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アジアデビュー

 天翔杯4回戦翌日の11日。大会初戦3日前にして、叶宮ジャパン20人がようやく揃った。

 さすがにその日はコンディション調整に重きを置いた軽めの練習メニューだったが、翌日の大学生との練習試合には剣崎、小宮、亀井ら天翔杯を戦った面々も起用された。

「くそ〜なんか身体重いな。夕べは爆睡したんだけどな」

「寝るだけで疲れとれりゃトレーナーいらねえだろ」

 剣崎のぼやきに内海は呆れながら突っ込んだ。

「まあ大学生ぐらいならなんとかなっだろ。所詮はオリンピックに縁がない『その他大勢』程度勝てないでアジア杯の連覇はねえよ」

「さりげなくひどかこと言っとね?」

 余裕しゃくしゃくの表情を見せる小宮に、近森は言わずにおれなかった。


 ただ、実際試合は8-0と『なんとかなる』以上の結果だった。

 当然と言えば当然か。相手は自分たちより年上の4年生中心のメンバーで、今年夏のインカレでも準優勝という成績を残している。だが、対する五輪代表はプロの世界で主力として活躍している面々が多く、球際の攻防やゴール前の精度で決定的な差が出た。剣崎が4得点、櫻井が2得点、小宮が1得点5アシストと大暴れすれば、内海を中心とした最終ラインも堅固な連携を見せ、同年代ではほぼ1年ぶりの招集となった田代を支えた。


「実戦をこなしているだけあって戦ううえでの勘は問題なかったわ。あとはアジアの外国人相手にどれだけできるか。アタシたちのグループには中東勢がいるから楽じゃない。潰せるときにきっちりつぶせるよう、チャンスの精度を微調整したいわね」と叶宮監督はコメントした。

 そして韓国に乗り込み、アジア大会のグループリーグ初戦のクウェート戦の日を迎えたのである。


「さてと。いよいよグループリーグの初戦よ。今日のミッションは、無様だろうがなんだろうが勝つこと、それだけよ。『勝ち点1』は頭から捨てなさい。口にしたり顔にだそうものなら、パスポートを没収した上で、容赦なく韓国に放置するからね」

 試合前のロッカールームで、叶宮監督は開口一番に勝利を選手たちに義務づけた。

 対戦するクウェートは、強豪という訳ではないが、総じて中東勢は日本に対して、愚直なまでにロングボールを軸とした空中戦で攻め、勝ちや勝ち点を奪ってきた。苦手分野を露骨についてくる嫌な相手だが、叶宮監督からすれば勝てて当然の敵。そして今日のメンバーならば勝てるという確信があった。

 勝ちに拘る理由はもう一つ。グループリーグは四カ国の総当たりで、上位二位が決勝トーナメントに進出するが、初戦に勝つことで敗退の穴を埋めてしまおうと考えたら訳だ。理想は大量点を奪っての勝ち点3。それを実現するための叶宮監督が選んだのはこの11人だった。


GK1渡由紀夫

DF14真行寺誠司

DF17近森芳和

DF3内海秀人

DF12灰村柊哉

MF6亀井智広

MF7菊瀬健太

MF13末守良和

MF10小宮榮秦

FW9剣崎龍一

FW11櫻井竜斗


「くそっ。なんで俺じゃなくてチカなんだよ。あいつ基本ボランチじゃねえか」

 スタメンを聞いたとき、小野寺はそうぼやいた。本職でない選手にスタメンを譲ることほど、気分の良くないことはない。

「まあまあそう怒るなって。俺たちの守備力が必要な時がくるさ」

 そう言って外岡がなだめるが、小野寺はいら立ちを隠そうとしなかった。

 ある意味当然である。育成年代から長らく代表に選ばれたエリートである小野寺にとって、急に頭角を現してきた大森の存在が脅威となっていた。「1クラブ1人」という制約がなければ、大森は間違いなく選ばれていたはずで、いない今回は自分の株を取り戻さんと意気込んでいた。

(俺をスタメンにしなかったこと、絶対後悔させてやる!見てろよ監督め!)

 ベンチへ向かう途中、小野寺の拳には力がこもっていた。


 一方で整列の時を待つスタメンの11人。世間から連覇を期待されているだけに、内海や渡らは緊張の面持ちでその時を待ったが、一方で間抜けた発言をする選手がいた。

「なんかみんな同じに見えるねえ。クローンじゃないの?」

「んなわけねえだろ。でも双子が何組かいるかもな」

 櫻井と剣崎が、隣に並ぶクウェートの選手たちを見て正直な感想を漏らす。

「お前ら緊張してないのな」

「大丈夫かよ、この状況下でガキみたいなこと言ってて」

 菊瀬と末守はそう呆れたが、小宮が得意げに言った。

「なーに。ボールを出してやれば何かやらかす連中だ。俺の手綱さばき、よく見とくんだな」

「今日のトライアングル、期待できそうで何よりだ」

 菊瀬はそう笑った。

 そして係員に促され、審判の後に選手たちは歩み出す。日本代表のユニフォームを着た剣崎の初陣の時がついに来たのである。

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