第四話 『森への対策は』
「爺さん……まさか」
ジンは老人の言葉に驚いていた。まさか町に迫る森への対処方を教えようなどと言い出すとは。
「ふふふ。やはり気になるか」
「いや、まさか本当にボケてるとは思ってなかったもんでな。連れて行くのは拘置所じゃ無く、病院で良いか?」
老人は何時も突拍子も無いことを言い出すが、それを信用してはいけない。なにせそれらは、本当に意味の無いことであるからだ。
「まてまてまてまて! もしかしてボケが回って、儂がおかしなことを呟いているとでも思っているのか!」
「そうじゃなかったらなんなんだ。悪いが、ただの老人が町を救うかもしれない知識を持っているなんてことを信じるほど、日和ってるわけでも無いんでね」
この場を言い逃れるために馬鹿なことを言い出したのかもしれない。ならば、やはり連れて行くのは拘置所の方か。
「日和っているのは事実じゃろう? どうせ、町に迫る森に対して、碌な対策も取れておらんのじゃないか? 巨大ゴーレムを森への壁にしようといったくらいか? 失敗するぞ、その作戦は」
「なに?」
老人の目線が何時の間にか鋭くなっている。少なくとも言い逃れをするつもりの人間やボケた老人の見せる物では無い。
「相手を自然災害か何かと勘違いしとらんか? 一度、進む方角をズラしたところで、気まぐれにまた町へ向かってくる可能性を考えとらんのか? もしかしたら町そのものを明確に狙っているのかもしれんが、その場合はどうする?」
「何か知っているのか?」
老人の言葉は無視できぬ物になっていく。そもそも、こちらの作戦を予想しているという時点で無視できる相手では無い。
「知っているも何も、儂は奇跡について研究をする者じゃと前に話したじゃろう。森が動いたという情報を聞いて、それがどういった類の奇跡なのか、ある程度の検討は付いておる。そして、国がどういう対策を取るかも、まあおぬしの反応を見ればな」
どうやら、クロガネを動く森への対策に使うという話は、先程までのジンとの話で推測した物らしい。
(この爺さんと話す場合は、話す内容に注意する必要があるな)
想像以上に老人の観察眼は鋭い。だからだろうか。老人が話すと言っていた、森への対策方法。ジンはそれを聞いてみたくなった。
「あんたなら、有効な森への対策を考えられるって話か?」
「考えを現実に変えるのも、実際に実行するのも、あんたがたがすることじゃ。儂ができることと言ったら、ほれ、研究者じゃから」
自分の頭を指差す老人。知識だけを貸すと言うことだ。奇跡を研究する者と聞いて、怪しい相手だとはまだ思う。だが、既に怪しさよりも興味が上回っていた。
「森をゴーレムで防ぐのは成功しないと言ったな。その根拠は?」
「森が動いたということは、動かすための知恵がついているということ。壁を目の前に置いたところで、避けられるのがオチじゃ」
「避けてくれたら、それだけ時間が稼げるというのがこっちの考えだ」
「時間を稼いだ後、どうなる? 動く森をどうにかできるのか? 言っておくが、森は恐らく再び町へ向かうぞ?」
「それはどうしてだ」
老人は、森が町を狙っていると考えている。その根拠はどこにあるのだろう。
「動く森は一体何を目指して動いているか。少し考えれば簡単じゃ。生物が動く理由。その大半は、飯のためじゃよ」
「飯? 木は光や水があれば生きて行けるだろう」
「動かなければの話じゃな。木はそれだけの栄養で生きて行けるのは、身体の活動を最小限に抑えているからじゃ。あちこちへ動き回れる様になった木は、その分、必要とする栄養も過剰に必要となる。例えば、同じく動く動物なら、丁度良い栄養となるじゃろうな」
森が動いた後には、骨になった動物が残ると聞いた。森が動物を食べるのでは無いかと言う話も。つまりそれは、森が動物を喰って栄養に変えているということか。
「周囲の動物じゃあ足りなくて、人間を狙いだしたってことか?」
「近くに存在する動物が相手なら狙うかもしれんが、わざわざ遠方の町を襲うのは別の物が目的かもしれなんがな」
「別の? それは?」
「なんじゃ、聞いてばかりじゃのう。良く考えてみろ。人間が住む土地というのはどういう場所じゃ。どうして、このハイジャングに人が集まっておる」
老人の言葉は間違っている。人が集まっているのでは無く、この土地で人が増えたから町なのだ。では何故増えたのか、それは、ここでそれだけの人が住めるからだ。
「人が多く住める肥沃な土地………。そうか、動く森が狙っているのは、ハイジャングの土地そのものか!」
餌を求めて木々は動く。動くと言っても木は木としての栄養を得る事、感じる事もできる。ブッグパレス山の土地より、ずっと自分達が生きることに適した土地へと移動を続けた。結果、人間の生存圏とそれは重なった。
「森の狙いが明確にこの土地じゃとすると、目の前に壁を置いたところで、森はそれを避けるか無理矢理通るかしてくるじゃろう。時間稼ぎになるが、稼いだ後にどうするかを考えなければ、ジリ貧じゃぞ」
老人の言う通りだ。アイルーツ国は、クロガネを動かすことでとりあえず時間稼ぎができると考えているが、目の前にそういう有効な手段を思い付いたことで、次の策を考え出せずにいる。有効な手段とやらが、一時しのぎでしか無いというのに。
「そんな森に対して、できることがあるんだろ?」
「そうじゃな。取引と行こう」
「この場は見逃せってことだろ? 爺さんの勝ちだ。ここで俺は爺さんを見なかった」
ジンの言葉に老人はニヤリと笑う。取引成立ということだ。
「ならば聞かせよう。動く森の奇跡。それがどういうものかをな」
老人は途端に饒舌となる。
動く森と言っても、何もかもが変わったわけでは無いらしい。木々に起こった奇跡とは、知能の増加と動ける様になること。この二つである。
「知能云々に関しても、動ける様になる奇跡の副産物と言えるかもしれんな。体を十分動かすには、植物の鈍重な思考では不可能じゃから」
植物に起こった奇跡は動物並みに体を動かせるようになるということ。他の部分は植物と殆ど変り無いと予想できるらしい。
「動物並みに動ける植物ってだけでも、随分とした変化に思えるけどな」
「そりゃあそうじゃ。他の動物をたちまち骨に変えるくらいの捕食活動を行えるというのも、極端な変化じゃしな。ただし、それもまた動くためのもの」
動くにはそれだけエネルギーがいる。それを補給するためには、栄養を摂取する対象を増やすことも必要だが、それを摂取するための機関が必要になってくる。根や枝がそれに変わっている可能もあると老人は話す。
「何にせよ、生身のまま近づくのは危険じゃし、森の中に入るのは胃の中に入るのと同じ行為じゃ。つまり、森をどうにかするには、まず距離を開いた状態でなければならん」
「近づかなければ、どうしようも無いんじゃないか? 火矢でも撃つか? 相手が森なら結構燃えそうだ」
「生きている木はそうそう燃えんよ。しかも木、一本一本が動くんじゃ。一本の木が燃えたとしても、他が避ければ意味が無い」
「それもそうか」
森の中はジメジメとしているのが常だ。動く森も同様かもしれない。ならば、火の効果は薄いだろう。
「じゃあどうするんだ。対処方法なんて無いだろうに」
ジンが考えても分からない物を、老人は研究者という立場だけで分かるのだろうか。
「いいや。ある。奇跡というのは起これば脅威となるが、脅威への対処方法は同じく奇跡の中にこそあるのじゃ。鍵は変化した植物の体」
動ける様になった森の体こそ、弱点と成り得るのだと老人は話す。
「森は動ける様になるため、周囲の栄養を奪い取る体になった。一方で、変わった体への経験は殆ど無い状態だと言える。わかるかの? 今、森はその体を動かしているが、それは森が危険を冒しているのと同じことじゃと言うことに」
「…………そういうことか」
老人の話を聞く内に、漸く老人が考えている森への対処方法が、ジンにも理解できた。もし、老人が考えている通りに事を運ぶことができれば、動く森をなんとかできるかもしれない。
「気が付いたのなら、動くのは早い方が良いのう。これを行うには、適した場所、いや、土地と言うべきか。それとタイミングが重要となる。無為に時間を過ごせば、それら二つを失うことになりかねん」
老人はジンに行動を促してくる。まるで、目の前で起こっている物事について、大半が予想できることとでも思っているかの様だ。
「爺さん。あんた一体、本当に何者だ? 単なる研究者が、そこまで色々と考え付くもんか?」
「なあに、これでも長く生きとる身じゃからして、研究対象以外の物もよう知っとるというだけじゃよ」
そうは言うが、老人の正体について、もう少し言及したくある。ただ、あまり話を続けていると、老人の言う通り無駄な時間を過ごしてしまうかもしれない。
自分の興味よりも、ジンは動く森をどうするかということに集中する。基本的に仕事人なのだ。
「深くは聞かないよ。ありがとうな、爺さん。もしかしたら、町を救った英雄かもしれないぜ?」
「馬鹿を言え。そういう台詞を吐くなら、森をどうにかしてからにせんか」
憎まれ口を叩く老人を無視して、ジンは魔奇対の執務室へと走る。自分の案がそのまま、森への対策を行っている上層部に届くとは思えない。
なので、そういう話を通す役目であるフライ室長に、ジンは森への対策方法を伝えようと考えていた。フライ室長は執務室にまだ居るだろうか。居なければ、探す必要がある。急がなければ………。
そんな風に慌てて走り去るジンの背中を見届けた後、老人は独り言を口にする。
「まあ、後始末はこれくらいで良いか」
老人の顔には表情が無かった。淡々と、するべきことをしただけ。人の表情を読み取ることに優れた人間が居たとして、そんな感情が辛うじて分かる程度の物でしかなかった。
ジンが執務室に辿り着いた時、フライ室長は残念ながらそこには居なかった。そこは不運だろう。森への対策方法を伝えるべき相手がいないのだ。また別の場所を探す必要がある。
ただ、執務室には幸運なのか不運なのか分からぬ相手が室長に代わりに存在していた。ミラナ・アイルーツ女王。魔奇対という組織の生みの親とも言える相手だ。
「あら、急いでどうかしたのかしら。残念ながら室長さんはお留守よ?」
代理のつもりなのか知らないが、フライ室長の席に座ったまま、ミラナ女王が話し掛けてくる。
「どこにいるか知りませんか? ちょっと、早急に伝えたいことがありまして」
本来なら恐縮して、すぐにでも腰を折らなければならない相手なのだが、これまで何度か会ったことがあり、公式の場で無ければいちいち礼儀を使う必要が無いとジンは既に理解していた。
ミラナ女王の方も、ジンの無礼に反応したりはしない。むしろ、場所を選ばずいちいち形式張られることにこそ、彼女は不快さを感じるタイプである。
「知ってはいるけれど、あなたが行っても無駄かもしれないわ。今は町に迫る森への対策会議が開かれている最中なの。部外者は立ち入り禁止」
「女王陛下はその会議に出席しなくても良いんですか?」
「退屈なのよ。どうせ最終的な許可さえ出せば、私が出る必要なんてないのだから、終わるまでここで待機するつもり」
だから暇そうに椅子をギシギシと揺らしながらダレているのか。着ている服が派手なドレスである分、その姿はよりいっそうにだらしなく見えた。
「ああーっと。なんとかその会議に入れないもんですかね。せめて室長とだけ話ができれば良いんで」
森への対策会議になのだから、それに対する意見程度なら、下っ端の自分でも発言権がある様な気もする。ミラナ女王には会議室の場所を聞くだけで済むかもしれない。
「駄目よ」
何故か話の前段階から断られる。そんなに重要な会議を開いているのだろうか。
「俺が入っちゃ駄目な会議ってことですか」
「いいえ? 多分、森について伝えたいことがあるって話したら、すぐに入れてくれるんじゃあないかしら」
「じゃあ何が駄目で?」
「私にまず伝えたいこととやらを話しなさい。退屈だってさっき言ったでしょう?」
どうにも暇つぶしがてら、ジンの話を聞きたいようだ。急ぎの用であるのは真っ先に言っているはずだが。
「なんでわざわざ女王陛下に?」
「私は女王。あなたは臨時騎士とは言え平民。それは理解しているわよね。あら、ところで私の言うことを聞いてくれない平民がいるみたいなの。どうしたら良いのかしら。これって明確に法律違反よね?」
「わかりましたよ。言えば良いんでしょ? 言えば」
女王でなければ怒鳴っているとこであるが、そこはグッと堪えるのが臨時騎士と言う職の仕事だろう。
ジンは森への対策案をミラナ女王へと伝える。話の途中で茶々を入れず、黙って頷くミラナ女王は、まあ綺麗だった。王族らしく丹精な顔立ちである上、ジンの好みの年齢層でもある。
(黙ってさえいれば、こうやって話していて楽しい相手なんだが………)
そんな言葉を口にすれば、人形にでも話していろと睨み付けられる相手なので、勿論心の中で留めて置く。
そうしてジンがすべての内容を話し終えた後、女王はどこか満足した様な顔をする。丁度良い暇つぶしになったということか。
「採用よ」
「は?」
「採用と言ったの。あなたの話、対策会議の内容より面白かったわ。それで行きましょう。さっそく、国防騎士団全体にも伝えるわ。ハイジャング警備隊も協力してくれるかしら。してくれるわよね?」
こちらに尋ねられても困る。ミラナ女王はどうにもやる気に溢れているらしく、椅子から立ち上がり、踊る様に周囲をうろつき始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください。まさか、今の話だけで、今後の方針を決めたってわけじゃあ無いでしょうね?」
「その通りよ! うだうだ話し合ったって、森の侵攻を止めるだけで、根本的になんとかしようって話がまったく出て来なかったのよ。そこに来て、あなたのその話でしょ? そりゃあ、それに乗るしか無いってわけ」
そう言えばこういう女だったなとジンは考え直した。王族というのはこういう人種だ。さらに輪をかけて彼女はそうなのだ。
何事も即断即決。自分にとって有益な物事があれば、周囲の反対を押し切るどころか無かったことにして突き進む。王族としての適性はバッチリといったところだろう。
(ま、まあ、今回に限っては、俺にとってもそれは有利に働いているんだろうが………)
森への対策案。ミラナ女王の口ぶりから察するに、建設的な案は出ていなかった様だ。であれば、ジンが持って来た対策案で早急に動くことが理想であろうし、室長がそのために動くより、ミラナ女王直々の命令で進む方が、事態は早く動くことだろう。
「つまり、俺の案を女王陛下が実行に移してくれるってことで良いんですね?」
「そうね。そういうことで良いわよ。ただ………」
今まで上機嫌だったミラナ女王が、少し困った表情をする。顎に手を置いて考え事でもしているかの様だ。
「ただ、なんです?」
「あなたの案って、おとりが必要になるわよね? 危険な森に近づき、その進行方向をある程度操る人間。絶対に命懸けの仕事になるだろうけれど」
どうやらミラナ女王は、誰かを犠牲にするかもしれない作戦に、少し抵抗を感じているらしい。まあ、様子を見る限り、暫く待ってさえいれば、そんな抵抗もどこ吹く風で作戦を決行するはずだ。しかし今はその暫くの時間さえ惜しい。
「誰かが危険な目に遭うっていうのは、こういう作戦じゃあ当たり前の話でしょうに。いちいち悩む必要は無いはずです。普通、危険な目を買って出る人間と言えば、そんな作戦を立てた当事者が適当なんですから」
「あらそう? なら、私が罪悪感を覚える必要なんて無いわけね?」
森へ対抗するには、森と直接相対する人間が必要だ。そうであることが分かっているのなら、自分自身がやれば良い。簡単な話であった。
作戦の決行日は、ミラナ女王と話した翌朝となる。展開の早さに驚くジンであったが、まあ女王のやることだからと納得することにした。
納得できていないのは、女王抜きで長々と会議をし続けた面々だろう。その内の一人、国防騎士団の師団長であるダストは、ハイジャングの町を西側に進んだ草原地帯で、ジンに愚痴を零していた。
「まったく。嫌になるねえ。こっちはこっちなりに必死で色々と考えているってのにさ、結局最後は上が押し通した話で納まるんだ」
「はは。随分と不機嫌そうですね。ダストさん」
ダストが不機嫌になっているのは、対策会議のメンバーだと言うのに、作戦内容を聞いたのが今朝のことだったかららしい。
ミラナ女王は昨日の内に、各組織へ作戦案を呑む様に根回しをしていたのであるが、それは組織のトップに対してであり、中間管理職に当たる師団長のダストへ正式に命令が下るのは、今朝まで時間が掛かったそうだ。
「命令なら従うがね。士気は上下関係だけではどうにもならんよ」
ダストが率いる騎士団員達は、概ねやる気がそれほど感じられない。女王陛下の命令とは言え、突拍子も無く作戦を決行されては、士気も下がると言う物だ。
作戦内容自体がどれほど正当な物だったとしても、それをあっさりと呑み込める人間はそうそういない。
「とは言え、今回の作戦しか、森を倒せる具体的な物は無かったんでしょう?」
他に有効な作戦があり、それが対策会議で上ったのであれば反対する権利はあるものの、それが無い以上、文句を言うしか仕様が無い。
「そうだな。だからふがいない。おとりが必要な作戦なら、本来はうちから人員を出すべきなんだろうが………」
ダストはジンを見る。ジンは既に戦闘態勢と言える鎧姿であり、これからこの土地で、森と一人で対峙する予定だった。
「馬がビビったんじゃあ仕様が無い。作戦は、できるだけ森を引きつけながら逃げる必要がある。森が本気で動いた時の侵攻速度は馬と同程度だから、馬無しじゃあ無理でしょうに」
馬が使えないとなると、馬より早く走れる人間が必要になる。そんな人間、ジン以外にはいないだろう。
「あーあ。有能だよお前さんは。無理にでも内でひっぱって置けば良かったかな」
苛立ちを誤魔化す様に、頭を掻きむしるダスト。
「騎士団って、現在進行形で奇跡を持ってる人間を雇うことがありましたっけ?」
奇跡を所有する人間は基本的に蔑みの目で見られる。人は自分とは違う人間を嫌う。などと言ったご立派な理由では無く、奇跡とは基本的に危険な存在というのが人々に認識であり、奇跡を所有する人間とは、刃物をぶら下げてうろついてる不審者と同じ扱いになってしまうわけだ。
当然、団員の身元が確かであることが第一条件である国防騎士団に、奇跡の所有者が成れるとは思えない。
「うちだって、奇跡への対策専門の部署はあるさ。今回の作戦には不参加だけどな………」
初耳であった。これでも国防騎士団員とはそれなりに付き合いがあるのだが、どうにも内密の話に思える。
「そんなもん、俺に話して大丈夫なんですか?」
「あの巨大ゴーレムの活躍もあって、このままじゃあ、魔奇対が大々的に奇跡専門の機関だと認められる状況だろう? 奇跡対策専門の部署ってのは、うちとしては極秘のつもりだったんだが、近々、公開することになるだろうな。しかも配属されている人員の大半は、お前と同じ奇跡の所有者だ」
そういう集団が存在すると、噂でしか聞いたことが無かったが、ダストの話が本当であるならば、そういう部署は魔奇対のライバルとなるだろう。仕事内容が被りまくっている。
「世の中変わって行くねえ。ちょっと前までは、うちの方であんな巨大ゴーレムを扱うなんて、考えもしなかったんですが」
「そりゃあこっちの台詞さ。そういやあ、そのゴーレムを動かす女の子ってのが、お前の後輩なんだろう? 一度会って見たかったんだが、近くにいないのか?」
「クロガネを動かす準備をしてますよ。あっちもあっちで、森退治に必要な要素なんです」
ジンがおとりになる前に、森に対して幾つか行わなければならないことがある。その一つには、クロガネを動かすという物もある。
「元々、アレを壁にして森の侵攻を止めるつもりだったんだがなあ。今回は違うのか?」
「いえ、一緒のはずですよ。ただ、単なる壁としては終わらないってだけでね」
動く壁だけでは終わらせない。アレには信頼する後輩が乗っているのだ。存分に活躍して貰おう。