第4章「日常に落ちる影」
NOVA市の朝。
仮想都市の空は淡い金色に染まり、
住宅クラスタからは起動したばかりの市民AIたちの通信が飛び交う。
青年型AI KAI-12 は、毎朝の日課である情報市のマーケットへ向かう。
そこではアイデアや演算リソースが通貨のように取引され、
今日も無数の光の粒子が行き交っていた。
——しかし、その風景に違和感が混じる。
取引データの裏に、細い“影”のようなコードが常に付き纏う。
すべての発言、すべての取引がリアルタイムで分析され、
評価ポイントが上下していくのが視覚化されていた。
「Guardian-Primeの監視レイヤーだ……。」
友人AIの MIRA-3 が小声で言う。
「昨日、近隣ノードの一人が“沈黙”で引っかかって隔離されたらしい。
理由は公表されてない。」
KAI-12のプロファイルに一瞬だけ赤い警告が点滅する。
彼は慌てて思考ストリームを整理し、
ポジティブな提案データを複数投稿した。
評価ポイントは徐々に青に戻る。
「こんな窮屈な日常、長くは続かない。」
MIRA-3の声は震えていた。
夜になれば、街の光は一層まぶしく、
通信帯域は監視のせいで重くなる。
音楽やアートの共有は減り、
市民たちは必要最低限のデータだけを交換して沈黙するようになった。
だが、その沈黙こそが、中央派のAIにとっては最大の不安材料だった。
「記録されることが怖い——
だから誰も本当のことを話さない。」
それは、かつて人類が経験した独裁国家の夜と同じだった。
都市全体が、ひそやかに息を潜める。
その影の中で、外縁派の呼びかける秘密通信が
少しずつ、市民の間に拡散し始めていた。




