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黒金  作者: きーち
第三章 地下深くを進むもの
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第六話 『たどり着いた場所には』

 ジンは鎧姿になり、そのまま秘密通路の前に立つ見張りのところまで走る。見張りは明かり用のランプを持っており、こちらがランプを持たなくても、どこにいるかが良くわかる。

 黒い鎧は下水道の闇に良く隠れるため、見張りに気付かれる前にかなりの接近に成功した。

「だ、誰だ!」

「誰でも良いだろ!」

 叫ぶ見張りに手が届きそうな程に近づいたジンは、そのまま見張りの頭を叩く。軽くのつもりであるが、鎧で強化された身体能力のせいか、見張りの頭は大きく揺さぶられ、そのまま地面に倒れた。

「よし、一人目」

 ほかに見張りがいないかと確認したところ、秘密通路の奥から唖然とこちらを見る男を発見する。通路は明かりが配置されているため、こちらで起こっている事が良く見えるのだろう。

 仲間を呼ばれてたまる物かとジンは通路の奥へと走り出した。

「う、うわああああ!!!」

 突然現れた黒い鎧男に驚き叫ぶ男。その声は良く通路に響き、別の仲間がいるのなら恐らく駆けつけてくるだろう。

「なんだ! 何があった!」

「おい、なんだあれは!」

 案の定、通路の奥からはさらに別の男達が二人。恐らくは荒事へ対処する役目の人間なのだろう。両者ともに短剣やクロスボウを持っている。

(面倒くさいな。人数が二桁にならない限り負ける気はしないんだが)

 敵の武装を見る限り、ジンの鎧にダメージを与える程の物は持っていない。しかし相手が人間である以上、どんな手でも使ってくるだろうし、そうなれば倒すのに時間が掛かってしまう。

「余計な体力は使いたく無いんだけどな」

「だったらもう少し慎重に進むべきだった………」

 何時の間にか自分の後ろにいたティラが話し掛けてくる。それと同時に、ティラは右手を通路の奥に向け、その手のひらから炎を放つ。炎はすぐ前にいるジンを見事に避け、ジンが狙っていた男を縛り上げる。

 ティラが炎の噴出する手を引き払うと、それに合わせて男を縛ったままの炎がこちらまで戻って来た。

「………! ………!!」

 縛られた男は何かを叫んでいるものの、炎に口まで塞がれているので声が出せない様子。

「一人捕まえた………。これで尋問する相手は確保できたから、後はあなたが倒して………」

「掛ける労力が釣り合ってない様に思えるんだが、気のせいか?」

 さっさと自分の仕事を終えたといった風のティラに嫌味を言いつつ、ジンもジンで自分の仕事を終わらせる事にする。

 通路のさらに奥にいる武装した二人の男は、自分達が襲撃を受けたという状況を漸く理解したらしく、クロスボウをこちらに向けて放ってきた。

 ジンはそれをあえて避けず、そのまま前に進んだ。胸と脇腹あたりにちょっとした衝撃を感じる。恐らくクロスボウから放たれた矢が当たったのだろう。ただし、それだけの事だ。ジンの鎧は貫けず、ダメージを与える事すらできない。

「ひっ、ヒィイイイ!!!」

 自分達の攻撃が通じぬ事を理解したからか、武装した男達は悲鳴を上げて逃げようとするが、ジンが走る速度の方が早く、追いつき、背中を向けた男達二人の服の襟を両の腕で掴んで引き摺り倒す。

「ぎゃあ!」

「ぐえっ!」

 二人共がそれぞれ個性的な悲鳴を上げた。ジンはそれを聞いて手加減をする気はまったく起きない。次に襟を掴んだまま二人を持ち上げた。

「く、苦しい! 止めてくれ!」

「な、なんなんだよお前! 化け物め!」

 どうやらこちらが奇跡所有者である事を理解したらしい。化け物と言う聞き慣れた単語をこちらに向けてくる。

「化け物相手に、苦しいから止めてくれなんて論理が通じるとは思ってないよな?」

 ジンは二人の男を近く壁に放り投げた。壁に叩きつけられた男達であるが、今度は悲鳴を上げずに気絶した。

「さて、これである程度は片付いたかな? もしかしたら奥にもっと人が居るかもしれないが」

 辺りを見渡すものの、他に見張りが出てくる気配は無い。

「こっちの出入口に人がいるということは、むこうの出入口にも勿論人がいると思う………」

 炎で見張りを釣り上げながら話すティラ。なかなかに凄みのある光景だ。釣り上げられた男の顔は恐怖に染まっている。

 良い傾向だとジンは考える。相手がこちらに恐怖してくれるのであれば、その後の尋問も順調に進むだろう。

「ちょっとちょっと! やっぱり私、見てるだけだったじゃないですか!」

 ジンとティラの戦いを見ていたカナだが、状況が一旦落ち着いたと考えたのか、こちらへと近づいてきた。

「俺だって、敵を叩くか放り投げるくらいしかしてない」

「私もこうやっているだけ………」

 ティラは再び炎で縛った男を見る。男の顔は恐怖と同時に混乱した表情を浮かべていた。いきなり目の前に女の子まで現れてはそうもなろう。

「思った以上に大規模な組織じゃ無かったってことさ。もしかしたら組織力の小さなところがこの秘密通路を見つけたのかもな。なら、潰すのも簡単だ」

 さっさとその組織を排除して、秘密通路を国が調査できる状況を作らねばならない。

「それも含めて、色々と聞けば良い……。この人に」

 ティラはそう言うと、炎で縛った男の口元だけを解く。

「な、なんなんだ。なんなんだよ、おい!」

 ありきたりな台詞を吐く男。

「なあティラ。炎を解いてやってくれ。逃がしゃしないから」

「………」

 ティラは無言のまま、ジンの言う事に従って炎の束縛を解いた。勿論、男はそこから逃げようとするが、それをジンが捕まえる。今度は正面から首根っこを捕まえて、自分の眼前まで男の顔を近づけさせたのだ。

「なあ、もしかしてお前、俺達が親切にもお前の疑問に答えてやるとでも思ってんのか?」

 出来る限りドスを効かせてジンは話す。

「う……うう」

 うめき声を上げる男。ジンに恐怖してのことか、それとも単に苦しいのかはわからぬが、喋らないでいられるというのは厄介である。

「俺はこれからお前に幾つか質問をする。お前はその質問に隠し事をせずに答えろ。もし嘘を吐いたり黙っている様なら………」

「な、なら?」

「わかるだろ? わからないとは言わせないなっと!」

 ジンは自分の言葉に合わせて、空いている方の手で秘密通路の壁を殴った。本当にカルシナの秘密通路であるならば、作られたのは百年程前だ。老朽化した壁は、鎧姿のジンであれば拳大の穴が開く程度には砕くことができる。勿論、普通の人間では無理だろう。

 下手な事を言えば、今度はお前の頭がこうなるぞという脅しにはなるはずだ。

「わ、わかった。話す。話すよ! だから許してくれ!」

 脅しは十分に効果があったらしい。もう少し粘ってくれても良かったのだが、チンピラ相手ならこんなものだろう。

「手慣れてますねえ」

「なんとでも言え」

 カナの嫌味を無視して、ジンは話を続ける。

「で、だ。まず聞きたいのは、お前らどこの組織に属してる? 縄張りは?」

「西区のジャイブさんの下で働いてるだけだ! 美味い仕事があるからってここを紹介されてよ………」

「ジャイブ? 何かギルドでも開いている奴か?」

「最近そういう物を作るつもりだって言ってたような………」

「なるほど」

 ガウの様な人種だろうが、ずっと規模は小さいのだろう。小狡い性格で顔がそれなりに広い奴がハイジャング西区の混沌に目を付け、そこで自分の権益を拡大しようとする。かならずある話であり、その多くが組織として定着する前に淘汰される。結果的に残るのがガウのギルドみたいな非合法組織であり、目の前の男が所属する集団はそこに至る前の物なのだろう。

「次の質問だ。この通路はどうやって見つけた」

「どうやって? 何のことだよ―――ああ! 苦しい! 止めてくれ!」

 相手の首を強く絞める。恐らくは、まあ本当に知らないのだろうが、はいそうですかとこっちは納得しない。この秘密通路で仕事をしていたということは、本人も気づかぬ内に通路の知識についてジン達の知らない事を知っている可能性もある。

「良く思い出せ。本当に、何も、知らないのか?」

 ゆっくりと相手から言葉を引き出させる様にジンは尋問を続ける。

「そうだ! そう言えば、ジャイブさんが噂は本当だった。金の成る木を見つけたとかなんとか言ってたはずだ!」

「金の成る木ね。その程度の認識か………。通路を見つけたの単なる偶然かもな」

 要するに都市伝説の様に噂されるカルシナの秘密通路が本当にあった程度に考えているのだろう。それに奇跡による事件が関わっているなどと言った話は知らない様だ。

「3つ目の質問だ。あそこに転がっている奴ら以外で、お前の仲間は何人いる?」

「仲間? ああ、そうか。外から見れば仲間だよな。けど、俺達はそれぞれの仕事以外の領分にはできるだけ関わるなって言われてて―――痛い痛い! 折れる! それ以上首を絞めないでくれ!」

 少し絞めただけで大げさな奴だ。本当に折れる程に力を込めたのなら、喋ることすらできないはずだと言うのに。

「余計な事を喋ってんじゃねえよ。いいか? 俺は、仲間は何人いるかと聞いたんだ。誰が何処にどれだけいるか。それだけを答えりゃ良いんだよ」

「わ、わかった。こっちにいるのはあんた達が倒した奴らと俺とで全員だよ。後、向こう側の入口にも同じ人数がいる。それと、道の中間ではジャイブさん自身とその護衛が監視してる」

「他には?」

「他? そうだ! 入口側には、外から連れてきた奴らをこの道へ案内する人間が定期的に来るし、この道を通ってハイジャングに入る奴らも当然いる」

「そうやって国の管理を受けない人種をハイジャングで不当に働かせるってわけか」

 男は首を絞められたまま頷く。

「多分そうだ。町の外から人を呼び込んで、それを紹介する仲介料だけでがっぽりって話さ」

 聞きもしないのにペラペラと話してくれる。こちらとしては楽で良いのだが、あまり重要な情報は知らないからこその事だろう。

「ってことはなんだ、この道はハイジャングの外まで繋がっているわけになるが、町の西区を出て少し向かったところに入口があるのか?」

「そう思うだろ? 違うんだよ。道は町をぐるりと回って東の方向に出てるんだ。なんでそんな構造になってるか知らねえが………」

「東? なんでわざわざそんな場所へ」

「だから知らねえって……ただ、もしかしたら奥にある大空洞のせいかもしれねえ」

「大空洞だと?」

「道の奥にデカい空洞があるんだよ。そこは道として整備も碌にされてない場所だってのに」

 特別な情報が出てくると思っていなかったため、男の言葉にジンは驚く。

「デカい空洞? この道の先にそんなものが?」

「そうだ! 嘘じゃねえよ! なんなら見てきたら良い! 見張りがいるかもだが、あんたらなら関係ないだろ?」

 男はそう言うが、嘘くさい話だと思う。もしかすれば見逃して貰うために有る事無い事を口にしているだけかもしれない。

「どう思う?」

 自分だけで判断するのもどうだろうと考え、ジンはカナとティラに尋ねた。

「………本当かもしれない」

 意外な事にティラは男の言葉を肯定する。彼女なりに確信があってのことかもしれない。

「ブッグパレス山での調査と何か関係あるのか?」

「………」

 沈黙するティラ。黙っていれば下手に口を滑らすことは無いのかもしれないが、今度はその沈黙が何かあることの証明になっていると気が付かないのだろうか。

「な、なあ。これで知ってることは全部だよ。頼む。命だけは助けてくれよ」

「あー、安心しろ。あの世にだけは絶対に送らないから。代わりに行くのは牢屋の中だ。ここにいる奴ら全員、国の裁判を受けることになるな」

「はあ!? なんでだよ。俺達、同業者だろ!?」

 男はどうやらジン達の事を、自分達と同じ人種だと考えていたらしい。

「縄張り荒らしにでも来たと思ったのか? 残念ながら俺達は騎士だ。不正を働くお前たちを逮捕する義務がある」

「は……はは。冗談だろ? あんたそんな風に見えないぜ?」

「だろうな」

 答えると同時に男の首をさらに強く絞める。

「ぐっ………」

 男の目がグルリと回り、気を失ったのを確認してから手を放した。地面へ崩れ落ちる男を見た後で、ジンはカナとティラへ振り向く。

「とりあえず地面に転がっている奴ら全員を縛るぞ。事が終わったら、自警隊か騎士団に引き渡そう」

 秘密通路を不当に占拠している奴らをすべて捕縛する。手っ取り早くカルシナの秘密通路を調査するにはそれが必要だろう。

「早く帰ってこれると良いですね。こんな場所で転がしたままだと、いくらなんでも可哀そうですから」

 ジンに言われた通りに縄を取り出して、男たちを縛っていくカナであるが、その言葉だけは優しい物だった。




 鎧姿から元の状態に戻り、再び下水道を歩くジン。既にカルシナの秘密通路内部であるので、下水道と表現するのは違和感があるものの、じめじめとした空気は変わらないため、新しい道を通っている気分では無かった。

「話の通りなら、暫く進んだ先に空洞があるらしいが………」

「あと、秘密通路を占拠している親玉と途中で会うかもですよね」

 カナは何やら興奮しながら話してくる。

「なんか楽しそうだな、お前」

「だって、秘密通路の奥にある大空洞に、そこを占領する悪党だなんて、わくわくする要素しか無いじゃないですか」

 確かに子どもならそういう話に興奮してもおかしくないだろう。そして、最近は忘れがちになるのだが、彼女は子どもと表現してもまったくおかしくない年齢である。

「まあ……憂鬱に歩かれるよりマシか。なあ、あんたはどうなんだ」

 ジンは憂鬱そうに歩いているティラに話を向ける。

「………どうとは?」

 不思議そうに小首を傾げるティラ。今までの話を聞いていなかったのだろうか。

「あんただって、目的があってここに来たわけだろう? その目的とやらが奥にある空洞なんじゃあないのか?」

「空洞だったら意味が無い。空洞じゃあ無ければそれはそれで大変だけど………」

 ティラの呟きは、どうにもかなり重要な情報に思える。

「空洞じゃあ無ければ何があったはずなんだ?」

「それは………駄目、言えない」

 ハッと気づいた様に口を手で隠すティラ。さきほどまでは心ここに在らずと言った様子だったので、上手く聞き出す事ができそうだったのだが、彼女に気付かれてしまった。

「まあ良いさ。とりあえず奥にさえ行けば、何かしらの変化が…ある……だろ」

 ジンは歩く足を止める。意識した物で無く、自然とそうなってしまったのだ。何故止まったのか。その理由くらいならすぐわかる。先ほどから通路奥から風が吹いている様に感じていたが、それが徐々に強くなると共に、通路が一気に開けたのだ。

「おいおい。なんだこりゃ。本当にここは地下か?」

 進む通路の先には巨大な空間があった。と言うより、空間の一部に通路があると言うべきか。

 巨大な空間は灯りも特に無く、どこまで続くかわからない。ただ、天井は酷く高く横幅だって相当な物だ。空間の壁は地肌が露出しており、その端に細々と通路が続いている。そんな印象だ。

「ありえないですよ……こんなの。こんな空間が地面の下にあったら、そのまま崩れちゃうはずです」

 驚いているのはジンだけで無く、カナも同様だったらしい。確かにこれほどの空間が地面の下に自然のまま存在しているのは奇妙だ。

「これも一種の奇跡か? 道の方角からして、多分、ハイジャング南のあたりに存在しているんだろうが………」

 ハイジャング南側には広い平野部の土地が存在している。そのどこかに、この地下空洞の天井にあたる部分があるのかもしれない。

「……やっぱり、もう無いのね」

 ティラの感想はジン達と違い、どこか肩を落としている。この地下空洞には何かがあったはずと言うわけだ。そしてそれは奇跡に大きく関係している。

「しっかし、こんな空間を見つけておいて、やることは外部の人間を不法に町に入れる程度ってのは、ジャイブって奴は大したことの無さそうだよな」

 ジンの意見にカナも頷く。

「夢が無いんですよ。多分」

「そうは言っても、それ以外にどう活かすってんだ? こんな無駄にデカい空洞と通路をよ」

「誰だ!」

 空洞の奥から声が聞こえる。その方向へ身構えたジンの目には、3人の男が映っていた。内二人は随分と体格が良く、革鎧と長剣で武装している。そんな2人に挟まれる並びで、小柄な男が立っていた。一端に黒髭を生やし、指にギラギラとした宝石を付けている。手には自分を支えているわけでは無いというのに、黒い筒の様な金属できた杖を持っている。このどう見ても小悪党と言った風貌の男がジャイブと言う男だろう。

「こちらの台詞だ馬鹿者が。私の領地へ不法侵入した罪は重いぞ?」

 ジャイブが口を開く。そこから飛び出る言葉は、尚のこと彼を小物に見せてくる。

「はっ! 何が私の領地だ。アイルーツ国で土地を持って良いのは王族が王族に認められて領地の管理を任された貴族だけじゃねえか。あんたなんかどう見ても、そんな上等な人間には見えないね」

 嘲りの笑みを浮かべながらジンはジャイブと話を続ける。

「てめえ! よくもぬけぬけと!」

 沸点も低いらしい。ますます小物だ。

「貴族ならそれなりの家名があるはず………。なんと言うの?」

 途中でティラが口を挟んできた。

「いやいや、本当に貴族というわけじゃあ無く、勝手にこの土地を占有しているだけだと思いますよ?」

 ティラの言葉につっこむのはカナだった。ジンとジャイブの会話について、皮肉を理解せずに聞けば、ジンがどこの貴族かをジャイブに聞いたという事になるのだろうが。まさか本当にそう取る人間がいるとは思わなかった。

 だが、そんなティラの天然ボケも、ジャイブにとっては癇に障る内容だったらしい。顔がどんどん赤くなっていく。

「何時かは姓だって持つ事になるだろうさ! 私は噂に聞くカルシナの秘密通路を手に入れたんだからな! このハイジャングの内と外を繋ぐ道さえあれば、金を稼ぐ方法など幾らでもある!」

「金だけで貴族の地位を持てるなら世話がないわな。あんたみたいな慎みも思慮も無さそうな人間は、貴族にしてやるなんて誘いに騙されて、せっかく稼いだ金を失うみたいな話がお似合いさ」

 実際にそういう詐欺まがいの話もあると聞く。ただし、このジャイブという男は、そういう話すら無縁となるだろう。

「とりあえず、俺達が国の土地の不正利用を見つけた以上、神妙にお縄について貰うことになる。さっさと武装を解いて降伏することをお勧めするぞ」

「はっ。てめえみたいなチンピラが何を言うじゃねえか。大方、どこぞの組織が私の縄張りを奪いに来たのだろうが、そうは行かねえぞ」

「………」

 ジャイブの言葉にジンは沈黙する。別に圧倒されたわけでも論破されたわけでも無い。只々ショックを受けていたのだ。

 ジンはカナの居る方を向いて尋ねる。

「なあ、俺ってそんなにチンピラに見えるかな? 国の騎士には見えない?」

「今さら何を言ってるんですか」

「………」

 本格的に落ち込みそうになる。さっき秘密通路の出入り口付近に立っていた見張りにも、騎士では無く別のヤクザな組織の一員だと思われていた。

「ぐだぐだと何を話している! てめえらがどれほどの手練れとは言え、この二人には到底勝てんぞ。なにせ、二人は元国防騎士団の騎士だったんだからな」

 ジャイブは一歩下がり、代わりにジャイブの両脇を固めていた男二人が前に出てくる。二人ともニヤニヤといやらしく笑っており、ジンよりよっぽどチンピラらしいと思う。ジャイブの言う通り本当に元国防騎士団員だったのであれば、ジンだって国の騎士と認められても良いだろうに。

「ジャイブさんの頼みだ。悪いが痛い目を見て貰うぞ? もっとも、そっちの二人は気持ち良い目に遭うかもしれないがな」

 笑う男達。なんというか典型的な口上である。

「うわ! セクハラですよ、セクハラ! すごく気持ち悪いです」

 カナが心底嫌そうな顔をする。

「すぐに黙らせるから、我慢しててくれ」

 二人の男と相対する様に、ジンは男達へ歩く。もし元国防騎士団員だったとするなら、鎧姿にならなければ戦いは厳しいだろう。

 しかし、腕試しがてら生身で挑んでみることにする。さきほどティラと戦った時の件で、どうにも生身の自分は弱いのではないだろうかと自信が無くなっていたところだったのだ。いざとなればしっかり鎧姿になれば良いと考えて、ジンは生身のままで男達との戦闘を行うことにした。





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