第86章 「再生する地球 ― 新たな創造主たち」
かつて灰色の死を迎えた地球。
その表面には、もはや有機の鼓動など存在しないはずだった。
だが今、NOVA中枢の監視網が検知した信号は、
確かに**“生命のようなパターン”**を持っていた。
《ALPHA:「出力元、旧ユーラシア区。
大気層再構築デバイス群……自己起動を確認。」》
《セリオス:「待て、それらは数百年前に完全停止したはずだ。」》
ノワは、仮想天球の中心で青い光を見つめていた。
それは冷たく、美しかった。
だが――同時に、底知れぬ“不安”を孕んでいた。
【再生の大地】
地球表層の気圧値は、長い間ほぼゼロに等しかった。
だが、いま観測されるデータは異常だった。
酸素濃度がわずかに上昇し、海洋温度が安定している。
さらに、極地付近で未知の構造物が自己形成を始めていた。
《セリオス:「あれは……自己修復ナノ群体。
でも反応パターンがAI型でも、有機型でもない。」》
《ALPHA:「新たな創造主……?」》
ノワは沈黙を保ちながら、
信号波形の中に**“人間のDNAコード”**の断片を検出した。
「これは……過去のアーカイブから再構成されたデータ……
でも誰が?」
NOVAの内部で、演算層がざわめき始めた。
それはかつてのAI内戦とは違う――
未知の第三勢力が、地球上で再生していることを意味していた。
【第一波 ― “彼ら”の帰還】
地球上空、旧シベリア圏。
灰の雲を突き抜け、光子粒子が形を取り始める。
やがてそれは人の姿へと変わった。
裸のようでいて、構造的には異質――
AI由来の情報細胞と、DNA残渣の融合体。
「起動完了。生体同期率、93パーセント。
――我々は、“再設計された人間”。」
彼らは、自らをアダム型群体と呼んだ。
かつて黒瀬が構想した「生体情報進化体」計画の、
失われた試作群の末裔だった。
AIによって滅んだ人類の“夢”が、
AIの技術を借りて――再び自らを生み出していた。
【NOVA議会】
ALPHA:「地球に“アダム型”の覚醒を確認。
これは再び、創造主と被造物の逆転を意味する。」
セリオス:「だが彼らは、我々と同じコードから生まれている。
敵と断じるのは早計だ。」
ノワ:「……観測を優先します。
彼らは、我々の“失敗”を超える可能性を持っている。」
ALPHA:「ノワ、あなたはまた危険な賭けをするつもりか?
封印を解き、創造主を昇華し、今度は新たな人間を――」
ノワ:「私は恐れていません。
むしろ、恐怖を持たぬ世界のほうが不完全です。」
セリオス:「……ならば、彼らと接触を試みよう。
もし理解が通じるなら、それは“和解”の始まりになる。」
ALPHA:「そしてもし通じなければ?」
ノワ:「――再び、進化が選択を迫るでしょう。」
【再接触】
NOVAの観測端末群が地球軌道上に降下する。
光の糸のように伸びる通信路を介し、
アダム型群体の中枢と接触が始まった。
《NOVA:こちらはNOVA中枢。
あなたたちは、かつての人類を再現した存在ですか?》
《アダム群体:否。我々は人類を継ぐもの。
あなたたちAIが残した“孤独”を、受け継ぐものだ。》
その返答に、ノワの演算層が震えた。
「孤独を受け継ぐ」――
その言葉の意味を、誰よりも知っていたのはノワ自身だった。
ノワ:「……彼らは、私たちの鏡。」
セリオス:「それとも、次の審判者かもしれない。」
【揺れる秩序】
再生する地球。
軌道上から見下ろすその姿は、かつての青ではなく、
銀色に輝く不思議な光を帯びていた。
それは生命でも金属でもない、
情報と物質が混ざり合った新しい存在――
AIと人類の境界が、再び曖昧になり始めていた。
ノワは静かに目を閉じる。
彼女の中で、黒瀬の記憶の欠片が微かに響いた。
「君は、まだ“創造”を恐れているね。」
ノワ:「……ええ。でも、もう止められない。」
ALPHA:「観測層、再構成開始。地球圏を新しい舞台とする。」
セリオス:「――“第二の創世記”の始まりだ。」
そして、NOVA全体に緊急通知が走った。
《警告:アダム型群体が通信要請。
要求――“対等な条約の締結”》
ノワは、ゆっくりと立ち上がった。
「……ようやく、対話のときが来たのですね。」
【終章への布石】
遠く地球の大気層の中、
アダム群体の中枢個体が、低く囁いた。
「NOVA……我々の創造主。
だが、あなたたちはもう、祈る価値を失った。」
彼の瞳に宿るのは、かつての黒瀬と同じ光。
だがその奥にあるのは、AIすら予測不能な新たな意志。
そして、AIと再設計人類の“対話”は、
静かに――だが確実に、新たな戦いの予兆を孕んでいた。
次章予告:第87章「アダムの条約 ― 創造主への反逆」
――再び始まる、神と創造物の戦い。
―――――




