表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

残りの犠牲者と魔法について

 ひとまずおばさんは置いておいて、再び作戦会議を始める。椅子に座り直し、僕が最初に口を開く。


「とりあえず現状把握しようか。えっと彩水、静奈さんは?」

「お昼から、大学に行っているけど……夕方には帰ってくると思う」

「呼び戻せない?」

「お姉ちゃんだったら宗佑さんの仕業だって気付くだろうから、危なくなれば帰ってくると思うよ。それにお姉ちゃん普段、携帯電話は電源切っちゃってるし」


 携帯の意味がなさそうだけど、あえて触れないことにしよう。


「一応、掛けてみるけど」


 言うと、彩水はポケットから携帯電話を取り出し電話を掛ける。


「そこは念話とか使いたいところだな」

「兄さん、黙って」


 僕は兄さんを制止しながら反応を待つ。彩水はすぐにため息をついた。


「駄目みたい。やっぱり電源切られてる」

「そっか……となると、帰ってくるのを待つしかないと」

「うん」

「おーい、二人とも」


 会話をする僕らに、兄が割り込んできた。


「そんな悠長に語っている場合じゃないだろ? いつ何時襲われるかもしれないのに」

「……あのね」


 僕は兄へ向け、ため息混じりに答える。


「何の情報も知らされていないのに、いきなり戦うなんて真似、するはずがないよ」

「そうか? 好戦的な人なら何かやらかしそうだがな」


 兄はポケットから何かを取り出す。小さなメモ書きのようだ。


「それは?」

「いや、残りの薬はなんだったのか確認を」

「……頭が混乱して聞いていなかったけど、残りは何があるの?」


 ロクでもないのはわかっていたが、ひとまず訊いた。

 兄はにっこりと笑みを浮かべ、メモを読み上げた。


「あと残っているのは超能力者、サキュバス、魔王」

「……そう」


 どれもこれもがハズレのような気がする。しかも最後の魔王って何だ。


「サキュバスって、何?」


 ふいに彩水が首を傾げる。知らないらしい。とはいえ僕もゲームで出てくる敵キャラ程度しか知らないので、詳しいことは語れない。

 沈黙していると、兄が言葉を返した。


「えっと、男を誘惑し生気を奪う悪魔だ」


 ――兄は本来知識はないはずだが、そこだけは妙に正解な気がする。


 そして残るは魔王と超能力者――僕はふと、疑問が頭をよぎる。


「兄さん、選んだ構成がずいぶんカオスな気がするけど、何か理由があるの?」

「選んだ理由? 静奈さんからもらった資料から適当に選んだだけだが」


 元凶はもしかすると、静奈さんかもしれない。

 脱力感をはっきりと抱きながらも、話を進めるため彩水の友人の件を切り出す。


「じゃあ次だ。彩水の友達だけど……一体誰?」

玲香(れいか)ちゃん」

「苗字は?」

村山(むらやま)村山(むらやま)玲香(れいか)ちゃん」


 村山。それを聞いた僕は何度目かわからない嫌な予感を覚える。


「村山っていうと、あのサッカー部員の先輩思い出すけど」

「その人の妹だよ」

「マジか……」


 僕は頭を抱えた。彩水がそれを見て質問する。


「どうしたの?」

「いや、結構な人が変身している可能性があると思って」


 僕の頭に浮かんでいる人物は村山(むらやま)幸一(こういち)という一学年上の先輩。サッカー部所属で、中学三年生のためこの夏引退するはずの人物だが、これがとことんトラブルメーカーらしい。友人伝いにしか聞いていないが、サッカーではワンマンプレイばかりで、授業中も色々と騒動を起こすという、厄介な人物。


 彼がもし魔王とか――いや、考えるのはやめよう。大丈夫だと言い聞かせ、話を戻す。


「彩水、友人に電話掛けられる?」

「うん」


 承諾すると、彩水は友人へ電話を掛けた。しかし、


「こっちも駄目。電源が切られてる」

「家に行くしかないのかな」

「そうなるね」


 彩水の言葉に、僕はゆっくりと立ち上がった。


「不本意だけど、僕らが行くしかないね。案内して欲しいんだけど」

「う、うん……けど」


 彩水は頷くと、自分の服装を見た。


「これ、どうしよう?」

「着替えればいいんじゃないの?」

「できないの」


 答えに、僕は目をしばたたく。

 彼女はふいに左腕に着けられたブレスレットを外し、テーブルの上に置いた。彩水が手を離すと――ブレスレットが消え、いきなり彩水の手首に戻っていた。


「着替えようとしても、すぐに元通りになっちゃうの」


 なんて面倒な機能。これは多分、彩水の変化が体だけではなく服にも及んでいるためだと、なんとなく察した。


「さすがに、恥ずかしいよね」


 僕の言葉に、彩水ははっきりと頷いて見せた。だけどこの調子では、いつまでたっても解決しないのもまた事実。

 何か方法はないか、僕は考え――彩水が魔法少女という変化であるのを思い出す。


「そうだ、彩水。例えば魔法で透明になるとか、すればいいんじゃないかな」

「透明?」


 聞き返す彩水。僕は兄の方へ目をやると、尋ねる。


「兄さん。魔法少女って言うくらいだから、魔法は当然使えるんだよね?」

「当たり前だろ? なぜそんなことを訊く?」


 信用できないからだよ――! 心の中でそう叫んでみたが、声に出すのはぐっと堪え、兄へ続ける。


「どんな魔法が使えるの?」

「言ったことをその通りに変化させるようにしてあるが」

「言ったこと?」

「例えば家よ燃えろ! と言えば家が丸焦げになる」


 物騒極まりない。それでは迂闊に話もできないじゃないか。


「それ、かなり危険だけど……」

「無論、色々と条件がある。まず条件は彩水ちゃん本人がその効果を心から望んでいること。そして心に迷いがなく、澄み渡っていること。その二つが成立すれば何かを言うだけで、魔法が発動する……ああ、そうだ」


 兄は何かを思い出したのか、ポケットから別のメモを取り出した。


「もし魔法を誰かに使いたい場合は、相手にこう宣言しなければならない」


 そう言って、兄は彩水にメモを渡した。

 何か呪文のようなものか――そう思い見守っていると、彩水の顔が少し赤くなり、口をパクパクさせる。


「あ、あの……これ……」

「どうしたの?」


 僕が問うと、彩水は黙ってメモを渡した。文面を確認する。そこには――


『正義と平和をまき散らす、魔法少女アルティメットリーン参上! さあ! 黙って私に首を差し出しなさい!』


 ひどい文言が記されていた。色々とツッコむ場所があって、逆に何も言えなくなる。さらには、頭痛までしてきた。

 彩水はメモと兄を交互に見つつ、呟くように尋ねた。


「……こ、これ言うんですか?」

「うん」


 躊躇いがちに呟く彩水に、馬鹿兄は軽く答える。


「このセリフを言わないと、誰かに魔法は使えない」

「……ねえ、兄さん」


 僕はメモに目を落としながら、兄へ問い掛ける。


「もし味方である僕に魔法を使う場合でも、このセリフ言うの? これだと、僕が首を差し出すことになるんだけど」

「……おお、そういえば味方に使用することを、考えていなかったな」


 設定における、穴の部分らしい。僕は小さく肩をすくめつつ、話を進めるため彩水へ顔を向けた。


「えっと、彩水。とりあえず僕が実験体になるから試してみなよ」

「え……」


 彩水は逡巡する。けれど僕は構わず彼女の隣まで移動して、メモを差し出した。


「さあ、どうぞ」


 促したが、やっぱり最初彩水は迷った。


 しかし徐々に目に宿る光が変わり――やがて口を堅く結び、メモを手に取った。意を決した瞳の色。友達の様子を早く見に行かなければならないということで、決断できたようだ。

 彩水は僕と向かい合いメモを再度確認。その後大きく息を吸い、声を発する。


「せ、正義と平和をまき散らす魔法少女アルティメットリーン参じょ――!」


 そこで思いっきり舌を噛んだ。彩水は痛みに口元を押さえ、うずくまる。

 その光景を見て僕は苦笑しつつ、兄へ質問した。


「兄さん」

「ん?」

「今のセリフを短縮するとかは、無理?」

「無理だな」


 あっさりと返されてしまった。きっと既に条件なんかは決まっていて、修正は無理なのだと悟った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ