2話
やっとこさ全住民が出てきます。
─第2話─
僕が清水荘に引っ越してから初めての夜。
僕は引っ越しに疲れて眠ってしまっていた。
「ん・・・くぅ・・・」
爆睡中の僕はこの時、僕の部屋の窓が開く音に気が付かなかった。
「うぅ~ん よく寝てる」
「駄目ですよ早乙女さんっ 小日向さん疲れてるようですし・・・」
「いいじゃないのよっ里麻ちゃん。この子の素性を調べるためよっ 起こさないって」
「ですが・・・」
僕の部屋に入ってきた2人はヒソヒソと口論している。
「ん・・・むぅ?何だよ・・・」
だけど今の僕は布団も敷いていない状態だったので眠りが浅かった。
「げっ 起きる!やばいやばい!逃げなきゃ!」
「え?ちょっと早乙女さん!また窓から出て・・・う・・・ひゃぁ!」
「んむぅ・・・騒がしい──むにゃぁああ!!!」
僕の腹部に突然大きな衝撃が走る
「あっ ごめんなさい小日向さんっ 大丈夫ですか?」
誰かが僕の上に乗りながら謝っている。
まぁこの優しい声とこの口調は・・・
「うぅ・・・相坂さん?げほっ・・・どうして僕の部屋に?」
部屋を真っ暗にしていたので相坂さんの顔を見ることはできない。が
顔なぞ関係ない、今問題なのは・・・
「あのぉ・・・相坂さん?」
「はい?なんですか?」
「この体勢はちょっと・・・」
そう、今僕と相坂さんの体勢は
僕が下で寝転んでいて、相坂さんが僕の上をまたがっているという状態
「? たいせい?」
どうやら相坂さんは分かっていないようだ。
「えぇっと・・・とりあえず電気をつけてくれる?」
「あ、はい。わかりました。」
了解した相坂さんは僕の上をまたがったままで電気の紐を引っ張り、電気を付けた。
「・・・」
「・・・」
交差する視線、僕と相坂さんの体勢。
「あ・・・わわわわわわわわわああああ!!!ごごごごごごめんなさいっ!」
うむ、さすがに相坂さんでも気付いたようだ。
相坂さんは顔を赤くしながら僕の上から飛び退いた。
なんだろう・・・僕も凄く恥ずかしくなってきた。
「い・・・いえ・・・僕は別に・・・」
僕たち2人は赤くなりながらヘコヘコしていると
「なんかあんたらムカつくな」
「「うわぁああ!?」」
突然窓から現れた髪を赤く染めた綺麗な女性は顔をムスっとした顔で言った。
「あんたらは新婚さんかっての」
「早乙女さんっ、別にそんなんじゃ・・・」
「は~・・・でも里麻ちゃん、実はまんざらでもないんじゃない?」
「そんなことは・・・」
なんだろう・・・なぜか凄く悲しい。
「まぁいいさね!ほら!新人さんの歓迎会するよ?」
「え?もう準備できたんですか?」
「何言ってんの、新人さんの下見に来た時もう準備は終了してたよ?」
「えええ!私全然お手伝いできませんでした!」
「全然良いってのっ、じゃあ新人さん連れて早く来な~」
そう言って赤い髪の女性は窓から姿を消した。
相坂さんは窓から目線を僕に移し、困ったような顔をして
「えぇっと・・・とりあえず行きましょうか?」
「え?う・・・うん」
僕は聞きたいことが山ほどあるのをとりあえず置いといて、僕は相坂さんに付いていくことにした。
清水荘の管理人室の中は部屋が2つあり、1部屋は近藤さんが、もう1部屋は皆でご飯を食べたりする場所である。
夜だけ清水荘から食事が配給されるようで、食事代は家賃の内に入っているのだとか
部屋のドアには「食事部屋」と書かれている
そして今、食事部屋に僕を含めた荘に住んでいる住人全員が集合していた。
「と言う訳で!只今より!新人さんの歓迎会を開始しまーーーーーーっ!」
さっき僕の部屋に顔を出した赤髪の女性が大声で司会を務めていた。うるさい
「はい!じゃあ早速新人さん!」
ピッと僕に指差して
「自己紹介をお願いしまーーーーーーーーーっ!」
また大声で叫んだ。うるさい
まぁでも自己紹介はやっておかないとね
そう思い、僕は立ちあがって皆の方へ顔を向け
「えっと・・・小日向紅葉です。ちょっと家の事情でこちらにお世話になることになりました。まだまだこの清水荘について全然知らない所があるので時々お世話になる時があると思います。その時はよろしくお願いします。あぁ・・・ついでに僕は男ですのでお忘れなく」
さっきも相坂さんに間違えられたからね。やはり男であることを伝えておかなければまた勘違いされる可能性が・・・
それはともかく僕の自己紹介が終わった瞬間にパチパチと拍手が巻き起こる
ふぅ・・・どうやら歓迎はされているようだ。
「はぁーっ!まさか男だったとは!って言うと思ったか!!!」
「!?」
なんだと・・・大抵の人間は僕を女性に見るのに・・・見破られた!?
と心の中でリアクションしてみるが、別に驚きはない。むしろ男に見られて嬉しいです。はい
「さっき里麻ちゃんといちゃいちゃしてるところを見れば丸分かりよ!」
「いちゃ・・・いちゃ・・・」
相坂さんが赤くなっている・・・さっきのあれか・・・
あれを思い出し、僕までも顔を赤くしてしまう。
「ん?里麻ちゃんと新人さんはもうお付き合いしだしたの?」
紺色の髪をサイドポニーテールにした女の子が相坂さんに話しかけている。
「いや・・・まだそぅぃぅわけじゃ・・・」
「んー?怪しい・・・怪しいよ・・・」
「怪しくないよ?大丈夫だよ」
「本当なの?さっきまだって言ってたけど?ねぇねぇ」
「本当だよぉ・・・信じてよー凛ちゃん」
隅っこで相坂さんとさっきの女の子がヒソヒソと話をしている。
かすかに聞こえるが詳しくは全く聞こえないので話の内容は僕にはわからない。
「そぉれじゃ!新人さんの自己紹介も済んだことだし!私の自己紹介をしようかにゃー!」
司会の赤髪の女性が大声で自己紹介宣言をした。うるさい
「私の名前は早乙女真奈美!5号室に住んでいまーーーっ!そして只今ニートやっていまーーーーーーーっ!!!!」
別に誇らなくて良い事を大きな胸を張りながら誇っている・・・
「ついでに!いつもは部屋のパソコンでゲームたら色々してるから!遊びたいときは言ってね!!!」
パチンっとウィンクする早乙女さん。うるさくて馬鹿っぽいけれど清水荘のムードメーカーと言ったところだろうか
「それじゃあ私の次は里麻ちゃん!おーねがーいねーーーーーーーっ!!!」
そう言って早乙女さんは相坂さんを指差す。うるさい
「えー。こほん。2号室に住んでいる相坂里麻です。今は聖凛高校の1年生をやっています。得意なのは裁縫とお料理なので、小腹がすいた時はいつでも言ってくださいね」
そう言って相坂さんはニコリと僕に笑いかけてきてくれた。
「う・・・うん・・・ありがとう」
僕はその笑みに照れてしまい、少し下を向いてしまった。
やばい・・・すごく可愛い
「うんうん!とりあえずアピールは完璧だにゃー?里麻ちゃん?」
「そんな・・・アピールだなんて・・・」
「にゅっふふふふふ・・・それじゃ!流れもいいところだし!次!親方!頼んまっせーーーーーーーっ!!!!」
そう言って早乙女さんは近藤さんを指差した。うるさい
「あいよっ!管理人室に住んでいる近藤志郎だ。ここの管理人を務めてる。わからんことあったらいつでも言いに来いよ!」
「あ。はいっ」
「ついでに、俺はここの皆から親方とか兄貴とか呼ばれてるから、好きに呼んでくれて結構だぜ!」
「分かりました。じゃあ管理人さんと・・・」
「むぅ・・・堅っ苦しいなぁ・・・まぁいいさね。了解だ」
「よしよし!親方もいい具合に小日向くんと仲良くなれそうだね!よっしゃ!次!きょーちゃん!お願いねーーーーーーっ!」
そう言って早乙女さんは紺色の髪をポニーテールに結んだ女性を指差した。うるさい
「はいはーい。3号室に住んでいる池田杏でございます。凛ちゃんのお母さんをやっていますが、夫とは離婚していませんの。朝から夕方にかけてお家には仕事でいませんが、仲良くしましょうね?小日向さん」
「はいっ こちらこそよろしくお願いします」
なんだか凄く丁寧な人だなぁ・・・それに凄くおとなしそうな人だ。
「うんうん!いつもきょーちゃんは丁寧だねぇ・・・そぉれじゃあ!その次!凛ちゃん!行ったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
そう言って早乙女さんは先ほど相坂さんとじゃれあっていた女の子を指差す。すっごくうるさい
「はいはーいっ。えっとー 3号室に住んでいる池田凛でーす!高校は里麻ちゃんと同じ高校で、同じクラスなんだぁ!よろしくね!小日向さん!」
「うんっ こちらこそよろしく」
「うん!つ・い・で・に・」
何か企んだような顔をしながら近づいてきたかと思えば凛さんは僕の耳元で
「里麻ちゃんのことなら今のところ私が一番この清水荘でわかってるのでじゃんじゃん質問してくれても結構ですよ☆」
とヒソヒソと僕に伝えてくれた。
「な・・・なな・・・」
僕は顔を赤くし、動揺してしまったが、それが凛さんには気に入ったらしく、目を細めて笑い、自分の席へと戻っていった。
「んー?にゃにかにゃー?にゃんだか面白そうなこと話してたような気がするにゃー?」
「き・・・ききききききのせいですよ早乙女さんっ!」
僕は悟られまいと一生懸命ごまかすが、早乙女さんにはあまり興味のなかったことみたいで
「まぁどうでもいいか!それじゃあ最後!ミリィーーーーーー!カッモーーーーーーーーーン!!!!」
そう言って早乙女さんは足元まであるであろう金色の髪を持つ女の子を指差す。うるさい
指を差された女の子は立ちあがり、
「・・・ミリィ・エン・紗江子・ジェリエル・・・4号室・・・・・・19歳・・・・・・翻訳家・・・・・・よろしく」
「よ・・・よろしく」
凄く無表情で無口な人だなぁ・・・
「あっはは・・・まぁ私が付けたしておくと、ミリィは私のゲーム対戦相手なのよ」
「へぇ・・・ミリィさんはゲームが好きなんですか」
「・・・・・・好き・・・」
「ついでに無口で無表情だけど凄く優しくて可愛い子だからね」
「・・・・・・そぅでもない・・・」
褒められたミリィさんは密かに頬を赤く染めボソボソと呟いた
「・・・ん?紗江子って・・・ハーフ?」
「・・・そぅ・・・父が・・・・・・日本人・・・」
「そ・・・そぅ・・・」
・・・
沈黙が走る。
「じゃ・・・じゃあとりあえず、皆の自己紹介も終わったことだし!乾杯と行きましょうか!!!それじゃ!皆コップを持ってぇえええええええええ・・・・・・・・・かんぱーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
「「「かんぱーーーーーーーーーい!!!!!」」」
こうして僕は清水荘の一員として歓迎されたのであった。
乾杯の後は皆でご飯を食べたり、雑談したり、色々として、楽しかった。
紅葉が寝た後の2号室で・・・
「とりあえず小日向君はいい人そうだにゃー」
「そうですね、とりあえずこれで安心して凛ちゃんと寝れますわ」
「うん!今日はグッスリ寝ようね!お母さん!」
「そうだな・・・まぁあいつの息子だし・・・いい奴なのは決定だがな」
皆が皆僕のことを言いように思っていてくれるようだ。が
「ですが・・・」
相坂さんがそこで話題にストップをかける
「うん・・・」
あのうるさかった早乙女さんも珍しくまじめな顔でそれに応える。
「小日向さん・・・やっぱり今日の朝と同じ顔で笑ってました・・・」
「うん・・・小日向君・・・凄く辛そうな顔だった・・・もしかしてこの清水荘が気に入らなかったのかな」
皆が口々に不安を漏らす。
「いや・・・そういうんじゃねぇよ・・・」
そこで近藤さんが呟く
「ここが気に入らないんじゃない・・・ただ・・・」
「ただ?」
「・・・」
「・・・」
2号室に沈黙が走る。
「いや・・・これは俺が言える事じゃない・・・これは・・・あいつの口から聞くべきだ・・・」
「・・・」
「きっとお前らのことを信用したら話してくれるだろう。それまで、待って居ようぜ?」
「そぅ・・・だね・・・きっと今は私達をまだあまり知らないからかもね。でもそのうち」
「そうですね・・・話してくれるのを、私達に頼ってくれる時を・・・待ちましょう」
僕はまだひどい顔をしていた。
だけどこれは僕の問題。
だれかに心配してもらおう。悲しんで貰おうなんて思っちゃいない
だから僕は隠す。
だけどここの住人には、隠せない。
隠せていると思っているのは自分だけ。
この世界には隠せない。
僕が苦しんでいることを
だけど、それでも僕は
この思いを忘れては駄目なんだ。
僕の家族を忘れるような気がするから・・・
─第2話─終─
お疲れ様でした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
さて、ついに紅葉君が住民とふれあい始めました。
これからどうなっていくのでしょうか?
それでは次回は、主人公が学校に通い始めます。
学校でどんなことが起こるのか、そして、学校が帰りに主人公に起こる出来事とは!
早乙女 真奈美 (さおとめまなみ)
池田 杏 (いけだきょう)
池田 凛 (いけだ りん)
ミリィ・エン・紗江子・ジェリエル (みりぃ・えん・さえこ・じぇりえる)