第一話 『目的はあるが方法がない』
ブッグパレス山。巨大ドラゴンに荒らされ、自生する植物が動き出す魔境。既にそんな印象を持たれる場所だが、少し前までは誰の目にもとまらぬ土地だった。
あそこにそういう名前の山がある。その程度の認識で、主要街道からも離れている。しかし今では、多くの人間の注目の的であった。
そんな注目する人間の中にジンもいる。漸く彼が所属する組織に、ブッグパレス山への入山許可が出たのだ。これまでは国側の規制により、特定の組織以外は入山を禁止されていた。
「でだ、こっちとしては案内してくれるのは嬉しいが、別にあんたらにそんな義務無いだろ」
魔奇対の代表としてジンはこのブッグパレス山に調査へとやってきている。そんな自分を山で出迎えた人間がいた。
目の前にいる眼鏡を掛けた男だ。年齢は自分より一回り上と言ったところだろう。見るからにお堅い性格だと言わんばかりの雰囲気を出していた。それにしても頭を坊主にしているのは何か事情でもあるのだろうか。
「特殊事案処理小隊の一隊員として、仕事を同じくするそちらとは、個人的に仲を良くしたいと思いましてね。不必要とあれば、すぐにこちらは引きますよ」
なんとも怪しい。この目の前の男は、ジンが所属する組織の魔奇対と同業である、国防騎士団の特事という組織の隊員だと話す。
ブッグパレス山の入山許可がもっとも早く出た組織が特事であり、既に幾らか期間が過ぎているので、この山についてはあらかた調べ終わった後だろう。だから後から来たジンに、調査でわかったことを教えてやろうというのはわかる話………。
(なわけないよなあ。つーか同業者に自分達が手に入れた情報を明かしてどうすんだって話だ。何かあるよな。絶対)
問題は相手の提案を受け入れるかどうかだ。ここで断って、自分だけで山を調査するのも良いが、それは中々の手間だろう。相手がどういう意図があれ、案内をしてくれるのだとしたら、とりあえずはそれに乗っておくのが正しい選択か。
(こういう時、室長とかなら相手の考えがわかっちまんだろうなあ)
一方でジンは相手の思考を完全に読むなんて器用なことはできない。単純に相手が怪しいかどうかを判別するくらいだ。
「いや、確か俺達に無い情報を、そっちが手に入れてるってことはわかってる。それについて、案内をしてくれるのなら有り難い話だ」
眼鏡の男の提案に従っておくことにする。山に来たところで、調べるアテというのが現状無いのだから、その切っ掛けを特事が与えてくれると思っておこう。
「それではこちらへ。ええっと………」
「ジンだ。姓は無い。そっちは?」
「ランデル・ヒューバと申します。これでも魔法使いでしてね」
ダブついたローブを着ているその姿から、薄々そうでないかと思っていた。これで特事の隊員に会うのは二人目だ。
(一人目が奇跡所有者で、二人目が魔法使いと……ますますうちと被るな)
やはり特事は敵だろう。仕事の奪い合いになるのは必至だ。一方で、今から喧嘩を売って力を削ぎ合うというのは断じてしてはいけない。
現在、魔奇対は、特事よりももっと厄介な敵と戦っている様な状況であり、新たに戦う相手を求めるなど愚か事だ。だから同業者だったとしても、表面上は特事と敵対しないようにしなければならない。
「何度も聞く様で悪いんだが、本当に案内をしてくれるのは親切心からなのか? 疑って悪いが、特別な意図は無い?」
「正直なところ、上からの命令なのです。本当のところは私も知りません。魔法及び奇跡対策室でしたか、その組織の人間が来たら、私達がこの山で見つけた重要物まで案内する様にと」
あっさりと親切心から来たものではないと認める。だとしたら、この目の前の人間に悪意は無いのだろうか。悪意があるとしらこの男の上司。特事の隊長か。
(ああ、くそ。こんな風に頭を悩ませる暇があったら、組織の戦力向上の方に労力を割きたいってのに)
そもそもジンがブッグパレス山に来たのは、本人の意向からで無く、彼の上司であるフライの命令からだった。
魔奇対にとってもっとも脅威である怪しい老人。その情報がこの山にあるかもしれないからとの事だったが、ジンとしては、老人に直接勝つためにも、自らの力を向上させたいと考えている。
(今頃、カナはそういう仕事をしてるんだろうなあ)
ブッグパレス山に来たのはジン一人だけだ。室長は何時も頭脳労働であるし、相棒のカナは魔法学校で自分の魔法に役立つ資料を探している頃だろう。
「くしゅ! うう……まだ暖かいのに、夏風邪かなあ」
体を手で擦りながら、カナは前を見た。ハイジャングの北区にあるフェンリス魔法学校という場所への門がそこにある。カナの出身校と言える場所だが、在校期間はそれ程長くない。というか、カナの人生自体がまだ始まったばかりである。
初めてこの学校に来たのは6年ほど前だ。漸く物心つくかどうかの年齢であり、何故かこの学校の生徒として暮らすこととなった。
どうにもこの学校で教師をしている人物の一人に、魔法の才能がありそうだと目を付けられたらしい。ここに来る前は町の孤児院で居たそうなのだが、そっちの方の記憶はまったく無かった。
「この学校に来てからは、憶えなきゃならない物ばかりだったからなあ。それより前の記憶なんて、自分で捨てちゃったのかも」
学校に入ってからは、魔法知識と並行して、子どもとしての勉強もしなければならなかった。
魔法学校と言う場所であるためか、前者の方は問題なかったが、後者の方は随分と苦労した覚えがある。
「ここの人達って、魔法の知識はあるけど、一般的な知識なんて何にも無いんだもんなあ。あ、来た来た」
昔を思い出している内に、目当ての人物がやってきた。学校内の人物であるのだが、魔法学校の門には守衛がいて、学校関係者の許可が無ければ入るのに苦労する。
カナも元は学校関係者であるのだが、今は別の組織に所属している身であって、向こうもなあなあで済ますわけにはいかないのだろう。もっとも、関係者さえいれば、あっさりと通して貰えるのだから、やはり警備は緩い。
「ああ、カナさん。久しぶりだねえ。元気だったかい?」
腰が曲がり、身長の半分くらいの高さに頭があるのでは無いかと思える老婆がやってきた。彼女はカナの恩人だ。孤児院から彼女を拾ったのは彼女であり、カナをこの年齢まで育てたのも彼女だった。
名前はフレア・マートン。カナの姓も彼女から貰った物だ。ただし養母というわけでも無いので、カナは孤児のまま魔法学校で育てられたことになっている。
「フレア先生! お久しぶりです。半年ぶりくらいですか? 相変わらず元気そうで何よりですね」
お互い笑い合う。関係性を他人に説明するなら、親子というより友人同士と言った方が良い間柄だ。拾われた当初こそ彼女に育てられたが、こう見えて家事などは一切できぬ人だった。彼女の家や研究室は、カナが来る前から雑多な印象を受けたが、カナが来てからはもっと酷くなった。それを見たカナが考えたのは、自分がしっかりしないといけないという決意にも似た感想であったのだ。
「カナさんが居なくなってから、また研究室に物が増えてねえ。困ってるわあ」
「フレア先生。物は勝手に増えたりしません。誰かが持ち込まない限りは」
会えばとりあえずは世間話だ。緊急の用と言うのは無いので、こうやって話すのも良いとカナは思う。
暫く門の前で話を続けた後、本題に入ることになった。
「そう言えば、封蔵図書の閲覧許可を貰いに来たのだったかしら? 雇われているところのお仕事関係かしら?」
「はい。何か特定の資料を調べたいと言うわけでは無いんですけど、とにかく知識がいるというか」
フェンリス魔法学校には封蔵図書と呼ばれる蔵書群が存在している。学校が独自で集め、さらに独占しておきたいと考える知識が書かれた本の事だ。
図書館の様に陳列された部屋を差す言葉でもあり、そこに入るにはそれ相応の許可がいる。ただ、許可それ自体については、この国の女王であるミラナ・アイルーツの推薦状があるため、すぐに貰えるだろう。
「大変ねえ。でも羨ましくもあるわ。だって、校長がもう既に許可を出しているんですもの。私だって、数える程しか中に入ったことは無いのよ?」
「またまた。封蔵図書内に外部の人間が入る場合は、学校内の人間が付き添わなきゃならないって決まりは知ってますよ。今回は先生がそうらしいですね」
自分の教え子を利用して、自分も封蔵図書内に入ろうという魂胆なのだ。年老いているが、彼女もしっかり魔法使いだ。ちなみにカナが在籍した頃の仇名はそれそのままに魔女である。今でもきっとそう呼ばれているだろう。
「うふふ。だって、ねえ? あそこには、本当に面白い資料が沢山あるのよ? カナさんは入るのは初めて?」
「はい。だからちょっとわくわくしてます」
魔法使いとは魔法を使えるというだけでなく、魔法に関する知識を得たいと考える人種の事を言う。そうして、カナもフレアも、共に魔法使いなのだ。
「なら、さっそく行きましょう? 校長から、許可状を貰わなくちゃ」
フレアはよろよろとした動きであるのだが、何故か歩く早さはそれなりにある。体は老人でも、心はまだまだ若いのだろう。
守衛に辞儀をしてから門を潜る。その先には、広々とした庭園とその先にあるレンガ造りの建物があった。
赤いレンガと白い石で造られたこの校舎こそ、カナが育ち、学んだ変わらぬフェンリス魔法学校の姿だった。
校長から許可をすぐに貰ったカナ達は、封蔵図書内部へと入った。あまり人が入らぬ場所であるため、酷く埃っぽい。部屋はちょっとした広さがあるのであるが、本棚がびっしりと並んでいるため、狭く感じる。
そんな狭い部屋だと言うのに、本棚が並んでいない部分がある。空間の無駄であるのだが、そこにある物を見ればどうしてだかがわかる。そこには本棚の代わりに、部屋の壁とフェンリス魔法学校の歴代校長の似顔絵が並んでいた。
「へえ。こんなものがあるんですね」
初めて入る封蔵図書に興味津々のカナ。本ばかりの場所というのは想像していたが、絵が飾られているというのは意外だった。
「ある意味では、ここがこの学校の中心みたいな物だものねえ。魔法学校なんて、学舎も教師も付け足しで、こういう知識の倉庫こそが本質なのだと思うわあ」
「だったら、魔法学校じゃあなく、魔法図書館を作った方が良いんですかね?」
「かもしれないわねえ。けど、業界の人間を増やすのも大切なことだから」
フレアの言葉は愚痴の様にも聞こえる。年齢を重ねた以上、色々と魔法関係で苦労もしてきた故の言葉なのかもしれない。
まあ、そう言いつつも部屋内の本を物色し続けている姿は、実に逞しい。
「カナさんは何について調べるか決めないで来たのよねえ? なら、早く色々と探した方が良いわよ? 別に制限時間があるわけじゃあないけれど、あまり長居できる場所じゃあないのだし」
フレアの手には、もう既に何冊かの本が握られている。非常に手が早い。普段は中々入ることができない場所だ。この機会に調べられる物は調べ尽くすつもりなのだろうか。
「長居できないって……どうしてですか?」
「居心地が悪いのよねえ。埃っぽいし、部屋のどこからでも、歴代校長が睨んで来るでしょう?」
「う……確かに」
歴代校長の似顔絵は部屋の中心に存在し、こういう絵にありがちな事で、どの位置からでも目が合ってしまう。
「なんなら、どこに何があるか教えてあげましょうか? 私も自信があるわけでもないけれど」
「あ、頼めますか? 実は何のアテも無いってことでもなくて…………」
カナはフレアと一緒に、必要な資料を封蔵図書で探し始める。フレアの言う通り、居心地の悪い部屋ではあるのだが、こうやっていると、教師と生徒と言う関係に戻った気がして、何故だか楽しかった。
場面は再びブッグパレス山へと戻る。特事のランデルという眼鏡男に連れられて山を登ったジンは、その中腹にある平野部へと辿り着く。どうやら、ここがランデルの案内したかった場所らしい。
というのも、そこだけは何故か木々が切り開かれ、自然状態に似つかわしくない小屋が存在していたからだ。
「あんた達が建てた……ってわけでも無さそうだな」
「ええ。私達がここに来た時、既にこの小屋は存在していました。勿論、この山に人が住んでいた記録はありませんし、近くの猟師が建てたわけでもない」
では誰だろうか。決まっている。頭の中に染みついた様に思い出せる、魔奇対の敵であるところの老人。その男がここに住んでいたのだろう。
そうしてここで、巨大ドラゴンや動く森を作り出したのかもしれない。確証は無いが。
「あんた達は、この小屋はどういう意味を持つんだと思ってる?」
特事は例の老人について知っているのだろうか。知らないのであれば、どういう理由でこの小屋に興味を持ったのか聞きたいところだ。
「そうですね。まず、あれを見てください」
ランデルが小屋の玄関のさらに上を指差す。そこには紋章の様な刻みが存在していた。どことなく、船の様な形をしている。
「あれは……なんだ?」
「カルシナ教はご存知で?」
「あ、ああ」
いきなりその単語が飛び出してくるとは思っていなかった。一方で、この山を調べた結果、特事はカルシナ教について調べ始めたらしいので、驚くべきことでは無いだろうと思い直す。
「あれはカルシナ教を象徴する紋章です。ですから、この小屋はカルシナ教徒が建てた物だと推測されます」
「ちょっと待て、カルシナ教は百年近く前に弾圧されて無くなったはずだろ。この小屋はそんなに古くは見えないぞ?」
「全員が全員捕まったわけでは無いでしょう? 弾圧から逃れ、どこかの土地でその教えを自身の子や孫に伝えている可能性もあります」
「それもそうか」
事実、カルシナ教自体は弾圧されているが、信者の半数は捕まらなかったという記録が存在している。そうして、つい最近、信者達の逃げ道をジン自身が発見していた。
「ここは、そんなカルシナ教徒が作った礼拝堂と言えば良いのか……そんなものでしょうね」
信仰とは何か象徴を用意しなければ意地できぬものだろう。いるかどうかも分からない神様を信じ続けるというのは、かなり難しい。
「国から弾圧された宗教を、表立て信仰するのは難しいから、こういう山奥に礼拝堂を建てたってことか?」
「私達はそう考えています。中に入って見て下さい」
ランデルは小屋の扉を開ける。ただし本人は入らないままだ。ジンが先に入れということだろう。
小屋の足を踏み入れると、特事がこの小屋を礼拝堂であろうと予想した理由が良くわかった。
扉を開けてから見える、小屋の一番奥にあたる場所には、船の絵が描かれたタペストリーが飾られており、部屋中の固定椅子がそのタペストリーを向いている。
窓の加減から、日の光が絵を照らす形に工夫されているため、それなりの技術を使って作られた事がわかる。
「あの絵もカルシナ教の象徴なんだよな? カルシナ教ってのは船を神様として見てたのか?
「いえ、船の中に神様がいると考えていたようですね。神の姿を描くことは禁止されていたというか、そもそも姿自体があやふやだったとか」
「ふうん」
話しながら、二人共に小屋へと入った。小屋はただひたすらに船の絵を崇めるために用意された物に見えた。こんな内装の小屋と言えば、礼拝堂としか思えないだろう。
「他に変わった物は見つかったのか?」
小屋の中を探りつつ、ジンはランデルに尋ねる。小屋の汚れから見て、最近になって使われた形跡がある。一方で飾られた絵は汚れたままなので、カルシナ教徒がそのまま使っていたというわけでも無さそうだ。神様を崇めているのなら、神様のモチーフを雑に扱うということも無いだろう。
(ということは、あの爺さんがここに潜伏していたとして、別にカルシナ教徒ってわけでも無いのか)
どういうことなのだろうか。今までは老人がカルシナ本人か、カルシナ教の関係者だと考えていたが。
「変わった物と言えば、そちらの机を見て頂けませんか?」
促されて小屋の隅に配置された机を見る。机は小屋の内装から少し外れた様な印象を受ける。妙に大きくて実用的な形の物だった。
「ビーカーにフラスコ……こりゃ魔法書か? なんだこれ」
机の上には種々様々な道具が雑多に置かれていた。それを手に取って確かめようとするジンを、ランデルが止める。
「気を付けてください。恐らくは何らかの実験器具かと思われます。迂闊に触れば何が起こるか………」
言われて手を引っ込める。この山で行われた実験となれば、それはドラゴンの巨大化だったり、植物を動かしたりする様な物だろうから。
「こっわいなあ。そのままにしておくなよ」
「一応はその状態そのものが貴重な情報源ですので」
小屋に怪しげな実験をしている人物がいた。そしてカルシナ教が関わっているかもしれないというのが、特事側の考えだろう。
(と言っても、それは俺達にそう思わせるためのブラフかもしれないけどな)
相手の話すことをすべて真に受けてはいけない。こちらが特事を警戒している様に、あいても魔奇対を警戒している可能性が高いのだから。
「カルシナ教を追ってるんだったな? それは小屋があったからか?」
「ええ。まあ……それもあります」
歯に物が詰まった様な言い方だ。詳しく聞けということだろう。
「他にもカルシナ教の痕跡がこの山に?」
「実を言えば、痕跡どころかそれのものが見つかったのですよ」
「なんだよ、それそのものって」
「カルシナの日記です」
驚くジン。確かに宗教の教祖が残した日記が見つかれば、この山がカルシナ教と大きく関係していると思うだろう。その内容にもよるが。
「その日記はもうあんた達の手の中ってことかい?」
「なんなら見てみますか? 面白いことが書かれていますよ」
なんとランデルは自分の懐から一冊の本を取り出した。
「あんたが持っていたのか!?」
重要な証拠は自分達の組織だけで管理しておくものだと思っていたジンは、その行動に驚き、怪しむ。
(なーんか都合が良すぎるな。情報も途絶え無く入って来るし。もしかして誘導されてる?)
もし相手がこちらに特定の意図を持った情報を伝えようとしているのなら、十分に注意しなければならない。気が付かぬ内に、相手が望むように動かされる可能性がある。
「その日記。内容を確認しても?」
「ええ良いですよ」
ランデルはあっさりと渡してくる。この行動を見れば、ますます疑念が湧いてしまう。一応、中身を確認するも、すぐに閉じた。
「これが本当にカルシナの日記とでも思ってるのか?」
内容をよく読んだわけではない。ただ、日記の紙質が新しく、神への礼賛言葉ばかりが並んでいるのを見れば、読む必要が無いのはすぐにわかった。要するに偽書だ。
「偽物でしょうな。それは間違いない。問題はどうしてそんなものがここにあるかということでして」
「そう来るか」
「はい?」
眼鏡を光らせて話すランデルを見て、いろいろと考えているものだと感心するジン。一目でわかる嘘の情報を提示して、その嘘についてこちらが言及すると、待ってましたとばかりに次の話に移る。つい、その話を信じてしまいそうになる。
「特事側の考えでは、調査にやってきた相手に、カルシナという大人物に目線を向けさせることで、目暗ましをしようとしたのではないかと」
「小屋はカルシナ教の物で、中にはカルシナの日記があった。ならば最近起こっている騒動はカルシナ自身が起こしているかもってな推測が成り立つわけだ」
「しかし事実は違うところにあるのでしょう。怪しいのはカルシナ本人では無く、その周囲の人物。または子孫。カルシナ本人に囚われるのではなく、もっと大局的にカルシナ教を調べねばならないと考えています」
一応の筋は通っている。特事がカルシナ教そのものを調べていることの理由にも繋がるだろう。だが、それでもジンは信じ切れずにいた。
「何から何まで教えられるのもなんだ。あんた方の言葉を疑うわけじゃあ無いんだが、こっちで勝手に調べてみても良いか?」
「………まあ、こちらとしては別に構わないとしか。魔奇対の調査許可は国から下りたものですからね」
不満気な顔でもしてくれたのなら、こっちも分かり易かったのだが、ランデルは無表情のままだ。彼から情報を引き出すのはジンには難しそうなので、別の事柄から有益な物を探すことにした。