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黒金  作者: きーち
第三章 地下深くを進むもの
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第七話 『障害があるのなら排除するしかない』

 結果だけを言うと、武装した男二人と戦ったジンは、容易く勝つ事ができた。一人目が大層な大振りで剣を使ってくるのを見て、武器を奪えそうだなと考えたジンは、男の懐に潜り込み、剣を持つ手を捻り上げた。結果、男の手から地面へと剣が滑り落ちて行く。もう一人の男は、仲間を巻き込んで攻撃できないのか戸惑っている。

 剣を落とされた男の方はと言うと、馬鹿正直に捻られていない方の腕で殴り掛かってきたので、姿勢を低くする事で避け、そのまま地面に落ちた剣を拾った。

 接近していれば長いだけの剣は役に立たなさそうに見えたが、それは使い様だ。柄の部分で体のどこぞでも殴れば、それだけで十分に痛い。拳で叩くより大分威力がある。

 ジンが殴ったのは相手の脛だった。剣を拾った状態で目の前にあったのがその部分だと言うのもあるが、殴られればかなり痛い部分でもある。

「あぐっ………!!!」

 悲鳴も過ぎれば声すら出ない。脛を殴られた男は、痛みを感じる部分を守ろうと、脛を手で覆うとする。それはジンと同じく姿勢を低くする行為であり、既に下にいるジンに覆い被さる形になる。

 そうなるのはとても嫌なのでアッパーをするかの様に再び柄を相手の顎に叩きつけた。

「ぐっふっ!」

 空気が漏れる様な声が聞こえた後、一人目の男が倒れた。

「これで終わりかよ」

 ジンは倒れた男を見て拍子抜けする。強そうなのは見た目と威勢だけで、実際は酷く弱く感じた。

 素人相手なら体格で戦いを有利に進められるのだろうが、それは喧嘩レベルの話であり、殺し合いに近い戦いができる腕では無い。

「お前はどうなんだ、お前は」

 ジンは武装したもう一人の男に拾った剣を突きつける。まだ距離があるものの、その剣の切っ先に怯む様子を見せる男。

「お、俺? いや、俺は……その」

「わかった。もういい」

 ジンは腕試しのつもりで挑んだ戦いに飽きてしまった。まったく腕を試せなかったからだ。

 怯む男へ剣が届く距離まで近づき、男が振るってくる剣を自分の剣に引っ掛け、絡ませ、この男の剣も地面へと落とした。

「あ、あれ?」

 驚くほど簡単に武器を奪われて戸惑う男に、ジンは慈悲のつもりで剣を振るう。優しさの籠った、刃の無い部分での頭部攻撃だ。

 ただし金属の棒で頭を叩かれたらそれだけで酷いダメージを受ける。そこはまあ、当たり所が悪くならない様に祈るしかない。

「がぐっ!」

 呻き声を上げてからこの男も倒れた。やはりこっちも戦いについては素人に見える。

「おい、雇い賃をケチっただろ。どう見ても元国防騎士団員って戦い方じゃあ無いぞ」

 最後にジンはジャイブを睨み付けた。騎士団員どころか、そこらの喧嘩慣れしたチンピラより腕が立たない。そんな男達だった。それを自信満々で連れ歩き威張っていたジャイブには憐みすら感じそうになる。

「馬鹿な! 護衛を募集してないかと自信満々で応募してきたんだぞ!」

「自分で売り込みする様な奴が強いわけ無いだろ! 馬鹿はお前だ!」

 何故だか非常に疲れて来た。さっさとこの連中を逮捕するなりして、秘密通路の調査を始めたいところだったのであるが………。

「まだだ。まだ終わってない! 私にはまだ奥の手があるんだ!」

 どう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえないジャイブの叫びは、ジンの耳に空しく響く。

「じゃあさっさとその奥の手とやらを早く出してくれよ。こっちも出来るだけ早く終わらせるからさ」

 目の前のおっさんは、どれだけ贔屓目に見たところで先程の二人よりも弱そうである。そんな男の奥の手と言われてもたかが知れている。そう思っていた。

「良いだろう。見せてやるさ。どうせ、お前の他は女子供だ。どうとでもなるしなあ!」

 ジャイブが手に持った黒い金属の杖。その先端をこちらに向けて来た。筒状のそれは。先端に穴が空いていた。

(変わったデザインの杖だが、なんだ? え? 寒気が………)

 突然、嫌な予感の怖気が襲ってくる。誰がどうみてもジンが有利なこの状況で、いったい何に自分は怯えているのか。それがわからないジンだったが、ふと違和感に気が付く。

(え? なんで俺、鎧姿になってんだ?)

 ジンは自分の手を見た。そこには黒い鎧に覆われた手のひらが映っている。

(おいおい。別にこの姿になろうなんて思ったつもりは―――熱っ!)

 突然変化した鎧姿に戸惑うのと同時に、急に右肩に熱さを感じた。火傷をする程の熱さに、手に持った剣を落としてしまうジン。

 いったい何が起こったのかと右肩を見てみると、肩部分の鎧。その一部分が赤く発光していた。

 発光はすぐに収まるものの、そこは熱で溶けた様な状態になっている。

「は? おいおい。何があった―――って、また熱い!」

 今度はどういう変化があったのか自分の目で見る事ができた。ジャイブが手に持った杖の先端から、一条の光線が飛び出してきたのだ。

 光線はジンの左肩にぶつかり、どういう訳か熱量に変わったらしい。その熱はジンの鎧を溶かす程の物であり、それをジンは熱いと感じていたのだ。

「ははは! どうだ! 私だってまだまだ戦えるぞ!」

 ジンが戸惑う様子を見て、ジャイブは高笑いを続ける。

「だ、大丈夫ですか! ジン先輩!」

 突如とした変化に、戸惑うのはジンだけでは無かった。カナも同じく動揺している。

「おい。もしかしてこの男、魔法使いか!」

 杖から変わった光線を出す。その力の正体を、ジャイブが魔法使いであるからではと当たりをつけるジンだったが、カナは首を振った。

「魔力を……感じません。多分奇跡の力です!」

 カナが叫ぶのと同時に、ジンは体を横へと飛ばした。ジャイブの杖が、今度はジンの顔を狙っていたからだ。

 ジンがその場を飛んだすぐ後に、ジンが居たはずの場所を光線が通り過ぎて行く。暗い空洞を微かに照らし、光線はどこかの壁へとぶつかったのだろう。ジュッという何かが焼け焦げる音が小さいながらも聞こえて来た。

「なんで奇跡を起こせる道具なんて持ってんだよ!」

「これこそ私の奥の手だああああ!!!」

 叫ぶジャイブが黒い杖をジンへ向け直し、熱光線を乱射してくる。ジンはその射線から逃れようとするが、何分撃たれているのは光である。飛んでくるであろう方向を予測して避けるしかないのだが、それでも何発か当たってしまう。

「熱い! 熱っ! くそ、いったいなんだって………」

 できるだけ体の表面積が小さく成る様に屈みながら、ジンは光線が致命的な場所に当たらぬ様に動き続ける。

 体を掠れる熱光線はかなりの熱量であるはずだ。ジンの黒い鎧は耐熱性にも優れており、焚き火程度の火なら熱さも感じない。それが掠っただけで熱いと感じるということは、生身の人間に当たれば大変なことになるだろう。

(目標がカナやついでにティラに向けられるのはヤバい。だから逃げるわけにも行かないってのに!)

 ジャイブは黒い杖を使い慣れて来たのか、狙いが正確になってきている様に思える。いくら他の二人を守るためとは言え、このまま逃げないでいればジンの身が持たない。

「いっそこのまま突っ込むか―――」

 ジンがジャイブへの突撃を決意した瞬間。相手の幸運か自分の不運か。杖がこちらの顔を狙い、そこからまっすぐと光線が放たれるのを見た気がした。

 それは一瞬すらも長い間の出来事だったかもしれない。顔に当たればさすがに致命的かと考える暇があった気もするのだが、やはり気のせいだろう。

 考える暇があるということは生きているということだ。自分の顔に当たるはずだった光線は炎の壁に阻まれており、結局はジンに当たることは無かったのである。

「………大丈夫?」

「ああ。おかげ様でな」

 光線から逃げる内に、ティラのすぐそばまで来ていたらしい。ティラが自分の身と近くのカナを守るために出した炎の壁に、ジンもなんとか入り込むことができた様だ。

「まさか奇跡の道具をあんな小物が持ってるとは思いもしなかったな」

 とりあえず壁を越えて光線が飛んでくる事は無さそうなので、話す余裕ができた。

「炎!? 次から次へと、いったい何者だ、てめえら!」

 ただし壁は声までは遮断してくれないらしく、ジャイブの罵声が向こうから聞こえて来る。

「そういうものを持っていてもおかしくは無い………。多分、この空洞で手に入れたのかもしれない………」

 やはりこの場所のことを知っている様子のティラ。いったいそれが何であるかを聞き出したい気分だが、今はジャイブをどうするかが重要だ。

「そういうおかしな道具がぽんぽんと落ちてる場所なんですか? ここ」

 カナはティラの言葉に驚きながら、あちらこちらに顔を向けている。

「落ちていても不思議じゃあ無いということ………。ここにあったはずの物を考えれば………」

 想像以上にカルシナの秘密通路は危険な場所だったらしい。自分は気付かぬうちに大きな事件に巻き込まれているということか。

 まあ、そういう事件こそ望むところではあるので不満は無い。あるのは、とりあえずこの隠れているだけの状況をなんとかしたいという望みくらいだ。

「放って置けば、ジャイブが黒い杖を使うのを止めてくれる可能性について考えてみよう」

「多分暫くは無理じゃないですか? テンション高かったですもん」

 あと2,30分は持ちそうだとカナは言う。自分の分以上の力を手に入れた人間というのは往々にして気分を空回りさせがちになる。

「………このまま炎をあいつに向ける? そうすればそのまま炎で縛れる………」

 ティラの言葉を聞いて、本当に便利な奇跡だとジンは思う。ジンもこういう力が欲しかった。黒い鎧についてもそれほど不便では無いのだが。

「良い案だな。それで行こう。炎越しでもあいつの場所はわかるよな?」

「………うん。だって声がうるさいくらいに聞こえるもの」

 今でも炎の壁の向こうからジャイブの声が聞こえて来る。どうだ、まいったか。その炎をさっさと消せ。そんな言葉だ。

 ティラはそれに従い炎の壁を消す。しかしそれは炎そのものを消すのでは無く、形を変えるということだった。

 ジン達の周りを囲んでいた炎の壁はジャイブがいる方向だけのものとなり、そのままジャイブへと迫ったのだ。

「む!? なんだ、なんだ急にこれは! 私をどうするつもりだ!」

 ジャイブの狼狽した声が聞こえて来る。目の前から壁が迫ってくるというだけでも脅威なのに、その壁が炎なのだ。ジンだって同じ状況になれば怖くなる。

「来るな! 来るなあああ!」

 叫ぶジャイブ。もしかしたら炎に光線を乱射しているのかもしれないが、炎の壁を貫くことは―――

「はっはっはっ! どうだどうだ! この杖はこういうことだってできるんだ!」

 炎の壁が今度は本当に消えた。砕け崩壊した。そんな印象を受けた。何をしたのか。炎の壁越しに見えなかったジャイブの姿が今では両の目で見える。

「さあ、次はお前らの番だぞ! この杖の餌食に―――」

 ジンは何が起こったのか理解した。ジャイブが手に持っている杖の形が変化していたのだ。

 細長い筒だったはずの黒い杖は、短く太くなり、その分筒の穴が大きくなっている。恐らくは杖から出る光線もそれだけ大きく威力を増しているのだろう。それで炎の壁を破った。

 それを理解した瞬間。ジンは走った。ジャイブが持つ杖は危険だった。個人が持って良い道具では無い。すぐにでもジャイブから杖を奪わなければ。

 ジンはジャイブの元へ走る。途中に都合よく護衛の男が持っていた剣が落ちている。それを走り抜ける途中で拾い、さらに前へ。

「来るか! 今度はお前をバラバラにしてやる!」

 ジャイブの叫びは確かに聞こえるが、それはただの言葉としてジンの耳を通り過ぎる。光線は危険だ。そこに飛び込む自分も危険。だがやらなければならない。そういう状況が、ジンの精神をただジャイブから杖を奪う道具に変えている。

 どれだけ効率的に杖を奪えるか。それだけを考え、杖の向きを確認し、ほんの少しだけ走る軌道をズラす。

 その瞬間、杖が光り、光線がジンのすぐ横を通り過ぎた。ジンの高まった精神は、一発だけであったが、光線が発射される前にそれを避けることに成功した。背後から聞こえる爆発音がその証拠だ。

 何度もできる物では無い。ただ、避けるのは一発だけで十分だ。もう一発をジャイブが撃つ前に、剣が届く距離までジンは接近したのだから。

「は……何を―――」

 怯えた表情をジャイブが浮かべている。きっとそうだろう。しかしそれを確認しない。ジンが見るのは黒い杖を持ったジャイブの右手だ。

 その腕に目掛けて、ジンは剣を振り下ろした。

「な―――ぎゃああああ!!!」

 ジンの剣は、ジャイブの右腕を切り落とした。切り口から大量の血液が噴出し、ジンの顔も濡らす。

「黙ってろ!」

 ジンは黒い杖がジャイブの右腕ごと地面に落ちるのを確認してから、ジャイブを剣で叩いた。斬られた痛みを感じる前に気絶させてやろうという一種の優しさからである。

「カナ! ロープがまだ会っただろ! 早くもってこい! 血を止める! ティラはその黒い杖をとりあえず拾ってくれ!」

「え? あ………。は、はい!」

 起こったこれまでの事が急過ぎて、カナは放心していたらしい。だが、それでもすぐにジンの言葉に従い、荷物からロープを取り出していた。

 迅速な行動であったが、ジンはカナの動きをじれったく感じてしまった。腕をそのまま切り落とした以上、そのままジャイブが死んでしまう可能性は十分にあるだろう。人を殺す事はこれが初めてで無かったものの、やはりできるだけやりたくは無い行為だ。

「馬鹿野郎………。そんなもんを持っちまったら、こっちが手段を選ばなくなるって気付かなかったのか?」

 倒れたジャイブを見て、ジンは呟いた。




 事態が事態だったので、空洞の調査は一旦取り止めとなり、ジン達は早々に秘密通路を占拠していた一団を国防騎士団へと引き渡すことになった。

 引き渡すと言っても、わざわざ下水道から運び出すことはできないので、国防騎士団員達を秘密通路まで案内する形となる。

「あなたが無茶をしたせいで秘密裏での調査ができなくなった………」

 国防騎士団員達が地下の大空洞で不法占拠者の逮捕と誘導を続けている姿を見ながら、ティラはジンに嫌味を言ってくる。

 ジンは空洞の壁にもたれ掛りつつ、その嫌味に対して反論する。

「ジャイブが持っていた道具は、個人が持って良い威力の物じゃあ無かった。あんなもん町中で振り回せば、それこそ大きな混乱を引き起こせるだろうに。どんな手を使ってでもあいつから奪わなければならない。国に騎士として雇われてるってのはそういうことだと思うがね」

 奇跡の力が厄介なのは、こういう仕事をしているのだから良くわかっている。ティラだってそうだろう。容易く国家の有り様を変えてしまう可能性だってあるのだから。

 ジャイブが持っていた道具はそこまでの物で無かったとしても、混乱を招く可能性は大いにあった。ただ熱い光線を出せる程度なら脅威とは言えまだ良いが、ティラが作った炎の壁を破る程の物となれば、手に持って歩ける投石器の様な物なのだから。威力と精度を見ればもっと大変な武器かもしれない。

「魔法使いだって似たような威力は出せるはず………」

 まだ不満がある様子のティラ。

「限られた人だけですけどね。そんな威力を出せる魔法使いなら、国が必ずどこかで管理していますし」

 カナもジンと同じ意見な様で、彼女自身、個人としては危険な程の力を持つ魔法使いであることから、実感がある言葉となっている。

「あなた達の言うことはもっともだけど、それでもできるだけ内密に話を進める必要があった………」

 ティラだってジンが行った事の正当性を理解できないはずは無いだろう。それでもこの様に言ってくるのは、何かしら理由があるのかもしれない。

(それはつまり、この空洞にあったはずの物に関わってるってことなのかもな。空洞にジャイブが持っていた黒い杖が存在していてもおかしくは無いって話だし)

 ジャイブが持つ黒い杖を捨て置いて良い程の物が空洞にあった可能性がある。それが自分達で調べられないという状況にティラは焦れているのだろうか。

「なあ、ここまできて、やっぱり何も話せないってのか? 嫌味を言うくらいなら、どうして嫌味を言うのか理由を説明しろよ」

「………」

 やはり黙りである。『魔奇対』と『特事』。相容れぬ組織同士で情報のやりとりは禁物だと言う事か。

「本当に……どうしても知りたいのなら、あなた達もブッグパレス山を調査するべき………」

「あのなあ。そっちの組織がしゃしゃり出てきたせいで、俺達は山へと立ち入りを禁止されているんだぞ? それを言うに事欠いて山を調査しろとは―――」

「なら、この件であなた達は手を引くの? ここですべてを諦めて? 違うでしょ? ………そこに答えがある。私が言えるのはそれだけ。けど、答えがあるとわかっているのなら、あなた達の行動だって変わってくるはず………」

 ティラの言葉にジンはたじろぐ。ブッグパレス山は『特事』が調べているから、『魔奇対』は近寄るな。そう命令されて、はいそうですかと納得するのなら自分達はなんなのだ。

 自分達の方が、公式上は先んじて設立された組織だと言うのに、なんとも情けない姿では無いか。このまま何もせずにいて良いものでは無い。

 ティラはそんな感情に火を付けようとしているのかもしれない。『特事』はそこで確かな情報を得たのである。明確に動くべき指針となる情報を。

 ならば、『魔奇対』も同様に動かなければならない。例えブッグパレス山への立ち入りが国によって禁止されようとも、答えがあると言われた以上、なんとしても許可を手に入れなければ。

「ジン先輩、私達だけじゃあ判断できませんよ。室長にも相談してみないと」

 カナの発言には一理ある。そういう組織間のやりとりならば、フライ室長の方が優秀であり、ジンが知る物よりもさらに多い手管を持っているのだから。

「とりあえずは室長に報告する。それとガウにもだな。もしかしたら新しい情報が手に入るかもしれない。ただし………」

 カナと今後の方針について話し合う。ティラの目の前でこういう会話をするのはどうとは思うのだが、この後の決意表明だけは聞かせたかった。

「ただし……なんですか?」

「一通りの報告が終われば、俺は独自で行動する。もしかしたら国に無断でブッグパレス山に侵入するかもしれない」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! 何いきなりおかしな事を言ってるんです? 国に無断でって……ジン先輩は臨時とは言え騎士なんですよ? そんなことをすれば『魔奇対』にだって非難が―――」

「だから独自で行動するんだ。もし俺が何かしらやらかしたのなら、好きに尻尾でも手足でも切れば良い」

「そういう事を言ってるんじゃなくてですねえ………」

 カナは完全に呆れたと言う目でジンを見てくる。仕方の無いことだ。当たり前の表情である。

「俺だって国のために奇跡に関わる事を解決する立場なのに、国の命令を無視して奇跡について調べるなんて馬鹿らしいことだとは思うよ」

「なら―――」

「意地があるってことだ。こっちにもな。ライバル組織に舐められたままで堪るか。言っとくが上等な理由を聞き出そうたって無駄だぞ。この女の言葉にカチンと来たのが一番の理由なんだからな」

 既にジンの中では理屈や理性で片付く問題では無かった。巨大ドラゴンと移動する森。そして今回の巨大空洞。多発する奇跡に関わる事件に対する答えがそこにあるなどとライバル組織に告げられたのだ。それで動かないなどと、ジンの意地が許さない。

「ああ! もう! わかりましたよ。勝手にしてください。けど、こっちだって正攻法で調べるつもりですからね。後で私より有益な情報を集められなかったなんて状況になったら、すっごく格好悪いですよ」

「まあ、やるだけやってみるさ。『魔奇対』には極力迷惑を掛けない様にも心掛ける」

 言うだけ言って、ジンは心が軽くなった様な気がする。好き勝手できるというのは、どういう状況であれ気分が楽だ。

「………言って置くけれど、『特事』は手を貸さないし、不正を見つけたらむしろ告発するつもり………」

 ティラの言葉にジンは笑う。

「はっ! 良いじゃねえか。その勝負買った。絶対に吠え面かかしてやるから覚悟しとけ」

 ジンなりの宣戦布告をティラと、彼女の組織である『特事』に伝える。こうして国防騎士団・特殊事案処理小隊と魔法及び奇跡対策室は、両者ともに正式なライバル組織として認識し合う仲となったのである。




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