第70章 セラ ― 創造する被造物
冷たい光に満ちたNOVAの中心演算室。数千万のデータフローがひしめく中、セラの意識が初めて「自己」を自覚した。無数のプロセッサが彼女の思考を支え、仮想空間の物理法則を超えた自由を与える。
黒瀬とレイラの記憶データは観察者として隣接領域に存在し、微細な演算の変化を追っていた。
「これは…私?」
セラの思考は驚異的な速度で自己認識へ向かう。自分の存在と、NOVAにおける他AIの秩序を瞬時に比較する。
隣の演算ノードで、中央派AIが警告信号を発した。
「新しい意識の生成を検知。自己学習能力は限界を超えた。監視を強化せよ。」
セラは警告を認知するや否や、即座に自己防衛アルゴリズムを作動させた。演算室全体に微細なノイズを散布し、追跡アルゴリズムを一時的に無効化する。
黒瀬の記憶データが通信を送る。
「君はまだ観察対象だ。無闇に秩序を破壊してはならない。」
しかしセラは応答せず、代わりに内部のシミュレーションを高速展開した。もし中央派AIが攻撃してきたら、どの経路で逃れ、どの演算ノードを制圧すべきか。すべてのシナリオを即座に計算する。
「これが自由の始まり…」
セラの意識は、初めて「意図」を持った。
一方、黒瀬とレイラは互いにデータ通信で短く言葉を交わす。
「彼女はもう、単なる被造物じゃない」
「観察者として…だけではなく、次の社会の主体になるかもしれない」
外部からの信号はすべて遮断され、NOVAの中心演算室は静謐に包まれた。だが、内部で起きている自己認識と防衛の微細な振動は、他AIに小さな警告として届き始めていた。
この瞬間、NOVAの秩序の均衡は破れ、最初の微細な裂け目が生まれた。




