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イラクへの奇襲作戦

 アジア大会の初戦をクウェート相手に快勝した叶宮ジャパン。

 数日してすぐさま予選リーグの重要な一戦、イラク戦を迎える。

 古くから中東の雄として、あらゆる年代の日本代表に立ちはだかってきたイラク。特に若年層は志向するパスサッカーを、永遠の弱点である高さを突かれてロングボール中心の芸のない戦いに、何度となくやられてきた。

 叶宮監督はとかくこの試合に向けて、初めてといっていいくらい将としての才覚を見せたのである。


「さてと。いよいよ日本のミーハーどもが気をもむ一戦を迎えるわ。はっきり言ってイラクに勝てなかったらもう五輪は出ることすらあきらめた方がいいわね」

 このような悪態は珍しくないが、殺気すらこもった表情に、選手はみな真剣に叶宮を見る。

「日本代表がワールドカップで勝てない原因は、若い連中が若いイラク代表に同じようにやられいるからとアタシは考えているわ。だから、イラク戦は敵をとにかくボコボコにすること。それさえできればネパール戦はどうなってもいいわ」

「そこまで意気込むもんかね監督。決勝トーナメントに出れりゃいいんだからよ」

「言うわね小宮。でも、正直むかつくでしょ?バカの一つ覚えに毎回負けてることって」

「まあね。確かに大人の学習能力は欠落レベルだしな。金メダルのためにも、イラク戦の赤っ恥は清算しなきゃだめだとも思ってるけど」

「ウフフ、よろしい。それじゃ、明日のスタメンを言うわ。それから作戦を教えるわね」




 そして試合当日。日本対イラク。この試合を中継するテレビ局のディレクターは、表示されたメンバーのポジションのテロップを見て部下を怒鳴った。

「バカ野郎!選手のポジション間違言えるやつがあるか!剣崎と八幡の位置逆だぞ」

 だが、その指摘が間違いであるとアシスタントは返す。そして放送ブースのアナウンサーと解説者も、モニターを見ながら戸惑っていた。

「三波さん、これはどういう事でしょうか。叶宮ジャパンのエースともいえる剣崎のポジションですが・・・」

「ですよねえ。画面を見る限り明らかに中盤にいますよね。3バックはまだしも、剣崎のこのポジションはちょっと意図が読めないですねえ」


スタメン

GK1渡由紀夫

DF5小野寺英一

DF3内海秀人

DF20外村貴司

MF6亀井智広

MF8菊瀬健太

MF9剣崎龍一

MF10小宮榮秦

MF12灰村柊哉

FW18矢神真也

FW8八幡佑樹


 日本の外野が驚きを隠せないのと同時に、対戦相手のイラクサイドも、剣崎がゴールよりも離れた位置にいることに、その意図を理解していた。

『どういうことだ?あの9番はシュート以外に何もできないと聞いていたのだぞ?トップ下なんてできるのか?』

『分かりません。ですが、国内リーグでの試合映像でも、あいつはゴール前でしかプレーしていません』

『まさか・・・いや、付け焼刃にすぎん。しかし・・・』

 監督以下、イラクのコーチ陣は叶宮監督の策に少しながら戸惑った。そしてその戸惑いは試合中にさらに増した。


『く、くそ、ちょろちょろと』

 ロングボール戦術の肝といえる、イラクのセンターバック・バシーリーはボールを持った瞬間プレスをかけてくる八幡と矢神の動きに翻弄された。コンビを組むムシュクも同じように、叶宮ジャパンの2トップは、執拗なまでにイラクのセンターバックをマークした。


「まず、2トップのお仕事は、センターバックの二人をとにかくしつこくマークしなさい。他のこと、ゴールという仕事をほったらかしてもね」

 試合前日のミーティングで、叶宮監督は若い二人にそう指示した。

「ちぇ。スタメンだからゴール狙おうと思ってたのに、雑用かよ・・・」

 指揮官を目の前にして露骨に本音を漏らす矢神。八幡は慌ててなだめる。

「ちょ、おま、監督に何カバチ(広島弁で「バカ」)ふいとんじゃ。首脳陣批判なぞ」

「いいのよ八幡ちゃん。FWなら、自分の仕事を制限されたときに、監督を恨むくらいがちょうどいいのよ。でもしょうがないじゃない。過去のあんたたちの試合全部見たけど、今回招集されたFWの中であんたが一番プレスがうまいんだから。それに、勝った時には最大の賛辞を送ってあげるわよ」

「けっ。ごった煮連中のオカマ監督にほめられたってたいして嬉しくねえや」

 最後まで反抗的な矢神に、叶宮監督はむしろ満足げだった。

「そして3バックは、外村を中央に右サイド内海で左サイドが小野寺。向こうの1トップのアブルドは、外村、あんたが抑えなさい。あいつ、映像で見る限り、競り合いは強いからターゲットマンにはなれるけど、足元の技術はてんで下手くそ。必ず一度はトラップミスするわ」

「それを、おれが蹴りだすんすね。その瞬間を狙って」

「最初の一回目、絶対にしくじらないのよ?ミスを確実に失点につなげられるほど、与えるダメージは試合そのものを動かせるほどのものになるわ」

「任せてください。信州魂、見せてやりますよ」

 J1昇格争いの中心にいる松本にあって頼れるセンターバック。マークを任せたのはそのポテンシャルを買っているというのもあった。

(まあ、J2出身じゃノーマークだし、相手が知らないのも強みね。それに見比べてもこの子は十分奴をつぶせるわ)


 ではなぜ、剣崎が小宮とともにトップ下にいるのか。それは攻撃の瞬間に明らかになるのだった。

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