第一話 『捕えられた者、奪還しようとする者』
おかしな夢を見た。どうにも自分は闇の中を進んでいるらしい。まったく光が無いかと言えばそうでも無く、小さな光の粒があちこちに見える。自分はその中の一粒を目指しているらしい。
だが、その微かな光はあまりにも遠い。どれだけの時間、闇の中を進んだだろうか。漸く目指す光の粒が大きくなってくる。光を放っている物が随分と近くまでやってきたのだ。そうしてそこまで近づいて、目的地が光その物で無く、光の近くに存在する丸い何かであることに気が付く。岩の塊だろうか? それにしてはひたすらに大きく、色も鮮やかだ。自分はずっとここを目指していた。ずっと、ずっと長い時間、ここを目指し、ここに自分の世界を―――
「………戦闘………試験…………………完了…………」
「それは…………以外の…………………経験は…………終わってから………………」
暗闇の外から声が聞こえる。なんだろうか。頭と体が重く、目を開けるのも億劫だ。こうやって考え事すらしたくない。しかし何故だろう。酷く焦っている。何か重大なことを思い出そうとしている様な。
自分は何者だ。カナ・マートン。それくらいはわかる。今、自分は何をしているのか。寝ている。体が横になっており、柔らかいベッドの様な物の上にいるらしい。では何故ベッドの上で眠っているのか。ここにいる前の記憶を遡る。確か………駄目だ、思い出せない。なんだっただろうか?
(というか眠い……すっごく眠い。あんなに魔力を使ったんだもの。当たり前よ。あんなに? 何だっけ?)
何に魔力を使ったのだろうか。最近魔力を使う物と言えばクロガネだ。クロガネを動かした後は、丁度、今ぐらいの倦怠感と睡眠欲に襲われる。そうだ、自分はクロガネを動かしていたのだ。いったい何のために。
(決まってる。戦うためだ。そう、町を襲ったあの玉型ゴーレムと……違う、もっと重要なことがあったはず。そうだ、玉型ゴーレムを倒した後、変なお爺さんが現れて………!!!)
急ぎ目を開けて体を起こす。体は酷く重いものの、悠長に眠っている事態では無い。自分はあの老人にクロガネごと捕えられたはず。ならば今はあの黒い船の中か。
辺りを見渡すカナの目に、自分が眠っていたらしいベッドと、その周りにいる二人の人影が見えた。
一人は黒いブローチを付けた背の高い女性と、もう一人はあの老人―――
「!! あなたは!」
カナはベッドの上で無理矢理に体を起こし、老人に向かって身構える。いつの間にか身軽なシャツとズボンに着替えさせられたらしく、服は動く邪魔にならない。しかし、まだ体は重いままだ。頭がクラクラとして、今にも気を失いそうですらある。
だが、ここで気を失うわけにはいかない。敵を前にして悠長に眠っていられるものか。
「おお! 起きたか、カナ・マートン。いや、随分と疲労していたから心配わい。まだ疲れとるだろう。そんなに急いで起き上がろうとせず、ゆっくりと休めば良いぞ?」
「誰がこんな場所で!」
カナは叫び、老人に腕を向ける。杖も何もあったものでは無いが、老人に向けて魔法を放とうとした。しかしそれは不発に終わる。というよりも、魔力を放出しているのにそれが調整できない。
「いかんいかん! 君は暫く休む必要がある! 魔法なんぞ使えば、また疲労してしまうぞ」
何故か慌てるのは老人の方だった。そうして気が付く。カナが魔法を使うのを阻止しているのはこの老人だ。
魔法は自らの魔力を調整することで、初めて魔法になる。つまり人間には離れた魔力を操作する力が備わっているということであり、理論上、他人の魔力にも干渉できるということでもある。
ただし、魔力は個人によって癖があり、その癖を熟知しなければ魔力を操作するなど不可能だ。だから他人の魔法を阻害するなども不可能であるはずなのだが、この老人はそれをやってのけた。カナの魔力の癖を前もって知っていたとでも言うのか。
「あなたは……フレア先生の仇!」
「ああ、そうだ。そうだとも。わしこそが君の仇だ。君の親代わりであるあの女性を殺したのはわし自身。どうじゃ? 憎いか? 憎いならそれで良い。その感情をしっかり保つことじゃ」
何を言っているのだこの老人は。憎くないわけが無いではないか。ふざけるな。
「あなたを! 絶対に許さない!」
「きゃあ!」
カナは相手に邪魔されぬ程の強度で魔力を調整していく。意地と怒りの感情任せに無理矢理発現させた魔法は、カナがいる部屋全体に効果を及ぼし、ベッド近くにあった花瓶、医療器具らしき物、それら目の前のあらゆる物を壁に叩きつけた。老人の隣に立つ女性もそうだ。彼女は足の踏ん張りすら効かずに飛ばされ、壁にぶつかり、気絶した。
だと言うのに、老人は微動だにせず、その場に立ったまま平然としている。
「まったく。疲労を伴うから魔力の行使は止めておけと言うただろうに。すまんが、暫くはまた眠って貰うことになるぞ」
まだ部屋はカナの魔法の影響化にあるというのに、それを思わせぬ程の淀みない動きで、老人は腕をこちらに向けた。
「さあ、苦しむことも無い。今の状況が良くわからんのなら、次に目が覚めた時は、その説明をしてあげよう」
首筋に違和感を覚える。違和感は首を絞めた様な感触で、次の瞬間には突如として息が出来なくなり、考える暇も無く、目の前が暗闇に包まれた。
黒い船が突如としてハイジャングに最接近し、未だに上空を漂っている。その報告を聞いたミラナ・アイルーツの感想は、もうどうとでもなれという物だった。
(だいたい何よ。それを聞いてわたくしに何をしろと言うの?)
ミラナのいる危機対策中央会議室は埃まみれだ。大きな砲弾が近くに三発も撃ち込まれ、さらにその玉が動き回ったのだから、天井やら窓やらから埃が舞い込み、きっちりと並べられた机や椅子は倒れたりズレたりでバラバラである。
そんな倒れた椅子を元に戻し、ミラナは憮然とそこに座っている。他の会議メンバーも同じ様子で、一時は大型ゴーレムに占拠されたハイジャング中央でどうした物かと怯えていたが、今ではその様子を見せていない。
「やれやれ、またもや女王陛下のクロガネに助けられたということですかな?」
自警団のボーガード・ガルツが嫌味とも単純に評価とも取れる言葉をミラナに向ける。しかし、そのどちらもミラナにとっては不機嫌になる材料でしかない。
「その肝心要のクロガネが攫われてしまったのだけど、黒い船の対策については何か進んでいるのかしら?」
ミラナの関心をもっとも引くのは、黒い船そのものやハイジャングの危機では無く、クロガネである。大切なクロガネを敵に奪われる。こんなに悔しいことは無い。中央会議室のメンバーには是非ともクロガネを取り返せる有効な作戦を発案して貰いたいところだが、そう美味い話は無い物だ。
「そうですなあ。あの船に届かせる武器なんぞを今探しているところです」
ボーガードのまったく役に立たない発言にミラナは溜息が出そうだ。いまから探す様な武器に、いったい何の効果を期待しろと言うのか。有効そうな武器は、ノロノロと黒い船が町に近づいて来た時に用意しているし、既にそれらは無用の長物であったことが判明している。異常な程に長距離を飛ばせる弩というものが存在していたのだが、その矢は一応黒い船にぶつかったものの、威力が完全に無くなっており、船に変化はまったく無かった。そもそも、遠くへ飛ばすために矢自体が軽量化させていたというのもある。
「ダスト師団長? あの黒い船の関係者を捕まえたそうだけれど、それはどうなっているのかしら?」
「そちらに関しては国防騎士団で尋問を進めています。まさか身内に内通者……この場合は裏切り者かな? そういう人間がいるとは思ってもみませんでした。その件に関しては、女王陛下の方が詳しいのでは?」
それもまたミラナを苛立たせる要因の一つである。クロガネが黒い船に攫われたという悪い情報の他に、敵の仲間を捕えたという良い情報も存在していたのだが、その情報を持って来たのがミラナの直属であるはずの魔奇対だったのだ。
(そりゃあねえ。良い仕事をしたと褒めてあげたいところだけど、そんな都合の良い話は無いわよねえ? きっと、私に隠している事情がたくさんあるはずなのよ)
実際、敵を捕えたという情報は入れども、その詳しい話はまだ無いのである。これはミラナが直接魔奇対の執務室に向かわなければなるまい。
「そうね。中央会議についてはこのまま進めて頂戴。私はこれから、魔奇対に行って、情報の整理をしてくるわ」
「ちょ、ちょっと、女王陛下!?」
ダストはミラナを止めようとするが、歩みを止めるつもりは無い。ミラナが居ても対策らしき対策を立ち上げられぬ会議であるから、現状のままでいれば時間を無駄にしてしまう。この会議に活を入れるためには、魔奇対の手を借りなければ。
(ちゃんとした答えを用意できなければ、どうなるかわかったものでは無いけれどね。覚悟していなさいフライ室長)
今日のミラナは少々機嫌が悪い。無能を晒すのなら部下の首一つでも飛ばして見ようかと考えるくらいには。
「随分と落ち着いているな」
魔奇対の執務室でジンが書類を読んでいると、フライ室長が話し掛けて来た。ジンはその書類を室長に見せて反論する。
「そう見えますかね?」
「いや、失言だったな」
ジンがこういう書類を読むということ自体が珍しいことであり、読んでいる資料もただの書類では無く、クロガネごと攫われたカナの作った物だ。
内容はジンと同じ奇跡を持った人物についての研究である。以前にカナの案内で向かったフェンリス魔法学校で見つけた資料を、カナが写本の様な形で作ってくれた。写す途中で黒い船の襲来があって中断したため、完全とは言い難い資料だったが、今では数少ない役立つ情報となっている。
「とりあえず、これだけは全部目を通す必要があります」
そう言ってジンは再び書類に目を向ける。内容はあのブライト・バーンズが、とある奇跡所有者を観察したものである。
その奇跡所有者はハイジャング近くの農村に暮らしていたらしく、農場でおかしな石を掘り起し、なんだろうと手を触れた瞬間、その腕が黒い鉄板に覆われた様な状態になってしまったらしい。
なんらかの病気か何かではないかと恐れたその人物は、ハイジャングの魔法学校に通っている友人を思い出し、相談したそうだ。そしてその友人の師にあたる人物がブライト・バーンズであった。
弟子の話に興味を持ったブライト・バーンズは、自らその調査に乗り出す。そして黒い鉄板に覆われたそれを見た瞬間、奇跡が関わる物だと結論付け、治療の一環という名目で詳しく調べた。
黒い鉄の腕をその奇跡所有者がブライトに見せに来た時、事前に聞いたよりも鎧に覆われている部分はさらに広がっている様に見えたらしい。
腕だけで無く、肩辺りまで広がる鎧について本人に聞くと、確かに町へやってきてから状態が悪化しているとの証言を受ける。
これが症状の悪化を意味するのか、それとも別の要因があるのか。ブライトはそれを考え、後者であると結論付ける。奇跡所有者を一旦、元の村に帰すと、再び腕のみの鎧化に戻ったからだ。
鎧の奇跡はハイジャングに近づく程にその効果を増す。つまりハイジャングの中心に何か奇跡に関わる物があるのだ。
そう考えたブライトは、まず目の前にある鎧の奇跡について詳しく調べ始めることになった。それ以降は、集められた詳しい鎧の奇跡のデータになっている。
(見る限りは俺が知っている事以外は載っていないんだよな………)
鎧は鎧化した部分の身体機能を増幅させる。鎧化した部分は外皮がそうなっている様に見えるが、その実、芯に至るまでが鎧と同じ何かに変換しているなど、既にジンが知っており、さらに鎧の力を引き出せると言った情報では無い。しかし―――
「お邪魔するわよ!」
執務室の扉が勢いよく開かれる。ノックもせずに入ってくるのはミラナ女王だった。顔を伺う限りは随分と不機嫌そうである。ブロンドの長い髪が攻撃色に見えてしまう。
彼女は躊躇無く執務室内を歩き、フライ室長に詰め寄った。
「どこまで話が進んでいるの? 今すぐ一から十まで話なさいな」
どうやら自分だけ蚊帳の外に置かれていたことにご立腹らしい。ジンは彼女の怒りに巻き込まれぬ様、素知らぬ振りをしておく。
「じょ、女王陛下。落ち着いて下さい。いったい何についてを聞きに? 我々は女王陛下直下の組織ですから、聞かれるのなら何時でも話す準備をできています」
「へえ。つまり聞かれなければ答えないってことよねえ? まあいいわ。とりあえず、あの黒い船に関わる事を教えなさい。そして、攫われたクロガネに対して、あなた達がどうするのかを」
「攫われたのはクロガネだけでなく、カナ・マートンもです」
珍しく室長がミラナ女王に反論する。女王の怒りの原因はクロガネにあるというのが分かり、問題はそれだけでは無いと食って掛かったのだろう。室長にとってみれば、クロガネと同じくらいにカナも大切なのだ。どちらかを失えば、自身の立場も無くなるだろうし。
「そうね、カナちゃんも。カナちゃんがいなければクロガネを動かせないし、攫われたっていうのは大変なことなのよ!」
フライ室長の反論も空しく、カナのことも重要だとミラナ女王はさっさと訂正し、話を続ける。その剣幕にたじろいでいるらしいフライ室長を見て、ジンは大変だなと他人事の様に考える。
「そ、その通りです女王陛下。ですから、現在我々はカナ・マートン奪還作戦のための準備をしているところでして」
「準備? そうは見えないけれど………」
まずい。ミラナ女王はこちらに目を向けている。実働組であるジンが執務室内で書類片手に佇んでいるというのが解せない様だ。ここはなんとか理由を話しておかなければ。
「機を待ってるんですよ。黒い船は空に浮かんでいる以上、侵入するにも方法が必要ですからね」
一応、自らの立場の弁護をしておくジン。まだ時間では無いのは事実だ。今からでもカナを助けに向かえるなら、こんなところで悠長に待ってはいない。
「今の状態が機会を待っているのだとしたら、それがどういうことかを説明しなさいと言っているの。傍から見れば、この慌ただしい時に何もしていない様に見えるわよ、あなた達」
耳の痛い話だ。確かに現状は殆ど何もしていない。
「黒い船の関係者を捕えたという話はもう聞き及んで?」
フライ室長はミラナ女王にもすべてを話すつもりになったらしい。というか、特事がフライ室長の暗殺を狙っている件についても、ミラナ女王には最初から話を通すべきだった様にも思う。ライバル組織である特事を潰す行為であったとしても。
「聞いているわ。特事のミハエル・アーバインがそうだって言うのは、とても驚いたけれど」
アーバイン家には王家の血も混じっているため、その一族の一人が国に害を与える物と関係を持っているのだとしたら、王家の責任問題にも成りえる。ミラナ女王にとっては手痛い情報だったろう。
「彼は先の騒動の隙を突いて、魔奇体を潰そうとして来ましてね。その反撃が成功した結果、彼を捕えることになりました。この事実を知っているのは我々と国防騎士団の一部のみ。ですので、後の裁量については女王陛下に一任という形になるでしょうな」
暗殺の事実を伝えつつ、後始末をミラナ女王に任せることで、事態を最小限に抑えようというのだろう。
「………まさか身内に内通者がいたとはね。どうしようかしら」
「私にとっては特事は最初から敵でしたが……まあ、近くに敵と繋がりがある人物がいるというのは、危険でもあるが利益もあります。敵の情報を探るという大きな利益が」
だから特事の暗殺を撃退したジン達は、国防騎士団にミハエルを引き渡す前に彼から出来得る限りの情報を引き出した。フライ室長の説得というか妙な話術のおかげか、ミハエルは結構素直に話していたと思う。無事なまま国防騎士団に帰すというのは癪に障る話であったが、情報を手に入れるためであったと思うことでジンは納得している。
「敵の名前はブライト・バーンズ。100年ほど前にフェンリス魔法学校の校長をしていた人物だそうで、裏ではカルシナ教を組織し、ハイジャングを中心にして起こる奇跡の研究を続けていたそうですな」
「話がいきなりとんでも無いところから始まって、色々と混乱しているけれど、とりあえず話を進めて頂戴。終わってから聞きたいことを全部聞くから」
ミラナ女王の気持ちはジンも良く分かる。事前にこちらで判明させていた事実と、ミハエルの話が合致していたからこそ、彼の口から語られた情報を信用する事にしたが、いきなり聞かされていたのなら、何をトチ狂ったのかと訝しんでいたことだろう。
「彼の研究の発端は、ハイジャングの地下で黒い巨大な箱舟を見つけたことから始まっているそうで、その箱舟こそが今、ハイジャングの真上を飛んでいる黒い船というわけです」
地下にあったものが空を飛んでいるというのは可笑しな事実であるが、奇跡というのはそういうものなのかもしれない。意識しただけで黒い鎧に包まれる奇跡というのも、傍から見れば可笑しいものであるし。
「カルシナ教というのも、あの船を動かすための人員を集めるために作った物らしいですな。カルシナ教における神をあの船とすることで、熱心な信者ほど、船の作業員に向いていることになる」
なかなか良く考えていると思う。黒い船に奇跡の力が宿っているのは事実であるし、そこで作業するという行為自体が信者にとっては褒美に近い事だ。しかも神の力を他者に漏らさないとかいう適当な理由さえあれば、船の存在を外部に漏らさぬままに事を運べる。
「ふうん。ということは、アーバイン家もそれに取り込まれたということかしら」
「もっと即物的な関わりでしょうな。カルシナ教には確かに奇跡を起こす神が存在していて、それを利用しようとアーバイン家が近づいた。一方でブライト・バーンズも、アーバイン家の権力は使えると判断したと思われます。結果、アーバイン家とブライト・バーンズは今に至るまで関係性を継続していた」
ミハエル曰く、ブライト・バーンズとの付き合いは子どもの頃から既にあったらしい。まあ、親密とは言い難い間柄だったそうだが。
「だから黒い船の襲来に合わせて、あなた達を暗殺するという手にも出られたわけね?」
「その通り。黒い船が襲来する時期と狙いを事前に知っていたからこそ、その状況で上手く動くことができたのです。最後の詰めは誤りましたがね。特事の件に関してはこれで終わり。問題はまだ現在進行形で存在する黒い船に関してでしょう」
さっさとややこしい話を終わらせてしまうフライ室長。これで後からあれこれと言われなくて済むなどと考えているのかもしれない。大事の前の小事に見せて、小事に関わる物事を流すつもりなのだ。
女王陛下を目の前にして良くやるものである。
「黒い船について分からないことと言えば、その目的と対策方法ね」
黒い船の奇跡は、これまでハイジャングに関わって起こった奇跡の原因とも言える。それを操るブライト・バーンズの狙いは何なのか。そして狙いが何であれ、ハイジャングを攻撃してきた以上、アイルーツ国としては黒い船を倒さなければならなくなった。それができなければ国の威厳が保てない。
「黒い船の目的であれば既に判明しているでしょう。クロガネとカナ・マートン。まずハイジャングを襲うことでそれらを誘き出し、まんまと攫うことができた」
では何故その二つを攫ったのかについてはミハエルにも分からないらしかった。ただし、そういう良く分からない行動をする場合は、ブライト・バーンズの個人的な研究が関わっていることが常だそうだ。
「なら、これからわたくし達がするべきことは、攫われた物を取り返すことになるのかしら」
「ついでに黒い船とブライト・バーンズを対処できれば良いですね。ただ、俺はカナ・マートンの奪還を優先しますよ」
フライ室長とミラナ女王の話に、ジンは言っておかなければならない事があると考え、自分の意思を伝える。
クロガネの奪還も黒い船の撃退も、カナの無事を確認してからだ。同僚の身の安全を無視して、自らの仕事を全うするなどと言えるほど、自らをプロフェッショナルと位置付けてはいない。
「なかなか立派な発言だけれど、肝心の黒い船へ向かう方法が無いのなら、ただの強がりになるわよ?」
「勿論、その件についての話をこれから話すつもりです?」
待ってましたとばかりにフライ室長が本題に入る。黒い船への侵入方法。それがミハエルへの尋問で手に入れた、もっとも有用な情報であった。