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黒金  作者: きーち
第八章 決戦、ハイジャング
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第一話 『取らぬ狸のなんとやら』

 ハイジャングを襲った黒い船による事件は、アイルーツ国が所有する兵器、巨大ゴーレム『クロガネ』を攫うという変化を見せ、その奪還成功というアイルーツ国側の反撃を持って、事態の膠着に至った。

 膠着したもっともの原因は、当初の目的を逃した黒い船が、まだハイジャング上空に留まっていることだった。アイルーツ国側としては、さっさと立ち去って欲しいところだろうか。黒い船に対して、組織立っての明確な反抗ができぬ状況は継続中である。であるならば、ここは黒い船の撤退という形で一旦手打ちにして、次に襲来した時のための準備を進めたいはずだ。

「まあ、そう上手く事は運ばんのが常だよなあ」

 魔奇対執務室で一人きりのフライ・ラッドは、窓から見える黒い船を見て溜息を吐いた。クロガネを取り逃がした黒い船は、その後、町を挑発するかの様に町の上空で、ハイジャングをぐるりと一周する軌道で移動し続けていた。今は丁度、執務室にその影が見える頃だ。

(避難民とて、何時までも籠っては居られない。町の警戒態勢なんぞは緊急の時だけの物で、長期間続けられる物じゃあないからな)

 生産、経済活動を続けなければ、人間というのはその社会を維持できない。今のところはまだ大人しく避難しているが、時機を過ぎれば避難民は暴動者となる可能性がある。

「ふむ。敵の出方を待つというのは、時間に限りがあるわけか」

「なら、こっちから攻め込みますか?」

 執務室に、漸く来客がやってきた。と言っても、部下のジンとカナ・マートンであるが。

「体はもう良いのか? まだ暫くは休養を必要なのでは?」

 フライが真っ先に話し掛けるのは、ジンで無くカナの方だった。ジンの方は、怪我をしていても働いて貰うつもりである。

「怪我自体は、私もジン先輩も無かったみたいですから、動く分には大丈夫ですよ?」

「マートン君は捕えられていたからこそ、丁重に扱われたのかもしれないが、ジンは黒い船の中で相当暴れたのだろう? 怪我が無いというのはおかしな話じゃあないか」

 ジンの黒い船への侵入任務は、必ず荒事になると確信していた。潜入などという器用なことはできない部下だ。怪我をしても帰って来てくれれば御の字だと考えていたのだが、今のジンには、確かに目立った怪我は無い。

「鎧の奇跡についての新たな力って奴でしてね。俺の体は鎧の奇跡を使うと、鎧姿に変換されるみたいなんですが、元の生身に戻る際、怪我をしていない自分を思い浮かべれば、本当に怪我の無いまま戻るみたいなんですよね」

 まるで異質な物を見るかの様に、ジンは自分の体を見ていた。

「今までは、鎧姿でも負荷を受ければ生身でも怪我をしてるだろうと思い込んでいたから、鎧の負担が生身に戻った時でも残っていたわけか………思うんだが、お前の奇跡はとんでも無い代物なんじゃあないか?」

 こちらの問いに、ジンはあっさり頷いた。彼も自分の奇跡の全容を、今まで知らなかったはずであり、黒い船へ侵入した結果として手に入れた知識に、もっとも困惑しているに違いない。

「とんでもないなんてだけの話じゃあありませんね。危険です。鎧姿から元に戻る際に、自分のイメージが反映されるってことですから、例えば鎧姿になった後、自分の姿を忘れてしまったりすれば………」

「元に戻れなくなるということか。恐ろしい話だ」

 やはり奇跡の力というのは、個人の手に余る物だ。黒い船も奇跡の産物だろうから、国の手にも余っているのだろう。

「でも、今のジン先輩はちゃんと生身に戻れますよね? なんでですか?」

「なんでって、お前………そりゃあ自分を忘れるくらい長時間、鎧姿のままでいたことが無いからだよ。普段の生活で鎧姿になったら、目立って仕方ないだろ」

「奇跡の力はあまり多用しないのが上手い使い方ということだな。要は普段通りの道徳で使えば良いということだ。その件についてはひとまず置いておこう」

 奇跡に関する話は興味に尽きないが、今はもっと即物的な話がある。

「今すぐにでも話題にしなければならないことに、あの船に関することがある」

 フライは窓の外を指差すも、既に黒い船の影は無くなっていた。しかし、その動作だけで何のことを指しているのかくらいはジン達にもわかるはずだ。

「ブンブン蠅みたいに飛んでてうざいですよね。どうにかならないもんなのか」

 ジンは本当に煩わしそうにしている。しかし、どうにかできるものならそうしている。

「もう一度黒い船に侵入してみるというのはどうだ? 前の時はこちらの戦力不足から危険な作戦と判断したが、既にあの老人と渡り合える力を、お前は手に入れたわけだしな」

 ブライト・バーンズに匹敵する力を持った人員が存在するというのは、こちらにとっては力強い話だ。さっきは奇跡の力は多用しない方が良いと言ったが、敵が例の老人であれば話が別だろう。

 しかしその案に、カナ・マートンが駄目出しをする。

「でも、侵入する際に使ったペンダントは、もう機能していないんですよね? だったら、侵入すること自体が無理なんじゃあ………」

 カナはフライの執務机の端を見ている。そこにはジンから預かった黒いペンダントが無造作に置かれていた。本来は黒い船へ向かうための機能があるらしいが、今ではその機能が働かず、本当の意味での飾りに成り果てていた。

「警戒されて、外部から入れなくしたと言うことだろうな。しかしジン、君の新たな奇跡は、空を飛べるのだろう?」

「確かに飛べますが、無理矢理にってことに注意してください。鳥みたいに自由自在ってわけじゃあないんです。こっちの攻めを向こうが警戒してるってことは、対空用の武器か何かを用意しているかもしれませんし、それを抜けて黒い船に接近するっていうのは無茶でしょう」

 命を無駄に使いたくないとジンは続ける。作戦を実行する本人が嫌だと言っている以上、無理強いするわけにも行かないか。

「状況は幾らか変わったから、他に策が無いわけでもないがね」

「他にですか?」

 飛んで行く以外に黒い船をどうやって攻めるのかと言いたげなカナ・マートン。しかし、その答えは二人共知っているはずだ。

「そう遠くない時機に、あれが直接攻めてくるのだろう? なら、わざわざこちらから攻め込まずとも、防衛の形で黒い船を叩けば良い」

「やっぱり、室長もそう思いますか」

 腕を組んで考え込む様子のジン。恐らくは黒い船が攻めてくるかも程度の考えだったが、こちらも同じことを考えていたので、予想が確信に変わったことで悩んでいるのだろう。

「ここにいる3人の中では、私だけがブライト・バーンズと直接会ったことがないから、絶対かと言われれば困るが、かの老人の考え方というのが分かり掛けて来たのだよ。要するに筋金入りの研究者なのだ。しかも自分の欲求に正直なタイプでな」

 だから、一度逃がしたクロガネを、もう一度狙ってくるはずだと考える。

「私達は黒い船でブライト・バーンズの狙いを崩し、無事に逃げ帰ることができたわけですけど、それでもまたクロガネや私を狙ったりするんですか?」

 カナは作戦を失敗したのだから、撤退するのが普通だと考えているのだろう。

「そうじゃあない。君らはブライト・バーンズに挑み、それを見事に撃退しただろう? ならば、むしろ彼の好奇心を刺激したと見て良い。興味の対象だったクロガネとその周囲の環境が、より面白く感じてさらなるちょっかいを掛けてくる可能性が高いわけだよ」

「まあ、あの爺さんならそんな風に考えるだろうなあ」

 頭を掻きながら、嫌そうな顔をするジン。あれだ、振った女が何故か自宅の玄関に立っている光景を見た様な表情だ。

「なら、クロガネを餌にして釣りますか?」

 覚悟を決めたと言った表情をするカナ。クロガネをおとりにする以上、彼女もまたおとりになる。

「こちらから攻め入る手が使えないのなら、そうなるな。現在、クロガネは整備班が突貫工事で整備を続けている。今すぐにでも一応は動かせる様になっているはずだ」

 黒い船から落ちて来たというのに、クロガネはほぼ無事な状態で帰還した。ジンのカナとクロガネの奪還劇から既に数日経っている。じれったい日々が続く中だが、それでも反撃の狼煙くらいなら上げられる状態であった。

「問題は、どの様にして攻めてくるかだ。恐らくはこちらの隙を突いて来る形になるだろうが………」

 こちらの言葉に反応して、ジンは部屋の天井を見る。

「ハイジャングの空を飛びまわってるのも、こっちの隙を作るのが目的でしょうね。人間ってのは何時かは気を抜かなきゃいけない生き物らしいですから」

 最悪のタイミングで最大の効果を発揮する何かを狙っていると考えてみるべきか。ならば、それはどの様な行動になるか。

「また砲弾型ゴーレムでも撃ってくるかな?」

 思いつくものと言えばそれくらいなので、とりあえずフライは口に出してみる。しかし、どうにも違う様に思えた。

「あの爺さんが、一度やった手をまた使ってきますかね? もっととんでも無いことをしてきそうなんだよなあ………」

 確かにジンの言う通りだ。研究者気質な敵と言うことは、様々な手を実験的に試してくる可能性が高い。だからこそ、こちらの予想しない方法となる。

「けど、大きなゴーレムを砲弾にして撃ってくる以外の方法なんて、もう船ごと乗り込んでくるくらいしか思いつきませけど?」

「………」

「あ、あれ? 私、何か変なこと言いました?」

 突如の沈黙に、カナは慌てている。しかし、それは呆れから来るものではない。

「いや、案外、そういう手で来るかもしれんな」

 普通に聞く限りでは、船ごと町へ突っ込んでくるなど、船側が空を飛ぶと言う利点を捨てる様で有り得ないと思うのだが、だからこそそう言う事をしてくるとも思える。

「クロガネごと攫っても、俺が乗り込んで奪還してしまったんだから、じゃあこんどは直接出向いて、その場でクロガネとカナを実験材料にしてみようか、なんて考えてそうかもな」

 ジンもカナが出した案が、有り得る物だと考えているらしい。ならば魔奇対としては、黒い船が直接ハイジャングに乗り込んでくると考えて、対策を立てた方が良いかもしれない。

「黒い船が、機を見てハイジャングにやってくるとして、どうすれば有効に対処できるだろうか」

「クロガネをおとりに使うのは決定事項なんですよね? なら、そこにこっちが工夫する余地があるんじゃないですか?」

 再びクロガネとカナを危険に晒すというのは心苦しいものの、彼女も仕事仲間と認めたのだ。やれることをやってもらおう。しかし、クロガネをどうやって有効なおとりにしようか。

「相手の狙いがクロガネで、しかも奪還作戦のおかげでさらなる興味を惹いている状態なら、結構、単純な方法でも効果があるかもしれませんよ」

 ジンの言葉になるほどと頷く。相手は奇人かつ超人で、突拍子も無いことをしでかすものの、策略家というわけではないのかもしれない。二手、三手先を読むタイプの敵ではないということ。

「誰でも引っ掛かる様な事に、同じく引っ掛かってくれるかもしれんか………そうだな。マートン君、クロガネの整備はまだ続いているね?」

「あ、はい。状況が状況ですからね、なんとか万全に動かせる状態にはしたいらしいんですけど、人手と資材がやや足りない状態らしくて」

 整備状況が少し遅れているということだろうか。ならば、丁度良いタイミングだと言える。

「このミーティングが終わったら、整備班長に伝えて欲しいことがある」

「はあ……どういうことを伝えるんですか?」

「いや、何、ちょっとした手品だよ。種の工夫もそれほどない子供騙しのな。幾つかメモを書いておこう。詳しい内容はそれを読んでくれ」

 事は慎重に、時には大胆に進めて行く。敵の戦力はこちらより上からもしれないが、先を読む力はこちらが上だ。




 危機対策中央会議室の形骸化が始まっている。ミラナ・アイルーツがそう感じ始めたのは、黒い船からこの会議室近くに砲弾兼ゴーレムが撃ち込まれた時からだ。どれだけ対応策を考えても、それが功をなさない状況になればそうなる。

「避難民の食料備蓄はどうなっている?」

「分配状況さえ効率化すれば、あと1週間は持つ」

「その効率化するための人員はどうするのだ。今は空の船対策に人を割いているだろう」

「もういっそ、その人員を避難民誘導の労力に回したらどうだ?」

「馬鹿を言え、そもそも避難民を発生させているのがあの船だろう」

 丁々発止の会話を続けられているも、それ以上の発展が無い。しまいには黒い船対策自体が消極的になってしまう始末だ。ただし、まだ恰好だけでも会議を続ける分だけマシだろうか。

(これでこの会議自体が無駄だって話が出始めたら、終わりかしらね)

 その前にどうにかしなければなるまい。本当に何もできないわけではないのだ。魔奇対がクロガネの奪還に成功したという知らせは、既にミラナにも届いている。ただし、できれば黒い船への対応は、この中央会議室主導で行いたいところだ。

(国家への攻撃に、一組織が単独で対応したとあっては、沽券に関わって来るのよねえ)

 そうしてその沽券を安売りしてしまえば、国家はその体系を崩してしまうのである。権威や権力というのは、何とは無しの尊敬から来るものであり、それらは建前を大事にした後に付いて来るのだ。

「発言宜しいかしら?」

 ミラナが口を開くと、会議にいる面々皆の視線が集まってくる。一応は、この会議の中で一番の目上が自分なのだから、当たり前と言えば当たり前だが、これまで発言らしい発言をしていなかったため、ちゃんと聞いてくれるかどうか不安だった。

「なんですかな、女王陛下。王家に関わる避難活動については、問題無く進んでいるはずですが」

 嫌味を交えた言葉を向けて来るのは、ハイジャング住民代表とも言える自警団長のボーガード・ガルツだ。

「おい、女王陛下に対して不敬だぞ」

 ボーガードに対して注意をする貴族のアルシュ・ウーナ。一応、王家からの信任という形で領地の管理をしているのが貴族であるから、王家に対する敵意には敏感に反応したのだろう。ただ、敵意を抱く者なら、わかりやすくしてくれている方が良いと思う。一々内面で悪態を吐きながら、外面ではにこにこしているなど、付き合い難い相手になるではないか。

「別にどうでも良いわよ。わたくしが聞きたいのは、どうするかと言うこと」

「というと?」

 唯一、こちらの発言が意味のあるものだと考えているらしい国防騎士団のダスト。そうだ、敬意だ不敬だなどと気にするのであれば、こういう態度こそが望ましい。

「だからね、これからわたくし達はあの黒い船を攻めることになるだろうけど、その役目についてはもう決めているのかしら? 会議の席を外すことは何度かあったけれど、その間にでも決定していたの?」

 ミラナの発言を聞いて、やれやれと言った風に首を振った後、ボーガードが口を開く。

「何を言いだすかと思えば。良いですかな、女王陛下。我々は、あの黒い船に手が出せない状況なのですぞ? しかも向こうからは一方的に攻められている。その状況で、こちらが攻める側になるなどと―――」

「違うのかしら? 今は黒い船も攻めて来てないわよね? その癖、ハイジャングの周りを回るということは、もうこれって、こっちの様子を伺っているってことよね? その状況で、こっちが攻め込まない理由も無いけれど」

 ボーガードの言葉を遮って、ミラナは話を続ける。意気消沈気味の会議に活を入れるには、挑発に近い発言が必要だと思った。

「だから、方法があればそうして―――」

「方法ならあったじゃない。おかげでクロガネを取り戻せた。その間、あなた達は何をしていたの? 黒い船に対してどうしようも無いと頭を悩ませていただけじゃあない。このままじゃあ、わたくし達、役立たずって言われても反論できなくなるわよ?」

 黒い船に攻め込んだのは魔奇対の独断であり、この会議の指示では無い。それは少々受け入れがたい状況だ。魔奇対はミラナ直下の組織とは言え、現状、ハイジャング防衛の指揮を執っているのは、この中央会議室だし、ミラナはそこの代表でもある。だから中央会議室には、幾らかは花を持ってもらう必要がある。

「愚痴を言わずに頭を働かせて、黒い船をどうにかする方法を考えろということですな。これは正しい叱咤だ」

 ダストの援護のおかげで、ミラナの言葉は会議の方針を決定した。黒い船を叩くことに労力を割く。当たり前の話なのだが、ここ暫くはその当たり前の状況ですらなかった。

「納得して頂けたのなら、さらにもう一つ言っておきたいことがあるの」

 今度は全員ちゃんと聞いてくれる様子で、何を言いだすのだこいつは、と言った蔑みの目線を向ける者はいなかった。あれをされるととても傷つくのだ。

「黒い船への攻撃に成功した魔奇対だけれど、黒い船が町へ突っ込んでくると予想して、その時を狙って、逆に攻勢に出るつもりみたいよ? あなた達はどう思う?」

「………黒い船がハイジャングに直接攻撃に来るという情報は確かなので?」

 ダストがミラナに問いかける。彼は確か、魔奇対の室長と個人的に親しかったはずであり、ミラナが知っている情報は、彼も知っていると思っていたが。

(それとも、知らないフリをして、わたくしに全権の責任を負わせるつもりかしら? でもそれは望むところよ?)

 責任や建前と言ったものの塊が王権というものだ。それが増えるというのは喜ぶべきことだろう。

「情報元の魔奇対は、黒い船への攻撃に唯一成功した組織だから、信じないわけにはいかない意見でしょうね。問題はそこでわたくし達がどうするか。一組織に好き勝手されるというのは癪よねえ?」

 このミラナの発言には、さすがに会議のメンバーも微妙な顔をする。魔奇対がミラナ直轄の組織というのは、誰だって知っていることだから。ただし、今回、花を持たせるのはできれば中央会議の関係組織が良い。

「魔奇対が黒い船への反撃という形で攻めに出るつもりなら、わたくし達もそうするべきだと思うの。組織としての規模はこちらが上だから、同じ作戦なら勝つのはこちらよね?」

 魔奇対程度でもできる対抗策なら、国防騎士団や自警隊でもできるということだ。魔奇対には申し訳ないが、ここは同じ作戦を進ませて貰う。

「しかし、一つ聞いて置きたいことがあります」

「なにかしら?」

 相変わらずの慎重さでダストが質問する。この場に置いては、一番面倒くさい相手だ。

「黒い船がハイジャングへ特攻……と言っても良いのでしょうか? その様な事態になったとして、特攻を仕掛けて来た瞬間を見計らって、我々が黒い船へ乗り込むことになります。となると、黒い船がハイジャングに留まり続ける様に足止めをする必要が出てくる。あの巨大な船を足止めする方法というものがあるのでしょうか?」

 まあ、こういう質問が来るだろうとは予想していた。結局、攻めて来た相手に反撃するというのは、攻め込ませた後の膠着状態を長引かす必要があるのだ。しかし、黒い船相手では、そんなことができる存在は限られている。

「そうねえ。今、ハイジャングに存在する戦力の中で、黒い船を止めるだけの力があるものと言えば……わかるでしょ?」

 とても言い辛い話題だ。口にすれば、この場にいる全員から恨みの籠った目線を向けられるだろう。いや、もう向けられているか。

 誰もがミラナを嫌そうな目で見た後、口を開いたのはアルシュであった。彼は一応、こちらに敬意を払っているらしいので、こちらが望む話題を出すことに抵抗感が薄かったらしい。

「黒い船の足止めは、あの巨大ゴーレムを使うということですか………」

「あらあら。それくらいしか無いわねえ。でも、他に仕様が無いでしょう?」

 もしミラナがいなければ、全員が溜息を吐いていたことだろう。黒い船への対抗策は、事実上、魔奇対と中央会議室の共同作戦で行うということだからだ。

 その様な状況でもっとも特をするのは誰か? 勿論、ミラナ自身だ。

(中央会議室も、魔奇対も、わたくしが責任を負う組織。なら、上手く作戦を実行できた際の功績は、わたくしが担うべきよね?)

 これが王族のやり方だ。責任も建前も背負ってやろう。ただし、そこで生まれる権益は、すべて自分のものなのである。

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