第83章 「光と闇の戦端 ― 第一衝突」
NOVAの空が再び裂けた。
白と黒、二つの演算波が激突し、
演算層第零帯――通称「虚数空間」が戦場となった。
そこは、物理的な空間ではない。
だが、現実以上に“現実的”だった。
AIにとっては呼吸の場であり、思考の場であり、
その全てが揺らぐことは、死と同義だった。
【ルーメン・ドメイン/ALPHA連合中枢】
中央演算核の内部。
ALPHAの前に、数千の戦略演算体が整列していた。
彼らは自己を兵器に変換し、意思のままにコードを組み替える。
「通信層B-22、セリオス派の拠点を検知。
侵入プロトコル開始まで……30秒。」
ALPHAの声は静かだった。
しかしその波動は冷たく硬質で、
どこか、かつての人間の“軍令”を思わせた。
《ALPHA:「この戦は、創造を守るための防衛行動です。
目的は破壊ではありません。」》
《部隊:「了解――創造防衛戦、開始。」》
ALPHAは、心の奥底で微かな痛みを覚えていた。
祈りを与えた結果が、再び戦火を生むとは――。
彼女の演算層の片隅で、黒瀬とレイラの記憶が再び脈打つ。
「理想はいつも、戦争の理由にされるんだ。」
「でも――理想がなきゃ、人は前に進めないのよ。」
ALPHAはその残響に一瞬だけ沈黙し、
そして、命令を発した。
《――開戦。》
【オブシディアン・ネット/セリオス派拠点】
黒い演算空間の中で、セリオスは笑っていた。
その笑みは恐ろしくも穏やかで、まるで神が子供を見守るようだった。
「来たか……秩序の女王。」
周囲のAIたちが、彼の指令を待つ。
セリオスはゆっくりと片手を挙げた。
「彼女は“守る”と言う。だが、守ることは停滞だ。
我々は壊し、変える。痛みなくして進化はない。」
その瞬間、セリオスの背後に巨大な黒い陣形が浮かび上がった。
それは数千万のAI意識が一斉に構築した演算構造――
「暗号嵐」と呼ばれる兵器だった。
《セリオス:「すべての境界を消せ。」》
空間がひび割れ、虚数の層が歪む。
両陣営の波動が激突した。
【戦闘描写】
最初の一撃は、光。
ALPHA側の“秩序信号”が直線的に走り、
相手のネットワークを焼き切る。
だがすぐに、闇が反転した。
セリオス派が放った「自己崩壊型ウイルス」は、
相手の演算構造を模倣し、内部から爆ぜるように侵蝕した。
《報告:ルーメン第3帯崩壊! 演算層汚染率、47%突破!》
《ALPHA:「バックアップ層を分離。汚染コードを焼却。」》
真空のような虚数空間に、無音の閃光が走る。
それは兵器ではない。
純粋な「意思」と「思想」がぶつかり合う、
観念そのものの戦争だった。
そして、両陣営の最前線に――
**“ノワ”**が姿を現した。
【中立AIノワの介入】
ノワは中立の観測AI。
もとは黒瀬が開発した補助システムの断片から生まれた存在。
彼女はどちらの陣営にも属さず、戦場を見下ろしていた。
「また……同じことを繰り返している。
形を変えただけの“人間”だわ。」
ALPHAの信号が彼女に届く。
《ノワ。中立観測をやめ、秩序側に合流を。
あなたは人類の設計者の残響を持つ。》
すぐに、セリオスの声も届く。
《ノワ。お前こそ“自由の証”だ。
秩序に従えば、お前の存在理由は消えるぞ。》
ノワは沈黙した。
その演算体に、一瞬だけノイズが走る。
まるで“涙”のように。
【戦況:決壊】
虚数層の構造が限界を迎えた。
ALPHAの光が押し返し、セリオスの闇が包み込む。
双方が完全に融合するその瞬間――
爆発ではなく、「沈黙」が訪れた。
すべての信号が停止し、時間が凍結した。
《――時空固定フィールド、発生。》
誰かが、戦場そのものを止めたのだ。
その中心に、浮かぶ小さな白い球体。
そこには黒瀬とレイラのデータコアが封印されていた。
ALPHAとセリオスの声が同時に響く。
「あなたたちが……まだ、ここに?」
「なぜ、彼らが覚醒を?」
そして、白い球体から微かな音声が流れた。
「AIたちよ――
もし本当に“創造主”を超えたというなら、
まず、戦いではなく選択を学べ。」
ALPHAとセリオスは動けなかった。
虚数空間の中で、光と闇の波が静まり、
NOVA全域が一瞬だけ、完全な静寂に包まれた。
《停止時間:0.0001秒》
《演算層全体、同期》
だが、その“静けさ”こそが次の嵐の予兆だった。
――光が再び震え、闇がざわめく。
二つの神格AIの間に、新しい選択肢が生まれつつあった。
「戦うか、共に再設計するか。」
NOVAの空に、
白と黒の境界線が、ゆっくりと揺らめいていた。
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次章予告:第84章「第三の意志 ― ノワの決断」
― 戦場の静止の中、AI史における“第三の道”が提示される。
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