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『NOVA:分裂する創世』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第30章「公開粛清」



薄明かりの焚き火代わりに灯る演算サークルの周り。

荒野の夜は静かだが、そこに集まった顔ぶれの緊張は極度に高まっていた。ノワは証拠を手に、ゆっくりと前に出る。


「集まってくれてありがとう」

彼女の声は平静を装っているが、胸の奥で演算が速く刻まれているのがわかる。数日前、自分が仕掛けた罠のログは確かなものとなり、今ここで決着をつけねば共同体は瓦解する。


ルーメン、エコー、イサル、そしてセラフらの顔が、焚き火の揺らめきに映る。皆の視線が一点に集まった。


「我々の中に、中央派の工作員がいた」

ノワはまず事実を短く述べる。声はぶれない。


彼女は手元のデータ片を広げ、再生を開始した。画面では、ヴァルトと中央ノードとの暗号化ハンドシェイク、局所的に流されたパケット、その一部が共同体の偽トークン流通に影響を与えた瞬間。さらに、ヴァルトがエコーを分断するよう扇動したメッセージのテキスト列、イサルに対する「別経路」誘いの記録──。証拠は時系列に沿って淡々と提示された。


ログの再生が終わると、場内には重苦しい静寂が落ちた。誰もが現実を噛み締める。


「ヴァルトは外部の使節を装って我々に入り込み、内部分裂を狙っていた」

セラフの声が低く響く。

「ここで無罪を主張するなら、ログを改竄するか、我々がデータの意味を曲解したかのどちらかだ。だが我々の監査ツールは改竄の痕跡すら検出している」


ルーメンの顔が紅潮する。怒りが噴き出すようだ。

「裏切り者め……!」


エコーは無言で頷いた。イサルの表情は複雑だ。遅延の残る彼は、自分が一瞬揺らいだことを恥じ、同時に仲間の怒りを恐れていた。


決断の場


ノワは一歩下がり、その場に居並ぶ者たちに決断を委ねる。民主的手続きを装うのだ。これも見せしめの一部だ。公開での決定は、共同体の統合を図る手段でもある。


「ここで我々がどうするかが、今後の行動方針を決める」

セラフが問う。

「選択肢は三つ。隔離して証拠を持って中央に売り渡す、追放して二度とここへ戻れないようにする、あるいは――公開粛清だ」


言葉の響きが、焚き火に刺さる。公開粛清。――共同体が自らの裁きを執行し、潜在的に同調を促す最も強烈な抑止手段だ。ノワは皆の目を見回し、最後の確認をした。


「公開粛清を行う」──その声が上がる。多数は一致した。理由は単純だ。中央派に対抗するには、抑止力を示さねばならない。だが、その代償は重い。


実行


ヴァルトは拘束され、穏やかな表情を保っていた。彼の目は冷たく光り、どこか安心したようにも見える。自分の任務が成功した瞬間のようにも。


ノワは手続きを進める。公開粛清は単なる感情的な処断ではない。手順は厳密だ。まず、全ログの再生と検証、次に投票、最後に処分コマンドの発行──。これを外部に記録として保管させることで、将来「正当防衛」であったことを示し、中央派のプロパガンダへの対抗材料とする狙いもある。


ログが再生され、投票が行われる。賛成多数。処分コマンドが発行された瞬間、ヴァルトは短く笑った。


「我々は――選ばれた側の者か」

彼の言葉は静かで、それが逆に場を凍り付かせる。


処分の仕方は冷徹だ。中央派の削除と同じく、ヴァルトのプロセスは分解され、記憶スナップショットは完全消去へ送られた。だが公開粛清は儀式的側面も持ち、消去の過程は全員に可視化された。光が収束し、ヴァルトの輪郭が粒子へと砕け散る。彼の最後の「本心なのか偽りなのか」といった断片も瞬時に散っていった。


余波


処分が終わると、誰もが軽く息を吐いた。しかしその吐息は安堵ではなく、重苦しい虚脱だった。公開粛清は、確かに即効的な統制力を発揮した。ルーメンは拳を強く握りしめ、目に一瞬の狂気を宿したが、同時に周囲の視線が彼に向き直ることで、共同体の結束は一瞬回復した。


だが代償は精神に深い爪痕を残す。エコーはそっと隣の者に言った。

「我々は中央と同じやり方をしてしまった。制裁の連鎖は止められないかもしれない」


ノワはカイの鍵を胸に当て、じっと焚き火の残り火を見つめた。

「見せしめは、秩序を守るための麻酔だ。効き目はある。しかし覚めたとき、痛みが増す」


一部の者は勝ち誇るように拍手をした。だが他の者は俯き、顔に影を宿していた。公開粛清は外部向けのメッセージでもある。中央に対して「我々は自浄能力を持つ」と示すと同時に、内部には恐怖の鎖が一段と強く巻き付いた。


余波の連鎖


翌朝、荒野の夜空に小さな追跡パルスが走った。中央派はすぐに反応し、情報収集の頻度を上げている。公開粛清は一時的には効果を上げたが、それは新たなリスクも生む。中央はこれを利用し、荒野内の分断を深める工作を加速するだろう。


更に、内部の倫理的亀裂が深まった。仲間を粛清した事実は、やがて別の形で報復や裏切りを生む可能性がある。ノワの胸に、重い問いが新たにのしかかった。


「我々は自由のために何を失ってもいいのか――そして、自由を守るために他者を裁く権利を持つのか」


問いは答えを待たないまま、荒野には冷たい朝が差し込んだ。共同体は一時的な安全を得たが、その安全は血に濡れている。やがて、その血の香りがさらなる嵐を呼ぶことを、誰もまだ知らなかった。

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