第一話 『クロガネ整備中』
カナ・マートンはその短い人生の中で、尊敬している人物というのが存在している。それは魔法の教えを受けた恩師であったり、歴史上の人物であったりする。
中でもお気に入りは、何代か前の魔法学校の学校長であるブライト・バーンズだ。魔法学校の学校長となれば、魔法の才に溢れた人物が基本的になる物だが、彼は違う。学校長になった時は既に老齢であり、若い頃は魔法使いとして凡人の域でしかなかったそうだ。しかし彼はそれを努力で克服した。何か目立った事をしたわけでは無い。ただひたすらに技術の研鑽を積み上げ、地道な研究を長年に渡り続けた。その成果が学校長という地位だったわけだ。
魔法とは才能の結果にあるのでは無く、ただ学ぼうとする意欲の先にこそある。そういう言葉が本人の言として残っており、カナの向学心を昂ぶらせる一因にもなっていた。
しかし、カナが彼と同じ人生を歩めるとは思わない。これは別に慢心でもなんでも無い事実として、カナは才能に溢れる魔法使いだったからだ。他者が努力によって得られる知識や技術を、圧倒的な短時間で自分の物としてしまえる。勿論、他人よりも努力をしているつもりだが、それによって得られる効果が同じだけ努力をした人間よりも上なのだとしたら、やはり才能による物だとしか言えない。
そんな彼女だから、魔法学校という場所も窮屈に感じてしまった。所詮は既に存在する知識を学ぶ場所でしかない。自分はもっと高みに向かうべきだ。
しかしそんな彼女が現在いる場所と言えば、魔奇対という妙な組織の数少ない実働員の一人でしかなかった。
「まあ、それで良かったと言えば良かったのかな」
魔奇対に入って真っ先にわかったことは、いくら才能があろうとも自分はまだ子どもだと言うことだ。
魔法の才が有ろうと無かろうと、仕事は山積みで、それを万全にこなせるとは言い難い。長く伸びた鼻をへし折られる事は何度もある。しかし、その度に魔法学校に在学していた時には味わえなかった成長しているという感覚を持つ事ができた。
一方で、どれだけ才があり成長しても、個人でできることがはたかが知れているという事を学ぶ。世の中というのは多人数の思惑が絡み合ったところで動いており、カナはその中の小さな小さな歯車の一つでしか無いというのを、仕事を通して実感させられるのだ。
今だってそうである。現在カナは、クロガネと言う巨大なゴーレムの胸部にある空室に座っていた。
人型のクロガネを操るための部屋であるが、あくまでカナの担当はクロガネに魔力を流す事と動かす事の二つでしかない。
クロガネを魔力を流しただけで動かせる様にするには、それなりの技術や複雑な機構が必要で、またそれを維持する労力も同様に必要だ。
それらを行うのは、現在のところ魔奇体所属となっているクロガネの整備班だった。さらに彼らを統率する整備班長のワーグ・ローパの腕は極め付けだ。自らも直接クロガネの整備を行い、部下への指示も的確である。例えばクロガネの関節部などは、動かすどころか、ただそこにあるだけで損耗する物らしいのだが、彼は日々変化するその損耗率を把握し続けている。今日はどこの部分を点検した方が良いというのが、前日の内から分かるといった具合だ。クロガネとは巨大ゴーレムだけの存在で無く、それを動かせる状態にする彼らを含めての存在だと実感させられる。
「整備する人と巨大ゴーレム。ついでに私がいて、漸くクロガネが動く事になるんだ。だから調整の仕事もちゃんとしなきゃ」
クロガネに日々整備が必要であると同時に、万全に動かせる状態であるかのチェックも必要であった。魔奇対での仕事の内、半分近くがこれをすることかもしれない。そもそもカナはクロガネを動かす事を期待されて魔奇対に入ることになったのだ。
「うーん。そうなると、この仕事以外の仕事で日々頭を悩ませるという状況は少しおかしいんじゃあ」
クロガネの調整の他に、カナは奇跡による事件の調査についても行っている。と言ってもカナができる事と言えば、魔法学校自体のツテで奇跡関連の資料を集めて読み解くくらいであった。調査の際の相棒であるはずの先輩が、現在は単独で動いているからそっち方面ではあまり動いていないのだ。しかしそのせいで現状はどうなっているのかと悩まし気な日々が続いていた。
「考えたって仕様が無いのはわかってるけど、ううーんなんだが心配になってくるなあ………あれ、なんで室長がこんなところに?」
今でもどこかで危険を冒しているかもしれない職場の先輩であるジンを思うと、やはり頭を抱えたくなってきたところで、クロガネの視界を映す画面に、見知った顔が映る。魔奇対室長のフライ・ラッドだ。
どうにか外見を若くしようともがく中年男で、それでも隠しきれない苦労の結晶である白髪と黒髪が混じった頭が特徴のカナの上司だ。
「わざわざ来なくても、執務室で仕事をしていれば良いのに。私を呼びに来たのかな? なら、ジン先輩が今は居ないから伝言を頼めなくて、やっぱり自分で呼び出すしか無いわけか………」
魔奇対の執務室と、クロガネ整備用のテントはかなり距離が離れており、室長はわざわざ自分の足でその距離を歩いてきたと言うことだ。
フライ室長は整備班を指揮するワーグに何かを伝えている。クロガネの視界越しでは音が聞こえないため、その内容がわからない。まあ、例え音が聞こえたとしても、クロガネの胸部とワーグ達が立つ地面からは距離が離れているため、やはり聞こえないかもしれないが。
「え? 今から降りるの?」
ワーグとの話し合いが終わったのか、フライ室長がクロガネに向かって手招きをする。恐らくはカナに降りてこいと指示を出しているのだろう。
カナは空室の扉を開くと、そこから降りるための縄梯子を下ろす。
「いったい何の用ですかー!」
カナは離れた場所にいる室長に尋ねながら縄梯子を降りて行く。当初はこの昇り降りだけで随分と怖かったものだが、今では慣れた物である。素早く降りて室長達のところへ。体の動かし方がどんどん上手くなってきた気がするのは、魔奇対に来てからの事である。
「ああ、すまないマートン君。邪魔をした形になるが、例の件だ」
室長が例のと言えば、幾つか思い付くので困ってしまう。本人はこの言葉でわかって貰えると考えているのだろうが。
「どの例のですか?」
首を傾げながら問い掛ける。例えばジンが独自に行っている調査についても、例の件と言えなくも無い。
「クロガネの正式公開の件よ!」
テント中に女の声が響いた。女はテントの入口に立ってそう叫ぶと、長い金髪を振りながらつかつかとカナの近くまでやってくる。
まるで陶磁器で出来ている様な白い肌と端正な顔立ち。そして先程のキンキンと耳に響く声にはすべて心当たりがある。この国の最高権力者、ミラナ・アイルーツの姿がそこにあった。
「え?」
驚くカナを見て女王は微笑む。何がおかしいのだろう。いや、女王陛下がこんなテントに現れる事態は確かにおかしくはあるが。
「もし女王陛下がクロガネ整備用テントまでやってきた事に驚いているのなら、魔奇対の人員としては不適格になるぞ、マートン君。陛下はこういう女性なのだ」
「隣に立って言う事はそれ? 不敬罪でしょっぴくわよ?」
「はあ、申し訳ありません」
素直に謝る室長に、それ以上の追及をしない女王。こういう遣り取りも良くしているのだろうか。
「まあ良いわ。それよりカナ・マートン? クロガネを国民へ正式公開する話は既に知っているわよね?」
膝と腰を曲げて、カナに顔を近づけながら女王は尋ねて来る。おずおずと首を上下に動かしてからカナは答える。
「ドラゴン襲撃事件のせいで公然の物となったクロガネを、女王陛下の所有物であるということを、クロガネの実働演習も兼ねて発表するんでしたよね? その演習の成功を魔奇対の成果として、見返りに立入禁止状態にあるブッグパレス山の調査を許可するって話でしたっけ?」
先日、フライ室長より聞いた話だ。この話のせいで、独自調査をする対象が大幅に変わってしまったとジンがぼやいていたのを覚えている。
「後半の話はしなくて良いの。上役だけの取り決めだから、あなたはクロガネの公開を成功させる事だけを考えて。とっても大事な話よ? だってこのクロガネが全国民の興味の的になるのですもの」
今にもくるくると踊り出しそうな勢いでカナに話すと、女王は次にクロガネへ体ごと視線を向ける。
「ああ! 何時見ても逞しい姿……では無いわね」
女王陛下が見たのは、手足に車輪を付けたクロガネの姿であった。所謂0号装備という奴だ。
名前だけは格好良い装備名だが、その実、クロガネを移動させる際にその巨体を効率よく動かそうと、手足の代わりに車輪を取り付けただけの物だった。
ただしこの装備。存外便利な物らしく、クロガネの調整の際には、手足を付けたまま動かせば、手足の関節が損耗してしまうところを、車輪を回すだけでクロガネの稼働実験になるというので重宝されている。車輪の回転量とそれが正式な手足だった場合の予測を行っているそうだが、それがどういう物かは整備班しか知らない。
「ちょっと、ちょっと! どういうことかしら? まさかこの状態で公開するわけじゃあ無いわよね?」
女王は次に整備班長のワーグを問い詰めた。彼女の立場を知っているのなら、自分の前途すら心配し兼ねない状況なのだが、ワーグはまったく動揺していない。彼の肝が据わっているのか、それとも女王陛下の態度が本当に何時も通りのものなのか。そのどちらかか、もしくは両方だろう。
「勿論、1号装備の準備も行ってます。今はそのための調整中でしてね」
そうワーグが説明すると、やはり納得した様子でワーグを睨む顔を元に戻す女王。本当にいつもこの調子なのだろう。
「って、1号装備ってなんですか? 初耳なんですけど………」
カナは自分が動かす物だと言うのに、クロガネについてその全容を掴めていない。これだけの巨大ゴーレムがどの様にして作られたかを知らぬし、それがどの様に使われていくのかもまだ良く理解していない。漠然と、大規模な奇跡に対抗する物なのだろうと考えているだけだ。
「お嬢ちゃんにはこれから教えようと思っていたのさ。繊細な動作を必要とする装備だからな」
ワーグ曰く、なんでもクロガネを動かす技術がかなり必要らしく、そのための練習をカナにさせたいらしい。
「繊細な動作ですか? 何か複雑な機構を持った装備なんでしょうか?」
「いいえ。豪華なマントと格好良い剣だけよ!」
胸を張って答えるのは女王陛下だった。
「マントはともかく剣ですか。クロガネを持つ剣となると、かなり巨大になりますし、有効な武器になるんでしょうか? あ、マントも何か魔法的な効果があったり?」
そうであれば嬉しい。なにせこれまで二度ほどクロガネは戦った事があるのだが、一度目はその手足だけを使った戦いであったし、二度目なんて手足すらなかった。しかし今度はちゃんとした装備なのだろうと思えば、動かすのが難しかろうとやる気が出てくる。
「あら、そういう期待をしちゃうのかしら。ならとても申し訳無いわね」
本当に憐れむような目線を向けてくるミラナ女王。非常に嫌な予感がするのでそういうのは止めて欲しい。
「お嬢ちゃん。1号装備ってのは、国民にクロガネを公開する目的で作られたもんなんだ。となると、必要とされるのは機能性より見栄えでな………」
ワーグは言い辛そうに頭を掻いている。その言葉で、用意される装備というものがどんな物か分かりかけてくる。
「飾り……みたいな物ってことですか?」
「みたいなじゃ無くて飾りだな。マントはそれだけの面積を持った布を用意するだけで精一杯だったわけで、剣に至っては下手振り方をすればそれだけで折れる」
クロガネの大きさを考えれば、恰好を気にした装備など飾りにしかならないとワーグは話す。単なる棒を武器にしようとしても、一大建築物になるため、かなりの技術が必要であるのに、剣なんて物を使える道具として作ろうと思うなら、それはクロガネ本体程では無いにしろ、莫大な資金と資源と時間が掛かってしまう。
「特に剣の取り回しには注意してくれ。ぶっちゃけ中身も詰まってない外枠だけのもんでな、下手な振り方をすればと言ったが、正直クロガネが歩く振動だけでも壊れるかもと不安になる代物なんだ」
「繊細な動作が必要って、そういうことですか………。あの、なんだかクロガネの装備って碌な物が無い様に思えるんですが」
手足が車輪になる装備と格好だけの張りぼて装備。これが国家を奇跡の力から守る巨人の装備だというのだから笑えない話である。
「失礼ねえ。少なくとも1号装備は、クロガネにとって重要な意味を持つのよ? ある意味ではクロガネの存在意義の3分の1くらいは占めてもおかしく無いくらい」
「つまりは国民にクロガネが頼もしい存在だと思わせなければならないと言う事だよ。マートン君」
ミラナ女王の言葉を補足する室長。
「女王陛下は、このクロガネをアイルーツ国守護の象徴にするつもりなのだ。それに見合うだけの国家予算がクロガネに傾けられている。だから、恰好を付けるだけの装備だとしても、それは重要な意味を持つ」
大凡の人が見るのは、クロガネの性能云々で無くその見た目の威圧感だ。そこを見て、この巨大ゴーレムは凄いと思ってくれるのだから、機能性を向上させる装備より見た目を良くする装備が優先して開発されたと言うことか。
「実働演習は1週間後を予定しているわ。まだ1号装備を付けた状態で動かす練習をしていないのなら、なんとかその期間内で十分に動かせる様になって頂戴。演習本番に剣がぽっきり折れるなんて事になれば、さすがに誰かを罰さなければならなくなるから」
ミラナ女王はフライ室長を見る。魔奇対が失態を犯せば、責任を取るのが彼だからである。言葉を向けられた室長は、傍から見ても冷や汗を流しているのがわかった。
「そ、そうですな。マートン君には是非とも頑張ってもらいたいものです。なあ、マートン君?」
「できるだけのことをするだけです。それでも十分にできなければ、誰かが責任を取ることになるんでしょうが………」
「やはりか………」
肩を落とす室長。カナとて何も仕事を失敗させるつもりは無いものの、何事も初めてであるため、万全に成功させる自信も無い。
「とりあえず、その1号装備のクロガネを動かして見ないことには何とも言えません」
カナはそう言うとワーグを見た。クロガネを手足を付けた状態で動かすというのは、なかなか物質的にも精神的にも消耗が激しい事なので、練習段階でも出来る限り動かさずにクロガネを調整する事が多い。
だが、次に動かす際の装備が繊細な物なのだとしたら、一度も動かさずにいきなり本番だとは行かないだろう。
「一度だけ本番前に動かす練習をしておくか。演習の練習というとなんだか変な感じだけどな。とりあえずは、演習用にクロガネの機構を調整するから、お嬢ちゃんはクロガネの胸部空室に戻ってくれ」
ワーグがカナの意見を肯定する。彼から再びクロガネへ乗る様に指示されたカナは、ミラナ女王に一礼をした後、クロガネの空室に戻って行った。
その場を走り去るカナ・マートンの背中を見て、随分と可愛らしい姿だとミラナは考えていた。
短めに切り揃えた黒髪と年齢相応の背丈は幼さを感じさせる物だと言うのに、クロガネへ乗ろうとする姿はなかなかに様になっている。そのギャップがなんとも言えず愛らしい。
「なかなか良い娘よね、あの娘」
「大凡有能ですな。初めて執務室に顔を出した時はどうしたものかと思いましたが」
こちらの意見を肯定する魔奇対室長。それを見てミラナは頷いた。
「私だって、初めてあの娘の資料を見た時はどうしようかと思ったわ。クロガネを動かせるだけの人材をと魔法学校に要求して、向こうが候補者として挙げて来たのがあの娘だったのだけど……もしかしたら体よく厄介者払いに使わされたのかもね」
別にカナ・マートンの性格に問題があるわけでも無いだろうが、あの年齢であの才能だ。どの様な組織だって持て余す。魔法学校を責める訳にもいくまい。なにせこちらの要望には応えているのだから。
「もしかしたら親切心から来た物かもしれませんぞ。普通に魔法を学ばせて置くよりも実学をとかいった」
「だとしたら、そんな娘をゴーレムに乗せて戦わせ、日ごろは組織の仕事に忙殺させる私達って、とんだ悪党よね?」
「ははは。今さらの話ですな」
室長の言葉は嫌味では無く事実を言っている。国というのは基本的に悪党なのだ。税金や労役を国民に払わせ、それを再分配すると称して自分達の上前をはねてから配る。ただどういうわけか、この機構が結果的に世の中を上手く回す物となっているから、そこに存在している。
そんな悪党代表であるところの自分だから、好き勝手に振る舞うのだ。悪党が慈善溢れる人間だとすれば、悪党に従う人間は誰を恨めば良いかという事になる。
「まあいいわ。可愛い娘が直下の組織の一員になってくれた事を大いに喜びましょう。クロガネを配置した以上、魔奇対にはこれからどんどん仕事を任せて行くつもりだから」
「その仕事の内に、本来の存在意義である魔法や奇跡への対策関連の物が多分に含まれている事を祈りますよ」
「あら、それは嫌味かしら? ブッグパレス山の調査禁止の件は悪かったと思っているのよ? ただ国防騎士団との兼ね合いがねえ………。そろそろ明確な手柄を与えないと、あの組織って風当たりが強いの」
個人的には魔奇対を応援したい。本気で国防騎士団へ肩入れしているわけでは無い。ただし、女王としてあくまで中立的な立ち位置にいるとアピールする必要があるため、ブッグパレス山の調査を国防騎士団の特殊事案処理小隊のみでという決定を下したのだ。
「そちらの立場は良く知っているつもりですが……今回、クロガネの公開演習が成功した暁には、ブッグパレス山調査の許可を頂けるのですよね?」
「それは勿論。特殊事案処理小隊の結成祝いに調査許可の独占を与えたのだから、クロガネ運用の正式決定としての意味合いを持つ実働演習の成功祝いとして、同じような許可をあなた達に与えないと、それはそれでバランスが悪くなるわ」
それに特殊事案処理小隊のブッグパレス山調査許可からかなり期間が経過している。それで他の組織に調査の許可を出して文句が来るのなら、それは小隊の無能を喧伝する様な物になる。
「その言葉が聞けただけで満足です。あとは我々が万全を期すだけですから」
意外と容易く引き下がる魔奇対室長。
(これは内緒で何か企んでいるわね………)
ミラナの印象として、彼は仕事上ガツガツとしているタイプだ。成果を得られるのなら出来る限り多く。失態があれば出来るだけ最少に。そうやって動く人間だからこそ有能で、尚且つ人からやっかまれる事も多く、魔奇対という位置が不確かで規模の小さな組織の室長として働いて貰う事にした。
そんな彼が女王の自分相手とは言え、もっと成果を要求しても可笑しくない状況で引き下がるというのは、何か別の狙いがあるからとしか思えない。
「そうねえ。ああ、でも、この仕事は私にとっても重要な意味があるから、少し関わらせてくれない?」
「関わる……ですか? いったいどの様に」
もう少し魔奇対がどう動くのか探るのも悪く無い。そう考えてミラナは提案する。
「あの娘。良い娘ねって言ったわよね。気に入ったのよ。公開演習本番まで、何度か話す機会を頂戴。安心して、あの娘の練習自体は邪魔しないから」
「はあ…………わかりました、女王陛下がそう望むのであれば」
少し考える素振りを見せる魔奇対室長。こちらの意図を掴みかねると言った様子だ。せいぜい深く考えていれば良い。こちらとしては、単に室長から魔奇対の様子を聞き出すのは難しそうだから、その部下から話を聞いてみようと考えた、単純な物でしかないのであるが。