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黒金  作者: きーち
第六章 戦うための爪を研ぐ
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第一話 『反攻にはまだ遠く』

 アイルーツ国は王国であり、王家が勿論存在している。アイルーツ国の王家はそれなりと言うか、絶対的な権力を有しており、王家直属の組織も多く存在していた。

 ジンが所属する魔奇対もその一つであり、王家を構成する一人であるミラナ女王直属の組織として認知されている。

 ただ、魔奇対の様な国家治安に関わる組織というのは、王家直下の組織としては稀な方だ。国の治安というのは、町ごとの自警隊が国家規模なら国防騎士団が担っており、それ以外の組織が介入する余地が非常に少ない。

 ならば、多く存在する王家直属の組織とはいったい何を指すのかと言えば、その多くが王家の権威を象徴する物である。

(例えば高度な技能を持つ職人集団とかを王家が雇う事で、それなりにお互いメリットが生まれるわけだ)

 王家側は、技能集団を自分達側に置くことで、新たな発明や技術、知識をまず独占できるし、職人集団は利益に直結しない技能を王家の援助の元に保有、発展させることができる。

 ジンが向かっているのも、そんな職人集団の一つである。場所はハイジャングに存在する王宮内の敷地。その片隅にある王宮から壁で隔離された建屋だ。王宮自体も街からはハイジャングの町の外壁に匹敵する防壁が存在しており、ジンが向かっている建屋はどこからにも接点が無い様な場所ということになる。

(王宮鍛冶なんてのは、そういう場所にあるもんなのかねえ)

 ジンは王宮鍛冶と呼ばれる職人集団が働く建屋へと向かっていた。そこに向かうのは、当然王宮へ入らなければならず、それなりの許可が必要なのだが、ジンの上司の働きによってそこはクリアしている。

 見た目がどうみてもチンピラであるジンは、王宮内の警護兵やどこぞの貴族から奇異の目で見られるが、あまり気にはしない。そういうのは慣れているし、実際ジンはチンピラである。

(つーか俺みたいなのが王宮内部を歩くってのが問題なんだよな。王宮鍛冶ってのがなんの役に立つのかもわからねえし)

 ならば何故、そんなところにジンが向かっているのかと言えば、魔奇対の戦力強化が目的だった。

「手っ取り早い組織力の向上方法として、お前が所有する奇跡の持つ力を強化し、戦力を増加させる事が得策だろう」

 そんなフライ室長の案から、女王陛下を通して王宮鍛冶を紹介された。奇跡所有者が持つ武器など、どんな店であれ取り扱っていないため、個人のオーダーメイドのみを扱う王宮鍛冶に作って貰うのが得策だろうと判断したらしい。

(今までが頑丈な槌一本が鎧姿になった時の武器だったから、好都合と言えば好都合なんだが………)

 そうしたところで、現在の敵である例の老人を倒すには心許ないと感じてしまう。単純な武器では駄目なのだ。あの老人は普通では無いのだから。

「今はクロガネが動かせないし、俺が動くしかないんだけどなあ」

 魔奇対の現有戦力は、ジンだけである。前からそうであり、最近はそうでも無かったが、今は再びジンのみが戦力だ。後輩は休暇中で、もしかしたらそのまま組織を辞めるかもしれない。

「守勢になるのは止めた以上、何かしら有効な打撃力が必要なんだが……おっと、ここか」

 考えながら歩いている内に、目的地を通り過ぎそうになった。王宮内の敷地は広く、それに反して王宮鍛冶の建屋は小さ目だ。見逃しそうだったが、一度覚えれば忘れることはあるまい。王宮はある種の美意識にそってつくられた芸術品だが、王宮鍛冶の建屋は実用以外の機能が省かれた印象を受けるシンプルな作りだ。この場所に限り目立っていた。

「誰かいるかい? 失礼するよ」

 建屋は見張りもいないが、中では鉄を叩き合わせた様な作業音が常に鳴り響いており、中に誰かはいるのだろう。出入り口の扉を叩き、返事を待つ。

「要があるんならさっさと入ってくれ!」

 扉越しでも耳に響く大声がジンにも聞こえた。口調は荒々しく、ジンにとっては聞き慣れた声でもある。おかげで少しばかりあった緊張も無くなり助かった。

 言われるままにジンは扉を開ける。

「おお。これはなかなか」

 建屋内には、数人の筋肉質な男達が、動き回り、鉄を鍛え、木々を細工し、火をさらに熱していた。

 部屋の中は熱気による湯気が立ち込め、よくもまあこんな中で作業ができるものだと感心してしまう。

 男達は扉を開けたジンを一瞥した後、多くが再び作業に戻った。ただ男達の中で一番若手に見える人間のみ、ジンに近寄ってくる。

「体格からして兵士か騎士いや、それにしては………。なんだ、武器の注文か?」

 年齢はジンと同世代が少し下と言ったあたりか。坊主頭が似合う若々しさだ。それにしてもジンをどういう人間だと思ったのだろうか。体格での判断を、顔を見た時点で否定した様だが。

「ミラナ女王の紹介で来たんだが……ジンって名前だ」

「ジンね……ああ、話は聞いているよ。奥に来てくれ」

 坊主頭は扉近くに下がっている予定表らしき掲示板を確認してから、ジンを建屋の奥まで案内した。

 建屋は外から見る以上に奥行があり、入口にある作業場から離れるに従い、雰囲気を変える。入口が雑多な熱さを感じるのなら、奥は整理された冷たさか。作られた剣や槍、全身鎧などが整理されて並ぶ。中には良くわからない道具もある。

「結構なもんだが、全部、誰かの依頼で作ってるのか?」

 並ぶ種々の道具を見て、ジンが尋ねる。

「いや、これらは見本だ。道具を作ってくれと言ってくる客に、どういった物が必要か、これを見せて考えさせるのさ。言葉だけじゃあお互い伝わり難いしな」

 単なる見本ということだが、その見本ですら一級品に思える。丹念に手入れされているし、美麗さを感じる作りでも、その頑丈さを損ねていないのだろう。王宮鍛冶の名前は伊達では無さそうだ。

「でだ。あんたの武器もこれから作る。そのために、あんたが望む注文を聞きたいわけなんだが」

 建屋奥にある整理された物置と言った雰囲気の部屋に辿りつく。坊主頭はここにジンを案内したかったらしく、部屋に着くと同時にこちらへ武器をどうするのかと尋ねて来た。

「注文と言われてもな。そもそも、俺のことはどう聞いてるんだ?」

「偉く怪力だってのは聞いてるな。見る限りそうも見えないけどねえ」

 じろじろとこちらの体つきを見てくる坊主頭。大方、怪力と言えども口だけだろと思われているのかもしれない。女王陛下からの紹介であるので、どこぞの偉い身分の人間だとも見られているのだろう。

 一方でこっちが欲しいのは実用的な道具であるため、舐められっぱなしというのは良い状況ではない。

「なら、力を試す道具でも持ってきたらどうだ? そういう道具だってあるんだろう? ここには」

 王宮鍛冶で作られる道具は、すべてがオーダーメイドだそうだ。それは不特定多数が使う道具では無く、個人毎に使いやすい形となる。ならば、使い手側の力量や技量の判断を、前もって行う必要があるはずだ。

「ああ。用意してあるぜ。ほら、これと、これだ。よいっしょっと」

 坊主頭が壁に立て掛けられた二つの道具を指差してから、片方の道具を持ち上げた。持った方の道具は厚手の剣である。恐らく刃もまだついておらず、鉄の棒に柄を付けただけといった様相である。もう一方はクロスボウだろうか。かなりの大きさであり、持ち歩くには少々重すぎるだろう。

「どっちも扱うには力が必要な道具ってことか。もしかしてそっちのクロスボウも携帯用だったりするのか?」

「ああ。まあ、さすがにこっちの方を試してみろなんて言わないさ。これはうちの親方が趣味半分で作った物でね。ただ、俺が持つ剣くらいは振るえないなら、怪力なんて自称は撤回するべきだと思うぜ?」

 剣の柄をこちらに差し出しつつ坊主頭は笑う。人を下に見た笑いだ。やはりまだ舐められている。

「一つ確認しておくが、俺のことは怪力って話以外は聞いていないんだな?」

「それだけだよ。かなりの力持ちが来るから、それに見合った道具を作ってやれって話でね。まあ、見る限りハッタリだろうが」

「ハッタリねえ……別にこっちをどう見たって構わねえが、驚いて剣を落とすなよ?」

 ジンはそういうと、言われた通りの怪力となるため、鎧姿となった。坊主頭はその変化に口を空けて驚くが、幸運なことに剣は落とさないままだ。

「ちょっと貸してみろ」

 ポカンとしたままの坊主頭から剣を引っ手繰り、片手で持つ。相当な重さがあろうとも、鎧姿なら軽い物だ。坊主頭から距離を置き、剣を一振りする。風切音が部屋に響くが、こんな剣を扱うなら、何時もの槌の方がまだ使いやすいし威力がある。

「そっちの方のクロスボウも使わせて貰って良いか?」

「あ、ああ」

 まだ頭が働いていないらしい。坊主頭の癖に。横を通り過ぎて、クロスボウを持ち上げる。こちらも予想した通り重量がある。きっと引き金や矢を設置する際の弦も重く固いのだろう。

「的は……ああ、あれに向けて撃つのか」

 藁を固めて作ったらしき丸い的が部屋にあった。藁の中心は赤く染色されており、そこに当てろということなのだろう。

「あれに向けて? あ、おい! 待て!」

 坊主頭が止めようとしてくるがもう遅い。固いはずの引き金がジンの力で軽く引かれた。普通なら腕がふっとぶ程の衝撃が、クロスボウを支える両手に走り、その衝撃に見合った速さで矢が飛ぶ。発射音と的に突き刺さったのはほぼ同時に見えたが、矢の勢いはそれで止まらず、的を若干吹き飛ばしながら穴を空け、その向こうの壁に突き刺さり、刺さった周囲にヒビが入る。

「だから待てっつっただろ! ああ………壁に穴が空いちまった」

「そう言われてもなあ。中々良いじゃん。これ。いっそこのクロスボウをくれないか?」

「矢が何本もねえんだよ! 奇跡持ちなら最初からそう言え!」

 壁から矢を引き抜こうとして、なかなか抜けず四苦八苦している坊主頭。こちらを試すためにそんな威力のクロスボウを用意した側が悪い。

「で、この姿の時用の武器を用意して欲しかったんだが、できるか?」

「ハッ! 誰が奇跡持ちの武器なんかを………くそっ。抜けねえ………」

 まあ、こんな答えがまず返ってくるだろう。奇跡所有者は、アイルーツ国に置いては結構な差別対象だ。未知の力への恐怖がそれに混じっているため、中々に根深い。

「女王陛下の紹介だぞー。奇跡持ちだろうと、用意しなきゃ沽券に関わるんじゃねえか? なんなら、その矢を抜いてやろうか?」

「取引きするなら、もっと上等な条件を用意しな。いくら女王陛下の頼みだろうが、奇跡持ちの武器なんぞ作るなんてのは、うちの看板に傷が付くってもんだ」

「ほう。大した職人気質じゃねえか。だが、職人ってのは誰が相手でも見合ったもんを作るのが一流じゃあねえのかい」

 この言葉はジンが発した物では無い。部屋への入口に白髪の男が立っており、その男が坊主頭に向かって言った言葉らしい。壮年から老年に向かうくらいの年齢だろうが、筋肉質の体は、老化による衰えから解放されている様にすら見える。

「お、親方! 今日は確か休みだったはずじゃあ………」

 坊主頭は白髪の男を見て狼狽えている。白髪の男が坊主頭の上司なのだろう。そういう威厳は確かに感じる。

「だから顔を出すだけでさっさと帰るつもりだったが、この部屋からデカい物音がするじゃねえか。なんだろうと見てみれば、客の注文を断ろうとしてやがる。こりゃあ黙っちゃいられねえだろ」

 坊主頭の顔色が青くなる。どうやら客のえり好みというのを白髪の男は好まない様子。

「だ、だけど親方。こいつ、奇跡持ちで………」

 坊主頭に指を差される。そのことに苛立ちは感じない。きっとこの後、親方と呼ばれた男に叱られることになるだろうから。そっちの方が見物だ。

「ほう、つまりは奇跡持ちが使う武器は作り難いから、自分には無理ですとそう言うわけだ」

「い、いや、そうじゃなくてですね………」

「てめえはクビだ。客が望むもんを作れねえんだったら、王宮鍛冶なんかには居られねえんだよ。どんな無茶な注文も聞くからここで仕事できるんだ。わかったらさっさと出て行きな」

「………わかりやした」

 肩を落として部屋を去る坊主頭。もしかして本当にクビになったのか。

「お、おいおい。ちょっと待ってくれよ、いくらなんでもクビは無いだろう!?」

 ジンはそのことに驚く。組織に属する人間をそう簡単に辞めさせても良いものなのだろうか。

「一応は元王宮鍛冶って肩書が残ってるんだ。職には困らねえよ。そもそも、ここにいる人間の大半が、国中の鍛冶屋や細工師からスカウトされた人間だ。元の地位に戻るってだけなのさ」

 白髪の男はジンにそう説明する。職人系の仕事というのは良くわからないため、そういうものなのかと納得するしかない。

「ところで、あいつをクビにしたせいで、あんたの道具を作る役が居なくなっちまったな。責任を取って、俺が作ることにするよ」

 鎧越しのジンの肩を叩く白髪の男。

「あんたがって、いや、ここの関係者であることはわかるけど、どういう物が作れるんだ?」

「なんでもさ。さっきも言ったろ? 客が望むもんを作るのが王宮鍛冶だ。俺がそれをできなくてどうする? これでも、王宮鍛冶の管理責任者でもあってね」

「あ、ああ。だから親方」

「そうだ。名前はゼイン・ガーペット。一応、アイルーツ国一の鍛冶師を名乗らされている。これは国側の意地だろうがな」

 いままでの事もなんのその。白い歯を見せてゼインは笑った。




「なるほどねえ。腕も手管も上の相手に、それでも勝つことができる武器か。なかなか難しいな」

 老人の事や追っている事件についてははぐらかしたまま、ジンはゼインにどういう武器を望んでいるかを話す。すぐにこちらが必要としている物を察知するのは良いものの、やはり都合の良い武器などは作れぬだろう。

「別に本気でそんな武器を作ってくれとは思わねえよ。ただ、少しでも良い戦力になる道具が欲しくてな」

「別に作れないわけじゃあないぞ? 難しいってだけでな。女王陛下からの依頼である以上、作るための資金も資材もたっぷりだ。あとはあんた次第ってことだな。兄さん」

 ゼインに肩を叩かれる。その力強さは頼りがいのあるものだが、本当にできるのだろうかという不安は拭えない。

「本当につくれんのか? 戦う相手は、生半可な人間じゃあないんだが………」

 ゼインが老人について正確に把握できているかどうかは怪しい話だ。単なる強力な人物としか思っていない可能性もある。

「そういう意味じゃあ、兄さんだって半端な人間じゃあないさ。兄さん、奇跡を使った状態で、専用の武器なんてのは持ったことがないだろう?」

「奇跡を使ってなくても無いなあ。自分専用なんて、個人じゃあとても手が出ねえよ」

 そもそも自費で仕事用の道具など購入したくない。それならば官用の物品を利用した方がまだ良い。

「それを俺が作ってやるってんだ。良いか? 道具ってのは使い手が出来ないことを、使い手側の力を増幅することで可能にするもんだ。兄さんは元になる力が、奇跡のおかげで常人より優れてるわけだから、使う道具もそれなりの物になるはずだぜ?」

 そうであれば良いのだが。奇跡を使った状態で使う武器など、普段使う槌の様な、頑丈で重い物しか思いつかない。

「いまいち想像できないんだが………」

「まあ、任せてなって。多分、兄さんがさっき使ったボウガンみたいな武器になるはずだ。それと、普段使ってるとか言うハンマーも、頑丈な物を作ってやるよ」

 そっちの方は嬉しい話だ。明確に良い道具が手に入る事がわかる。

「そんじゃあ、また鎧姿になってくれよ。兄さんがどれだけのことができるのか、こっちで判断しなきゃならないからな」

「わかった」

 ゼインに言われた通り、鎧姿になる。ゼインはそれに驚いた様子も無く、まずはジンの体の採寸を計りだした。ジンの変身を見て、まったく動じない人間というのも珍しい。本場の職人というのは、面白い人種の様だ。




 道具を用意しているのはジンだけでは無い。クロガネの整備班長、ワーグ・ローパも、次なる戦いのための準備を行っている。巨大ゴーレム『クロガネ』は、何もしなければ劣化するばかりのじゃじゃ馬であり、準備ならば戦いが無くても行い続けているが、今回は何時もとは違った形になっている。

「なあ班長。マートン君がクロガネの運用について調べた幾つかの事項は、役に立っているかね」

 今日は珍しく自分の上司ということになっている、魔奇対室長のフライ・ラッドが整備テントに来ていた。クロガネの乗り手であるカナが現在休暇を取っているから、その代わりらしい。

「興味深い内容ですがね、実際に改良してみたとして、それが本当の上手く行くかは、試してみんとわからんでしょう。そのためには、お嬢ちゃんの力が必要なんですが………」

「マートン君については悪いが、暫く休ませてくれないか? 身内にいろいろとあって、仕事ができる状況ではないのだ」

 頭を下げてくるフライ。一応の上司なのだから、そういう態度をされると気が引ける。

「俺は構いませんがね。ただ、敵が待ってくれるかどうかは別問題だ」

 そもそも問題さえ起こらなければ、クロガネやら魔奇対やらは、ずっと休暇のままで良いのである。そうでないということは、問題が何時いかなる時でも起こってしまうからだ。こうやって話している瞬間でも、奇跡がハイジャングを襲わないとは限らない。

「そうだなあ。万が一には、代わりの者を探す必要があるかもしれない」

「お嬢ちゃん以外がクロガネに乗るってことですか? いや、そりゃあまいったなあ」

「何か問題があるのかね? 別にマートン君をお払い箱にするわけじゃあなく、本人が動けない時に、代わりにクロガネを動かせる人材が居れば安心だと思うのだが」

 フライの言葉はまっとうな意見である。普段であればワーグも同意していただろうが、今は普通の状況では無い。

「敵が強大だと聞いて、お嬢ちゃんが動かしやすい様に調整してますからね。他の人間が乗るとなると少し難しいでしょう。それと、配備の目途が立った2号装備もお嬢ちゃん用に改良したものでして」

 整備テントの外には、現在別の大きなテントが張ってある。そこにはクロガネの2号装備が用意されていた。装備と言えない0号装備とそもそも戦うための物ですらない1号装備。それらとは違い、2号装備は純粋にクロガネの戦力向上のための物であり、用意に時間が掛かっていた。本日になって、漸くクロガネに装備することができることになったのである。

「ほう。まだ作製には時間が掛かると聞いていたが、良くできたな」

 感心そうに整備テントの外を見るフライ。外にある2号装備を見ているつもりなのだろう。そっちの方向には無い。

「女王陛下からの支援のおかげですよ。室長が話を通してくれたんでしょう?」

「まあ……な。できる限りのことはしてくれるらしいが、それでも時間を掛けなければならない物はそのままだろう? 時間は資金や資源では買えない」

「構造上の問題で、頑丈な芯を用意するのに四苦八苦してたわけですが、そこはそれ、資金が大量にあれば用意できる物を使用したわけです。整備班としては、些かつまらない方法でしたがね」

 クロガネという存在を整備する以上、その強化には自分の腕を活かして行いたかった。まあ、手っ取り早く済ませるのなら、それに越したことは無いのだろうが。

「装備の件はそれで良しとしよう。具体的な戦力増強は上手く行っているあとはそれをどう活かすかなのだが」

「クロガネに関しちゃあ、動かす側がいなけりゃどうしようもありませんよ」

「わかっている。とは言え、早々になんとかできる問題というわけでも無いだろうし………とりあえずは組織戦でどうにか凌ごうか」

「組織戦? どっかと戦うんですかい?」

「組織同士の戦いなどというのは、ずっと前から始まっているさ。仕事内容が被っている時点でそうだし、既に明確な敵対行動にも出ているしな」

 フライが口を漏らしていたが、守勢では駄目だということらしい。特事に対して、魔奇対が攻勢に出るのだ。人員不足が否めない以上、組織の長であるフライ自らが動くつもりなのだろう。


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