4話
小鳥がさえずる清々しい朝。
僕はまだ寝息を立てていた。
僕が寝ている部屋の窓。そこに1つの人影が写った。
その人影は窓に手を掛け、僕の部屋の窓を開けた。
開け放たれた窓から足が現れ、僕の部屋へと入っていく
僕の部屋に入った人影は寝ている僕を見下ろしている。
「・・・」
その人影は僕の横へと移動し・・・
トサ・・・
僕の横に寝転がった。
「う…ん…」
僕は鼻にかかった何者かの髪のくすぐったい感触に目を薄っすらと開け・・・
「・・・」
「・・・」
なぜこの人が僕の横で寝ているのだろう・・・?
流れるような金の髪を持つミリィさんが!
なぜ僕の部屋に!?なぜ僕の横に!?
なぜ!?どうして!?why!?
・・・・・・
それにしても綺麗な寝顔だな・・・
はっ!いかんいかん!
女の人の寝顔を覗くなんて悪趣味だ。
「…あ…起きた…。」
ミリィさんの目が開き、僕と目が合った。
「お…おはようございます。」
「ん…おはよう」
ミリィさんはふにゃあと笑みを浮かべた。
あれ?ミリィさんってこんな人だったっけ!?ただ寝ぼけているから?
「今日…用事…」
「あ。そ…そうでしたね。じゃあ着替えてすぐ行きますっ」
「ん…分かった…」
そう言ってミリィさんは「扉」から出て行った。
僕は「窓」を閉め、着替えを開始した。
*
「えっと…今日はどこに行くんですか?」
僕はお出かけ用の服に着替えたミリィさんの横に立っている。
いつもは白いワンピースのような部屋着なのだが、今回は白ではなく薄い水色のワンピースに白い大きな帽子をかぶっている。
ワンピースが好きなのかな・・・?
「…今日は…ちょっと遠出する…」
「そうなんですか。荷物持ちましょうか?」
ミリィさんは首をフリフリと振り、
「大丈夫…」
と言った。
「じゃあ……行く…?」
「あ、はい」
僕はミリィさんの後についていくように出発した。
*
「ここ…」
ミリィさんは1つの建物を指差した。
「ここって…電気屋さんですか?」
そう。ミリィさんがつれてきたのは大きな電気屋さんだった。
ここでなにをするんだろう?
僕が考えているとミリィさんは迷い無く電気屋さんに入っていく。
僕はミリィさんを見失わないように付いていく
わわ、ミリィさん速いっ!
ミリィさんはもうどこのゾーンに行くか決まっているらしく、スイスイと歩いて行く。
僕はその歩幅に合わせるのに精一杯だった。
しばらくしてミリィさんは立ち止まって振り向き、
「ここ…」
と言った。
そこはゲーム売り場だった。
どうしてこんなところに?
「えっと……小日向…さん…が…いつも何かに…た…耐える様な顔で…わ…笑っているから…えっと…早乙女さんとかと……い…一緒にゲームとか…しようかと…お……思って…」
いつも無口なミリィさんは僕に必死に話してくれた。
だけど僕はそれどころでは無かった。
ああ・・・
僕はうまく笑えてなかったのか・・・
うまく笑えていると思ったのにな・・・
おかしいな・・・うん・・・おかしい・・・
もっと笑顔の練習しないとな・・・
確かに楽しいと思ったこともあった。
だがやはり心の隅にはあの事故の事があって
いつも僕を苦しめていた。
だけど僕はその苦しみを受け入れていた。
なぜならその苦しみは僕が家族を犠牲にして生き延びているという証だから。
だから僕はこの苦しみを手放さないし、嫌だとも思わない。
「そっか…僕はそんなにうまく笑えていませんでしたか…」
「……」
「ごめんなさい。もしかして不快にさせてしまいましたか?」
「いや…不快……とか…そういうことじゃ…無くて…あの……か…可哀想で……哀しくて……」
ああ・・・早乙女さんの言うことが分かる気がする。
本当にこの人は優しい人なんだな・・・
「ミリィさんは…優しいですね。」
「や…優しく…ない…」
「ははっ。じゃあゲームを見ましょうか!」
僕はミリィさんに笑いかけた。
いつもの作り物ではない、自然と出てきた笑みで・・・
*
「ただいま~」
「・・・」
僕とミリィさんは2人で選んだゲームとゲーム機を買って、清水壮に帰ってきた。
「んお?おかえり~。珍しい組み合わせだな?」
「そうですね…確かに考えればそうかも」
部屋に帰る途中管理人さんに会ったので軽く挨拶を交わす。
「なんだ?デートか?」
「……違う…」
「そうか。今日も早乙女とゲームか?」
「……今日は…小日向さんも…一緒…」
「紅葉と?あ~。だから今日2人で出かけてたのか」
「…うん…」
「そっか。じゃあ楽しんでこいよ」
「…うん」
管理人さんとミリィさんって案外仲がいいんだな・・・
いや・・・この壮の住人は皆が皆仲が良いんだな
「じゃあ僕は買ってきたゲーム機の説明書を読みに部屋に戻りますね」
「おー。今日の晩御飯はちゃんと出ろよー」
僕はミリィさんに目礼し、部屋に戻った。
「えっと…何々?」
僕は部屋で今日買ってきたPMPの説明書を読んでいる。
えっと・・・後ろのカバーを外すと・・・ゲームディスクを入れるトレイが出てきて・・・
ここに今日買ってきたゲームを入れればいいのか・・・
ふむふむ・・・
「ご飯出来たぞー はよう来ーい」
む、晩御飯が出来たようだ。
ちょうど説明書も読み終えたし・・・飛ばし飛ばしだけども・・・
それにしてもゲームなんて久しぶりだな・・・
僕は部屋のドアを開け、食事部屋へと向かっていると早乙女さんが部屋から出てきた。
「あ、早乙女さん。こんにちは。」
「おー小日向君。どう?買ったゲームは慣れた?」
「いやぁ。昔からゲームはあまりやらない人間だったので…」
「あっはは。まぁ今日はミリィと私で小日向君をサポートするからさ、頑張ろうね」
「え?このゲーム機通信出来るんですか?」
「出来るよ?説明書読んだんじゃなかったの?」
「いやぁ…色々意味不明だったので飛ばし飛ばしで…」
「あ~。確かにね~… まぁ私は説明書なんて読んでないけどね~」
あんな複雑な機械の説明書を見ていないとな?
早乙女さんは案外器用なのかな・・・?
そんなこんなで食事部屋に到着。今日のご飯はなんだろう・・・?
*
「よし!ご飯も食べたし!やりまっか!!」
僕は今、早乙女さんの部屋の前に座っている。
「…今日は…何するの…?」
「今日はねー。いつも通りサイフェデトリア前でいつもの3人を待って、対戦終わったら小日向君のレベルを上げに狩りに行こうよ。」
「あの3人…しつこい…」
一体何の話をしてるんだろう・・・
まぁいいか・・・じゃあ僕もゲームを起動しよう・・・
ジャックゲイトへようこそ。
貴方の名前を入れてください。
─おお、なんだか記入欄が出てきたぞ?えぇっと…さすがに本名は駄目だろうし…
─ん?どしたの?小日向君?
─名前をどうしようか迷ってます。
─あー そこは確かに迷うよねー
─早乙女さんとミリィさんはなんて名前にしたんですか?
─私はヴァイスって名前だぁよ
─…私は…レミア…
─うぅん…僕はどうしようかな……そうだ。僕は白猫にします。
─白猫?一体何を元にしたの?
─昔白い猫を飼っていたことがあるのでそれを…
─名前とか無かったの?
─ありましたけどひどい名前なので辞めました。
─どんなのだったの?
─ちくわです
─・・・
─・・・
僕は無言で記入欄に白猫と記入し、OKボタンを押した。
白猫様、ワールドを選択してください。
「そこはネットワークワールドを選択してねー」
「はい。了解です。」
ネットワークワールドを選択しました。
通信状態を確認します・・・・・・
・・・
確認しました。
それではジャックゲイトの世界をお楽しみください。
・・・Now Loading
─お。なんだかいきなり街に出たぞ?
─そこがサイフェデトリア。じゃあまずは装備でも整えようか
─装備ですか?でも僕お金持ってないですよ?
*ヴァイス様が取引を要求しています。承諾しますか?*
─あれ?ヴァイスって…
─そ、私のキャラだよ~ それ承諾してくれる?
─あ、はい
*承諾しました*
─わわ。なんだかいっぱい出てきましたよ?
─それが取引画面だぁよ
─…私…先にいってる…
─あいよー。じゃあ軽く1mほど渡しておくよ~
─1m?あれ?お金のところの0がいっぱい!
─ちょっと落ち着きなさいよ
─ひゃ、百万!?いいんですか?こんなに
─すぐに集まるからいいっていいって。じゃあその百万であそこにある武器屋で適正防具と武器買って来なさい。
─あ、はいっ
・・・
─買って来ました!
─よぉし!じゃあさっさと行くわよ
─行くってどこに?
─あそこに噴水が見えるでしょ?あそこでいつも対戦募集してんのよ
─あ、本当だ。ミリィさんのキャラが立ってる。
─お待たせー いつもの3人はもう来たの?
─さっき……ささやきが来た…
─そろそろか…じゃあ先にパーティ組んどこうか
─…うん。
*ヴァイス様からパーティの要請があります。承諾しますか?*
*承諾しました*
─なんかゲージが増えましたけど…
─それ私たちの体力ゲージだぁよ。
─な…なるほど…
*ヴァイス様のパーティとレッギス様のパーティとの対戦が決定しました*
─え!?これ…ど…どういう…
─ごめんごめん。最近はこの人たちと対人戦やるのが日課なんだ。隅っこで見てるだけで良いから。
僕は早乙女さんとミリィさんのキャラクターが戦っているのをただただ見ていた。
2人のキャラクターは大して苦労もせずに相手のパーティに打ち勝っていった。
─つ、強いですね…
─そう?相手が弱いだけだぁよ
─・・・
─それじゃ。やることやったし、小日向君のレベル上げにでも行きまっか!
─……コクッ
僕はこの後、ミリィさんと早乙女さんから色々な事を教えてもらいながら、深夜3時までこのジャックゲイトをやっていた。
僕は今清水壮の廊下で寝ている。
その理由はというと、昨日夜遅くまで早乙女さんとミリィさんとでジャックゲイトというゲームをしていたからだ。
今まで夜遅くまでゲームをするということは無かった。故に只今絶賛爆睡中。
ちなみに早乙女さんとミリィさんは僕が寝たことに気付くとキリが良いという事でそれぞれの部屋に戻っていった。
今はまだ暖かいから廊下で寝ていても大丈夫だろうけど・・・と2人は僕にタオルを掛けてくれた。
そのタオルの気持ちよさもあって僕はなかなか起きれていなかった。
そこに
「おはよう。凛ちゃん。」
「はよぉ~里麻ちゃ~ん。あれ?そこに寝てるのは…」
相坂さんと凛さんが起きてきたようだ。
「お?小日向…さんだね」
「なんでこんな所で寝てるんだろ?」
「さぁ…」
「そういえば里麻ちゃん。今日は御門ちゃんが来るんだっけ?」
「うん♪一緒にお買い物しに行くんだ。凛ちゃんも来る?」
「じゃあ私も付いていこうかな?」
「(ごめんくださいまし~)」
遠くから御門さんの声が聞こえる。
「あ。もう御門ちゃんが来たみたい…私まだ準備できてないのに」
「御門ちゃんには少し部屋で待ってもらったら?」
「そうだね。じゃあ玄関行ってくるね?凛ちゃん。」
「あいあい~。いってらっしゃ~い …私も準備しに行こっと」
廊下は凛さんが部屋に戻ったことでシンと静まった。が少し経つと
「すいません里麻さん。こんな早くにお邪魔してしまって…」
「大丈夫だよ。ただ準備があるから部屋で少し待ってくれるかな?」
「えぇ!お安い御…」
「ん?どうしたの御門ちゃん」
「い…いえ…そこに横たわっているのは…」
「あぁ。小日向さん?朝からずっとここにいるみたい。」
「朝から!?というと…小日向様の寝顔を見放題じゃないですの!!」
「あ、あははははは…」
ん・・・なんだか視線を感じるような・・・
でも眠いし・・・ぐぅ・・・
「わぁ…寝ていると男性というより本当に女の子ですわね…」
「そ…そうだね…。本当に女の子みたい…」
「2人して何小日向さんの顔覗き込んでるの?」
「「わぁあああ!!!!」」
「こ…これは違いますのよ!?」
「そ…そうだよ!?凛ちゃん!誤解だよ?」
「何が違って誤解なの?」
うぅん・・・うるさいなぁ・・・なんだよ・・・
僕は目をゆっくりと開けていった。
そこには顔を真っ赤にした御門さんと相坂さん。そして不思議そうな顔をしている凛さんが立っていた。
「ん…あれ…」
「あ、小日向さん。起こしてしまいましたか?」
「はっ!おおおおはようございますわ!」
「あれ…相…坂さんと御門さん?ん?ここは…廊下?」
「なんで廊下で寝てたの?」
「なんでだろう?えぇっと……あぁ…昨日ここで早乙女さんたちとゲームしてたんだった…」
「それでそのまま寝ちゃったと?」
「うん…夜中の3時位までは記憶があるんだけどね…」
「3時!?早乙女さんも良くやるね…」
「でも楽しかったから良いけどね。んで…皆で何してたの?」
「「はぅ!」」
「御門ちゃんと里麻ちゃんは今から出かけるみたいよ?それの準備してたんだと思うけど…」
「へぇ…なんだか騒がしかったと思うんだけど…まぁいいや。」
「「ほっ」」
「小日向さんは今から何か用事でもあるの?」
「え?僕?うーん…無いと思うけど…」
「それじゃあ一緒にお買い物行かない?」
「僕が?でも…」
御門さんと相坂さんに視線を送ってみる。
「わ…わたしくは一向に構いませんわ!」
「私も大丈夫ですよっ」
ふむ・・・2人は来ても良いと言ってるし・・・
ここは好意に甘えたほうがいいのかな?
「じゃあ僕も一緒に行こうかな?お邪魔じゃなかったらだけど」
こうして僕は今日。相坂さんと御門さん、そして凛さんとでお買い物に向かう事になった。
*
─ねぇ父さん。今日どっか出かけない?美甘も最近皆で出かける事ないから少しさみしがってたよ?
─んー…そうだな。俺もずっと家でゴロゴロしてるのもアレだしな。久しぶりに出かけるか!
─うん!じゃあ美甘に伝えてくるね!!
*
清水壮から結構歩いた場所に、ショッピングモールがあった。
全体的には肌色に近い建物がずらりと並ぶ綺麗なところだった。
「へぇ…こんな所があったんだ。」
「ここは最近出来たから結構綺麗なんだ。服もいっぱいあるしおいしいスイーツ店もたくさんあるんだよ?」
「へぇ…」
へぇ…としか言っていない気もするが、僕は正直に驚いていた。
綺麗だなぁ…お?甘くていい匂いもするなぁ…凜さんが言ってたスイーツ店かな?おいしそうだなぁ…
「ふふ。小日向さん楽しそうですね?」
「えあ!?ご、ごめん…相坂さんは何度か来た事あるんですか?」
「そうですね。私はよく御門ちゃんと凛ちゃんとで遊びに来てます。」
「いいねっ。そういうの…僕も学校の友達を誘って来ようかな?」
「いいですわね~。どうせならおススメのお店とか紹介して差し上げましょうか?」
「うん!お願いするよっ。でも皆のお買い物の邪魔じゃないかな?」
「とんでもございませんわ!どうせわたくし達はウィンドウショッピングで楽しむ予定でしたので」
「あれ?何か買うもの決まってたんじゃないの?私は里麻ちゃんからお買い物って聞いてるけど…」
「確かにお買い物をするつもりでしたけどこれといって買うものが決まっておりませんの」
「むぅ…御門ちゃんが何買うか興味があったのに」
「わたくしが買うもの?」
「うん!だって御門ちゃんって結構お嬢様っぽいじゃない?だから結構いいもの買うのかな?って」
「わたくしのお父様は理解のあるお方ですので安い服を着ていても可愛ければ良いとおっしゃってくれますわ」
安い物か…御門さんの安いはどれくらいのレベルなんだろう…
「ついでに御門ちゃんの安いはいくらほど?」
おっ。凜さんナイス!
「わたくしの安い。ですか…そうですね…大体6万くらいなら結構安いほうですわね。」
「「0が一個多い!!!!!!」」
僕と凜さんがシンクロするほどだった。
相坂さんは慣れているのか苦笑いをしながら見ている。
やっぱり御門さんは結構お嬢様なんだな・・・
「そ…そんなことありませんわ!お母様だって18万ほどの服を何着も持っておりますし!」
「「だからが0一個多い!!!!!!」」
今日は驚くことがいっぱいでした。
「も…もうこの話は終わり!さぁ!皆さん行きますわよ!!」
御門さんがすいすい先に行ってしまったので僕達も後に付いていくことにした。
18万か…いいなぁ…
*
─お兄ちゃん!今日はどこ行くの?
─だってさ。父さん。
─そうだな…今日は新しく出来たっていうデパートにでも行くか!
─やったぁ!学校で由美子ちゃんがすごく綺麗で楽しい所だったって言ってたから気になってたんだ!
─ふふ。美甘は由美子ちゃんと本当に仲がいいわね?
─うん!だって美甘は────
*
「小日向様?どうかされましたの?」
「え?」
伏せていた顔を上げると御門さん。相坂さん。凛さんが僕の顔を見つめていた。
「う…ううん。なんでもないよ?で…ここは?」
いつの間にか僕は甘い香りのするお店の前にいた。
「ここはわたくし達がよく寄るお店ですわ。ここのパフェは格別ですのよ?」
「へぇ…じゃあ今からここに?」
「小日向さんも気に入ってくれるとうれしいです。」
「だね!私はお気に入りだからいいけど小日向さんが気に入らなかったら楽しくないもんね!」
「ありがとう。じゃあ入ろうか?」
僕はお店のドアを開けた。
お店の中は洋風で、今どきのカフェと言った感じであった。
甘い香りが立ち込めていて、とても食欲をそそる。
僕たちが入ってきたことに店の店員が気付き、近づいてくる。
「いらっしゃいませ!4名様でございますか?」
「そうですわ。出来れば奥の席がいいですの」
「かしこまりました。では案内します」
僕たちはウェイトレスに連れられ、奥の席に座った。
「ご注文は手元のベルを鳴らしてください。では失礼します。」
ウェイトレスは礼をして他の客の元へと向かっていった。
「ここのお勧めは?」
「ここのお勧めはこのストロベリーパフェですわ。」
「うぅ…男のお…僕がそれはちょっと…」
「じゃあこのチョコバニラパフェはどう?」
横から凛さんがメニューを指さす…って!
「このお店パフェしかない!?」
「ここはパフェ専門のお店ですからね。」
「そ…そうなのか…じゃあ僕はこのバニラクレープパフェで…」
─私はバニラクレープパフェ食べたいな!
「っ…」
そうだ。美甘もこんなパフェが好きだった。
迂闊だった。
僕は…俺は…
俺は昔の記憶を思い出すようにこの商店街を回っていたんだ。
昔休日に父さんと母さんが仕事で居なかったとき、俺と一緒に近くの商店街に行ったんだっけ。
「小日向…様?」
「え?」
声が震えていた。
「なんで…泣いてるの?」
目の前が歪んでいた。
「何か気に入らない所があったんですか?」
頬に触れると水の感触がした。
「っ…くっ…ごめんね。俺…先に帰るね?」
「え?あの…」
「本当にごめん!!!」
俺は席を立ち、急いで店を出た。
*
─ここは…どこ?
周りは鉄やガラスの破片で埋もれていた。
─美甘?父さん?母さん?
いや。ガラスや鉄よりも周りを覆っているモノがあった。
─なんだこれ…なんなんだよ…
それは…俺の家族の血液だった。
*
店を出て走り続けることしばらく
僕は体力の限界を迎え、膝に手を付き息を荒げていた。
だがその他にも症状があった。
寒気、吐き気、頭痛、左目の疼きなど様々な症状だ。
原因ははっきりとしている。
あの日の記憶がはっきりと思い出てしまったせいだ。
くそ・・・段々と意識も薄くなっていく気がして来る。
このまま・・・寝てしまおう・・・
そうだ・・・少し・・・休・・・もう・・・
僕はその場に倒れて気を失った。
御門さんや相坂さん。凛さんのこともすべて忘れて。