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黒金  作者: きーち
第六章 戦うための爪を研ぐ
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第三話 『敵は意外とすぐ近くまで』

「………止めなさい。ギャリウス」

 目の前で仕事机に座りながらこちらを見下ろすミハエル。彼は両隣に立つ男たちの内、顔に刃物傷がある男へ命令していた。

(何を止めると? まさか私の口を封じようとする部下を止めたわけかな? それくらいの頭は回るか)

 もしここでフライに危害が及べば、加害者は特事であることがすぐにわかる。特事は国防騎士団内部にあり、フライが特事の執務室にいることは、国防騎士団の受付が既に知っていることだ。

 そうしてフライは一組織の長であり、国防騎士団内部の組織が他組織のトップに危害を加えたとなると、不利になるのは特事の方である。一時の感情や打算で、組織自体が崩壊する危険もあるため、ミハエルであればそういうことはしないはずだ

(まあ、それでも馬鹿をする人間がいるから怖いのだが、こういう場面でしか命は張れんしな)

 攻勢に出るというのは、危険な領域に自らが踏み込むということだ。今さら自分の身を心配するなどできるものか。

「で、アーバイン家とカルシナ教の件をこちらはどう考えれば良いのかな? アーバイン家側の意見を聞きたいものだが」

「挑発のつもりなら止めておいてください。気が短い仲間が居ますので」

 それは脅しのつもりか? ならばもっと上手くやった方が良い。強面の男が凄んだところで、こっちとしては怯える以外にする事が無いのである。さらに言えば、何の成果も無くこの場を去り、後で部下にどやされる方がもっと怖い。

「怒りだす程に厄介な事を私が言ってしまったのかな? だとすれば、面白い情報であることは事実の様だ」

「訂正させて貰いますが、アーバイン家とカルシナ教には、あなたが想像している様な繋がりはありません。ただ、まあ、過去にあなたが調べた通り、身内に信者が居たことがありましてね。余計な詮索をされないがために資料を検閲しただけのことですから」

 急に多弁になったではないか。いや、言葉が流暢なのは前からか。こちらへ訴えかける言葉が増えたということだろう。ただしそれらの言葉に意味は無い。彼の口から、真に意味のある言葉は出てこないだろうから。

「今はもうカルシナ教との繋がりは無い?」

「他者よりは良く知っている程度です。ここまで知られていたのならもう隠しませんが、黒い船も過去にカルシナ教との繋がりがあったからこそ情報として知ることができました」

 なるほど。理屈には成っている。しかし、嘘臭さは隠せていない。あまりにも都合の良い理屈ではないか。

「まさかそんな甘っちょろい弁解が通るとでも思っているのかな?」

「勿論、通るはずです。今現在、カルシナ教とアーバイン家を繋げる何かは無いはずです。なにせ、本当に繋がりが無いのですから。天の神は正しき行いを正しく見定めていると私は信じているのですよ」

 要するにバレる様な証拠は残していないという自信があるのだろう。過去の繋がりはあっさりと認めた癖に、大した啖呵であろう。

「ああ、そうだ。確かに君らは潔白かもしれない」

「かもでは無く、正真正銘そうなのです」

「だが、周囲の人間はそれを信じてくれるかな?」

 できるだけいやらしく笑ってみる。しっかりと嫌味として受け取って貰わなければ困る言葉なのだ。

「………今何と?」

「意味がわからないかね? 私に幾ら正当を説いたところで、口さがない連中は悪評を流し続けるということだよ。最近になって漸く正式に認められた組織にとって、そういう噂は致命的に思えるのだが」

 良かった。しっかり敵愾心を持った目線がこちらに向けられている。ここまで話して、やっと理解してくれたらしい。フライが宣戦布告に来たということに。

「あなたが周囲に対して迂闊に漏らさなければ、そういう状況には成りえないと思うのですがね」

「ははは。今さら何を言っているのかね? 私が悪意の無い人間にでも見えたのかな? こりゃあおかしい。お人好しに見られるなど、何時以来か。勿論、私は悪い人間だよ?」

 嘲り笑う。隙を見せたのはそっちだ。多少優秀な若造だが、足を掬われる経験というのはあまり無いらしい。

「あ、あなたは、私達特事を敵に回すつもりか!」

 怒鳴るミハエル。これだって真に感情から出た物では無いだろうさ。頭の中ではフライが何を考えているのか、必死になって探ろうとしているはずだ。

 まったくもっての経験不足では無いか。冷静でいることが、賢いやり方だと信じきっている。時には素の感情をぶつけることが、気分も晴れて良いのだということを教えてやろう。

「先に喧嘩を売ったのはそっちだ。部下の身内にまで手を出したのはやり過ぎだったな。こちらとしても腹をくくるしか無くなった」

 そう言ってソファーから立ち上がる。今度はこちらが椅子に座るミハエルを見下ろす番だった。

「魔奇対は特事を全力で潰す。実を言えば、その言葉を伝えたくて、今日はやってきたのだ。用も済んだし帰ることにするよ」

 立ち上がる足で、そのまま執務室の出入り口へ歩く。背中から何か言葉を投げかけて来るかと思えたが、無言のままであった。声を掛けられたとしても、止まるつもりは無かったのであるが。




「やりますか?」

 魔奇対のフライ・ラッドが執務室を出て暫くしてから、隣に立つ部下のギャリウスがそう提案してくる。その言葉にミハエルは、溜息を吐きながら答える。

「恐らく、そういう危険も承知でここに来ている。無事に帰さなければ、こちらの害になるだろう手を幾つか既に打っていると見るべきだ。まったく………厄介なことですよ」

 なんとか平常心を保とうとする。それ程にミハエルの心は掻き乱されていた。相手を侮っていたわけではない。ただ、まさか自分を危険に晒してまで特事に挑んでくるとは思っていなかったのだ。命を張るタイプでは無いと考えていたこちら側の失態だろう。

「この度は、師がまた勝手をしてしまい、申し訳ありません」

 もう一人の部下であるランデル・ヒューバが頭を下げてくる。

「あなたが謝ったところで仕様が無いでしょう。あれは我々の手の内に納まる物では無い」

「あれとは失礼じゃのう。昔からの付き合いじゃと言うのに」

 相変わらず突然現れる老人だ。しかも現れる度に空気を悪くする。

「ブライト師! あなたは自分が仕出かしたことに気が付いているのですか!?」

 現れた老人へ真っ先に反応したのはランデルだった。老人、ブライト・バーンズはランデルの魔法使いとしての師である。というより、ミハエルがブライトとの付き合いの中で、その弟子を部下として譲って貰った形になっている。

「仕出かした? どれのことかの。最近はやった事やこれからすべき事が多くてのう」

 弟子の質問にすら真剣に答えない。この老人はそうなのだ。自分の興味以外の事は、はぐらかし、ごまかし、茶化す。世の中を何かの茶番劇としてしか見ていないのかもしれない。

「魔法学校で殺人事件がありました。殺されたのは、こちらが一覧表を用意したカナ・マートンの関係者の一人でしたよ。あなたがやったのでしょう?」

 老人は、特事やアーバイン家の組織力を利用することが多々あった。直近の物では、ミハエルに魔奇対のカナ・マートンについて情報を求めて来ていた。

 その情報を渡してすぐに起こった事件だ。ブライトが関わっていない訳が無い。

「ああ、それか。その件か。いかんぞランデル。仕出かしたなどと。その事件はわしにとって、重要な実験の一部なのじゃ。やってのけたと表現するべきじゃろう。昔から魔法使い的な考えをせん奴じゃったが、それでは及第点すらやれん。政治家向きな性格ではあるのじゃが―――」

「質問をしているのは私です。答えてください。フェンリス魔法学校の一件は、あなたが?」

 無理矢理にでも話を進めなければ、老人との会話はあらぬ方向へと進んでしまう。老人との会話のコツは、如何にこちらの我を通すかという点にあると、ミハエルは長い付き合いの中で学んでいた。

「ああ。わしがやった。非常に残念なことじゃよ。殺したフレア・マートンは魔法使いの仲間として、共感を覚える相手じゃった………」

 露骨な程に肩を下げて落ち込むブライト。ただし、それはこの瞬間だけだろう。彼にとって多少の感情というのは、自分の研究対象の下に位置している。どれほどに自身が落ち込もうとも、研究を続ける手を止める人間では無い。

「先ほど、その件で魔奇対の室長が直々に会いに来られましてね」

「ほう。なんと言っていた?」

「全力で潰すとのことでした。ご老人との関係も、ほぼ向こうは確信しているでしょうから、対象にはあなたも含まれていますよ?」

 嫌味で言っているというのに、老人はさらに笑う。

「ははっ! 望むところじゃて。そうでなくてはなあ!」

「あなたは良い! 強壮な力をお持ちだ。個人でも、集団としても! だが、私達は漸く国に組織としての力を認めさせたところなのです。ここに来て、余計な邪魔は止めていただきたい」

 特事などという裏方ばかりをさせられる組織を、ただひたすらに育て上げ、国防騎士団の一部門として承認を勝ち取った。そうしてここで止まるつもりは無い、もっと上へ。ミハエルには野心があった。老人の力は、その野心に役立たせることができると考え、今まで関係性を続けていたが、ここに来て邪魔になるというのなら、切り捨てる覚悟を持つ。

「わしと敵対する程の度量が、ミハエル坊にあるかな? 坊の手管は、わしが良く理解しとるよ? いや、アーバイン家のやり方と言うべきかの?」

 この老人は、ミハエルが生まれる前からミハエルの実家と繋がりを持っていた。弱みを握られ、利用されていた。老人なりの見返りはあっただろうが、この破天荒な老人に付き合ってきた時点で、損の方が大きかったと断言できる。

「だとしても……このままではジリ貧でしょう」

 特事と魔奇対。単純な組織としての戦力なら、こちらの方が強いと言える。戦闘要員はこちらの方が多いはずだ。しかし組織力、周囲からの信用などは、公式に認められた期間が長い魔奇対に分がある。特事がさらなる力を付けるまで、魔奇対との抗争は先送りにするつもりだったのに、老人の行動ですべてがおじゃんだ。

「その点については、わしが手を貸してやろうか?」

「なんですって?」

 老人が顔を近づけてくる。不気味な笑い顔。本人としては気性の良さを表現しているのだろうが、あくまで恐ろしい。

「この町に、もう一度混乱を呼び込もうと思っておる。町全体を騒がす大事件だ。上手い具合にやれば、特事の権益を増す結果にも成りえるかもしれんのう。そうして、わし自身は特事に手を出せん。ミハエル坊は好きに動けるというわけじゃ」

 唾を飲み込む。老人の言葉は冗談に聞こえて、その実、嘘を殆ど含まない。ブライト・バーンズはハイジャングの町そのものを襲うつもりなのだ。実験の副産物としての襲撃では無く、自らの力を直接ぶつける形で。

「あなたは何をするつもりなのです。これまでは、それ程大胆には動かなかった」

「答えらしき物を見つけたのじゃよ。ミハエル坊にはわからんだろうなあ。話しても、理解はしてくれまい。ただ、これまで付き合った義理がある。ほんの少しばかりじゃが気を使ってやろう。最終的にどうなるかはミハエル坊次第じゃか―――」

 老人の体が吹き飛んだ。ミハエルがそう認識したすぐ後に、老人がいた場所に別の人影が映る。それは部下のギャリウスだった。傍から見れば、ミハエルを侮辱し続けている老人だ。制裁のつもりで、その拳を叩きつけたのだろう。

 老人を叩いたギャリウスの右腕は、常人の3倍以上の太さがあった。筋肉が盛り上がり、服が破れ、彼自身の胴回りすら超えているかもしれない。勿論、ギャリウス自前の物では無い。彼の奇跡だ。ギャリウスは特事の隊員であり、尚且つ奇跡所有者なのだ。

 自らの肉体を増強させるという奇跡を使う。そのギャリウスの一撃を喰らえば、常人なら半身がひしゃげていることだろう。だが、吹き飛んだはずの老人はひしゃげた体どころか、姿すら消している。部屋の中には、まるで最初から老人などいなかったの如く。

 しかし、老人が居た証明として、彼の声だけが部屋に響いた。

「わしが一度決めたことを中止せんのは知っておるな? ならばここは考え時じゃぞ? これから起こる事がわかるのは、ミハエル坊だけじゃ。その自体をどう活かすか。良く考える事じゃな」

 忠告に似た老人の言葉も、それだけで終わり。老人の痕跡は完全に部屋から無くなってしまった。

「相変わらず不気味ですな」

 老人を叩いたはずの右腕を見ながら、ギャリウスが呟く。同感だ。

「敵にならぬ様にだけは注意する必要があります。ランデル、あなたの師は、これからどういう方法で町を襲うと思いますか?」

 弟子として、多少は老人のやり口を知っているはずのランデルに尋ねてみる。今はとにかく情報が欲しい。

「師の事です。生半可な事では無いでしょう。過小評価をするより過大に予想した方がまだ近いと考えるべきです」

 同感である。あの老人は何時も予想の上を行く。

「黒船を出してくる……その可能性も視野にいれるべきか………」

 呟くミハエルだが、ランデルからの反論は無い。老人が個人で持つ戦力で最大の物が黒い船だ。そしてそれを使ってハイジャングを襲う。馬鹿らしい予想であるが、だからこそ正しい気がする。

「こっちには手をださねえって言ってくれてるってことは………どうするんで?」

 あまり状況を整理できていない様子のギャリウス。まあ、彼には頭を動かすことを期待はしていないし、それとは別の便利な力がある。

「混乱というのは、隙が多く生まれる状況と言えます。一方で私達はその混乱の中を、前もって予定した通りに動ける。目下のところのそれは、魔奇対を潰す。ということで宜しいでしょうね」

 宣戦布告は受け取った。向こうがこちらを潰すと言った以上、こちらも同じく行動するのみだ。特事の戦い方というものを見せてやろうではないか。




 余所で自分達を巻き込む権謀策術が渦巻いているとは知らぬジンであるが、今はカナに連れられてフェンリス魔法学校までやってきていた。

「確か部外者は立ち入り禁止じゃなかったか。まあ、俺は中で起こった事件の時に、調査目的で入ることを許されたけどな」

「今でも多分そうですよ。その………フレア先生の事件で………学校内はまだ混乱していると思います。調査目的で封蔵図書を見せて欲しいって言えば、もしかしたら許可がでるかも」

 わざわざ気落ちする話題まで持ち出して、ジンを目的の場所に案内しようとしているらしい。彼女のこのやる気はどこから出てきているのだろう。

「なあ、大丈夫か?」

「何がです?」

 分からないと首を傾げるカナ。無理をしている様子は無さそうだ。ジンに気を使っている風でも無い。

(となると、本気で好奇心を原動力にしてるってことか? 身内が死んだことも利用して? 魔法使いってのはそんなに図太いのか)

 カナの姿に、危うく例の老人の姿を重ねそうになった。いくら彼女の行動が不思議とは言え、あの老人の様に道徳や他者の尊厳を容易く踏みにじっているわけではない。

「………ええっと。どうしました?」

 じっとカナを見ていたため、彼女はジンのことを不審に思った様だ。

「いや……その封蔵図書に入るには、誰の許可が必要になるんだ?」

「それはもちろん校長です。権威主義的な人みたいですから、ジン先輩の立場と、女王陛下の後ろ盾を使えば、許可を貰えるかもです」

 お互い頑張りましょうと自分の手を握って力を込めるカナ。

(魔法使いが図太いんじゃあなく、彼女の度胸がかなりのものってだけかもな)

 歩くカナの後を追うジン。その勢いは力強く、校長とやらの許可も勢いのままに勝ち取ってしまった。

「やりましたね、ジン先輩」

「俺は何もしてないけどな」

 ジンが見たフェンリス魔法学校の校長は、見るからにインテリと言った風貌で、油ののった中年男と言った感想を持った。カナの言う通り、権威主義的な様子で、ジンが先日の事件の調査をしていた人間であることをカナが説明すると、学校内をいくらでも調査してくれと、向こうから提案してきた。これで良いのだろうか。

「本当はぜんぜん駄目ですけどね。学校にとって、魔法に関する秘密は、学校の存続にすら関わる物なのに………」

 つまり魔法学校の校長としては不向きな人間ということか。まあ、そのおかげで外部の人間が学校内を出入りすることができたのだから、良しとしよう。

「で、ここが封蔵図書ねえ。もっと変なところと思っていたけど、埃っぽいだけだな」

 ジンがその字面で想像したのは、多数の蔵書や本棚が、広大な空間に存在し、魔法か何かで宙に浮いている様な場所だ。しかし今、目に映っているのは単なる図書館であった。

「どんな場所だって思ってたんですか………。資料を封蔵する場所なんですから、こんな場所に決まってます」

 確かに言われてみればその通りである。夢の様な場所というのは、文字通り夢の中にしか存在せず、現実にある場所は現実的な姿をしているものだ。

「それで、この場所で何を調べれば良いんだ? 言っとくが、資料を読み解く能力なんてのを頼りにされても困るぞ」

「安心してください。ジン先輩にそんな期待はまったくしてませんから」

 それはそれで酷く馬鹿にされた様な気がする。こうなったら、慣れぬ頭を動かして、この部屋にある資料でも見てみるか。

「あ、無暗に資料に触らないでくださいね。ジン先輩ってガサツそうですから、大切な本を傷つけちゃいます」

 複写なんかの技術も無いから、暫くそこらで見学してくださいと言われる。本格的にやることが無くなってしまう。

「なあ、俺がここにいる意味ってあるのか?」

「ちょっと静かにしてください。今、集中してますから」

 何時の間にかどこかの本棚から資料を取り出して、読み解き始めたカナ。そうして喋ることすら禁止されたジンが残る。

「…………うん? これは」

 とりあえず言われた通り、部屋の中を見て回ろうとしたジン。その目に、本ばかりの部屋に似つかわしくない絵が映った。壁に並んだ何枚もの絵。そこに描かれているのは、どれも年配の人間で、気難し気な顔ばかりだ。

「なんだこ……りゃ………」

「あ、それはうちの歴代校長の肖像画ですよ。別に重要な資料とかじゃあありません」

「名前はわかるか?」

「はい?」

 こちらの様子が変化したことに、カナは気が付いたらしい。資料から目を離し、こちらを見てくる。

「名前だよ。歴代校長の名前はわかるか? この肖像画に描かれている校長の名前だ」

「それは……まあ、就任順に並んでますから、何代か前くらいまではわかりますけど………何かあったんですか?」

「確か……君は例の老人の姿を見たことは無かったんだよな?」

「え、ええ。というか、魔奇対の中で見たことあるのは、ジン先輩だけじゃないですか」

 ジンはカナにも分かる様に、一枚の肖像画を指差す。

「この爺さんの名前は……わかるか?」

「あ、はい。わかりますよ。ブライト・バーンズ校長です。特別な才能が無かったと言われてますが、地道な研究が評価された、努力の人だって言われていて、その最期が調査中の失踪によるものだという経歴からも、結構人気を集めてまして………あの、もしかして?」

「ああ。そのブライト・バーンズとか言う奴の肖像画が、例の爺さんそっくりなんだが」

 カナはジンのそばまでやってきて、まじまじとブライト・バーンズの肖像画を見ている。彼女は老人を見たことが無いため、似ているかどうかはわからないはずだ。

「えっと………本当に、間違いじゃあありませんか?」

「偶然にしちゃあ、有り得ないくらいに似てるな」

 まさかの話である。老人の正体について、謎ばかりが残っていたというのに、思いも寄らぬ形で分かったという事になるのか。

「さすがに絵だけじゃあ断言できないが、ここには、この爺さんが残した資料とかがあったりしないのか?」

「ま、待ってください。探してみます!」

 小走りで封蔵図書内を見て回り始めたカナ。資料を探せぬジンはと言えば、見つけた肖像画を睨みつけることしかできなかった。




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