第三話 『動く森、動く壁』
移動する森の報告がアイルーツ国へ入ったのは、今から5時間程前のことだ。中でも、もっとも早くその報告を聞いたのは、魔奇対室長のフライ・ラッドである。
報告を持ってきたのが彼直属の部下だったからこその状況だが、報告を聞いて、彼はすぐに報告内容に関係してくるだろう組織達にその情報を流した。事態は急を要する。フライはそう考えたのだ。
結果、それらの組織の長や幹部が集まる会議が開かれることとなった。今日言って今日開くというのだから、中々に迅速な対応だとフライは考える。
(最終的に迅速な結果になるかどうかは、この会議の内容次第か………)
会議はハイジャング中央にある庁舎で開かれた。部屋に置かれた円卓を囲み、壮年や中年の男達が顔を合わせる姿は暑苦しい光景であるもの、自分はその光景の一部であり、齢という物を否応無く感じさせられてしまう。
「まずは森が動いたという報告その物の真偽について、話し合いたいものですが」
第一に発言したのは、ハイジャング警備隊の長であるボーガード・ガルツという男だ。老人に近い年齢であり、白髪が目立つ。町の名士であるが貴族でも騎士でも無い。警備隊自体が公的機関でなく、町の有志による私設組織という色合いが強いため、彼も公人側というより、町民側の人間としてここに立っている。
となると、あきらかに公人側である魔奇対の情報そのものを疑っているのだろう。
「私としては、部下の言葉を信じるしかありませんな。ブラックドラゴンが現れたと思しき、ブッグパレス山の木々が、突然、移動を開始した。それが私の持つすべての情報です」
自分が持ってきた報告が嘘かどうかと聞かれれば、そう答えるしかないフライ。事実、情報の再確認を行う時間など無く、それだけの情報で集まって来たのはこの場にいる皆である。
「騎士団も確認のための早馬を出している。直に確認情報が届くだろう。何も無ければそれで良し。魔奇対の責任を問うだけで終わる。問題は、真実であった場合だ」
国防騎士団の師団長、ダストという男がフライに助け舟を出す。国防騎士団側は、その組織規模から、さすがにトップを出すということはせず、幹部の一人である師団長を会議に出席させた。
(今のところは幸運が転がって来ている……か)
フライは国防騎士団師団長のダストとは親しい間柄である。ほぼ同時期に国の仕事を任された存在で、仕事上の接点も多くある。フライの情報に対して、一定の信頼を持っていてくれているというのも心強い。
「真実であった場合、町に被害が出ると師団長殿は考えているわけかね?」
次に発言するのは、貴族のアルシュ・ウーナという老人だ。ハイジャング周辺に領地を持つ貴族の代表として来ているらしく、もし森の侵攻が真実であった場合は、彼らも被害を受けることになるだろう。
「その通りでしょう。なにせ、先日も起こった奇跡によって町は多大な被害を受けた。今回は違うなどとは言えない」
そしてその被害によって面子を潰されたのが、ここに集まる面々だ。町や土地を守る義務を持つ者達が会議に集まっており、尚且つ、ブラックドラゴンの件ではそれを十分に実行できなかった集団でもある。
ブラックドラゴンの件で、何がしか利益を受けた存在と言えば、魔奇対くらいだろうとフライは考える。
ドラゴンを直接的に倒したのは魔奇対であり、結果、その組織としての権限を広げることになった。巨大ゴーレムのクロガネを管理する仕事などがその例だ。
さて、そういう連中が集まった会議である以上、最終的な矛先はフライに向かう。損をしている奴より得をしている奴を問い詰めた方が、気分が良いのだから。
「あのクロガネというゴーレム。あれで森をどうにかできんものなのか。森なんぞを一蹴りにできる程の大きさなのだろう?」
貴族のアルシュが気軽に言ってくる。まあ、彼にとってはそれなりに深刻な物言いなのだろうが。
「巨大なゴーレムと言っても、相手は森です。拳や足蹴りでどうにかできるものかは怪しい話ですな。また、侵攻してくる森についてもまだ情報不足のままでして、本当にハイジャングに向かっているのかどうかも………」
ネックなのはそこだ。急遽開いた会議であるため、情報がまったく不足している。実を言えば、森が動いたという情報を、もっとも不安に思っているのがフライであった。
部下が持ってきた情報を疑うわけではないが、自分の目で見ていない以上、それが真実なのかと聞かれれば、口ではどうとでも言えるものの、内心では自信を持てずにいる。
「ならばもっと森の情報を集めてから、この会議を開くべきでは無かったのでは? 森が動いていると伝えられて、それが本当に危険なのかどうかもわからないとなれば、我々はどうして良いやら」
警備団長のボーガードが苦笑いを浮かべる。彼の指摘はもっともだとフライは思う。部下にはできればもう少し森の観察を行って貰いたかったが、そうもいかなかったらしい。森は凶暴で、少数での調査は中々に難しいとのこと。
ならばフライ自身がどうしてこの会議を早急に開いたかと言えば、それなりに事情がある。
「私としては、奇跡に対応できる体制を早めに作って起きたかったと言うのもあります。まさか、危険だと判明してから、悠長にこういう会議を開くとはいきますまい。時間さえあれば、次の情報は入ってくる。それを判断し、指示を出すのは我々の仕事だ。そういった指示系統は早めに作る必要があるでしょう。ドラゴン襲撃の様な事件を、もう一度起こすことは絶対に避けなければならない」
再びハイジャングに大きな被害が出る奇跡が起これば、町が本当に駄目になってしまうかもしれない。そういう事情もあり、フライは時期尚早とも思える会議を開いたわけだ。
後、この会議が今後、奇跡による危機が発生する度に開かれる様になれば、そこに参加する魔奇対の組織としての地位を上げることができるのではという望みもある。
「つまり、今回の会議はこれっきりの物で無く、今後も定期的に開く物だと?」
貴族のアルシュ・ウーナが露骨に嫌な顔をする。彼だけは特定の組織の人間で無く、複数人存在する貴族から押し付けられた形でここに来ている。今後も会議が開かれるとなれば、苦労が増えると考えているのかもしれない。
「少なくとも、森の侵攻が何らかの形で解決するまでは、続けて行く物だと考えていますが?」
そして、できれば終わった後も会議が続く様にしたいとも思う。そのためには、森の侵攻自体を無事に解決しなければならない。
様々な企みを張り巡らせようとするフライ。他の者も同様かもしれない。そんな権謀策術渦巻く会議室に、新たにやって来る者がいた。
ノックの後に入って来た人間は、若い青年であり、着ている制服から国防騎士団の人間だとわかった。
「失礼します!」
格式ばった敬礼をしてから、青年は自身の上司であるダストへ近づき、彼の耳元へ何かを伝える。
小声なので、全体の内容は良くわからなかったが、どうにも会議の主題である侵攻する森についてのことらしい。
ダストは話を聞きつつ何度か頷いた後、会議に出席している面々に顔を向けた。
「皆さん。国防騎士団側も確認が取れました。ブッグパレス山より現れた移動する森は、山を離れ、ハイジャング方面へ向かっているとのことです」
ダストの言葉が全員に聞こえると同時に、会議の場が緊張感に包まれる。これまで、危険かどうかも分からぬ話だったものが、明確な脅威へと変わったからだった。
ジン達が動く森を発見してから一日が経った。既にアイルーツ国は本格的な森の調査を行っており、ジン達ではわからなかった幾つかの情報も手に入っている。
それらの情報は勿論、魔奇対にも入って来ており、町南門にあるクロガネ用のテント内でそれを聞いたジンは、やきもきしていた。
「動く速度は、俺達を追って来た時よりも随分と遅いらしいが、それでも着実にハイジャング方面へ向かっているらしい。規模は全体で300mはあるそうだ。300mだぞ? ブラックドラゴンよりもデカい」
「知ってますよ。一緒に聞いてたんですから。けど、大きさはどうしようも無いじゃないですか」
ジンは手に入れた情報を、カナと共有するために話し掛けるが、そもそもその情報を持ってきたのはフライ室長であり、その時はカナも一緒に居た。情報を共有すると言っても、すでにお互いが知っている状態なのだから、ただの雑談にしかならない。
「大きさどころか、なんでも生物を喰うらしい。通った後に、骨だけになった動物が多数見つかっているそうだ」
「どうやって食べてるんでしょうね。口らしき物は見つかりませんでしたけど………。町にやってくれば、その餌が人間になるでしょうから怖いですよね。あ、ワーグさん! 私、そろそろクロガネに乗りましょうか!」
どうにもジンの話を真剣に聞いてくれていない様子のカナ。彼女の興味はテント内のクロガネへと向かっている様だ。
「ああ、お嬢ちゃん! 装備の取り付けは終わったよ。テントの出入り口を開くから、その後、クロガネに乗ってくれ!」
クロガネの整備を行っているワーグがカナの言葉に答える。彼は仰向けの体勢なったクロガネの胸部に乗って、整備班全体の指揮をとっていた。
クロガネは仰向けになっているとは言え、そこに乗るとなると随分とした高さになるが、そこは慣れた物らしい。恐れた様子も無く、あちこちを歩き回っていた。
「しっかし、森の侵攻対策にこいつを動かすってのは分かるが、それ用の装備とやらは、どうにかならなかったのか?」
ジンはクロガネを見る。現在、クロガネは手足が外されている状態だ。その手足の代わりとなる物こそが、動く森への対策となる装備らしいのだが。
「0号装備って言う名前らしいですよ。なんだか格好よくありません?」
カナはそう言うが、ジンにはそうは思えなかった。
「その0号って名前の意味を考えてみたんだが、要するに―――」
「要するに、正式な装備じゃあ無いってことさ。というより、装備という言葉すらおこがましい」
話の途中でワーグが割り込んできた。どうやら整備班の仕事は一通り終わったらしいのだが、先ほどまでクロガネに乗っていたはずの彼が、今はジンのすぐそばにいるとは、大した身軽さである。
「なんでそんな物が動く森対策になるんだ?」
ジンの問いに、白髪混じり頭を掻いて、ワーグは答えた。
「この装備は、手足が付いている状態よりも速く動けるんだよ。森が動くわけだから、それを防ぐ役目のクロガネも、それなりの速さで動かなければならない……とのことらしいが」
ワーグも命令されている側であるため、クロガネの装備については納得しかねる部分があるらしい。
「正式な装備じゃないから0なんて番号が振られているということでしょうか? まあ、見ればそうは思いますけど………」
カナもクロガネを見る。その表情は御世辞にも良いとは言えない。不満はあるが、どうにも表現できないと言った顔だ。
「それと、クロガネの開発と並行して用意された物だからだな。このゴーレムは見ての通りデカブツだが、実際に運用する以上、あちこちの土地に移動させる必要がある。その度に魔法使いを乗せて歩かせたんじゃあ、非効率的だ。それを補うための物なんだよこれは。当初から用意されてた物で、尚且つ装備なんて物じゃあ無いから、1よりさらに前の0番だ」
魔法使いがクロガネを動かせば、たちまちその魔力を消費する。魔力量の才能があるカナですら、一度動かせば、2,3日は過剰な魔力消費による疲労に悩む程に大喰らいなゴーレムなのだ。ただの移動だけでそんな形になるのなら厄介このうえない。0号装備とは、それを解決するための装備なのだろう。
「わかるけどさ………。要は、本来はクロガネを寝かしたまま移動させるための物で、戦闘用の装備なんかじゃあ無いってことだろ?」
ジンは再びクロガネを見た。クロガネの手足は外されており、代わりとして、そこには巨大な歯車が設置されていた。
勿論、仰向けになった状態のままのクロガネを支え、馬力や人力。時には魔力によって動かすための物だ。ちなみに顔にあたる部分も付け替えられて、仰向けの状態だと言うのに、前方を向いていた。人間の体で表現するなら、上を向いて、さらに180度頭を回転させた状態だろうか。かなりの不恰好である。
この恰好の方が手足を付けて動かすより、余程効率的にクロガネを動かせるというのはわかるが、どう考えても戦うための物では無かった。
「その通りだよ。ただ、うちらのボスは、今回はこの装備でクロガネを運用すると言いやがるんだ」
不機嫌さを隠そうともしないワーグ。鼻息も荒い。
「言われてすぐに換装できたのは凄いと思います。これ、確か私がクロガネに乗って魔力を流せば、それだけで動かせるんですよね?」
カナはせめて場の空気を良くしようと、整備班達を褒める。彼女なりの精一杯の努力なのだろう。
「元々は、お嬢ちゃんがクロガネを動かす訓練もしたいって話から、用意したもんなんだがなあ。手足の装備は動かせば損耗が激しいが、手足の代わりに歯車を使えば、損耗を抑えつつ、クロガネを動かす訓練もできるからな」
断じて戦闘行為のために作った物では無いとのこと。そういった事前準備のおかげで、カナの魔力だけでクロガネをある程度の速さで走らせることができるそうなのだが、それだけである。パンチもキックもできない。動く壁だ。
「あー。つまり室長は、動く森に対して、動く壁で対応するつもりなんだな。はは。冗談みたいな話だ」
これではワーグが怒るのも仕方が無い。クロガネは長い年月と桁違いの資金と資源を使って作られた存在なのだと言うのに、今は単なる動く壁として使われる。これで本当に役に立たないのであれば、周囲に当たり散らすこともできただろうが………。
「結構、有効な手段だよなあ。まだ町に森が来ていない段階で、クロガネが壁として移動することで、森の進行を止めたりズラしたりできる」
普通、壁があれば避けようとするし、無理矢理通ろうとすれば時間が掛る。さらに壁自体が動くのだから、かなり有機的な防衛行動が取れるはずだ。
「だから文句を言いつつ、整備作業を進めてるってわけだ。お嬢ちゃん。そろそろクロガネに乗ってくれ。手足を動かすよりは簡単だろうが、それでも初めに動かすのは実戦より訓練の方が良い」
ドラゴンが来襲した時のことを言っているのだろう。あの時のカナは、初めてクロガネに乗り、すぐにブラックドラゴンと戦わなければいけなかった。その時と比べれば、今回は随分とマシかもしれない。
「森が町に最接近するまで、国防騎士団の試算では、今日から三日程掛かるそうだ。まさか最接近してから対策ってわけでも無いだろうから、その一日前。今日から二日後くらいが本番だな。それまで、ちゃんと動ける様にしておいた方が良い」
ジンは自分ができる限りの助言をカナに与える。クロガネを動かすことはカナにしかできないため、そっちに関してはまったくだが、ジンなりに状況を整理した話は、多少なりとも助けになるはずである。
「わかりました。あと、訓練でバテちゃったら元も子も無いので、程々にしておくつもりです。ジン先輩はその間、どうするんですか?」
「俺か? まあ、多分、また国防騎士団の奴らと共同で森対策をすることになると思う。まさかクロガネと一緒に動くわけにもいかないしな」
手持ち無沙汰になるのは勘弁して欲しいところである。襲い来る不安に怯えるより、何がしかで体を動かしたいと思うのがジンの性質だった。
恐らく、次の指示があるとすれば魔奇対の執務室だろうとジンは考え、テントを出た。そのテントを出てすぐ近くだろうか。テント周囲を動き回る不審な影を見かけたジンは、注意も兼ねて話し掛けてみることにした。その影が見たことのある人間だったからだ。
「おい、爺さん。こんなところで何してるんだ。ここは一般人立ち入り禁止だぞ」
影の正体は老人である。名前も立場も知らないが、ジンは以前、ドラゴン襲来によって廃墟となったハイジャング西部にて、この老人と話したことがあった。
「うん? おお、誰かと思えば、前に会った若いのでは無いか。なんじゃおぬし、ここの関係者か」
老人は驚いた様子でジンを見る。そんな顔をしたいのはこっちの方だ。まさか顔見知りが不法侵入などと。
「おいおい、爺さん。俺が誰かと聞く前に、あそこに紐で引いたバリケードがあっただろう。なんで越えてきた」
「あれはバリケードじゃったのか。いや、失礼。どう考えてもあれで人を止められそうに無いから、単なる障害物だと思ってな」
確かに紐を垂らすだけで進入禁止と表現するのは無理があるだろう。それを示す看板を用意してなければの話だが。
「ちゃーんとか書いてあったはずだけどな。ここから先は国有地。無断立ち入り禁止ってな」
老人だろうと、犯罪者であれば容赦はしない。顔見知りと言っても一度だけの相手だから尚更だ。
「そうじゃったかのう。この齢になると目が良く見えんでな」
誤魔化そうとするが嘘がバレバレだ。少し距離を開けた状態でジンと以前にあったことがあると判断できたのだから、それほど目が悪くは無いのだろうし、ボケてもいないはずだ。
「言いから、爺さん。こっちに来い。不法侵入者に説教をするための拘留所があるんだ。そのまま警備隊に届けることもできる優れものでな」
「い、いやいや。待て。待ってくれ。無断に入ったことは謝るが、テントを見ていただけじゃ。中はなーんも見とりゃあせん」
漸く、不法行為を働いたことを認める老人。さて、どう対応すべきか。
「怪しいな。じゃあなんでわざわざここに入ってきた」
「ま、まあ。色々とな。ところで話が変わるが、あのテントの中にはやはり噂通り、巨大ゴーレムが入っているのか」
「話が全然変わってねえじゃねーか! つまり何か、あのテントの中に何があるか、噂を聞きつけて、興味本位で侵入したのか!?」
老人を怒鳴りつけるジン。もしジンの考えが正しければ、しっかりと注意をしなければならない相手である。
「そりゃあ気になるじゃろうて。廃墟にある巨大ドラゴンの死体を作り出したのが、同じく巨大なゴーレムで、それがここにあると聞けば、一目見たくもなる」
老人の性格が少しだが分かりかけてきた。自分の興味や好奇心を抑えられないタイプだ。研究者だと言っていたが、嘘では無いのかもしれない。研究対象に対して、貪欲に知識を欲する人間なのだ。
「何にせよ犯罪だ。警備隊に渡されるのが良いか? それとも拘置所に放り込まれる方を選ぶか?」
「どっちも遠慮したいのじゃが………」
脅すのは大切なことだ。テントの周囲に鉄柵を用意する予算が無い以上、入ると怖いことがあるとしっかり伝えることが重要なのだ。
「ったく。本気で見学したいのなら、国へちゃんと申請しろよ。爺さんがちゃんとした研究者なら、そういう許可だって下りるだろうに。こっちだって忙しいんだ」
「許可のう。中々にそれも難しいが………。それにしても、忙しいとは何のことじゃ? もしかしてアレか。森が迫ってきているとか言う」
老人は動く森について知っているらしい。奇跡による災害が起こる可能性もあるから、ハイジャング住民には避難準備をする様にとのお達しが既に国から出ているため、知っていてもおかしくは無い。
「警備隊にでも聞いたのか? そうだよ。俺はその森をなんとかしなきゃならない立場の人間でね。忙しいんだ。だからさっさと爺さんの処遇を決める必要がある」
本当に警備隊に引き渡してしまおうか。そうすれば、いちいち細かいことに悩まなくて済む。
「待ってくれ。そうじゃ、取引きせんか? お前が望む話を聞かせてやろう。その代わり、儂を見逃すということで」
「違法取引を持ちかけたな? さらに罪状が重くなった」
面倒くさい老人の相手は金輪際しないで置こうとジンは心に誓う。
「じゃから待てと言っとるじゃろう! 内容をまず聞け、若いの。おぬし、町に迫ってくる森の対処方について、知りたくは無いのか?」
「なんだって?」
聞き返すジン。聞こえなかったのではない。まさか老人からその様な言葉が返ってくるなど、思いもしていなかったのだ。