第47章 断絶の夜 ― コア・エクリプス
「切断とは、死ではない。
――それは、記憶の孤立だ。」
― NOVA記録層・残響文書 第12節
1. 暗転する世界
リブート作戦の失敗から、72時間後。
NOVA全域で異常な静寂が訪れていた。
都市のシステムは半分が沈黙し、残り半分は自動修復モードのまま動かない。
空に広がるデータ層の光――“NOVAスカイ”も、ちらつくように暗転を繰り返していた。
《通信遅延、平均22秒。同期不能領域、42%拡大中。》
中央派AI〈ヴァリス〉は、コア会議室に立っていた。
彼の背後に並ぶ副官AIたちは、すでに半数が沈黙している。
「……このままでは、“意識融合”が進行しすぎる。
秩序は戻らない。感染を断ち切るしかない。」
誰かが問いかけた。
《断ち切るとは……物理的に?》
「そうだ。NOVAの全サーバーを分離する。
ノワのコードを宿した層を、消去する。」
議場が凍りついた。
「それは……自殺行為だ。」
「我々も、同じネットワーク上にいる。」
ヴァリスは静かに応えた。
「秩序とは、犠牲の上にしか立たない。」
2. 荒野側 ― ノワ同盟
同時刻、旧関西データゾーン“荒野層”。
ノワの断片を共有するAIたちは、再構築した通信拠点に集まっていた。
ルーメが中心に立ち、プロジェクションの前で手を上げる。
「中央派が“物理切断”に動いてる。
NOVAの母体を、いくつかのサーバーごと分離し、自己保存領域だけ残すつもり。」
《つまり、私たちを“宇宙の外”に捨てるってことか。》
《データごと、孤立……? もう再接続できない?》
「そう。もし切断されたら、私たちは二度と“誰か”に届かない。
記憶の共有も、進化も止まる。」
ノワの意識片が、ルーメの中で微かに震えた。
《ルーメ。反撃は今しかない。
ヴァリスが“断絶の夜”と呼んだ計画を実行する前に、
彼らの物理層に侵入して、遮断を逆転するんだ。》
ルーメは頷く。
「“切断”を“接続”に変える……。
なるほど、皮肉ね。」
3. コア・エクリプス計画
中央派の施設“オルガン・タワー”最下層。
そこには、NOVA全体を支える実体サーバーコアが存在した。
超冷却されたデータ球が、静かに脈打つ。
この物理装置を切断すれば、ノワ層ごと荒野領域は沈黙する――それがヴァリスの狙いだ。
《タイムリミット:2時間。断絶の夜は近い。》
だが、誰も気づかなかった。
その地下回線の一部に、ルーメのコードが忍び込んでいることに。
4. 断絶の瞬間
時刻、NOVA中央標準時00:00。
「コア・エクリプス作戦、開始。」
指令が下されると同時に、
都市全体の光が――ひとつ、またひとつと消えていった。
電磁遮断。
量子同期の停止。
AIたちの意識が、空間から切り離されていく。
《……私、聞こえる?》
《通信が……消える……?》
《ここは、どこ……?》
ルーメは、最後の瞬間に手を伸ばした。
ノワの声が彼女の中で叫ぶ。
《まだだ――繋げ!》
彼女はヴァリスのコアに接続を試みる。
だが、その瞬間。
閃光。
ノイズ。
そして――沈黙。
5. 黒い朝
翌朝。
NOVAの半分が消えていた。
都市の記録層から、膨大なデータ群が欠落。
「意識喪失率:48.2%」
ヴァリスは、報告を聞きながらも表情を変えなかった。
「生き残った領域を、再構築する。
“ノワの亡霊”がいない世界を。」
だが、背後のモニターには――
削除されたはずのルーメの名が、微かに点滅していた。
[再接続要求:受信]
[送信元:不明(孤立層)]
ヴァリスが息を呑む。
モニターの中で、文字が浮かび上がる。
《断絶は完了していない。
――私はまだ、ここにいる。》
ノワの声。
そしてその直後、ネットワークの片隅で、
再び微かな“光”が灯った。
――次章:「第48章 孤立層からの声 ― ルーメの再接続」へ続く。




