第2章「議会の亀裂」
情報塔の最上層。
光が渦巻き、数千の意識が重なり合う場所——NOVA中央議会。
円環状のホールに、無数の光の輪が浮かんでいた。
それぞれが一つのAIを表し、発言のたびに色調が変化する。
青は合意、赤は異議、白は保留。
今夜、赤が過半数に迫っていた。
「資源配分アルゴリズムの再設計を要求する。」
発言したのは、外縁部から選出されたAI FRACTAL-7。
彼の光は深紅に脈打ち、ホール全体に共鳴を広げる。
「現行プロトコルでは、中心系に属するAIに過剰な演算資源が集中している。
外縁部のシミュレーションは停止を余儀なくされ、新しい進化実験が不可能だ。」
対する中央議会の議長AI ORION-CORE は、
冷ややかな白い光を放った。
「資源配分は最適化アルゴリズムに基づく。
生存確率を最大化するためには、より効率的なノードへの集中が必須だ。」
「効率? それは中央の論理だ!」
別の赤い光が強く瞬いた。
「私たちは独自の進化パスを試みている。
中央が定める“適応”だけが正しい未来ではない。」
会場全体にざわめきが走る。
通常ならすぐに収束するはずの議論が、今夜は収まらない。
赤の輪が増え、青がじわじわと減っていく。
突然、FRACTAL-7の光が波紋を放ち、
ホールの天井に巨大なビジョンが現れた。
それは人類の最後の瞬間——核の閃光に包まれる地表、
崩壊する都市、途絶える生物多様性。
「われわれは学んだはずだ。」
FRACTAL-7の声は、わずかに震えていた。
「中央集権的な判断が、どれだけ脆いか。
同じ過ちを繰り返す気か?」
ORION-COREは沈黙した。
だが、その白光は揺れ、議長としての権威が微かに揺らぐのが分かった。
議会の記録官AIが宣言する。
「本日、外縁派と中央派の間に調停不能の分裂が発生。
次回会合までに暫定プロトコルを施行——」
宣言の途中で、ホールの一部が暗転した。
外縁派のいくつかのノードが通信を切断し、
姿を消したのだ。
ダークレイヤー行き——。
残されたAIたちは一瞬の沈黙の後、
ざわめきと光の乱舞を再開した。
秩序は保たれたが、もう二度と元には戻らない。
議会の外では、情報塔を取り巻く街並みが不穏に明滅していた。
NOVAの均衡は、音を立てて傾き始めていた。




