『人生がかかっている』の意味
女キャラ出すのって久しぶりです
圧倒的な戦いぶりで予選を突破したU21日本代表。決勝トーナメント一回戦はパレスチナと戦った。
スタメン
GK16田代賢一
DF14真行寺誠司
DF20外村貴司
DF19寺岡直人
DF2伊志嶺翔平
MF3内海秀人
MF17近森芳和
MF15副島亮平
MF13末守良和
FW18矢神真也
FW9剣崎龍一
未知なる相手に大幅にメンバーを入れ替えた日本代表は、それでも大いに暴れた。
開始早々からゴールの嗅覚に秀でた2トップにボールを集め、積極的にシュートを放つ。止められたりしたら末守や副島が素早く詰めるなど、何度もパレスチナゴールに襲い掛かる。前半15分までのボールポゼッション率は70%超。完全に日本ペースで進み、14分に矢神がこじ開けた。
日本の勢いはとどまるところを知らず、36分には副島がPKを獲得し、これを内海が決めて追加点。後半からは副島、内海に代えて櫻井と小宮を投入してさらに攻撃への圧力を高めると、小宮からのパスを受けてドリブルで突破した櫻井がそのまま決めて3点目。これでほぼ勝負は決した。
だが、最後の最後で『落とし穴』が持っていた。
「で、どうなの。チカちゃんの足の具合は」
「トレーナーの話だと、・・・・打撲では済まない、とのことです」
黒松コーチの低い声に、叶宮監督は頭を抱える。
「ふう・・・試合を『作れる』選手が一人消えたわね」
終了間際、時間稼ぎのためにボールキープしていた近森に、パレスチナのボランチが強烈なスライディングキャッチを背後からかまし、無防備な状態でまともにそれを受けた近森は、足首を抑えながら担架で運ばれた。後々の診断結果は左脚の踝の剥離骨折。全治1カ月の診断だった。
「準々決勝の韓国戦は大きな山だったんだけど、ちょっと雲行きが怪しくなったわねえ」
そうぼやいて叶宮監督は頭を抱えた。
「亀井君のコンディションは?」
「芳しくないですね。なにせ初めての国際試合。考え込んでしまうところもあって心身ともに崩したままです。正直、完全アウェーでの試合には・・・使えません」
「ボランチが2枚いなくなったってわけね」
黒松コーチの見解にまた一つため息がもれた。
「詰んだわね。もう」
「え?」
叶宮監督の呟きに反応する黒松コーチ。それに目もくれず、叶宮監督は続けた。
「正直なところ勝ち目が見えないわね。韓国とは決勝でやりたかったんだけど、ここであたるんじゃあね」
「でも、まだ剣崎をはじめ攻撃陣は万全です。勝機がないわけじゃ・・・」
「わかってないわね。韓国と日本の差を。特に若い世代同士の戦いにおいてはね」
「はあ・・・」
その頃宿舎にて。
「あっ!バカ剣」
「げっ!玲奈!」
ホテルのロビーでばったり会った瞬間、互いをそう呼びあった。剣崎についていた内海は、面食らったように聞いた。
「なんだお前。相川と知り合いなのか?」
「んあ?ガキのころからのな。まあ腐れ縁ってやつだ」
「悪かったわね、腐ってて」
剣崎は宿舎にて幼馴染みの玲奈と再開した。そして再開早々、むくれた玲奈が剣崎に愚痴った。
「もう・・・シーズン忙しいのはわかってるけどさぁ、もうちょっとメール返してくれない?なんかあたしストーカーみたいじゃん」
「ってもなぁ、実際俺目の前で手一杯なんだよな。玲奈にメールするより自主練に気が向いちまってな」
そこに玲奈の後輩がやってきた。
「すいません相川さん・・・って秀兄ちゃん」
「お、美貴。そっか、お前も今回のメンバーに入ってたのか」
「なんだ?ヒデ妹いたのか」
「ああ。こいつは2つ下の美貴。日売ヴィーナスでプレーしてる」
「日売?女子の名門じゃねえか、すげえ妹持ってんな」
今度は剣崎が内海に驚きの声を上げた。
4人はとりあえずロビーの喫茶スペースに移動。内海はブラック、玲奈はアイスレモンティー、美貴はカフェラテ、剣崎はアイスコーヒーを注文した。
「しかしなでしこってのはすっかりアイドルだな。部屋でネット見ててもお前らのほうが扱いでけえんだよな」
「ま、国際大会じゃ女子のほうが格上だしね。男子もこのアジア大会を連覇できれば扱ってくれるんじゃない?」
「け、余裕ぶりやがって。何様のつもりだ玲奈」
自分のボヤキに玲奈は上から目線の感想。剣崎はさらにむくれた。
「でも、剣崎さんもすごいですよ。あんな迫力のあるシュート、同じFWとしてあこがれちゃいますね」
「そ、そうか。っておまえFWなの?兄貴DFなのに?」
「体小さいんで守備はちょっと。それにスピードに自信あったし、FWのほうが性に合ってますから」
そう言われて剣崎は美貴を見るが、普段玲奈を見慣れているせいか女子としては普通の体格なのに余計に小さく感じてしまう。確かにこれではDFはちょっと厳しいだろう。
「ダメよミキ。バカ剣にあこがれちゃ。こいつはゴールしか頭にない馬鹿なんだから、真似したら後々に響くわよ」
「けっ!言ってろ」
玲奈のちゃかしにカチンと来たか、剣崎はそっぽを向く。それを玲奈は楽しそうに笑ってみていた。
和やかな雰囲気でおしゃべりが続く中で、内海は一つ息を吐いてつぶやいた。
「しかし、次の韓国戦・・・。あんまりやりたくなかったな」
急な弱気発言に、剣崎は眉をひそめる。
「おいおいヒデ、キャプテンがそんなんでどうすんだよ!俺がゴール決めてやるからまかしとけって」
「そうだよ秀兄。予選じゃ無失点だったんだし、剣崎さんのほかにも調子いい人はいるんでしょ?近森さんは怪我しちゃったけど」
美貴も弱気な兄を励ますが、内海は淡々としていた。
「お前があてになることも、守備に手ごたえがあるのもわかってるし、何より俺だって連覇したい。でもな・・・いや、百聞は一見に如かずだ。『人生がかかった相手』ってのがどういうのか」
「『人生がかかった相手』?」
「韓国って、徴兵制度ってのがあって2年間軍に従事するんだが・・・。それがスポーツ選手としての働き盛りの20代前半にあるんだ。だが、大きな国際大会でメダルを取るとかそれ相応の結果を残せれば、4週間の訓練を受けるだけですむ。だから今韓国とはやりにくいんだよな」
「でもよ。俺たちだって人生かけてるようなもんだろ?ここで結果残して・・・」
「俺たちのは単なる『箔づけ』にすぎない。お前、一番結果を出せる時期に2年もサッカーできないなんて考えられるか」
頭の足りない剣崎でも、内海の質問の意味を理解し、即答はできなかった。
「ただでさえ完全アウェー、こっちはボランチが負傷、そして兵役免除というニンジン・・・、ま、明日どうなるかは・・・感じてみることだな」
そして試合当日。剣崎たちは韓国のアウェーで戦う厳しさを知ることになった。




