第二話 『疑問はあるが答えがない』
ブッグパレス山にて調査を続けるジンは、特事のランデルに案内された小屋を出て、その周辺を探っていた。
「ったく。舐めんなって。なーにが小屋や偽物の日記から考えて、カルシナ教の関係者が怪しいだ。それくらいこっちも知ってるっつーの」
分かりやすい情報を提示することで、より深くを探られない様にするつもりなのだ。ランデルが話すこの山の調査結果はまさにそれだ。小屋自体も怪しいものである。さすがに特事が用意したという物でも無いだろうが、奇跡に大きく関わっているとは思えない。
「あの実験器具が今までの奇跡を引き起こした? はっ、信じがたいね」
あの雑多な実験器具のわざとらしさと言ったら、あれこそ特事が用意したブラフかもしれない。それが意味するのは、奇跡の原因があの小屋そのものにあったと思わせること。
「要はあの小屋以外に何か原因があって、それを隠そうとしてるってことだ。探せばまだあるはずさ。でなきゃ隠そうとなんてするもんか」
かと言って、山の中を歩き続けても何かが見つかるわけもない。ただ木や草が生える坂道が続き、偶にある崖のせいで行く手を阻まれる。少し引き返して、また別の場所を進む。街道から外れた山だけあって、多くが未開だ。道らしい道もなく、見つけたと思ったらどうにも獣道である。そんな道だって長くは続かず、何時の間にか途切れていた。
そろそろ戻ろうかと考えたところで、漸くジンはあることに気が付いた。
「しまった。帰り道がわからない。迷ったか?」
愚痴を言いながら歩いていたせいで、注意力が散漫になっていたらしい。帰り道を憶えておらず、方角も確認していなかった。急いで荷物から方位磁石を取り出すものの、そもそもどちらが帰りの方角だったか。
「お、落ち着け。落ち着け。慌てるなよ、俺。そうだよ方角はわかるんだ。まっすぐ進めばなんとかなるさ……いや、山なんだから崖や谷とかあるよな? そこにぶつかったらどうするんだ? 山で遭難した時は確か……とりあえず降りれば良いんだっけか?」
自分に落ち着けと言い聞かせているのに、まったく心中が落ち着かない。なんて奴だろう、情けなさに涙が出そうだ。
「あああああ……くそ、ちくしょう。どうする? 獣に襲われても、鎧姿になりゃあ問題無いよな? 食料は持って来てたっけか? 1日分くらいは一応あったと―――な、なんだ!?」
近くの草むらが動いた。気のせいではないだろう。何かがそこにいるのだ。身構えるジンは、草むらの向こうに動く影を見た。
「………なんで、あなたがこんな場所にいるの?」
「それはこっちの台詞だ」
影は人影だった。しかも知っている顔だ。前はじめじめとして薄暗い場所で出会ったが、今回も似たような場所である。もしかしたらそういう場所が好きなのかもしれない。特異な趣向だ。
「何か、失礼なことを考えてない………?」
「気のせいだろう」
「……そうかしら?」
首を傾げる赤毛。登山用のリュックに靴。手足が擦りきれぬ様に厚手の服を着込んだ女。以前は軽量の革鎧を装備していたが、今の服装で同じ物は、腰に付けた剣一本のみだろう。
特事のティラ・フィスカルト。ジンと同じく奇跡所有者の女が何故かそこにいた。
「って、そうか。お前も山の調査に駆り出されたってわけだな。カルシナ教の方はどうした? 大空洞を見つけて終わりか? 左遷でもされたか」
「………ハイジャング地下の大空洞を報告したら、そのままこっちに回されたの。別に……左遷されたわけではない……はず」
口籠るところを見るに、本人も可能性を疑っていたらしい。
「特事が山の調査に乗り出したのは結構前だろ? 調べられるもんはだいたい調べ尽くした頃だと思うけどな。今さらこっちに回されたってことは―――」
「言わないで………」
露骨に肩を落とすティラ。少々だが不憫に思わなくも無い。それに現状を思えば、ここで人と出会えたことは幸運だろう。
「ところで、山の探索をしてたってことは、今、どこにいるかくらいはわかっているんだよな?」
「………そうだけど。どうしてそんなことを聞くの?」
「ああ、いや、お互いの持ってる情報を交換するのも悪く無いと言うか、なんなら出会えたことを記念して少し戻って休んでみると言うのも有りなんじゃあないかなとか」
「………迷ったの?」
「はあ!? なんでそういう結論に辿り着くだ! おいおい天然もいい加減にしてくれよ! そんなことがあるわけないだろう?」
「そう……じゃあ私は先に進む用があるから………」
そのままジンの横を通り過ぎようとするティラ。慌ててジンはその肩を掴む。
「まあまあまあまあ。待てって。頼む。本当に頼む。こんなところで置いて行かないでくれ」
「………帰りたいのなら、私が来た方向にまっすぐ進めば良い。簡易山道があるから……」
蔑む様な目線をこちらに向けながら、一応は帰り道を教えてくれるティラ。そこでジンは、ティラの目線の奥からまた違った感情が存在する事に気が付いた。
(少し焦ってる? 帰り道は違う方向ってことは、何か別の目的地があるってことか)
ではそれはどこだろうか。一度気になると、確認せずにはいられない。
「ちょっとその言葉が信じられないから、お前の後をつけても良いか?」
「気味が悪いからやめて………。付いてくるなら別に構わないから………」
うんざりした様子で話すティラ。別に嫌な奴に見られようが構わない。どうせ相手はライバル組織の人間だ。
「そうと決まればさっさと行こうぜ。先導者を頼むぞ」
「偉そうに言える状況じゃあないと思うけど………」
飽きれの混じった目でこちらを睨んでくる。どんな目ででも見るが良い。恥を捨てた人間というのはその程度で落ち込まないのだ。
ティラの先導で辿り着いた場所は不自然な広場だった。木々が折れ、草が枯れて、結果的に広場になっているが、元は森の一部だったはずだ。焼けても無いのに焼野原の印象を受ける。
「なんだここ?」
「巨大ドラゴンが暴れた後……って聞いてる」
ティラは律儀に質問に答えてくれる。本質的に素直なのかもしれない。大凡、特事の様な組織に向いている性質では無いだろう。
「聞いてるのにわざわざ来たってことは、何かあると考えてるんだな?」
「………」
前に教えた通り、重要なことは話さないことにしているらしい。黙っている時点で周囲にバレバレであることには気が付いていないままだが。
「ちょっとお互いについて考えてみようぜ。俺は正直、この仕事をさっさと終わらせたい。そのためには、それなりに有益な情報をさっさと得る必要があるわけだ」
「………それはあなたの理屈であって、私の利益じゃあ無い」
「こんなところに一人で来たってことは、調査を手伝ってくれる人間がいないんだろう? 俺の事は好きに使って良いから、一時的に手を組まないか? さらに俺からの質問には、全部正確に答えなくても良い。それでもあんたの指示は聞く」
こちらからティラの下に付くとジンは提案した。ティラの様子を見て、人手が欲しそうに見えたのもあるが、彼女が相手であれば、機会を見て出し抜くことも可能ではないかと考えたのである。
「つまりは………理屈に合わない指示でも聞いてくれるということ?」
「なんでそんな命令をするのかは勿論尋ねるが、その答えに納得できなくても、言う通りにはするってことさ」
さて、ティラはどういう判断をするか。結構な見物だ。ジンだったら、さっさと帰れと返すだろう。何か自分だけで抱えている疑問があるのなら、それを自分だけで解決すれば、独自で手に入れた成果に変わる。他人にそれを分け与えるなど勿体の無いことではないか。
「………わかった。一緒にここ周辺の調査を手伝って………」
「よし来た」
ティラの性格であれば、そう答えるだろうとは思っていた。相手の提案には多少の親切心が混じっていると彼女は考えているのだ。まったくもっての甘ちゃんだ。個人的には好印象だが、同業者としては些か能力不足と言わざるを得ない。
(ま、そこらへんをしっかり管理する人間がいないんだろうな。特事のトップは、案外下の連中をほったらかしにしてるのかもしれない)
部下の能力不足を補うのは上司の勤めだろうに。ティラ自身は能力不足かもしれないが、一方で奇跡の力や彼女本人の戦闘技能はそれなりなのだし、まったく使えない人材ではないのだから。
「で、調べると言っても、具体的にはどうすれば良いんだ?」
「一通りここを見て、違和感があれば教えて欲しい………」
「ふうん。違和感ね」
詳しくは聞かずに言われた通りにする。指示には従うと言った手前、ああだこうだと言うのは好ましくない。
さっそく広場を調べ回っていると、面白いことに気が付く。ティラに言われた通り、違和感を覚えたのだ。
(なんだ? 何を変だと感じているだ、俺は)
自分自身の感情を整理する。何故この広場に違和感を覚えるか。それは前に見た時とは違うからだ。前に見たというのはどういうことか。別にこの場所に以前来たわけではない。前と言うのは、前に巨大ドラゴンに荒らされた森を見たということである。その光景とこの広場。どうにも違っている。
「残骸が残り過ぎてるよな、これ。確か巨大ドラゴンの暴れた後は、土ごと抉れて地面が露出してたんだよ。だが、ここは違う」
何か巨大なものが木々を押し潰した様な状態ではある。しかし巨大ドラゴンによるものでは無い。
(ってことは、ドラゴンとは別の何かがここにあったってことか? ドラゴンと同じくらいにデカい何かが)
広場はかなりの大きさだ。この大きさの方はどこかで見たことがある。どこだったか。
「ハイジャングの地下……あの大空洞……まさかな」
恐らくは偶然の一致だろうが、あの大空洞も確かこの広場と同じくらいだったはずだ。このことはティラに伝える必要があるだろうか。
とりあえず、彼女が言う様な違和感を覚えた以上、その報告はしておく必要があるだろう。その他の疑問は、また後で調べれば良い。
「おーい。ちょっと良いか?」
ティラがいる方へジンは向く。少し離れた場所にいるティラは、何故か広場を見ずに空を向いていた。黄昏れているのだろうか。人にだけ仕事をさせて良い身分である。
「おいおい。あんたも用があってここに来たんだから、何がしかするべきじゃあ無いのか?」
文句を言いながらティラへと近づくジン。しかしティラが視線をズラすことは無かった。その代わりのか、手を視線の先へと向け、指を差した。
「………あれ、何かわかる?」
「あれ?」
ティラは空中のある一点を見ている。ジンも同じ方向を見てみると、幾らか高い場所に、雲の塊の様な物が存在していた。雲というのはもっと高い場所に存在するものではないだろうか。手が届くほど近いわけではないが、ジン達が見ている雲はかなり近い場所で浮かんでいた。
「なんだろうな。珍しい気象現象か?」
「違うと思うけど………あ」
突然、雲が大きくなった。倍くらいの大きさになっただろうか。そこで止まれば驚く程度で済んだのだが、雲は倍の大きさからさらに倍、やはり止まらずもっと大きく、地面にまで届かんばかりになってきた。
「お、おいおい。ヤバいんじゃあないか? これ」
「ヤバいと言われても……もう遅いとしか………」
雲は広がりジン達すらも包んでいた。隣にいたはずのティラの姿ですら良く見えなくなり、霧に包まれた様に何も見えなくなっていった。
「ううーん。ここくらいで、一休みしませんか?」
同僚のジンが遠く離れた山の中でどうなっているかも知らず、カナは封蔵図書での調べものを一旦中断しないかとフレアに提案した。
ここに入ってから暫く経っており、カナは既に何冊かの本を読み終わっていた。得られた情報が有用であるかないかについては、微妙な線だと思っている。扱う魔力を効率的に運用する方法や、魔力の増幅に有効な物質などの知識は得られたが、それらの知識がカナ自身に役立つわけではないからだ。どちらかと言えば、クロガネへ新たな機構として導入できるかもしれない知識であった。実際に整備班へこれらの知識を伝えて、初めて有益かどうかがわかるわけだ。
「そうねえ。そろそろ昼食の時間だものね。学校の食堂で一休みの時間だわあ」
そう話すフレアの隣には、山と積まれた本の束が存在していた。これだけの本を既に読み終えたらしい。
「フレア先生……凄いですね」
「長く生きると、珍しいかもしれない本を読んでも、見知った内容ばかりに思えるのよ。そういった部分を飛ばして読んでいると、これだけの量になるのよねえ」
あっさりと答えるフレア。それだけ彼女は様々な知識を頭の中に抱えているのだろう。封蔵図書内部を探すより、彼女自身に助言を聞いた方が良いかもしれないと思えて来た。これから封蔵図書を離れて食事にするのなら、世間話程度に役立つ知識は無いかと聞いてみよう。
「幾つかあるけれど……あまり教えられないわあ」
フェンリス魔法学校内にある食堂で、お互い向かい合いながら食事をするカナとフレア。二人共小食な性質であり、小さな器が幾つか机に並ぶ程度の食事だ。それらをゆっくりと食べながら、話を続けている。話しながら食事をするのはマナー違反であることはわかっているのだが、この食堂で守っている人間は少ない。食事の時でも、他の魔法使いがいれば、魔法を話題として様々な話をする。そんな点も魔法使いとしての特徴の一つだったりする。
「それは明かすことが先生の不利益になるからですか?」
「その通りねえ。魔法使いって、誰も彼も自分だけの知識を持ちたがるでしょう? その自分だけの知識量こそ、魔法使いとしての価値ですもの。おいそれと渡せないわねえ」
こう帰ってくることはカナにもわかっていた。魔法使いは、得た知識を独占しようとする傾向にある。本来であれば、知識というのは共有することでさらなる利益を生むことができるのだが、そこに本人達の生活が関わって来ると事情が違ってくる。
世間的な魔法使いの価値は、どれだけ他人と違うことができるかという点にある。有効な知識を魔法として披露し、社会に貢献する。その結果、一端の生活ができるだけの報酬を貰えるのだ。
そして貰える報酬は多い方が良いと考えるのが常であり、さらに流通する金銭の量が限られている以上、お互いがそれを奪い合う形になってしまう。結果、魔法使い達は、魔法の知識に関しては、自分だけの物を必ず所有し、それを他人には絶対に明かさないという立場を取ることになった。昔から続く構造であり、直接的に魔法の発展には貢献しない性質であるため、あまり褒められた物ではないだろう。
「そうですか……じゃあ仕方ないですね。封蔵図書の方で頑張ってみます」
フレアの言葉で諦めるカナ。カナも魔法使いであるから、知識を隠したいというフレアの考えが良く理解できるのだ。カナ自身も、フレアにすら明かさない知識というものを持っている。
「………ねえ、カナさん。あなたが本気で望むなら、私の知識すべてを与えても良いのよ?」
「いきなり何を?」
フレアの言葉にカナは疑問を覚える。カナは自分の師が、見た目ほどに親切で無いのを知っていた。学校内で口にされる魔女という仇名は伊達ではないのだ。現在こそはそれなりに角が取れて丸くなっているらしいが、一昔前は他人を蹴落として自分の地位向上を貪欲に求める女だったらしく、泣きを見た者も多い。学校を追い出された人間もいるらしい。女性初の校長候補にまでなったらしいが、現校長の方が権力闘争というものについて上手だったらしく、一教師という立場で甘んじる結果となったそうだ。
何を言いたいかと言えば、こちらが知識を提供してくれと頼んで、あっさりと認める相手では無いということである。
「これでも私、自分の年齢くらい理解しているつもりよ? さらにこれから何十年なんて生き方はできないのは良くわかっているの」
「先生………」
フレアは少し気落ちした様子で話をしてくる。
「いくら自分独自の知識があったって、それを何かに残せないのなら意味が無いもの。カナさんが後継者になってくれるのなら、とても助かるから―――」
「で、こっちは何をすれば良いんですか? 先生が無償で知識をくれるなんて思ってませんよ」
「あらあら。バレちゃってたかしらあ」
雰囲気が突然変わって明るくなるフレア。
「先生が持ってる知識をいただけるなら、それはそれで嬉しいんですけど、返答は先生が私に何をさせたいかを聞いてからにしたいです」
歯に衣着せぬ物言いは、長い付き合いだからこそできることだ。多少失礼だったとしても、話を早く進めるのに越したことは無い。
「私が欲しいのは、カナさんの知識よ? あなたの活躍は少しだけどこの魔法学校にも届いているもの」
「クロガネの件ですよね? 巨大ゴーレムに関しては、部外秘なんで話せませんよ?」
「いやあねえ。前の公開演習を見ていたけど、ゴーレムの方は、特別な魔法技術なんて使っていないでしょう? 規模と労力が桁違いなだけで」
フレアがクロガネの実働公開演習を見に来ていたというのは初耳だった。演習ではそれなりの事件があったため、無事で良かったと胸を撫で下ろす。
「危なかったんじゃあないですか?」
「とてもとても危なかったわねえ。まさかあんな大きなゴーレムがもう一体現れるなんて………。けど、面白いものも見れたわ。あの巨大ゴーレムが魔法を使うところを。あれについては、私は幾らか助言できると思うの」
「じゃあ、譲ってくれる知識というのは」
「それに関する物ねえ。代わりに私が欲しいあなたの知識は、あなたの組織内部のことなの」
「組織……内部ですか?」
そちらの知識も渡せるかどうか難しい。今のカナは魔奇対の一員であって、その内部の情報を易々と外部へ漏らすというのは好ましくない。
「公開演習では、蛇みたいな形のゴーレムがあなた達のゴーレムを襲ったわね? あれを作った犯人については幾らか知っているんじゃあないかしら?」
組織内部について教えて欲しいというのは、公開演習を襲った人物について聞きたいということだろうか。
(うーん。教えても良いことなのかな? クロガネの戦力アップを望めるなら、取り引きとしては有りかもしれないけど………)
自分が独断で考えても良いことだろうか。しかしこの機会を逃せば、フレアはこの交渉を止めてしまうかもしれない。
「犯人について知りたいというのは、何かその犯人について気になることがあるんですか?」
とりあえずはフレアがどれだけのことを事前に話してくれるかを探る必要がある。
「ゴーレムを作って襲ってきたのなら、魔法使いが犯人ということでしょう? それだけのことができる魔法使いというのが、どうにも気になってしまうの」
確かに尋常の魔法使いではないだろう。カナは実際に会ったことは無いが。
(あれ、ということは、私が話せるだけ話しても、別に構わない程度の情報でしか無いってことじゃない? なら………)
とりあえずはフレアに例の老人についてのことを話してみようとカナは考えた。結果、どういう状況になるかは分からないままである。
山の霧は濃いままだ。ジンは頭まで靄が掛かった様な状況に焦りを感じ始めていた。動かないままであるというのに、方向感覚がまず無くなった。というか、今、自分は立っているのだろうか、それとも倒れているのだろうか。それがわからぬほどのホワイトアウトに、このまま気を失ってもおかしくないぞと冷や汗が流れ始めた頃、漸く霧が薄くなってきた。
「ったく。いったいなんなんだ。これ」
隣に立っていたはずのティラに尋ねる。彼女がまだそこにいるかの確認のためでもあったが、幸か不幸かまだティラはすぐ近くにいた。
「私に言われてもわからない………。この広場が、ドラゴンが荒らした場所に見えないから、どういうことなのかを調べ……に……来て………」
霧が晴れて行くに従い、ティラの言葉が止まっていく。ジンもティラと同様に驚愕していた。霧が晴れた後の光景が、今までいた山中の広場とはまったく違っていたからだ。