならまだしもミッドウィークでの開催だから選手にもサポーターにも移動面でシャレにならないからだ。日程的に強行軍となるしどのクラブも金銭的に裕福とも言いがたいので、早急な対策がほしいところだ。


 ともあれ、なけなしの予算から飛行機代を捻出した尾道は、決戦の地に広島から飛び立った。その機上で尾道のエースFW荒川は、どこか感慨深げにため息をついた。


「どしたヒデ。なんか訳ありなため息だな」

 隣に座る港に声をかけられ、荒川は目線を窓に移したまま呟く。

「いやなに。三ツ沢に行くとなると、どうもね。俺はそこでプロになるはずだったんすからね」

「・・・ああ、そういうことか。あれから・・・もう15年たったわけだ」

「隣に座ってるのがあんたで良かったよ。亀井カメ茅野ユーマだったらキョトンとされてら」

「そうだな。経営が青色吐息でも、今はよほどじゃない限りクラブが無くなる心配はないからな。若い連中が羨ましいね」


 Jリーグが誕生した当初、誕生したクラブは俗に「オリジナル10」と呼ばれているが、このうちの一つ、横浜フライヤーズはこの世に存在しない。98年中旬、市民が野球にわいている傍らで、母体企業とメインスポンサーが同時に支援を撤退し、天敵横浜マリナーズとの吸収合併を余儀なくされた。三ツ沢はフライヤーズのホームだった場所で、荒川はこの地での試合に出るたびに何かを思うようになっている。

「ま、やることは変わらんけどね」





 一方で「どうせエコノミーしか乗れないのなら、二席に寝転がれるばすのほうがいい」という選手のリクエストで、大型バスで名神高速を走るアガーラ和歌山の面々。

野口タクの奴、すげえ残念そうだったな。せっかくの古巣戦だったのによ」

「ま、レンタル移籍ってのはそんなもんさ。それにコンディションも落ちてたんだろ?移動の負担を考えたら妥当のメンバー外さ」

 ここ最近ベンチ入りが続く桐嶋と、復活の兆しを見せる竹内との会話。桐嶋はうだつの上がらない日々が続くだけに、すぐに自分の意気込みを口にした。

「まあ、その分俺が頑張らねえとな。主力が戻らねえうちによ」

「おこぼれでしかスタメン張れねえんじゃ、役たたずもいいとこだがな」

「こ、小宮。そんな言い方ないだろ」

 後ろの席から聞こえてきた小宮の悪口に、竹内は慌てて咎め、一瞬にして怒り心頭の表情を見せた桐嶋をなだめる。

「なんだお前。ずいぶんすねてるな」

 友成の問い掛けに小宮はむくれたままだ。原因はバドマン監督が決めたスタメンにあった。



「はあ?おっさんよ、ボケるのも大概にしろよ。俺はこのチームの10番だぞ」

「そうだねえ。君がいなければ、我々の攻撃は成り立たないと言っても過言ではないね」

「ついでに言うと、俺は泥臭いプレーっつうか、プレスかけにいくの嫌いだぞ」

「うむ。そんな肉弾的なプレーは、君のイメージに反するからねえ」

「・・・だったらなんで俺のポジション『そこ』なんだよ」

「うむ!夕べ風呂上がりにビールを飲み終えた時にビビっと来たのさ。ま、不服かもしれんが、試しにやってみたまえ。君ほどの実力者なら、あらゆるポジションをこなすことも可能だろう」

「・・・クソジジイ」

 褒められる、あるいは持ち上げられると弱い小宮は、嫌々ながら指揮官の策をのんだ。

 さて主人公の剣崎はどうしていたかというと、後ろの席で大いびきをかいていた。




 会場の三ツ沢球技場には、やはりというか、サポーターはほとんど『集まれなかった』。

 関東地方にそれぞれのサポーターはいるんだろうが、いかんせん平日開催のせいで人が集まらない。これがバックやメインスタンドとなるとさらに悲惨で、両雄の弱小時代を彷彿とさせるような、閑古鳥のスタジアムで決勝の切符を争うことになった。


「試合開始に先立ちまして、両チームのスターティングメンバーと、リザーブメンバー、監督、並びに本日のレフェリーをご紹介致します」


 試合開始前、ウグイス嬢の淡々としたアナウンス。天翔杯とJリーグのリーグ戦は別物扱いのため、身びいき全開の演出がなく、それが『盛り上がらなさ』に拍車をかけている。それでもサポーターがあいの手を入れやすいように配慮しているだけマシであった。


「まずはJ2、ジェミルダート尾道。ゴールキーパー・・・」


尾道スタメン

GK1蔵侍郎

DF17結木千裕

DF3橋本俊二

DF4布施健吾

DF2マルコス・イデ

MF30谷本将

MF10亀井智広

MF16竹田大和

MF7桂城矢太郎

MF19茅野優真

FW9荒川秀吉


GK23松井正武

DF5港滋光

DF26深田光平

MF6山田哲三

MF15川崎圭二

MF8御野輝

FW27芳松昇治


「ふむ・・・。読みは当たったようだねえ」

 尾道の全メンバーを見て、バドマン監督はニヤリとする。

「ルーキー河口か、それともスーパーサブの芳松か、そこだけ分かりませんでしたからねえ。正直、あなたの話を聞いたときはオプションだと思ってましたから、こっちは気をもみましたよ」

 傍らの松本コーチはため息交じりにつぶやく。

「ま、心配させた分、面白いゲームになるよ。フフフ」

「またそんな悪党みたいな笑いを」


 そして和歌山のスターティングメンバーが発表された瞬間、2千人いるかいないかのスタジアムはどよめきに包まれた。

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