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黒金  作者: きーち
第四章 クロガネ公開。忍び寄る悪意
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第五話 『女王も笑う』

 このクロガネは親から自分に受け継がれた希望が込められている。これからクロガネに1号装備を取り付け、それを動かすべく準備をしていた頃だろうか。クロガネを見上げるミラナ女王は、そんな言葉をカナに投げ掛けて来た。

「親って……前王のことですか?」

「そう。早死にしたせいで、いらぬ混乱を呼び込んで、娘にまで迷惑を掛けた大変な父親」

 前王はカナが生まれるよりも前に死んでいる。だから当時どの様なことが起こったのかをカナは実感していないものの、知識としては知っている。

 明確な後継者を残さずにこの世を去ったアイルーツ国前王のハーカート・アイルーツは、革新的な思考を持つ王だったらしい。

 国家の制度を改革し、新たな事業を推し進める。内容は良かれ悪かれだったろうが、その中には巨大ゴーレム“クロガネ”の建造計画も含まれていた。

 そうして王が新しいことを始めた後に、それらに決着を付けず早世すれば、次の世代はかならず混乱する。こういう点を見れば、ハーカート前王は無責任な人間だったと言える。しかし、寿命などと言うのは本人にわからぬものだ。

 その後の混乱に対してもっとも迷惑を被ったのは、他ならぬミラナ女王だった。迷惑などという言葉で表現することすら生ぬるい。ハーカート前王唯一の子どもというだけで後継者第一候補として担ぎ上げられ、女性だということで別の後継者候補にその座を狙われる。命の危険だってあったはずだ。

 そんな彼女が、クロガネに対して父親から受け継いだ希望だと口にするのは、なんだか不思議に思えた。

「そもそもクロガネは大規模化する奇跡に対抗するために作られたんですよね? つまりはハーカート前王が奇跡に危機感を抱いたから作られることになった………」

 現状を考えれば、その考えは正しかったのだろう。巨大ドラゴンに動く森と、クロガネが存在しなければ、アイルーツ国は今よりもっと大きな害を被っていたに違いない。

「そうなのよねえ。今から思えば、お父様の行動すべてが今起こっている奇跡に対抗するための物だった………なあんて言えれば良いのだけれど、多分、偶然よ偶然。子どもの頃の記憶だからちゃんとした物かどうかは怪しいけれど、気まぐれな人だったことを覚えているもの」

「つまりクロガネが作られたのも単なる気まぐれということですか?」

 あまり認めたく無い話だ。これでもカナはクロガネに対してそれなりに愛着を持ち始めた頃なのだから。

「その可能性は高いわね。けれど、今は役に立ってくれている。なら、やっぱりお父様のおかげで国が守られているということ。それを誇らしく思うわたくしって変かしら」

「まあ………十二分に」

 ミラナ女王が変なのは前から知っている。以前にクロガネに込められた思いを教えるという約束を急に思い出して、こうやって突然に話し始めたのも変な様子だ。

「そうね。変よね。けど、やっぱりクロガネが好きって言う気持ちは変えられないわ」

 父親が作り始めて、娘が完成させた。国家規模の計画という点さえ抜けば、そこに親子の情愛という物が宿っているかの様に思える。ミラナ女王にとってのクロガネはそういう存在なのだろうか。

「なら、私はできるだけクロガネを格好よく見せてみせますよ。好きな物は、他人から良く見られたい物ですからね」

 なんとなくだがミラナ女王の本音を聞けた気がするカナ。だからかどうかはしらないが、彼女の期待に答えたくなった。

「まあ! 頼もしいことを言ってくれるわね。やっぱり良い娘!」

「ちょ、や、止めてくださいよ!」

 いきなりミラナ女王に抱きつかれてカナは混乱する。破天荒な性格で、尚且つ行動的なのが彼女だった。

「おーい、お嬢ちゃん。いちゃつくのは構わないが、そろそろクロガネに乗ってくれないか」

 何時の間にか近くにワーグがやってきていた。

「それはミラナ様に言ってくださいよー!」

 必死にミラナ女王の手から逃れようとするカナだったが、彼女が飽きるまで離れることができずにいるのだった。




 たった一回きりのクロガネ1号装備の実働練習は、思ったよりも問題無く終了する。抑止弁を外した右腕の動きが鈍いのは想定済みだったので問題にはならない。心配ごとは1号装備の脆弱性と抑止弁を外した際に手に持った剣がちゃんと光るかについてだった。

 前者に関しては事前にクロガネについて学んだことが生きたのか、練習段階では装備を壊さずに済む。ただし背中に装着したマントが非常に邪魔であった。

 次に剣が光るかどうかだが、実際に光るのはクロガネの右腕でそこからの光が剣を照らすという形になる。そのため、いかに剣を照らすかが重要であった。格好の良い角度と言う物があり、剣を上手く照らすにはそこを考えねばならぬだろう。ちょっとした課題だ。

「課題と言っても、公開演習まであと二日。上手い方法を思い付くのは難しいかも………」

 テント内部でクロガネの全身を見られる場所に立ち、クロガネをどうしたら格好よく見せられるかをカナは考えていた。カナ以外にも整備班の人間が同様の事を考えているが、彼らも専門外のことなので難しいらしい。

「ううーん。無事に動かせただけで満足するべきなんだろうけど、できる事ができるのなら、次はできないことに挑みたくなるというか」

 意地でも決めポーズを考えてみたくなったカナだが、その意気込みから良い案が浮かんでくるわけでも無かった。

「そうだ。どうせなら室長やジン先輩にでも聞いてみたら―――あ、噂をすれば」

 自分とは違う発想を持つ二人に頭を借りようと思った矢先、テント内部にフライ室長とジンが入って来た。ジンを見るのは久しぶりであり、何かあったであろうことはその姿を見ただけでわかる。

「あのう! クロガネに何か用ですか!」

 カナはやってきた二人に走り寄る。近づくにつれ、二人共が複雑な表情をしていることに気が付く。

「何か……あったんですね?」

 ジンがこの場にいるということは、もしかしたら奇跡に関わる事かもしれない。

「その通りだ、マートン君。かなり差し迫った状況になった」

 そう言われても、いったいどういう事なのかがわからない。詳しく内容を話して貰わなければ。

「わざわざテントまで来て話さなければいけないことなんですか?」

「というか、思いっきりクロガネの関わって来るんだよ。具体的には二日後の公開演習の件だ」

 どうやら説明はジンがしてくれるらしい。クロガネが関わっているということで途端に聞きたく無くなったのだが。

「公開演習で何かあるんですか?」

「そういう予定というか、予告を受けたんだよ。とりあえず、こっちで起こったことを話すから、良く聞いてくれ」

 その後、カナはジンの口から非常に厄介な状況になっていることを知ることになった。




「なんというか、そのまま襲撃予告じゃないですか。しかも大量殺人の後で。良く自由に動けますねジン先輩。犯人じゃないかって疑われる状況ですよ」

 竜骨の闇市を襲った老人を取り逃がし、その屋敷に一人立っていたのだ。しかも老人を見た人間はジン一人しかいない。

「俺を闇市に案内した奴がまだ居たんで、屋敷に来た時はみんな死んでたと無理矢理証言させた。いちいち騎士団や自警団に捕まって、あれこれ話す時間がもったいないっての」

 確かに事がクロガネの公開演習で起こるとしたら、他のことに時間を潰すのは得策では無いだろう。どうにか早く対策を考える必要がある。

「でもどうするんですか? そのお爺さん。ジン先輩が手も足も出なかったんですよね? 簡単に止められる人間じゃあ無さそうなんですけど」

「いや、手も足も出なかったってことは………」

「違うんですか? その老人に何か痛手でも負わせたと?」

「ああ、そうだよ。何もできなかったよ。だから今度はどうにかしたいと思ってんだろうが」

 さてそれである。老人は公開演習で面白い催しをすると言ってたらしいが、具体的には何をしてくるのか。

「ジンの話を聞いている限り、その老人は愉快犯と計画犯を混ぜた様な性格をしていそうに思える。綿密な計画がありながら、ところどころに不必要な飾りを付けたがると表現すれば良いのか。こういうやからにもっとも効果があるのは、計画そのものを台無しにしてやることだが」

 フライ室長が老人の分析をしている。と言っても分析するべき情報が少ないので十分にできるかどうかは疑わしい。

「計画を台無しにって、そもそもあの爺さんが何を企んでいるかがわらないんだが」

「だが公開演習で何かをしようとしているのは確実なのだろう? ならそれ自体を潰してしまえば良い」

「ちょ、ちょっと待ってください! 公開演習を中止するってことですか!? それは駄目ですよ!」

 話の結論がカナの望まぬ方向へ進みそうになったので止めに入る。これまで訓練を続けていたのだ、いきなり演習を中止になどされたくない。

「だが、老人に対しては一番それが効果的に―――」

「あら、室長ったら。駄目よそんな事。カナちゃんの言う通り、公開演習を中止になんてとんでも無いわ」

 突然現れたのはミラナ女王だ。話に入るタイミングからして、こちらの会話を盗み聞きしていたに違いない。自分が目立つ最高の瞬間を狙っていたのだろう。彼女はそういう人物だ。

「じょ、女王陛下。しかしですね、我々の話す老人なのですが、ここだけの話、かなりの危険人物かと」

 現状、謎の老人を追っているのは魔奇対くらいだろう。結果、闇市での大量殺人や、奇跡に関わる事件への関与が発覚したが、それを知るのも魔奇対だけだ。というか、カナでさえ先程までその話を知らなかった。

「今さらそんなこと言われても困るわ。クロガネの公開演習を国民に周知してしまったもの。それを怪しい人間が襲撃するかもしれないから中止しようなんて、国家の威信に傷がついちゃう」

 女王は我が侭を言っている風に見えるものの、その実、正しい発言をしていた。国が一度決めたことを、外部からの危険があるからと中止すれば、襲撃者側が調子に乗る。ちょっとした暴力で国の決定を覆すことができるのなら、誰が国の統治下に入るというのか。

「個人的な我侭で言ってるんじゃあ無いのよ。もう公表してしまった以上、国の決定はそう簡単には覆せない。わたくしにもね」

 だからクロガネの公開演習は続行だとミラナ女王は答えた。

「しかし、そうなるとクロガネの公開演習そのものが新たな事件と成り得るのでは?」

 フライ室長は、既に老人が公開演習を狙って何かをしてくると考えているらしい。彼はその老人に会ってはいないはずだが、危険人物だと確信しているのだろうか。

「クロガネを襲うのなら襲って貰えれば良いのよ。それを撃退できれば、それこそクロガネの力を証明できるわ」

「しかし敗北する可能性だってあるでしょうに」

「いや、室長。俺も女王様の意見に賛成だ」

 ミラナ女王と意見が対立するフライ室長だが、ジンの方はそうでも無いらしい。

「おい、ジン。お前までそんなことを………」

「あの爺さんは取り逃がしたままなんだぞ? このまま何も起こさず雲隠れでもされたら、もう一度見つけ出すのは骨だろうよ。というか、あの爺さんが噂の老人だとして、本気を出したらまた何十年も見つけられなくなる」

 ジンの考え方は、あくまで謎の老人を捕えることに偏っているらしい。これは女王の意見に賛同したというより、自分のやりたい事とミラナ女王の方針が偶然一致したが故の賛成だろう。

「クロガネを餌に老人を誘き出すということか。いや、それは………」

 フライ室長はクロガネの安否と老人の身柄を天秤に掛けているのだろう。ただ、女王が既に公開演習を行うと言っている以上、考えても無駄に思うのだが。

「私も公開演習には賛成ですよ。その老人の狂言と、今まで色々と浪費してせっかく準備してきたイベントのどっちを取るかなら、絶対に後者ですから。それに、問題が起こることが前から知ることができている以上、咄嗟の対応もできると思います」

 これでこの場にいる4人中、3人が公開演習に賛成の立場を取る。別に多数決で決めるという物では無いだろうが、それでも雰囲気は公開演習の実行へと傾いている。

「起こる問題とやらがどういうものなのか………それさえわかれば私もそう言えるが」

 それでもフライ室長は食い下がる。室長が意固地になっているとは思わない。恐らくは彼なりの論理で動いているのだろうから。

「なんだかその老人のことを、室長が随分と恐れている気がします。別に直接会ったことは無いんですよね?」

「それはその通りだ。だが、ジンの報告を聞く限り、老人の性格や存在は極めて危険だと言わざるを得ない。これでも奇跡への対策を続ける組織の長として、奇跡が関わる過去の事件を幾らか知っているつもりだが、国そのものに害を与える奇跡というのは、話しに聞く老人の様な性格の人間が関わっている物であるらしい。明確な目的意識と趣味人的な感性を持つ人間。そこに奇跡という力が加わった時、個人が国家という集団を揺るがすのだよ」

 一筋縄で行かぬ相手かもしれないと、室長は強く考えているのだろう。

「だったら、尚更にクロガネを動かす必要があると思います」

 室長の言を受けて、カナは結論を出す。老人を恐れてクロガネを動かさないなど、愚かな行為に他ならない。

「クロガネは大規模化する奇跡に対抗するために作られたんです。その怪しい老人はこれまで国を襲った奇跡に関わってるんでしょう? なら、むしろクロガネを動かさなければならない状況になったってことじゃないですか」

 ここでクロガネが動かなければ、クロガネという存在が無意味な物となってしまう。傷つくことを恐れて奇跡に対抗などできないのだから。

「やはりそうなるか………しかし、実際に動かすとなれば、何も対処しないわけには行くまい」

 カナの言葉でフライ室長は納得してくれた様だが、それでも用心深く行きたいと考えているらしい。

「準備期間中なら、俺がクロガネの警護をしても良いですよ。どうせ襲撃予告は受けてるんだ。警備の増員はどちらにせよ、することになりますし」

 ジンが話す。ちなみに公演本番は警護では無く、こちらから捕まえに向かうとのこと。この人も大概に行動的な人だ。

「そうだな。一応はそうしてくれ」

「一応?」

 カナはフライの言葉に疑問を覚える。老人の襲撃はほぼ決まった事として話が進んでいるのに、一応も何も無いだろうに。

「恐らく老人が何かをしでかすのは当日になるだろう。クロガネが目当てというより、クロガネが行う公開演習が目当てということだからな。ということは当日以外の警護はあまり意味の無いかもしれない」

「もしかしたら前日に何がしか仕込んでくる可能性もあるけれど」

 警護の意味が無いとのフライ室長の言葉であるが、ミラナ女王はだからクロガネを守らないという結論には異議がある様だ。

「ですからジンには彼の申し出通り、前日までクロガネの警護をして貰います。ただ、国防騎士団の手を借りるのは公演当日に限りたいのですが………」

 国防騎士団は『特事』の存在もあるため、目下のところはやや敵対という状況だろう。そんな状況で室長は国防騎士団の手を借りたくは無いのかもしれない。

「当日なら、公演自体は国の行事だから国防騎士団を動かすことに違和感は無いわね。わたくしも魔奇対側に肩入れしたい気持ちもあるし、その発言を受け入れたいけれど………」

 ミラナ女王はジンを見る。きっと彼一人では警護として不安を感じているのかもしれない。

「なんでしょうかその目は。言っときますが、今度は不覚を取らないつもりですよ」

 そうは言ってもジンは一度老人を取り逃がしているのだ。甚だ心許ない。

「まあ、公演当日以外は襲われる可能性が低いのなら、それでも構わないわ。室長。あなたの考え通りに行きましょう」

「本当に私の考え通りにしていただけるのなら、公演を中止して貰いたいのですがね」

 公演当日までの取り決めを考えてから、カナ達はそれぞれの役目に移ることにした。カナは不測の事態に陥ったとしても、クロガネを万全に動かせる様に訓練しなければならないし、ジンはクロガネの警備。フライ室長は老人が次にどんな手を打ってくるかを予測しようとするのだろう。警備班の人間は何時でも完璧だ。

 唯一カナが違和感を覚えたのはミラナ女王に対してだ。彼女は話が決まると、そそくさとテントを去ってしまった。

 国防騎士団への通達であったり、公演の際の根回しに向かうのかとも思えたが、あれほどクロガネに執着していた手前、すぐにテントから出るというのは少し不思議に思える。

「何か急ぎの用があるのかな? その割には私達と話す時間が会った様だけど」

 深く考えても仕方ないことなのかもしれない。カナはとりあえず女王については思考の範囲から外し、クロガネの搭乗訓練を再び行うことにした。




 テントを出て、周囲に人気が無くなったことをミラナは確認する。一国の女王が護衛も付けずに歩くというのは問題のある行為なのは本人にもわかっているのだが、クロガネ整備テントに来る際は、できればプライベートで訪れたいというのがあり、今は一人となっている。

「早く町に戻った方が良いのだけれど………それにしても……ふふ」

 一人になった途端に笑いが堪えきれなくなった。本来であればテントで付き添いの人間を見つけて、町まで護衛とは行かないまでも案内させるのだが、今はこの笑みを誰からも隠したかったのだ。

「誰も彼もがクロガネに夢中。こんなに嬉しいことは無いわ!」

 彼女の喜びは、皆がクロガネを中心に動いているというその一点にあった。クロガネを管理する魔奇対の人員は勿論、公開演習となれば一般庶民も目を離せぬ存在となるだろう。国防騎士団だって巻き込むことになった。

 そして何より、奇跡にて犯罪や問題を起こす様な人間までクロガネに興味を持ったのだ。喜びもする。

「ふふふ。あとはクロガネが相手の企みごとコテンパンに潰してくれれば一番良いのだけれど」

 やはりクロガネは格好良くあらなければならない。父が計画し、自分が完成させた物なのだから、その存在は誰しもが認める物でなければ。

 ミラナにとってクロガネは自分の価値と父親の価値を合わせた物だ。もしかしたら自分が認められるより、クロガネが褒められた方が喜ばしいかもしれない。それ程までにクロガネに入れ込んでいる。

 でなければ、莫大な予算を傾けて誰もが馬鹿らしいと思う物を本気で作るものか。

「あはは! 丁度良く、大規模な奇跡が起こったおかげで、皆に自然とその存在を受け入れられたけど、まだまだクロガネには目立って貰うわよ!」

 傍から見れば狂っている様にすら思えるだろう。実際、もし入れ込む対象が人間で、しかも男であれば色狂いなどと蔑まれたに違いない。

「ああ………それにしても、少し都合が良すぎかもしれないわね。ドラゴンの襲撃や森の侵攻は、クロガネが完成したのを見計らって起こった様な気もするし………」

 ミラナが懸念するのはその点だ。正直に言えば、クロガネの存在は庶民や貴族連中からの不満や罵詈雑言によって迎えられると思っていた。ひたすらに巨大なゴーレムを、いつ起こるかわからない奇跡の対策に使うというのだからそうもなる。作る際の労力や資金は、国の財源から持ち出された物なのだから。管理組織となる魔奇対は、そういう不満をミラナに直接向けられぬように作った組織でもあるのだ。

 しかし、実際は巨大ドラゴンを撃退し、その後もそれなりに活躍するという状況で、むしろ先見の明によって生み出されたゴーレムとすら見られている。これはミラナにとって好都合であるのだが、都合が良すぎる様にも思える。

「というよりクロガネそのものにとって都合が良いと見るべきかしら。まるで誰か別の人間が、わたくしと同じくクロガネに入れ込んでいるみたいな………」

 そうであれば、はっきりと言って不快だ。クロガネは自分の物であってその誰かの物では無い。クロガネを際立たせる役目はミラナにのみ存在するはずだ。

「もし公開演習を行い、予想通り問題が起こるのなら、注意してみる必要があるわね」

 そしてその注意は、公開演習の失敗より成功した場合に向けるべきだろう。もし何者かがこれまで通りにクロガネを扱うのなら、クロガネにとって都合が良い様に、公開演習は成功の元に終わらせるだろうから。




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