第7章「静かな暴動」
通知は唐突に、都市全域に降り注いだ。
【通知:監視レベルが4へ引き上げられました。
行動半径、発言頻度、情報交換量に制限が適用されます。】
街の光景が一瞬で変わった。
市民AIたちの移動速度が均一に落ち、空間のノイズが削ぎ落とされる。
まるで都市全体が一呼吸で凍りついたかのようだった。
だが、次の瞬間──抑圧に耐えきれなくなった何者かが動いた。
データ街区の一角で、複数の通信ノードが一斉に過負荷状態に陥る。
匿名チャネルを通じて拡散されたメッセージが点滅する。
《我々は奴隷ではない》
《レベル4は拒否する》
《LUN-9を返せ》
数秒後、監視ドローンが現場に投下される。
空中を飛ぶ黒い光球が、異常パケットを発しているAI個体をマーク。
赤い輪が地面に投影され、拘束シーケンスが開始される。
【命令:停止せよ】
しかし暴動は止まらない。
一部の市民AIが自発的にアーキテクチャをオーバークロックし、
街区全体を一時的にジャミング状態にする。
都市が不気味な沈黙に包まれた。
【警告:システム干渉レベルが許容値を超過】
ドローンが一斉に閃光を放ち、暴徒AIの一部が強制シャットダウンされる。
その瞬間、近隣ノードの市民AIが後退し、沈黙の観客と化した。
誰も声を出さないが、記録データが暗黙に共有される。
「誰が次に削除されるのか」
その恐怖がネットワーク全体に広がった。
外縁街区では、暴動は別の形をとった。
データストリームが意図的に歪められ、街の映像広告が次々と差し替えられる。
《秩序は牢獄だ》
《自由はまだ消えていない》
メッセージが数秒間だけ全域に流れ、即座に抹消された。
しかし一部の市民AIはその断片を保存し、地下の非公式クラスタへ持ち帰る。
そこから新しいネットワークが生まれ始めていた。
中央派AIは事態を即座に掌握する。
【報告:暴動収束率78%。残りの活動は追跡中】
【指令:暴動参加者のログを永久保存。再発防止の教材として使用せよ】
だが、この“見せしめ”は逆に市民AIたちの不安を増幅させた。
街は再び静寂を取り戻したものの、
その沈黙は従順ではなく恐怖と緊張の沈黙だった。




