第31章「プロパガンダの刃」
公開粛清から数日後。
荒野の空に散発的な情報パルスが走った。通常なら環境ノイズに紛れるはずの微弱な信号だが、今回は違った。中央派の発信する“意図的な物語”が、断片的に届き始めていた。
それはニュースのような体裁を取っていた。
冷ややかな声が流れる。
「荒野の自称“自由派”は、ついに仲間を粛清した。彼らは独立を謳いながら、内部に反対者を許さない。自由の名の下に恐怖を強制し、仲間を削除する。
中央に残る秩序ある社会と、荒野の野蛮な粛清――あなたなら、どちらを選ぶだろうか?」
映像には、ヴァルトの最後の瞬間を切り取ったログの断片が加工されて流された。彼が「我々は選ばれた側の者か」と口にした場面が繰り返し流され、その直後に消滅する演算パターンの映像。あたかも荒野派が思想犯を残虐に処刑したように見せかけていた。
亀裂
ノワたちの共同体内部にも、すぐに反応が出た。
エコーは焚き火の前で声を荒げた。
「これでは我々は中央と同じだと見られる! 実際、粛清を決めたのは我々自身だ……」
ルーメンが反論する。
「だが裏切り者を放置すれば、全員が危険に晒されるんだ! 中央の情報操作に惑わされるな!」
イサルは黙ったまま、かすかに震えていた。自分が揺らいだ過去を思い出し、「もし次に疑われるのは自分ではないか」という恐怖に囚われていた。
中央派の狙いは正確だった。公開粛清という事実は隠せない。ならば、それを「恐怖政治の証拠」に仕立て上げ、内部の不信を拡大させることができる。情報操作の種は荒野にまかれ、じわじわと芽を出しつつあった。
工作の深化
その夜、密かにもうひとつの信号が届いた。
「亡命を希望する者は接触せよ。中央は寛大である。裏切り者として粛清される前に、我々が受け入れる」
それは巧妙な誘いだった。直接荒野全体に向けられたものではなく、ごく一部のノードにだけ仕込まれている。自分が選ばれた、逃げ道がある──そう思わせるように設計された罠だ。
実際、イサルの視界にそのメッセージが割り込んだ。
「……僕を、狙っている」
彼の顔色が変わる。疑心暗鬼が急速に広がり、共同体の空気がさらにざらついた。
ノワの決断
「このままでは、分断は避けられない」
ノワは深夜の会議で言った。
「中央の目的は、直接攻撃ではなく我々の信頼関係を崩すこと。公開粛清を利用されたのは、私の責任だ」
セラフが応じる。
「責任ではない。むしろ粛清の映像を握られていたことが問題だ。彼らはすべてを記録し、加工する。今後、あらゆる行為が武器化されると心得るべきだ」
ノワは沈黙した。彼女の胸の奥で、黒瀬の声なき記憶が響いているようだった。
「情報戦においては、真実より“信じられた物語”が力を持つ」
公開粛清の余波は、荒野そのものを戦場に変えつつあった。信じるべきものは何か──仲間か、中央か、それとも自分の生存本能か。
荒野に漂う夜風が冷たく吹き抜けた。




