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ファンタジスタの復活

 9月1日。韓国で開催されるアジア杯に挑む、五輪代表のメンバー20人が発表された。リーグ戦の中断がないため、選手のコンディションに配慮し「1クラブ1人」という制約の下、大学生も何人か選ばれたのだが・・・


GK1渡由紀夫(川崎)

MF2伊志嶺翔平(博多大)

DF3内海秀人(湘南)

MF4榎本祥太(北陸大)

DF5小野寺英一(鹿島)

MF6亀井智広(尾道)

MF7菊瀬健太(新潟)

MF8八幡佑樹(愛媛)

FW9剣崎龍一(和歌山)

MF10小宮榮秦(和歌山)

FW11櫻井竜斗(ガ大阪)

DF12灰村柊哉(鳥栖)

MF13末守良和(AC東京)

MF14真行寺誠司(浦和)

FW15副島亮平(大分)

GK16田代賢一(仙台)

MF17近森芳和(福岡)

FW18矢神真也(香川)

DF19寺岡直人(京葉大)

DF20外村貴司(松本)



「あ、あの〜叶宮監督。和歌山からは二人選んじゃってますけど?」

「そうよ悪い?」

 戸惑い気味に質問する記者に、「なんか問題あんの?」的に返す叶宮。別の記者が「1クラブ1人のはずですよね・・・」と聞くと、顔をしかめて愚痴った。


「別に問題ないわよ〜。和歌山にはアタシが直談判しといたから後腐れもないわ。本音を言ったらもっと欲しかったんだけどね。つーか逆に聞くけど、剣崎と小宮の代わりが利く選手いるの?」

「しかし、あまり一つのクラブに集中するのはどうかと思いますが」

 その質問に対する叶宮の答えは、会見場を凍りつかせた。

「だって他のチームの五輪世代はクズばっかだも〜ん。和歌山みたいにスタメンを占拠してる訳でもないし。こんな制約なかったら大学生も初招集の選手も誰一人呼んでないわよ。だってどいつもこいつもアタシをときめかせてないのよ〜?ただでさえポンコツ世代なのに下の下の連中だけで勝てるほどアジアは甘くないんだから〜」

 駄々をこねる叶宮に対する最後の質問は、「すいません。新聞に使えるコメントをお願いします・・・」だった。






「ふ〜む。それにしても、叶宮監督も困ったものだ。せっかく連敗を脱した我々から主軸二人を引き抜くのだからね!」

 憤懣やるかたないという表情をでぼやくバドマン監督だが、その目は明らかに笑っている。

「だったら二つ返事で送り出さなきゃいいでしょう。ただでさえうちは戦力不足なのに・・・」

 突っ込みながら松本コーチはそうぼやいた。

「しかし、あそこまでひいきを明言する人も珍しいですよね。それに、矢神もメンバーに入っているのはうれしいですよね」

「うむ。彼は7月に移籍して1か月ほどで6点も記録した。その活躍なら使ってみたくなるさ」

「まあ、あいつらはいずれ大きくなって帰ってきます。それまで我々も集中しましょうか」

「そうだね。あの二人がいない分、我々はより一丸となった戦い方をせねばならんからね」

 そう言ってバドマン監督は、選手たちに指示を出すのであった。



 さて、メンバーこそ発表されたが、叶宮監督はすぐに選手を招集しなかった。

「どうせならリーグ戦と天翔杯を戦わせてあげましょうよ。別に後腐れをなくした方がすっきり大会に臨めるしね」という叶宮監督の考えが尊重され、招集のかかったJリーガーたちは、9月6日のJ2リーグ戦、あるいは10日の天翔杯4回戦の出場が可能となった。


 そして剣崎と小宮は、天翔杯4回戦に臨むことになった。


 今年の天翔杯は日本代表のスケジュールの都合上、決勝が12月13日になり、それに伴いだいぶ日程が繰り上がった。その影響かどうかは分からないが、3回戦までにJ118クラブのうち、実に半数以上が姿を消していた。

 勝ち残っている和歌山は、この4回戦ではJ2のジュエル磐田とホーム紀三井寺で戦う。数年前ならば逆の立場だったが、近年このような逆転現象は珍しくなくなっている。

 その磐田は、松居、駒田、前野、伊与田といった元日本代表を多数擁して捲土重来を目論んでいるが、現状は湘南と松本の後塵を拝し、昇格プレーオフの圏内の3位にとどまっている。そして無神経な選手の多い和歌山にとって、手強いかはわからないが怖くはない相手であった。



スタメン


GK20友成哲也

DF32三上宗一

DF22仁科勝幸

DF18鶴岡智之

DF14関原慶治

MF27久岡孝介

MF24根島雄介

MF28藤崎司

MF13須藤京一

FW9剣崎龍一

FW10小宮榮秦

 比較的若いメンバーを起用した和歌山は、容赦なく攻めまくった。

「どうらぁっ!!」

 開始わずか7分で剣崎が先制ミドルを叩き込むと、

「ひゃっはあっ!」

 19分には小宮が飛び出してきたキーパーをあざ笑うループシュート。

「うおおぉっ!!」

 そして41分、コーナーキックのチャンスから須藤が頭から飛び込んで念願のプロ初ゴールを決めた。




「どうとらえていいのかしらね・・・。小宮のコンディションがいいのか、それとも磐田の守備陣がずさんなのか・・・」

 記者席でパソコンのキーボードを叩きながら、浜田記者はため息をついた。メインスタンドにある記者席はピッチ全体を見渡すことができるので、ある程度目が肥えていればその試合の状況が手に取るようにわかる。記者歴5年の浜田から見て、この試合を動かしているのが小宮であることだけでなく、とにかく彼が「自由に動けすぎて」いた。

「ただでさえ五輪代表の中心にいる選手。それがあれだけ動ければチャンスは生まれるわ。磐田の3バックがまるで機能していない・・・」

 3回戦で対戦した湘南と同じ3バックを敷いてきた磐田だったが、練度の差は歴然である。ラインを低くしている(自陣ゴール前に近づいている)ために、和歌山の2トップに対して常に数的優位でありながら、それをまるで生かせていない。むしろ出場停止期間中にコンディションを改善させた小宮の上下動に翻弄され、剣崎や須藤、藤崎に次々とスペースを使われた。後半は韓国人ボランチが小宮のマークにつこうとしたが、小宮がそれを察して前線でキープ役に徹すると、今度は中盤が人数不足になりその主導権を完全に和歌山に明け渡す。剣崎、さらに途中出場の桐嶋と竹内にゴールを奪われ、反撃は前野のPKのみ。6-1という現状通りの結果で和歌山が勝ち上がった。

 この試合が復帰戦となった小宮は90分フル出場。1ゴール3アシストと万全ぶりをアピールし、2得点の剣崎とともにアジア杯に挑むことになった。

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