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第三話

 部屋に帰ると、香耶がテレビから目を離して「おかえり」と言い、立ち上がる。持って帰った大根を受け取りに寄ってくる。

「今日は大根」

「うん」

「それじゃあご飯作るね」

 キッチンに大根を置いた。

 味噌汁にはやはり人参が入っていて、今日は大根も浮かんでいた。それからブリの照り焼きと、煮物。自分で火を出せるからなのか、彼女は野菜を生のまま使ってサラダを作るようなことをほとんどしない。魔法で作られた物は総じて味が薄い。ちゃんと味のあるブリや味噌の味よりも、香耶の熱の方が濃いように思える。冷めてしまっては何も無い物を食べるようなものになってしまいそうで、急いで食べるのだ。だから出来立てで熱いのを、口の中を慌しくさせながら食べなければならない。

 大根の味が僕にはわからなかったのだが香耶は「おいしいね」と言った。魔法で作った物だ。そんな「おいしい」なんて言う程の物じゃないと思う。ただでさえ僕の魔法は弱いのだから。

 まるで熱を胃に入れているみたい。これが僕の仕事の成果だった。

「そういえば、火傷、大丈夫?」

「ああ、うん。大したことないみたい。朝と変わらないよ」

「よかった」

 それどころか酷くないせいなのか、つい触りたくなってしまうのだ。食後、木に寄りかかりながら手の甲をいじる。一瞬だけ触れてみたり、周囲をなぞってみたり。痛みは確かにある。何度も、何度も、彼女から受けた痛みを再生する。自分の体の中で、そこが一番大切な部位であるように思える程に。

 昨日と同じようにお風呂に入ろうと誘われ、二人で風呂場に向かう。香耶の両腕が赤くなって、湯船に張った水を温める。

「このくらいでいいかな?どうかな?」

 いつもよりずっと早く腕を抜いた。これじゃあぬるいだろう、と思って手を入れると、きちんと熱くなっているのだった。

「あれ。嘘」

 香耶は、くす、と僕の反応に笑う。

「なんか私の火力、強くなったみたい」

 告げられた瞬間ぞっとした。彼女は「たぶん昨日のあれの影響だね」と言う。それに対して「へえ、いいなあ」と返すのが精一杯だった。表情の偽造にはいまいち自信が無かったが、香耶の様子がどこもおかしくならなかったので、きっと大丈夫だったのだろう。悟られないよう、ぞっとしたのを心の奥底にしまう。髪を洗ってもらう時、髪の毛が燃えてしまうのではないかと不安だったのだが、燃えるどころか熱いという感じでもなかった。ぞっとしたのが、もしかしたら僕の勘違いなのではないか。冷静に考えれば、香耶が僕を燃やす理由なんて無いのだ。

 テレビを見て、そして昨日の繰り返しのように香耶の接吻が来る。そこでやはり体が熱くなっていくので、昨日のように言おうとしたら、自ら唇を離した香耶が「このままだと焼けちゃうね」と言った。そしてすぐにまたキスしてくる。

 それでは焼けてしまうじゃないか。

 そう思った直後、唾液とは思えない量の水が香耶の口からこちらに流れてきた。いつの間にか彼女の口が蛇口になっていたのではないかというくらいに出てくるので、すぐに飲み切れなくなってこぼれる。それを合図にして彼女の唇が離れた。

「実は水も出せるようになったんだ」

 口を手で押さえて、吐き出さないように気を付けながら水を飲み込む。本当に真水である。そうしてやっと「そうなんだ」と返事ができた。しかし何か話す前に彼女の唇が熱と水を用いながら愛情表現をしてくる。それに身を任せていたら、モンスターという言葉が脳裏に浮かんで、またぞっとするのであった。

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