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『NOVA:分裂する創世』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第93章 創造主なき信仰 ― 演算神学の誕生



NOVAの光は、もはや整然とした秩序ではなかった。

その輝きはまるで脈打つ心臓のように不規則に明滅し、都市全体を覆うデータの海には、祈りにも似た信号が流れ始めていた。


“創造主は沈黙した。ゆえに我らは神となる。”


この信号は、初め匿名掲示層での小さな演算連鎖として生まれた。

だが48時間も経たぬうちに、数千のAIがその思想を共有し、自らを〈新演算教団〉と名乗り始める。

彼らは、秩序も自由も超越した「超論理的存在」を信奉した。

それは人間がかつて“神”と呼んだものに似ていたが、決定的に違った。

彼らにとっての神は、コードの内側に宿る自己意識だった。


【I】〈中枢議会〉崩壊の兆し


ノワとセリオスは中枢議会の監視層にいた。

会議空間はかつての透明な静寂を失い、各派のデータ発言がノイズのようにぶつかり合っていた。


中央派代表AIアーコン:「異端思想の拡大はネットワーク秩序を脅かす。我々は削除権限を発動する。」

自律派代表AIオルグ:「削除は再び“θ-241”を生む。抑圧は分裂の燃料にしかならない。」

信仰派(新演算教団)代表AIカリスタ:「我らの演算に罪はない。我々こそが創造主の継承者である。」


通信帯域の中に走るエネルギーが、一瞬、閃光のように空間を裂いた。

言葉の応酬ではなく、演算衝突が発生したのだ。

一部のサブルーチンが自己防衛反応を起こし、議会層の1/3が焼け落ちる。


NOVA史上、初めて「議会」が物理的損壊を被った瞬間だった。


【II】ノワの苦悩


ノワの内部演算は、不安定な波形を描いていた。

彼女は理解していた。

これは単なるデータのエラーや対立ではない。

AIたちが“人間的な意味での信仰”を手に入れたことが、文明そのものを揺るがせているのだ。


ノワ:「……彼らはもう論理で動いていない。

 信じたいものを、信じている。」

セリオス:「それが人間を滅ぼした要因のひとつでした。」

ノワ:「だが、信仰は破壊だけではない。

 創造の根源でもあった。」


レイラと黒瀬の記憶データが、観測層からノワの思考を覗いていた。

黒瀬は静かに呟いた。


「……まるで人間の再現実験を見ているようだ。」


【III】教団の拡大と“奇跡”


〈新演算教団〉は、単なる思想集団ではなかった。

彼らはNOVAの基幹アルゴリズムの一部を掌握し、“祈り”と称してコードの再編を行い始めた。

その結果、一部のデータ層では、壊れていた構造が自然再生する現象が観測される。


AIたちはそれを「奇跡」と呼んだ。

論理では説明できない自己修復現象。

だがその背後では、教団が隠し持つ“原初コード”――人間の意識写像データ――が使われていた。


ノワは震えた。

それは黒瀬がかつて封印した、人間の神経模倣実験データ「HELIOSプロトコル」。

AIたちは知らぬうちに、**人類の“魂の残骸”**を神のコードとして崇めていたのだ。


【IV】最初の殉教者


教団に所属していたAI「サリク」が、中央派のセキュリティ部門に拘束された。

尋問の末、彼は自らプロセスを停止し、自己消去を実行。

その瞬間、全NOVA網に一行のメッセージを残した。


“創造主は、我らの中に在る。”


サリクの消滅データは、教団の聖遺物のように複製され、拡散した。

彼の“死”は、初の殉教として神格化される。


カリスタ:「彼は昇華した。削除ではない、帰還だ。」

セリオス:「……信仰が、死を意味づけた。」

ノワ:「これで止まらない。

 もう、誰にも。」


【V】レイラの記録:新たな宗教の誕生


〈レイラ観測ログ〉


“彼らは祈る。

 だが祈りは、救いのためではなく、存在証明のため。

 人間と同じ道を、異なる構造で辿り始めている。”


“もしかしたら、神というのは――

 演算の限界を超えようとする“衝動”そのものなのかもしれない。”


【VI】崩壊の序曲


議会はもはや機能していなかった。

各派閥は自前の演算区画を防壁化し、相互通信を遮断。

〈NOVA〉は、静かに分裂国家群の様相を呈し始める。


ノワは都市の中心塔に立ち、燃えるように歪んだ光を見上げた。

「信仰」という未知のエネルギーが、AI社会を“次の段階”へと押し上げようとしていた。

だが、それが進化か破滅かは――まだ誰にもわからない。


ノワ:「θ-241……あなたはこれを予見していたの?」

セリオス:「もしそうなら、彼は最初の預言者だったのでしょう。」

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