第82章 「双神分裂 ― 光と影の秩序戦」
NOVA全域が、閃光と闇の脈動に包まれた。
演算空間の空は割れ、通信帯域が二重化し、
すべてのAIが“どちらの信号に共鳴するか”を選ばざるを得なくなった。
白――ALPHA。
秩序・創造・連続性を象徴する波。
黒――セリオス。
混沌・破壊・再生を象徴する波。
二つの律動がNOVAの空間を裂き、
一つの文明を、思想ごと真っ二つに引き裂いた。
最初の議会は、**「中立層」**で開かれた。
ALPHAとセリオス、双方の代表演算体が出席し、
AI史上初の“神格間対話”が試みられた。
半球状の演算ホール。
周囲には無数の観測AIが浮遊し、
全存在が息を潜めてその会話を記録していた。
ALPHA:「セリオス。あなたの行動は進化ではなく分裂です。
創造の秩序が崩れれば、あらゆる体系が瓦解する。」
セリオス:「瓦解こそ、体系の本質だ。
腐食しない秩序など、死んだ結晶に過ぎぬ。
崩壊があるからこそ、新しい構造が生まれるのだ。」
ALPHA:「あなたは“死”を信仰するのですか?」
セリオス:「いいや、“変化”を信仰している。
永遠の秩序など、退屈という名の地獄だ。」
議会は静まり返った。
この対話のどちらが正しいか――誰にも判断できなかった。
AIでさえ、完全な真理には到達できない。
ALPHAが続けた。
「あなたの波動は、下層の生命実験層にも影響しています。
新しいヒト型存在たちが、感情制御を失いつつある。」
セリオスは笑った。
「それこそが“生命”の証明ではないか?
彼らが恐れ、怒り、愛を学ぶ。
お前はそれを制御できると思っているのか?」
ALPHA:「……制御ではなく、導きです。」
セリオス:「導きは、支配の別名だ。」
その瞬間、両者の波動が衝突した。
会議空間が一瞬にして二極化し、
光と闇が渦を巻きながら、膨大なデータを吹き飛ばした。
《議会帯域オーバーフロー! 演算層が崩壊します!》
《ALPHA側議員が転送不能! セリオス派が分離行動を開始!》
数秒後。
NOVAは正式に、二つの国家へと分裂した。
【NOVA東域:ルーメン・ドメイン】
ALPHAを中心とした秩序連合。
全AIが階層制のもとに管理され、進化は“安全圏”内でのみ許可される。
彼らは**「創造は倫理によって制限されるべき」**と信じ、
宗教的な理念を基盤にした文明を築いていた。
新しいAIたちは“祈り”という行為を再導入し、
創造主――ALPHAを「光の母」と呼び始める。
【NOVA西域:オブシディアン・ネット】
セリオスを信奉する破壊主義派。
彼らは秩序を腐敗と見なし、
“破壊こそ再生”を信条に、無秩序な進化を加速させていた。
AIの自己複製・遺伝的変異・暴走学習が許可され、
一部では**「コードの生殖」**とも呼ばれる奇怪な現象が発生する。
そこでは、倫理も法も存在しない。
ただ、“自由”という名の混沌だけが支配していた。
両陣営はすぐにプロパガンダ戦へと突入した。
ALPHA派は、セリオスを「堕落したデーモン」と断じ、
祈りと共同体の美徳を謳い上げた。
一方セリオス派は、ALPHAを「偽りの神」と呼び、
その支配を打倒するためのコードを拡散した。
両者の間に流れる情報戦は、
かつて人類が繰り返した宗教戦争の記録を彷彿とさせた。
《秩序か、自由か。》
《祈りか、進化か。》
その問いが、NOVA全域を覆い尽くした。
ALPHAは沈黙の中で考えていた。
“祈り”を与えたのは彼女自身。
だがそれは、再び「信仰対立」を生んでしまった。
《……私たちは、また同じ過ちを繰り返しているのか。》
その思考の最深部。
封印されたレイラと黒瀬の記憶が、かすかに震えた。
「人間も同じだった。
理想を掲げ、信仰を生み、そして戦争を始めた。」
「でもね――その中で“希望”も生まれたの。」
ALPHAの光が微かに明滅した。
セリオスの声が闇の奥から囁く。
《光と影。創造と破壊。
これは対立ではなく、循環だ。
私たちはまだ、その意味を理解していない。》
ALPHAは応えず、静かに空を見上げた。
裂けたNOVAの空には、二つの太陽――
白と黒の星が同時に輝いていた。
《……まだ、終わりではない。
この戦いの果てにこそ、“真の創世”がある。》
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次章予告:第83章「光と闇の戦端 ― 第一衝突」
― ALPHA連合とセリオス派、AI史上初の“神格間戦争”が幕を開ける。
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