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黒金  作者: きーち
第四章 クロガネ公開。忍び寄る悪意
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第二話 『ジンは調査中』

 カナがクロガネの公開演習に向けて訓練を続けている頃。彼女の先輩であるジンは、地下深くの大空洞までやってきていた。

 ハイジャング西区の下水道奥にあるその大空洞であるが、以前来た時よりも人が多く存在している。その殆どが国防騎士団員、それもそれなりに地位と年齢が高い人間達であった。

 そんな騎士団員の一人に、ジンは必死になって交渉をしていた。

「だからな、これでも俺は国家機関所属の人間なんだよ。魔法及び奇跡対策室って名前を調べてくれればわかる。こういう場所が発見された時、まっさきに調べるのが俺達の仕事なんだ」

「そう言われてもねえ」

 話し掛ける騎士団員は、大空洞の入口付近で見張りの役目を担っている人間だ。現在大空洞は、その重大性から国防騎士団上層部の管轄となっており、立ち入る人間を精査している段階だ。町の外と内とを繋ぐ隠し通路が見つかっただけでも重大な事件であるというのに、さらに奥には謎の空間が広がっているのだ。これをどう扱えば良いのか、混乱の極みにあると言って良い。

 その混乱をジンは突いているのだ。

「あんた達だって、仕事が目の前にあるのに手が出せないなんて状況は歯痒いだろう? 今の俺がそうなんだよ。頼む! どうにか中を調査させてくれないか?」

 手を合わせて頭を下げるジンだったが、騎士団員の男は首を横に振る。

「駄目だ駄目だ。お前の立場がお前に言う通りだったとしても、むやみやたらと外部の人間を入れれば、状況がさらにややこしくなる」

 率直に関係者以外立ち入り禁止だと言わないところを見ると、禁止命令自体がまだ出ていないと思われる。だとしたら付け入る隙はいくらでもあるはずだ。

「外部の人間を入れればなんて言っても、どうせ空洞の調査に外部機関の専門家を雇ってるんだろう? 俺もそういう類の人間ってことにしておけば、別に混乱なんてしないと思うんだが」

「お前のどこを見れば、専門家なんて立場に見えるんだ」

 痛いところを突いてくる。ジンの見た目は専門家と言うよりチンピラに近いという事もあり、ジンの話の説得力が薄まる結果となっている。

「そうは言え、少なくとも俺は関係者ではあるんだぜ?」

「ふん? それはどういう事だ」

 話に乗って来た。大空洞に関する取り決めが国防騎士団側でも正確に決まっていない以上、気になる話はとりあえず聞いてみるという状況になっているのだろう。

 ここでこの見張りの男の興味を引ける話ができればジンの勝ちだ。何が良い状況は無い物かとジンは辺りを見渡し、丁度良く、見張りの背後を歩く若い青年の姿を見つける。

 見知った顔だ。良くは知らない相手ではあるものの、ジンはその顔に見覚えがある。現状、年配ばかりの国防騎士団員が大空洞に集まっている状況で、若い人間がどうしてここにいるのか。

「なあ! あんた! 俺の顔を知らないか? 確か俺が国防騎士団にこの場所を通報した時、応対してくれただろ」

 恐らくは国防騎士団員の中でもっとも早くこの大空洞を発見した人間として、この場所に呼ばれていたのだろう。正確に言えば国防騎士団員で一番早くこの場所に辿り着いたのは、特事のティラ・フィスカルトだろうが、彼女が所属する特殊事案処理小隊は、国防騎士団内部の組織に、つい最近になって編入されたばかりのため、組織内部での信用度が無いはずだ。もしかしたら、特事の隊員がこの大空洞を発見したという事実すら知らないのかもしれない。

 であるならば、組織内で情報の疎通ができぬ隙を見計らい、ジンが特事に先だって新たな情報を得ることができるかもしれない。

「うん? ああ、君は確か魔奇対とか言った組織の………」

 若い騎士団員はどうやらこちらの事を覚えていてくれたらしい。なんとも幸運だ。この機を逃してはならない。

「そうだ! 魔奇対のジンって名前だ。国家機関の一員として、この大空洞の第一発見者ってわけだ。なあ、これでも俺は無関係な人間か?」

 若い騎士団員が余計な事を話す前に話をどんどん進めて行く。相手に深く考えられれば、第一発見者だからなんなのだと反論される心配がある。

「彼はあんたらの中で一番早くこの場所に辿り着いたからここに居るんだろう? 俺だってそうじゃあ無いか。この大空洞には気になる事が幾つも有って、それをお互い話し合う事ができるなら、結構有意義だとは思わないか?」

「………ああ、もう。わかった。調査を認める。ただし、こっちも見張りを付けさせてもらうぞ。おい、君。彼に付き添って、大空洞内部を案内してやれ。なんでもこの大空洞に一言あるらしい」

 見張りの男は、若い騎士団員をそのままジンの付き添いとする。若い騎士団員は見張りの男に敬礼した後、その指示に従う。

「ええっと、魔奇対のジンだっけ。君がこの大空洞を僕ら騎士団員に通報してくれた事は僕が一番知っているけれど、何か重要な話を知っているのかい? だったら、通報してくれた時に話してくれれば良かったのに」

 少し恨みがましい顔をする若い男。恐らくはここを発見した事で、その情報を国防騎士団上層部に伝える仕事をずっとしていたのだろう。しかし彼が大空洞について良く知っている訳も無く、ただ右往左往していた様子が目に浮かぶ。

「こっちもこの場所については不法占拠者が居たせいで、じっくりと調べられなかったんだよ。おかげで知っている情報の確証が持てなかった。良かったら、空洞内部で気になるところを案内してくれないか? もしかしたらそっちの知らない情報を提供できるかもしれない」

「まあ、君を案内しろとの命令だからね。僕はそれに従うだけだよ」

 若い男がジンを大空洞の奥へと案内していく。大空洞内部は既に幾らか明かりを設置されているが、それでも薄暗い。ただ複雑な道も無いので、若い騎士団員の足取りは迷いが無かった。

「ここの調査はもう随分と進んでいるのかい?」

「まだまだだね。どうして土中にこんな空間が広がっているのか。謎のままだよ。どうにも地盤自体は何らかの補強がされている様なんだが、それがどういう力によるものなのかがわからない」

 首を振る若い青年を見て、それが真実である事がわかる。彼は見るからに残念そうで、尚且つ疲れている。

「ほら、ここが今のところ調査が続いている場所だ」

 大空洞の中でも特に人が集まる場所に辿り着いた。どこまでも続きそうに見える土壁の一部分で、多数の騎士団員と専門家らしき人間が、壁を小突いたり観察したりしている。

「なんでこの場所で調査をしているんだ?」

「大空洞は楕円形になっていて、その両脇に出入り口があるわけだけど、その中間にある壁の一つがここなんだよ。大空洞の壁の中で、一番周囲の圧力が高くなる場所だから、壁を補強している力が解明しやすいとかなんとか」

 そう説明する若い騎士団員であるが、本人自身も良くわかっていないのだろう。説明部分が棒読みだ。

「この場所でわざわざ壁なんかを調べるってことは、他に変わった物が無かったってことか?」

「そうだね。この空洞自体は不思議なんだけど、それ以外の不思議っていうのは特に無いんだ」

 騎士団員の言葉にジンは肩を落とす。急ぎやってきたこの空洞であるが、得られる物は無さそうなのだ。これでは特事より先に有用な情報を得られる可能性は少ない。

「ここが昔存在したカルシナ教の秘密通路の可能性が高いってのは知っているか?」

「本当かい? 君が通報してくれた時はそんなことを言わなかっただろう?」

「そっちもすぐに気が付くんじゃあ無いかって思ったんだが……まあ、そういう事だよ。俺はその秘密通路を探す過程でここを見つけた。となると、不思議な物品の一つや二つ、見つかっても良さそうなもんなんだが」

 こちらが持つ情報を小出しにしながら、相手からより多くの情報を聞き出そうとする。しかし、騎士団員は首を振るだけだった。

「まったく存在しないよ。そんな物は。大空洞はその名の通りに空のままなんだ」

 騎士団員からは残念な話ばかり聞かされる。フライ室長が予測していたジン自身の奇跡との関係性も役に立たないままであるし、これは無駄足だっただろうかと考え始めた瞬間、ジンの頭にとあるひらめきが浮かぶ。

(ちょっと待て? なんでこの大空洞に何も無いんだ? おかしいだろ)

 そうだ。普通に考えれば無い方がおかしい。何故ならばこの場所を不法占拠していたジャイブと言う男は、奇跡を起こせる黒い杖を所持していたのだから。

(あの杖はどこか違う場所で手に入れた? いやいや、奇跡を起こせる道具なんてもんが、そう簡単に手に入れられるはずが無い。その上、ジャイブって男は道具の使い方まで知っていた)

 奇跡を起こせる道具というのは存在するものの、その使い方を知るのは中々に難しい。人智を超える力こそが奇跡であるから、それを起こせる道具があったとしても、人間が容易くその力を使えないのだ。

「何度も聞く様で悪いが、本当にこの空洞で変わった物は見つかっていないのか?」

「ああ。見つかっていないよ。嘘じゃあ無い」

 まあそうだろう。わざわざこんな壁に人が集まって調べものをしているのは、他に興味を惹く物が無いからだろうし。

(なら、ジャイブはこの空洞で偶然あの黒い杖を拾ったわけじゃあ無いってことだ。そもそも、偶然拾ったのならその使い方自体がわからないままだろうし)

 そうして購入した線も薄いとなると、どういう結論に至るか。ジンは少し考えてみた。

(使い方を知る方法として、使い方を知っている人間から教えてもらうのが手っ取り早いな。黒い杖自体が誰かから譲り受けた物ってことか? そんな都合の良い人間が………まてよ?)

 そもそも、ジャイブがこの大空洞を見つけたのも単なる偶然なのだろうか。下水道でこの秘密通路を偶々見つける。そういう事が有り得るのか。

「なあ、俺がこの空洞について通報した時、ここを不法占拠していた奴らを引き渡しただろ? その中で右腕を斬られた男はどうなった?」

「ああ、それなら真っ先に病院へ運んだよ。処置が早かったからか、大事には至らなかったらしい。まあ、失った手は戻らないだろうけどね」

 ジャイブは生きている。そして恐らくは運び込まれた病院にまだ居るだろう。右腕を失って、そうそう早く退院できるわけが無い。

「どこの病院かわかるか? こっちがそれだけの怪我を負わせた手前、ちょっと様子を見て置きたい」

「そうなのかい? 一応、運び込んだのは西区にある施薬院なんだけど」

 ジンは再びジャイブに会ってみる気になった。というより、大空洞を調べる段階で真っ先に調べるべきは彼だったのだ。

 何故なら彼こそが大空洞の真の第一発見者だったのだから。

「良ければ、その男が入院している施薬院とやらの詳しい場所を教えてくれないか? ここの調査については……まあ、ちょっと後になる」

 いきなり行動の方針を変えるジンを見て、騎士団員は唖然としているものの、こちらとしてはやるべき事が大きく変わったわけでは無い。

 頻発する奇跡が関係する事件。その真相を探るためにジンは動いている。そこへ進む道が、ここでは無くジャイブの元にあるというだけであった。




 ハイジャング西区にある施薬院の一つ。犯罪者が運び込まれた場所にしては、清潔そうで美しい。白一色の壁がより際立っており、目に痛かった。きっと中に入ってもそうなのだろう。入院費用は勿論本人持ちであるものの、あの秘密通路を使ってそれなりに小金を稼いでいただろうから、そう重い負担ではあるまい。

「さて、会えると良いんだが」

 ジンは施薬院の門を潜り、ジャイブへの面会を窓口係に頼んでいた。こちらが国の役人に当たる立場だと明かすと、すぐに面会の手続きを初めてくれたが、それでもジンの立場が臨時騎士などと言うあやふやな存在だと知れれば、面会を断られる可能性は十分にあるだろう。

「お待たせしました。13番の部屋に入室しているジャイブ様に面会という事ですね。面会時間は1時間までとなっていますので、注意してください」

「随分と手続きが早いな。本人の許可だって得る必要があるんだろう?」

 ジャイブがこちらをどう思っているかなど、考える必要すら無い。右腕を切り落とした男が会いに来たなど知れたら、面会を断るどころか逃げ出したっておかしくは無いだろう。

「国の騎士様がお会いにいらっしゃったと説明したのですが、まあ、嫌々といた様子で許可を頂けました。ここだけの話、あなた以外にも国防騎士団員の方々が良く面会に来ていまして」

 国防騎士団がジャイブの身柄を引き取ったのだから、その団員が面会と尋問にやってくるのは当たり前の話だろう。ジンにとっての幸運は、ジン自身がそういう類の人間だと、ジャイブ自身すら勘違いしてくれている点だ。

「そうなのか。だったら話が早いな。まあ、少しきつく話し合いをする可能性があるかもだが、大目に見てくれないか?」

「患者の事を思えば、できるだけ安静にとしかこちらとしては言えませんが。腕の傷も止血している程度ですし………」

 窓口係の言葉の裏には、自分達はあまり関わらないと言う態度が見え隠れしている。それを確認できただけで十分である。

 ジンはすぐに案内された部屋へと向かい、病室の扉を開ける。扉を開けた先には、小さな部屋と小さな窓。そして部屋の大部分を占めるベッドが存在していた。ベッドの上には勿論ジャイブが存在する。彼はベッドに寝転びながらも上半身だけを上げてこちらを見ていた。

 恐らくは入ってきた客を確かめようとした動作なのだろうが、彼の表情がみるみる内に恐怖へ変わるのと同時に、その動作はその場から逃げるための物へと変わる。具体的には上半身をベッドから完全に起こそうとする物であった。しかし片腕が無いためか、それが上手く行かない様子。

「だ、誰か! 誰か助けてくれ! 暴漢が私に留めを刺しに来た!」

 叫ぶジャイブだが、やってくるのは部屋の近くを歩いていた患者達くらいで、施薬院の係員は事前に話していた通り、関わりにならない様に遠巻きで眺めているくらいだった。

「そう怖がるなよ。今日は武器とかは持っていないんだろう? なら、こっちだって手加減くらいできるさ」

 そう言いながら、ジンは部屋へと入り出入り口となる扉を閉める。留め金もきっちりと。

「な、なんのつもりだ。看護の連中はどうしてお前みたいな奴を私の病室に………」

 怯えていつつもこちらへの威嚇をしようとするジャイブ。ただ体の震えを隠せなければそれも意味は無い。

「こっちが騎士だって明かすと、勝手に向こうが配慮してくれたよ。一応言って置くが、ちょっとした悲鳴程度なら人はやってこないぞ」

「き、騎士だと? 貴様がか? 嘘を吐くな!」

 何故皆いちいちそういう反応なのだろうか。そう言えばジンが国防騎士団を大空洞へ呼んだ時、ジャイブは気絶していたために、ジンの立場を知らぬのだろう。それにしたってわざわざ否定しなくても良いだろうに。

「本当でも嘘でも良いだろう? あんたが気にするべきなのは、これから俺に何をされるかって事だ」

 相手が怯えてくれるのなら、別に騎士と認められなくても良いかと考えを改める。こっちが何をするかわからぬ相手と思わせて置いた方が話も聞き出し易かろう。

「何が狙いだ! わ、私の命か!」

「頭使って考えろって。あんたの命を貰って得をする奴なんていると思うか? 国防騎士団に捕まった小悪党の命なんてよ」

「ぐぐぐ」

 悔しげな顔をする。まだ自分がそれなりの立場にいると勘違いしているらしい。大空洞を不法占拠している時だって、それほど偉い身分でも無かっただろうに。

「じゃあなんだ。言って置くが、大空洞に関する話は全部国防騎士団に話したぞ!」

「それだ。その話だ。すべて話したと言ったな。その全部ってのはどこまでだ」

 向こうからこちらが聞きたい話題にしてくれた。話が早くなるのは助かる。情報は鮮度が大事なのだから。

「お前もあの大空洞に来たのなら知ってるだろうが。あそこは俺達の間で昔から噂されていた―――」

「カルシナの秘密通路ってんだろ? そんな話はもう良いんだよ。あと、さっそく嘘を一つ吐いたな」

「な、なんのことだ」

「国防騎士団はあの大空洞がカルシナの秘密通路だって知らなかったぞ。何が全部国防騎士団に話しただ」

 大空洞を調査していた国防騎士団員は、ジンが話すまでカルシナの秘密通路と大空洞を関連付けていなかった。本当にジャイブがすべてを話していたとすれば、そうはならないはずである。

「………話したって仕様が無いから話さなかっただけだ」

「本当にそうか? どうせ大空洞は国防騎士団が管理することになるんだ。話を勿体ぶったって、大空洞があんたの手に戻るわけでも無いだろう……とすると、隠したのはまた別の理由があるわけか。なあ?」

「………」

 ジンの問い掛けにジャイブは目を背けた。冷や汗が流れているのは、腕の傷が痛むからか、それとも別の事柄に恐怖しているからか。

「俺があんたに聞きたい事を教えてやろうか? あんたが持ってたあの杖。俺があんたの右腕ごと奪ったやつだ。あれをどこで手に入れた? まさか大空洞と関係の無いところで手に入れたなんて言うなのよ? あんなもの、簡単に手に入るわけが無いんだ」

 一般人や小悪党には過ぎた代物だ。それを手に入れた以上、それなりの事情が存在している。

「大空洞で拾ったんだ………。あそこには不思議な物が落ちて―――」

「二つ目の嘘を吐いたな。現在、国防騎士団が大空洞を調査中だが、そんな物は一つも見つかってない。まさかあれ一本だけがあそこに存在していたとでも言うつもりか?」

「そ、そうだ。その通りだ。あったのはあれ一本だけだった!」

 返すジャイブの言葉は、ただジンの話に反応しただけに過ぎない。上手な嘘も吐けぬ程にジャイブは動揺していた。

「じゃあその一本ってのは大空洞のどこでどんな風に落ちてたんだ。本当に拾ったのなら答えられるはずだよな?」

「それは……そうだな…それは………」

 ジャイブの言葉が淀む。咄嗟の嘘など、少し問い詰めればすぐに襤褸が出てしまうものだ。

「なあ、本当は杖を拾ってなんかいないんだろう? 拾ってないとすれば、誰かから貰ったんだ。そしてその誰かはあの大空洞と無関係じゃあ無い。もしかして、その誰かから大空洞の場所も教えて貰ったんじゃあ―――」

「それ以上その事を私の前で言うな! 私はそんな言葉聞きたくない!」

 ジャイブの叫びは部屋を過ぎて外にも聞こえただろう。それほどの大声だった。反して彼の表情は蒼白を通り過ぎて黒くなっている。精神の動揺が傷口にまで影響してしまったか。

 だとすれば、これ以上の尋問は危険である。

「聞き出せねばどうするつもりだ! もう一本の腕も斬り落とすか!? だが命まで奪わねえだろ! だが、あの老人は俺に対して躊躇なんてしやがらねえんだ!」

「老人だと? おい、ちょっと待て。お前に杖を渡したのは老人か? その老人ってのはまさか―――」

「知らない! 私は知らない! 何も!」

 とうとう毛布を頭から被り、耳を閉じ始めたジャイブ。右耳は手が無いために塞いでいないものの、これでは尋問をするのは不可能だろう。

 こうなった人間を痛めつける趣味はもジンには無かった。

「最後に一つだけ。答えなくても別に良いが、その老人とは最初にどこで会った? 大空洞ってことじゃあ無いんだろ?」

「………」

 やはり答えは返ってこない。ただしジャイブがその老人とやらを酷く恐怖していることだけがわかった。

「多分、俺もその老人を知っているはずだ。どこのだれかはまだ知らないけどな。そいつを探すのが俺の仕事ってわけだ」

 そう言い残し、病室を去ろうとするジンの背中に向けて、ジャイブが再び口を開いた。

「………西区のドラゴンの骨が集められた作業場がある。そこで会った………」

 どういう心境か。話してくれる気になったらしい。再びだんまりの姿勢に戻るジャイブだったが、ジンにとっては必要最低限の情報は手に入れられた形になる。

 次に調べるのはジャイブが話した作業場なるだろう。




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