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数字  作者: はまゆう


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1/1

人の寿命が見える僕は、残り3時間の彼女を助けたはずだった

オカルトネタのショートショートを書いてみました。

彼女の頭上に「残り3時間」と浮かんでいた。


最初は見間違いだと思った。

電光掲示板の数字がガラスに反射したとか、そういう類の錯覚だろうと。だが、電車を降り、改札を出て、信号を渡っても、その数字は彼女の頭の上にぴたりと貼りついたままだった。


――残り2時間58分。


減っている。


ぼくは立ち止まった。

心臓が、説明を拒否していた。


この能力に気づいたのは三日前だ。人の頭の上に数字が見える。最初に見たのはコンビニ店員で、「残り41年」と出ていた。次に見た老人は「残り2日」。そして本当に、二日後にその老人の死亡記事を新聞で見つけた。


つまりあれは――寿命だ。


彼女は何も知らずに歩いている。イヤホンをつけ、スマホを見ながら。どこにでもいる、普通の人間だ。


――残り2時間55分。


助けるべきだろうか。


だが、どうやって?

「あなたはもうすぐ死にます」などと言って信じる人間はいない。信じたとしても、どうしようもない。寿命とはそういうものだ。


ぼくは尾行を始めた。

自分でも理由は分からない。ただ、見届けなければいけない気がしたのだ。義務のように。


彼女は本屋に入った。雑誌を立ち読みし、何も買わずに出た。次にカフェに入り、コーヒーを飲んだ。窓際の席で、外をぼんやり眺めていた。


――残り1時間12分。


彼女は死ぬ人間には見えなかった。

健康そうだったし、顔色もいい。咳ひとつしていない。


だが数字は減る。


ぼくは席を立ち、彼女の向かいに座った。


「失礼ですが」


声が少し震えた。


「あなた、今日なにか危険な予定はありますか」


彼女はまばたきをした。

それから、少し考えて言った。


「いいえ」


「事故に遭いそうな場所へ行くとか」


「いいえ」


「高い所に登るとか」


「登りません」


「刃物を持つとか」


「持ちません」


彼女は首をかしげた。


「……占いですか?」


ぼくは黙った。


――残り56分。


時間がない。


「今日はまっすぐ帰ってください。寄り道しないで。階段も使わず、エレベーターに乗ってください。火も水も刃物も避けてください。できれば布団に入ってください」


言いながら、自分でも馬鹿らしいと思った。

だが彼女は、意外にも笑わなかった。


「分かりました」


素直にそう言った。


「そこまで言うなら」


彼女は立ち上がり、会計を済ませ、店を出た。

ぼくも距離を取って後を追う。


――残り32分。


彼女は指示どおりまっすぐ帰宅した。マンションに入り、エレベーターに乗り、部屋に入った。ぼくは廊下の外からドアを見つめる。


――残り10分。


何も起きない。


――残り5分。


静かだ。


――残り1分。


ぼくは息を止めた。


そして。


0。


数字が消えた。


同時に、部屋の中から小さな音がした。

「カチリ」と。


反射的にドアノブを回した。鍵はかかっていなかった。


部屋の中で、彼女は床に座っていた。

無事だった。


「……あれ?」


彼女が言った。


「終わりましたよね?」


「え?」


「わたしの寿命、見えてたんでしょう?」


ぼくの背中が冷えた。


「どうしてそれを」


「だって、わたしも見えるんです」


彼女はにっこり笑った。


「人の寿命」


沈黙。


「さっきまで、あなたの頭の上に数字が出てました」


ぼくは反射的に天井を見た。

もちろん、自分では見えない。


「いくつでした」


声がかすれた。


彼女は首をかしげた。


「さっき消えました」


「……え?」


「あなたの数字」


次の瞬間、背後で大きな音がした。


振り返る。


開け放したままのドア。

その上の古い照明器具が、外れて落ちていた。


もし一歩遅れて入っていたら、直撃していた。


ぼくはゆっくり彼女を見る。


彼女は平然と言った。


「助かりましたね。わたし」


「……え?」


「だって」


彼女は微笑んだ。


「あなたの残り時間を、全部使っちゃったみたいだから」


ぼくは、もう一度天井を見上げた。


何もなかった。

読んでくださってありがとうございました。

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