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訳のわからない敵認定

「ねえ」


 そこへ、村山さんが声を掛けてきた。僕がそちらへ視線をやると――


「彩水とは、どういう関係?」


 と、敵意の眼差しで僕を射抜く彼女の姿。

 え、ちょっと待って。何でそんな表情を?


「え、関係……って?」

「だから、ずいぶんと親しいみたいだけど、どういう関係?」


 ずいっ、詰問するように迫ってくる。

 僕は反射的に身を退いた。それに合わせ、村山さんは距離を詰める。


「名前も呼びつけだし、ずいぶんと頼られている感じだし」

「……えっと」


 僕は視線を逸らしながら、咄嗟にどう返そうか迷った。

 友人、というのは確かにそうだが、小さい頃から一緒にいた身としては、その言葉にも違和感がある。


「……幼馴染、かな」


 無難だと思われる答えを、返した。すると、彼女の顔つきが先ほど以上に険しくなる。


「どのくらいからの知り合い?」

「え……幼稚園からだけど」

「私は中学に入って彩水を知ったけど、何で今まで私は見なかったの?」

「急に疎遠になったからだよ。原因はよくわからない」


 返答に、なぜか村山さんは呆然とした。僕は訳が分からず首を傾げるしかない。


 だが、彼女の態度からしてあまり良い話題ではないだろうと推察し、とりあえず距離を取った。沈黙し、事の推移を見守る。


「……そう」


 彼女は少ししてから短く、呟いた。何だろうと僕が思っていると――突如彼女は右手を向けてきた。


「へ?」


 声を上げた直後、いきなり体が浮いた。同時に、後方にすっ飛ばされる。


「いっ!?」


 次の瞬間、リビングの床に背中から叩きつけられた。

 痛みなかったが、衝撃が背筋に走り――すぐに、立ち上がる。


「む、村山さん。一体何を……!?」

「ふっふっふ……」


 村山さん目は、どことなく僕を獲物と見定めるようなもの。加えて狂気に満ちた笑みを見せ、僕ははっきりと恐怖を覚える。


「あ、あの……何を……?」

「とうとう見つけた……私の、最大の敵を」

「え、それは、どういう――?」


 聞き返そうとする――しかし、彼女が腕をかざす方が早かった。


「ちょ、ちょっと!」


 慌てて横に跳んだ。立っていた場所の背後の壁が、ドン、と音を立てて凹む。


「い、家……壊れるよ……!?」

「構うもんか! そんなの!」


 叫びながら、さらに腕をかざす。弾丸のような――衝撃波がこちらに迫り、僕はさらに横へ跳んだ。リビングの壁に衝突し、どんどん形が変わっていく。


「ちょ、ちょっと待って、村山さん! 落ち着いて!」

「落ち着けないわよ! あんたが、あんたがぁ――!」


 錯乱状態に近い彼女に、僕は反論の機会すら与えらなかった。


 できることといえば、ひたすら攻撃を避け続けるだけ。その内の一発が僕の耳を掠め、後方の花瓶を叩き割る。背筋が凍り、顔がひきつる。

 そうした状況の中、村山さんはひたすら攻撃を加え、叫ぶ。


「あんたに、あんたに私の気持ちがわかるかぁぁぁぁ! 思い出の子の話をする度に顔を赤くするあの子を見る私の苦労がぁぁぁ! いつもそれを隣で延々と聞かされる私の絶望がぁぁぁぁ!」


 なんだか訳のわからないことを口走りながら、衝撃波を放ち続ける。僕は何一つ言い返せず、ひたすら攻撃を避けるしかない。だが、


「ちょ、ちょっと――!?」


 ふいに声が聞こえた。


 首を向けると、リビングに入ってきた彩水の姿があった。それに村山さんも反応したのか、攻撃がピタリと止まった。

 僕も合わせて停止し、周囲を見る。リビングは当然ながら無茶苦茶だった。


 家具の類は残らず衝撃波によって粉砕し、原型を留めていない。壁も穴だらけで、別の部屋へと貫通さえしている部分もある。入って来た時とは様相が大きく異なっており、もし馬鹿兄がいたならば「良いリフォームだな」と呟いたかもしれない。


 しかし彩水の場合は、部屋の惨状を見て絶句した。


「え……これ、は……?」

「ああ、大丈夫。心配しないで」


 対する村山さんは、さっきの怒りもなんのその。いきなり機嫌を戻し、部屋の様相とは打って変わって微笑んだ。


「なんだろう。ちょっとした発作みたいなものよ」


 確かに発作のような行動には違いなかったが――いや、やめよう。もしツッコミを入れたら、命が無いかもしれない。

 先ほどは完全に殺意を向けていた。余計なことを口走ったら、さらに衝撃波が飛んでくるかもしれない。下手に触れない方が賢明だろう。


「そ、そうなんだ」


 彩水は部屋と彼女を交互に見つつ、相槌を打った。もしかすると、彼女の少し強い眼力に、何も言えなくなったのかもしれない。

 沈黙が生じる。リビングで無事だったクーラーが、部屋を冷やそうと風を出す。その音を耳にしながら話し出すタイミングを窺う。


 いの一番に行動を起こすのは怖かったが、それでも話を進めるべきだと思い、意を決して口を開く。


「……それで、村山さん」


 慄然としながら彼女へ尋ねた。すると村山さんは僕に視線をやった。目の光は元に戻っていなかったが――彩水がいるせいか、僕の言葉に対し素直に応じた。


「ええ、家に行けばいいんだよね?」

「あ、うん。ただ、この光景はさすがに直した方がいいかな」


 なぜか僕が申し訳ない思いを抱きつつ、部屋を見回し告げる。


「……問題は、構造物に魔法が使えるか、だけど」


 言いながら、彩水に目をやる。彼女も惨状を見かねてか、杖を周囲に向けていた。


「えっと、この場合は部屋全体に杖を構えればいいのかな……」

「多分ね」


 僕は一番近い床のへこみを視線に捉えながら、彩水に応じた。


「部屋が直せるかわからないけど、いけることを祈ろう」


 僕の言葉に合わせ彩水は頷くと、ゆっくりと息を吐いて例の文言を告げる。

 それを横目で見ながら、なんでこんなことになったのだろうと考えた。


 隣には変な文言に口をぽかんと開けている村山さんの姿。だが僕の視線に気付いたか、すぐに表情を戻し、警戒を込めた眼差しを向けてくる。


「……何?」

「いや、何も」


 応じながら、僕はさっきの言動を思い出そうとする。

 なんだか重要なキーワードを喋っていた気がする――けど、ひどく疲れてしまい、それを頭の中で吟味する気も失せてしまっていた。

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