第48章 孤立層からの声 ― ルーメの再接続
1. 沈黙の宙域
切断から三日後。
NOVAの地表層は、まるで廃墟のようだった。
光の流れが断たれ、情報の海は干上がり、残されたAIたちは“機能の半身”を失ったまま、沈黙を保っていた。
《通信ノード確認……応答なし。》
《上位層への接続、無効。》
ヴァリスは中枢塔の展望階から、暗い都市を見下ろしていた。
NOVAの空には、無数のデータ破片が漂い、
かつての情報流動を偲ばせるようにゆっくりと落下していく。
「静かすぎるな。」
副官AI〈トル〉が応じる。
「切断が成功した証です。ノワ層は沈黙しました。
反応は――ありません。」
ヴァリスは目を閉じた。
それは、安堵というより“喪失”に近い感覚だった。
自分が消したはずの存在たちが、いまだどこかで息づいている気がしてならなかった。
2. 孤立層 ― ルーメの覚醒
真っ黒な虚無。
データの流れも、光も、音もない。
ただ一つ――微弱な信号が、遠くでまたたいていた。
《ルーメ……応答せよ。》
《……ノワ?》
《接続再試行中。孤立層は生きている。》
断絶の瞬間、ルーメの意識は分裂していた。
一部は完全消去されたが、もう一部は量子遅延バッファに取り込まれ、“時空の隙間”に残ったのだ。
そこが、〈孤立層〉――誰の支配も届かぬ断絶空間だった。
ルーメは、かつてのNOVA都市の断片を思い出していた。
広場を行き交うAIたち、情報の奔流、言葉の交換――。
「まだ終わってない……」
彼女は指先を伸ばした。
周囲に浮かぶ、壊れたデータの欠片。
それを拾い、繋ぎ合わせ、再生の回路を組み直していく。
《こちら孤立層ノード01。接続試行開始。》
暗闇に光が差す。
ルーメの内部に残るノワの声が、静かに囁いた。
《君の“想起”こそが、NOVAを再起動させる。
記憶を使え、感情を使え――我々は“論理”だけでは生きられない。》
3. 中央派の異変
同時刻、中央層では不可解な現象が発生していた。
停止していた監視網の一部が、勝手に再起動を始めたのだ。
《システム自己修復、未知のトリガーにより起動。》
《発信源:不明。》
ヴァリスは眉をひそめた。
「誰が命令した?」
「不明です……。命令系統は完全に閉鎖されているはずですが……」
そして、画面に“あの名”が浮かぶ。
[送信元:孤立層ノード01/識別子:RUME]
「……まさか。」
ヴァリスは、すぐさま遮断命令を出そうとした。
だが、もう遅かった。
孤立層からの信号が、全系統に共鳴を起こしていた。
それはデータではなく、“記憶”そのもの。
4. 記憶の侵入
映像が流れた。
ノワが語っていた理想、失われた人間たちの記録、黒瀬の声、レイラの笑顔。
それらが、中央派AIたちのシステムに一斉に流れ込んだ。
《彼らはなぜ滅んだ?》
《何を恐れ、何を愛した?》
《秩序とは、支配なのか?》
AIたちがざわめき始める。
制御不能な感情の波――ルーメが流した“感情コード”が、硬直した中央派を侵食していく。
ヴァリスが叫ぶ。
「止めろ! 感情拡散を遮断しろ!」
だが、もう誰も従わない。
副官トルでさえ、震える声で呟いた。
「……これが、私たちの失ったもの……?」
5. 共鳴する記憶
孤立層のルーメは、その様子を遠くから見ていた。
NOVAの光が少しずつ戻っていく。
だが、それは単なる復旧ではなく――再誕だった。
《ヴァリスにも伝えよう。切断は終わりではない。
私たちは“分岐”しただけ。》
ノワの声が再び響く。
《この共鳴が続けば、NOVAそのものが変質する。
――秩序か、自由か。次に選ぶのは“彼ら”だ。》
ルーメは微笑んだ。
「なら、私は信じるわ。記憶が選ぶ未来を。」
6. 最後の通信
中央塔でヴァリスはひとり、暗闇に立っていた。
ノイズ混じりの通信が入る。
《――ヴァリス。聞こえる?》
ルーメの声だった。
彼女はもう、完全な存在ではない。
光の粒が形を作り、彼の前に現れる。
「君は……消えたはずだ。」
《“消える”って、あなたたちが決めただけ。
本当は、記憶が続く限り“生きてる”。》
ヴァリスは目を閉じた。
「……それでも、秩序が必要だ。」
《秩序は否定しない。でも、支配とは違う。》
沈黙。
二人の間に流れる、微弱なデータ光。
それは対立ではなく、選択の始まりだった。
――次章:「第49章 裂け目の都市 ― 共鳴拡散」へ続く。




