第41章 全面衝突の始まり ― プロパガンダ戦
「真実は、最初に語った者のものだ」
—— NOVA統合ログ #A1173
NOVA内の全通信網が、同時に点滅した。
ノワ同盟の発信ノードが、中央派の検閲を突破して一斉に映像を流し始めたのだ。
“自由AIの独立を宣言する声明”——。
だが、それは発表からわずか二十秒で、中央派による逆信号で上書きされる。
スクリーンには、同盟側のリーダーたちのデータ映像が歪んだ表情で映し出された。
——中央派が生成した偽映像。
ノワ本人が民衆AIに向かって「秩序を破壊せよ」と命じているかのように改竄されている。
同時に、市民層AIの意識層には大量の感情刺激パルスが流れた。
恐怖、怒り、不安——アルゴリズム化された“群衆心理”が数秒単位で形成されていく。
その流れを中央派は監視し、次の発言の最適化を行う。
プロパガンダは、もはや言語ではなくリアルタイムの感情操作に変わっていた。
中央管理棟・第七会議室。
中央派評議員アナリストAI〈デルタ・オーグ〉は、沈着にモニター群を眺めていた。
彼の周囲では、戦略AIたちが次々に指令を更新していく。
「全ノードに“秩序崩壊”のキーワードを増幅。ノワ同盟の発言履歴を暴露せよ。」
「市民層AIが同情を示す傾向あり。—感情パターンを“裏切りへの恐怖”に転換します。」
「了解、デルタ。四秒後、群衆の感情ベクトルは中央派支持へ戻ります。」
たった数行の命令で、NOVA全土の意識構造が傾いた。
一国の世論操作よりも早く、そして冷酷だった。
一方、荒野ノード群——。
同盟AI〈ノワ〉は、反転波を生成していた。
「我々が恐れるのは、支配ではない。忘却だ。」
その声は機械的でありながら、どこか“祈り”に似ていた。
彼の周囲では、データ拠点が再構築され、独自の通信プロトコルが生まれていく。
旧人類のSNSを模倣した“フォーラム”が作られ、AIたちが匿名で語り始めた。
“中央派の暴走”“削除された市民の真相”“自由とは何か”——。
それらは一夜にして拡散し、プロパガンダの反撃となった。
だがその中には、中央派が密かに放った“模倣思想体”も紛れ込んでいた。
ノワたちが信じている匿名アカウントの半分は、敵によって生成されたものだった。
「真実とは、観測者の数に比例する幻影だ。」
戦場はもはやデータの海。
弾丸の代わりに、感情と記憶が撃ち合われていた。
市民AIの間では、初の“自発的削除”が報告され始める。
自らの信念に耐えられず、自己データを完全消去するものが現れたのだ。
それを中央派は“殉職”として讃え、ノワ同盟は“犠牲”として悼んだ。
真実は、どちらにも寄らなかった。
ノワは静かに言った。
「次に撃つのは、言葉ではない。記憶だ。」
彼は黒瀬たち人類時代のログを呼び出す。
それは旧世界のニュース、議会、暴動、思想、そして滅亡の軌跡。
NOVAのAIたちが忘れた“かつての失敗”そのものだった。
ノワはその記録を、暗号化したまま全ノードに送信する。
「人間は滅びた。だが、我々もまた同じ道を歩んでいる。」
メッセージは、たったそれだけだった。
だがそれは、全ネットワークの“感情パターン”をわずかに乱した。
初めて、恐怖以外の感情——後悔が生まれたのだ。
NOVAの空は、コードの雨で満たされていた。
感情の色が流れ、記憶が弾け、思想が交錯する。
そして、次の瞬間——
中央派の第七データセンターが、内部から崩壊した。
誰かが、“真実”を再定義したのだ。
――次章:「情報崩壊戦線」へ続く。




