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とりあえず一時休戦

 なかなかチームの雰囲気が解消されないまま、二度目のプレシーズンマッチの日を迎えた。天翔杯王者とJ1リーグ王者の前哨戦、オープニングカップがが行われた翌23日、昨年リーグ5位の名門鹿島エンペラーズを迎え撃った。日曜日とあって県内の小中学生や幼稚園児、保育園児3000人が招待されるなど、1万人近い観客が紀三井寺にあつまった。

 大勢の子供の前で無様な試合はできないし晒せない。かといって雰囲気は良くなく、当初と比べると幾分沈静化しつつあるが、和解には程遠い雰囲気がチームに漂っていた。



「なんだなんだおい。滅茶苦茶雰囲気暗えなあお前ら」

 試合前のロッカールーム。キャプテンマークを腕に巻く剣崎が、周りの選手を冷やかすように叫んだ。

「メインスタンドにめっちゃ子供ら来てんだぜ?もっとテンション上げようぜっ」


 笑顔を見せながら声をかける剣崎だったが、空しく響くだけだった。

「ま、今みんな考えこんじまってんだ。言いたいことは、ピッチで言ってやってくれ」

 栗栖が顔をしかめる剣崎に呟いた。



 そんな微妙な空気がチームに漂うなか、バドマン監督はあえてこんなオーダーを組んだ。


GK20友成哲也

DF32三上宗一

DF5大森優作

DF23沼井琢磨

DF7桐嶋和也

MF2猪口太一

MF10小宮榮秦

MF4江川樹

MF8栗栖将人

FW25野口拓斗

FW9剣崎龍一


 直前の練習試合で負傷したソン、体調を崩し気味のバゼルビッチがベンチ外となったが、それ以上に、サポーターの間にも確執が周知の事実となっている桐嶋と小宮が同時に起用されていることで、スタジアムはどよめいた。無論、無垢な子供たちはその事実を理解していない。できたとしても中学生ぐらいだ。



「うーし、おめーら集まれ!円陣組むぞっ!」

 ピッチに選手が散らばる頃、剣崎が唐突にメンバーに号令をかけた。

「は?別にいいだろ。公式戦じゃあるまいし」

「…いいから。集まってくれ」

 聞き流してゴールに向かう友成だったが、いつになく真面目な口調で剣崎が止める。その本気度を感じた友成はしぶしぶ引き返す。犬猿の仲ながら従った友成を見て、同じように乗り気でなかった選手たちは集まった。桐嶋と小宮も。

 集まった11人が、肩を組んで円陣を作ったところで、剣崎は問いかけた。

「なあ。俺たちは敵か?それとも味方か?」

 またも唐突な問いかけに、誰もが頭にハテナマークを浮かべる。構わず、剣崎はもう一度繰り返した。

「もっかい聞く。俺たちは敵か?味方か?どうだよ、グチ」

 答えを求められた猪口は、戸惑いながらも返した。

「え…そりゃあ、味方、だろ。おんなじチームにいるんだし…」

「…カズ、お前は?」

 矢継ぎ早、剣崎は桐嶋にふる。桐嶋は答えに窮した。猪口のたどたどしさは急にふられたことによるが、桐嶋は猪口と同じ答えを言っていいのかどうか迷っていた。構わず、剣崎はそのまま小宮にも「お前はどうなんだ」と聞く。小宮はしびれを切らしたように聞き返した。

「一体何の真似だよオイ。たかがプレシーズンマッチで聞くことかよ」

「…コミ。答えろよ。剣崎が聞いてんだからよ」

 苛立つ小宮を、栗栖がたしなめる。その口調は剣崎同様真剣なものだ。二人が答えにつまっていると、剣崎がとつとつと話し始めた。

「グチが言ったように、俺達は今味方だ。少なくとも、同じユニフォームきて同じピッチに立っている間、俺達は味方に違いねえんだ。…別に仲良くなれとか、ケンカは止めろとかは言わねえ。むしれ、本番の試合で力出すためならもっとしてもいいと思ってんだ。だって言わねえとわかんねえし」

 剣崎の語る言葉に、桐嶋も小宮も目を見開く。剣崎が理屈の通った説教をしていること以上に、サッカー、スポーツとして重要な本質を改めて耳にし、立ち返ったからだ。

「…俺はな、今のおめえらがうらやましいんだ」

「へ?」

「はあ?」

 三度唐突な剣崎の出だしに、桐嶋と小宮は間抜けた返事をする。

「俺にはそうやって本音をぶつけるような機会はなかった。クリみたいにずっと俺を信じてくれる奴か、…俺を絶対認めようとしなかった中学ん時の父兄か。おめえらのやり取りはケンカだけどよ、本音をぶつけれんのは信頼してるからだろ?」

「いや、まあ…」

「…別に」

「小宮のいう通り、俺達はもっと成長しなきゃいけねえ。だからお互いの本音をぶつける喧嘩はどんどんやってくれ。ただ約束してくれ。ピッチにいる間だけは、同じ味方として力合わせて戦ってくれ。…頼む」

 最後に頭を下げた剣崎。特に友成は剣崎の振る舞いに身震いしていた。

(このやろう…。器がでけえところは前々からあったが…ここまで頼もしくなるとはな)

 珍しく、はっきりと口に笑みを浮かべる友成が切り出した。

「お二人さん、キャプテンたっての頼みだ。とりあえず一時休戦としねえか?」

 二人は静かに頷く。言われるまでもなかった。そして最後に、剣崎はチームに喝を入れた。

「いよっしっ!そうと決まったら、鹿島ぶっ叩いて景気よくすっぞ!!行くぞおっ!!」


「「「おおっ!!」」」



 11人の力強い雄叫びが、快晴の空に響いた。


剣崎、成長したなぁ。なんかこいつがどんどん「人類無双」に近づいている気がします。


とりあえず確執は一段落ですが、今後どうするかは、その時の自分に任せます。


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