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100ゴールの舞台裏

「でやぁ!!」

 剣崎が放った強烈なシュートは、僅かにバーの上を通過。そして頭を抱える剣崎。

「くそっ、なんで入んねえかな畜生」


 神戸とのアウェー戦。剣崎は前半ですでに4本、そして後半に入ってこれが3本目のシュート。積極的にシュートを放っているが、いずれも枠になかなか飛ばない。J通算100ゴールへのプレッシャーが、おそらくないわけではないのだろう。というより、「さっさと決めてしまいたい」という焦りがあるのだろう。

 チームメートもそれをわかっていて、積極的に剣崎にボールを預けるが、それが「応えなきゃ」という更なる圧力を剣崎にかけていると考えてよかった。


「DFはコースをしっかり絞れっ!シューターには体を寄せろっ!」

 神戸の足達監督はベンチからそう指示を出し、神戸の選手たちはその通りの動きをする。恐れることなく体で跳ね返し、こぼれ球を拾われてもゴールへのコースを限定させる。和歌山の持ち味のシュートの波状攻撃が封じられている格好だ。


 だが、和歌山のシュート意識は変わることはない。


「いっけぇっ!!」

 剣崎がペナルティーエリアの外に逃がしたボール。それを拾った猪口が思い切りよく右足を振り抜いた。地を這うボールがゴールに向かい、それが密集する神戸の選手の誰かの足に当たった。

「あっ!!」

 完全に逆を突かれた格好のキーパーは対応不可。逆サイトのネットを揺らすボールを跪いて見送るしかできず、足が当たった選手は顔を覆って上を向いた。


 神戸戦はこの1点が決勝点になり、和歌山は勝ち点3を得た。


 続くホーム浦和戦。

 紀三井寺陸上競技場を相手サポーターにジャックされるという史上初の現象の中、剣崎、竹内の2トップを中心に攻勢に出る和歌山。しかし、この試合も剣崎はなかなかゴールをこじ開けられない。もはや剣崎には「シュートしか能のない二流FW」という肩書は存在しない。「日本で一番ゴールの可能性を感じる超一流FW」となっている。それだけにマークが激しく、このところえげつないタックルやスライディングを受けるようにもなった。

「いってっ、てめえっ今のファウルだろっ!」

「止せ剣崎、余計な警告もらうぞ」

「・・・くそっ!」

 そのいら立ちが剣崎から自然体でいることを拒ませ、シュートはますます枠を外れていく。

 それでも抜け目ないわき役たちが乾坤一擲を狙う。試合終了間際、途中出場の野口が、コーナーキックから同点弾を叩き込み勝ち点1を奪い取った。


 そしてアウェー柏戦。天翔杯の準決勝前最後の試合なだけに、剣崎のゴールに対する意気込みは並々ならないものがあった。

「今日は絶対決めてやる」

 目はとにかくぎらついていた。


「どう思う、クリ。今日はあいつやると思うか?」

「何だよコミ、お前が他人に気を遣うのかよ」

「んなわけじゃねえ。勝ちたいからだろ」

 小宮の意外な行動に栗栖は茶化したが、確信をもって答えた。

「決めるだろ。アイツは追い詰められたら化けるからな」

 この試合、ともに先発する二人は、最後にこんなことを言い合った。

「どっちが剣崎に点を取らすか、賭けるか」

「何をだ」

「アシストした方に・・・1万」

「安いな。どうせなら3万だ」


 賭けの対象となっているとはついぞ知らない剣崎は、前線でボールを待ちながら、柏守備陣のスキをつぶさに観察していた。

(うし。いい感じだ。今日は決めれそうだ。すげえぐらい周りがよく見える)


 試合は押し込む柏に対して和歌山が粘り強く守りながらカウンターを狙う図式。ここ最近、和歌山の守備力は目に見えて高くなっており、簡単に失点しなくなった。反比例してここ最近なかなかゴールが生まれない状況なのだが、選手自体は元気だ。

 前半はスコアレスとなったが、竹内の3本を筆頭に和歌山の選手が放った5本はいずれも枠に飛んだ。

 そしてついにその時がやってきた。


「せいっ!」

 正面に飛んできたシュートをがっちり抱え込んだ友成。立ち上がって前線を見ると、ゴール前を指さす剣崎と目が合った。

「しょうがねえな。決めなきゃ承知しねえぞっ!!」

 ふわりと浮かせたボールを右足で大きくかっ飛ばす。それは、相手DFラインの裏をオフサイドギリギリのタイミングで抜け出した剣崎の前に弾んだ。


(野郎っ、さすがじゃねえかっ!)

 柏のキーパー杉野との一対一。剣崎とキーパーのどちらが先に触れるかという勝負になったが、杉野がペナルティーエリアの外にもためらいなく飛び出すと直感した剣崎は、ボールに追いついてヘディングで浮かす。手が使えない杉野の頭上を越えたボールは、あとはゴールに向かって転がるだけだった。


 剣崎が、まず通過点を通った。



 その試合後。

「おいお前ら」

 バスに乗る途中、友成は栗栖と小宮を呼び止めて右手を差し出した。

「俺がアシストしたぞ。二人で4万にまけてやるからよこせ」

「聞いてたのかよ」

「ああ?なんでだよ」

リザルト

第30節 神戸 1-0 勝ち 得点:猪口

第31節 浦和 1-1 分け 得点:野口

第32節 柏  2-0 勝ち 得点:剣崎、竹内

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