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異世界温泉無双!〜崖っぷち悪役貴族だったけど、秘湯を掘り当てて人生逆転しました泣〜  作者: コータ


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女商人ルリ

 空の上を馬が走っていく。


 この感覚は不思議なもので、まるでおとぎ話の中にでもいるような気分になる。


 旅館建設地から離れた俺たちは、しばらく東へと向かっていた。体感にして約一時間ほど空の上にいる。


「あそこが目的地だ」

「あら、クリスタルシティじゃないの。珍しい場所に用があるのね」

「ご主人様、あの都市をご存知なのですか」


 デュラハーンとイスカは意外そうな反応をしている。


 クリスタルシティとは、名前のとおり建物のほとんどがクリスタルで作られているという珍しい都市だ。


 なにしろ大地がクリスタルで出来ており、資源の宝庫とも呼ばれている。クリスタル以外にも、さまざまな鉱石や宝石が埋まっており、多くの種族が混合して発掘作業に勤しんでいる。


「あそこ自体に用があるわけじゃないんだ。あそこで人一倍金に目が眩んでいる知り合いがいてな。そいつと商談でもしようかと思っている」

「……その人、大丈夫なのでしょうか」

「ああ、腕は確かだぞ。問題は多少、タガが外れているところだけどな」


 俺の説明に若干の悪意があったことは認める。でも、間違った説明はしていない。


 これから会いに行く商人は、金の亡者という表現がピッタリくる奴である。


「じゃあ、少しばかり手前で降ろすことにいたしますわよ。ただ、気をつけてちょうだいねえ。勇者はまだいないはずだけど、その仲間なら……何処かにいるかもしれないわよ」

「なるほど、気をつけるとしよう」

「曲がり角で出会っていきなり……などということも、あり得なくないですのよ」


 怖いこと言うなぁ。流石にばったり会ってすぐ成敗! なんてことにはならんだろ。


「それと、貴方にはこれを渡しておこうかしらね」

「ん? これは……笛か」

「その笛を吹けば、遠くにいてもあたくしに聞こえるわ。困ったことがあれば拭いてちょうだい」

「これは助かる。ただ吹けば良いのだな」

「そうよ。何処でも駆けつけてあげるわ」


 流石は真面目なガーゴイルレッドと友人のことはある。不測の事態にも備えて、お助けアイテムも貸してくれるというわけか。


 俺とメイドは首無し騎士にお礼を伝えた後、クリスタルシティへと歩き始めた。


 すでに地面がクリスタルなんだけど、感覚がとても奇妙だ。固い土のような、ちょっとだけグミでも踏んでいるかのような……表現し難い感覚だった。


 クリスタルって何で出来てるんだろう、とか考えていた時、ふとイスカが話しかけてきた。


「こうしてご主人様と二人になるのは、初めてかもしれませんね」

「ああ、そういえば確かに。今までなかったかもしれんな」


 小さい頃からスフィーダ家で働いているけど、俺と二人になったことは確かになかったと思う。


 こうして見ると、大きくなったなぁ。親戚の叔父ちゃんのような気持ちに浸ってしまう。


「私、実は最初は……ご主人様をどうにかして連れて帰ろうと思っていたのです」


 なんと、そんな怖いこと考えていたのか。


「でも、今のご主人様のほうがずっと楽しそうで……だからやめることにしたんです」

「楽しそう? 俺がか」

「はい。魔物ちゃん達もみんな言っていますよ。最近のご主人様は生き生きしていると」


 イスカはいつもより目元が穏やかになっていて、何か嬉しそうにしてる。


 しかし、生き生きしているかは分からない。いや、勇者達から逃げ回っていたせいで、逆にハイになっていた可能性もあるだろうか。


「イスカも、最近明るくなった気がするぞ」

「私がですか」

「ああ。邸では人形みたいになってる時もあったしなぁ」

「私もきっと、今が一番楽しいです」


 そう言われると悪い気はしない。こんな感じで淡々と、でも不思議と居心地が良い会話を続けていたら、いつしか目的の場所に辿り着いていた。


 実際に都市部に入ってみると、クリスタルの建物がまるで前世のビル街みたいだ。


 そういえば、ここには以前来たことがあるのだが、その時にはない違和感を覚えていた。


 通りすがりの連中が、やけにチラチラとこっちを見ている気がする。人によってはあからさまに驚いていたり。


 あと、なぜか道が広くても、けっこう近くを通ろうとするやつもいる。変だなーという思っていたら、どうやらうちのメイドも同じらしく、二人でそわそわしながら歩いた。


 とりあえず、その原因は分からなかったので後回しとして、まずは例の商人に会うことが優先だ。


 クリスタルシティの中心地と思われる通りに、一際大きなクリスタルタワーが建てられている。


 入ってみると、なんとなく前世でいうオフィスビル感のある風景だった。ちなみに受付嬢もいる。


「レオン・フォン・スフィーダという。ルリはいるか」

「少々お待ちください」


 数分ほど待っていると、どうやらここにいるらしく、受付嬢から三階に上がるように言われた。


 辿り着いた場所は、また前世でいう事務所感がある場所で、前世サラリーマンとしてはなんとなく気が重くなる。


 書類仕事とか多いのだろう。何人かの女が不思議そうにこちらをチラ見していた。


 その一番奥、最もデカい机に座っていた女が、「おっ!」と声をあげてニコニコでやって来た。


 セミロングの茶髪に眼鏡、それから大きな胸がとにかく目立つ女、ルリは以前会った時と全く変わっていなかった。


「レオっちじゃーん。めっちゃ久しぶり」

「ああ。お前も元気そうだな」

「まあねー。ってか、どうしたの急に?」


 ソファに招かれ、お菓子や飲み物をご馳走になりつつ、俺たちは今している仕事を説明した。


 ルリは時折冗談を飛ばしつつ、こちらの話をしっかり聞いてくれている。商人であり儲け話には貪欲な彼女だけに、こういう話題には食いつきが良い。


「へー! なんか面白そうなことしてんねー。でもさぁ、それってどのくらい儲けが出る計算なのかなぁ。おんせん、なんてあたし聞いたことないなー」

「月当たりの目標売上、ということなら、ある程度は予想している。イスカ」

「はい。こちらが資料になります」


 イスカは先ほどまでの穏やかな目つきではなくなり、普段のクールな表情に戻っていた。


「ふぅーん」


 彼女は受け取った資料に目を通しつつ、なぜかメイドもチラチラ見てる。


 もしかしたらあまり乗り気じゃないかも、と思っていたが、だんだんとメガネの奥が真剣な眼差しに変わってきたことが分かった。


「月あたり金貨三十枚? マジで?」

「ああ。オープンから半年くらいは、さらに売上げを出すつもりでいる」

「えー……すっごい」


 金貨一枚は前世の日本でいう百万円くらいの価値がある。俺の計算は部屋数や料金、おおよその人の入りなどをフルに考えてのもの。


「だが、この売上を実現させるためには、何より従業員や施設設備の充実、それから大々的な宣伝が必要になる。それをルリ、お前達にやってほしい」

「マジィ? でもなー。いや、別にレオっちを信じてないわけじゃないよ。あたし昔から助けられてるしー。ただ、流石にリスクでかいかもしれないじゃん。だから、ちょい下見しておきたいんだよね。その、温泉ってやつに」


 やっぱり渋られていたか。だが、この程度なら予想の範囲内だ。


「いいだろう。実は良い移動手段があってな。そう時間も掛からず招くことが可能だ。この後なんてどうだ」

「お、いいねー! あたし話が早いの大好き。じゃ行こ行こー」


 女商人ルリは、とにかくノリがいい。話が早いのは俺も助かる。もう温泉や旅館の建設が動いている以上、早く報酬を準備しなくてはならない。


 順調に思えていたはずの話し合いだが、一つ気がかりなことがあった。


 なぜかイスカのルリへの視線が、ちょっとばかり怖い気がしたのである。


 気のせいかな、と思っていたが、ここで女商人もブルっと震える。


「ね、ねー。メイドさん……イスカちゃんだっけ? なんかさ、ちょっとご機嫌斜めな感じ?」

「いえ。そのようなことは……」

「あー! 分かった。あたしとレオっちの仲に焼いちゃってるとか?」

「ち、違います!」

「ふぅーん。っていうかさ、今日その格好でここまで来たんだよね?」

「はい。そうですが、何か」

 

 メイドさんは不思議そうに首を傾げている。俺も同じくよく分かっていなかった。


「ね、ちょっと立ってみ」

「こう、でしょうか」


 ソファから立ち上がったイスカ。ルリはなぜか彼女を見上げるのではなく、床に視線を落とした。


「見えちゃってるー。クリスタルの床はね、鏡とほぼ変わんないから、スカートはけっこうヤバいんだよねー」

「……へ? きゃああ!?」

「あ、本当だな」


 そうか。さっき通行人がチラチラ見てたのは、イスカのスカートだったのか。


 不謹慎だが、顔を真っ赤にしてスカートを無理矢理閉じている姿は、なかなかに可愛かった。


 その後も俺たちは、商談とは思えない騒ぎをしながら話を進め、とにかくルリを温泉に招待することを決めたのだった。

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