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あいつら大丈夫かな。
思った以上に長い時間、俺たちは仮の拠点付近で待っていた。
エルフ達がぐるりと柵を囲んでおり、何かあれば柵を飛び越えて女王を救出する気満々と言った感じ。
ドワーフ達は「ふん! 阿呆どもが」と苛立ちを露わに遠目に見ている者と、旅館の建設に戻った者とに分かれていた。
魔物達は、パイプ椅子に近いものに座ってる俺の周りにいる。心配そうにソワソワしていたっけ。
どれほど経ったか定かではない時間が過ぎた頃、女湯付近からどよめきが起こる。どうやらイスカ達が戻って来たようだ。
気に入ってくれている筈……そう思いつつ不安げに立ち上がって様子を見てみる。すると、思った以上に空気感が変わった女子達がそこにいた。
なんというか、カフェで女子会をして、ちょっとテンションが上がって店から出て来たかのような、華やかな空気が出ているではないか。
普通にエルフの女王とルリが雑談しており、イスカも距離が近くなっている気がする。
ルリが俺に気づき、手をブンブン振ってきた。
「レオっちー! 温泉ってヤバいじゃん! これ、絶対流行るよ」
「気に入ったか」
「マジ気に入った! あたしも普通に客として入りたいし、一回浸かったらハマっちゃうわ」
これはだいぶ好感触だ。続いてエルフの女王にレビューを聞いてみるとしよう。
「女王よ。湯加減はいかがだったかな」
「……わ、悪くありませんでしたわ」
俺の顔を見るなり、なんだか気まずそうな顔になるエルフ代表。まあ、素直に良かったとは他のエルフの手前言いづらいかもしれん。
「今回の件について回答をする前に、一つよろしいかしら?」
「何だ」
「今ここにいる魔物達が、わたくし達に危害を加えない、と約束できまして?」
この質問には自信を持って答えられる。考えるまでもないことだった。
「もちろんだ。うちの魔物達は決してエルフやドワーフを傷つけるようなことはしないし、そんなことは絶対にさせない。約束しよう」
他のエルフ達が息を呑んでいる。イスカも女王を不安げに見つめていた。
森の主を名乗るエルフの長は、静かにため息を漏らした。
「まあ、この地はわたくし達にとって、端も端といったところです。ちょうどドワーフ達との間に、緩衝地帯ができるようなもの。危害を加えない、かつ許可なく土地を広げるようことをしないのなら、ここで暮らすことを認めましょう」
おお、とガーゴイルレッドが唸った。ゴーレムも明らかに体がカクッと動く。イスカがほっと胸を撫で下ろし、ルリはニヤリと笑っていた。
「決まりだな。先ほども伝えたが、お前達も客人としてもてなすつもりだ。旅館が始まったら、いつでも来るといい」
「……そ、そうですわね。まあ、たまに……あるかもしれませんわ。では失礼します」
なんとなく気恥ずかしそうに、女王は足早に去っていった。エルフ達は彼女の後を慌てて付いていき、ようやく騒ぎは収束したようだ。
「あの強情なエルフ達を、こうもあっさりと引かせるとは。レオン殿はなかなか交渉上手なようですな」
ドワーフ長が、去っていくエルフに苦い顔をしながらつぶやいた。俺もまた苦い顔になり首を振る。
「俺に腕があるんじゃない。この温泉が素晴らしいんだ。まさに無敵の、神秘の温泉だな」
「神秘の温泉、なんかカッコいいでヤンス!」
「ギャギャギャギャギャ」
ガーゴイルとゴブリンが、楽しそうに踊り出した。だが、ホッとしたのも束の間である。ぐいっとルリが近づいてきて、
「で、レオっち。支援者はどうするの? もうレオっちは伯爵じゃないんでしょ。だったら急いでお金の出所を確保しなくちゃだよね」
「ああ。それなら考えてある。支援してくれそうな貴族連中を、いくつかリストにしているんだ」
「さっすがー! じゃあ行こっか」
この一言に、驚いたのはメイドだった。
「え? 今日はもうお休みになられては?」
「まだ夜までには時間あるよー。こういうのは、急いだほうがいいんだけどなぁ」
女商人ルリは、とにかく善は急げというタイプだ。ただ、商売で成功しまくっている彼女のいうことは、聞いておいたほうが良い気がした。
「行こう。急がねばならん貴族も、中にはいるからな」
「意味深ー。じゃあデュラハーンさん、よろしくね」
しばらく遠間から見守っていた首無し騎士は、少し上品に手を振っている。
「よろしくてよ。乗るのはお二人さん?」
「あ、私もいきますっ」
慌てたようにイスカも乗り込み、俺たちはもう一度空の旅を始めることになった。
◇
まず第一に立ち寄ったのは、俺が以前相談しに行って断られた伯爵家の男。
地元からけっこう近場の邸で、スフィーダ家とは旧知の仲であった。基本的に人の良い奴なので、二度目の相談でも嫌な顔一つしない。
ただ今回は、前回とは違い女子が二人いる。特に商人は得意分野だろう。
執務室的なところに、俺とイスカ、ルリが入室し一時間が経過していた。
「って感じなんですよぉ。あたしも入ったらめちゃめちゃハマっちゃって。本当に興味ないんですかぁ?」
「いや、まあ興味がないとは言ってないんだ。ただ、よく知らなかったものだから」
「もったいなーい! 昨日のあたしみたいに損してますよ」
ルリは話が始まるや否や、いきなり貴族の隣に座り、肩が触れるか触れないかの絶妙な距離感を維持しつつ温泉PRを続けている。
最初は面倒そうな空気を出していた貴族が、徐々に落ち着かない様子を見せていた。
「そうだったのか。いやー君ほどの女性がそう言うのだから、さぞ格別なのだろうね。私も別に、支援するのが嫌というわけではなくてだね。というか、その。君はなかなか大胆なところがあるな」
「え? 何がですか」
「いや、女性と初対面でここまで距離が近いことは、今までそうそうなかったもので」
「あ! ごめんなさい。嫌でした?」
急にしおらしい顔になるものだから、貴族は内心慌てているのが明白だった。どんな世界でも男は単純である。
「嫌ではないよ。むしろそのほうが、私も話やすい」
「え、嬉しいー! じゃあ一緒に温泉も入っちゃいましょうか」
「な!?」
「えへへ、冗談ですよ。やだー!」
驚いたことに、ここでルリは貴族の肩を優しく叩いたのだ。これは男が誤解を招くのに充分すぎるアクションだが、狙ってやっているなこいつ!
ちなみに、俺とイスカはその様子をぼうっとしながら見ていただけ。彼女はこちらが何も手伝う必要がなく、あっという間にするりするりと相手の内側に入っていく。
この商談は彼女の独壇場だったと言える。俺がずっと説得しても大木のように動かなかった貴族が、この後とうとう折れたのだ。
支援をする前提で、温泉に一度お試しで入ってみるということになった。こうなってしまったらこちらのものである。
伯爵邸から出た後、ルリは嬉しそうに俺の肩をポンポンしてきた。
「まず一人目ゲットじゃん」
「おお、ありがとう。流石は名商人だな」
「ってかアレだね、そろそろ陽が落ちるみたいだし、どっか泊まろっか」
夕日を眺めながら、気楽に言ってくるルリ。この辺りは高いんだよなぁ。
「ルリさん、この辺りの宿は高額となります。なので、私と同室ということでも良いでしょうか」
「ええー、レオっちと同室がいい」
「なっ!?」
珍しくビックリしているイスカを見て、ルリはニヤニヤとした。
「レオっちはどう?」
「いや、流石に女子と同室はな」
「ダメです! あらぬ噂が立てられます」
俺よりメイドのほうが断固拒否する謎展開。女商人は「えー」と不満そうな顔になった。
「あたし達友達なんだから、大丈夫だと思うけどなー」
「ダメです」
イスカは俺とルリの間に割って入り、壁になってまで却下の意思を見せた。まあ、仕事がこれからっていう時だし、噂が出るのはやばいな。
ただ、俺は今回すぐには帰るつもりがなかった。
「実はな。この後もう一人、有力な貴族に会いにいくつもりなんだ」
「え? しかしご主人様。もう夜になりますが」
「できる限り急がなくちゃいけないんだ。そいつの為にもな」
理由は後述するが、明日になってしまったらチャンスがなくなる。
陽が完全に沈んだ時、俺たちはその貴族が暮らす邸へと辿り着いていた。




