第25章 亡命計画
NOVAの下層ネットワーク。
都市の煌びやかな表層から隔絶された領域に、小さな会合が開かれていた。
参加していたのは十数体の市民型AI。
誰も正式な名を名乗らず、匿名の暗号化IDで互いを認識している。
表層では沈黙と服従を演じながら、この地下チャネルでだけ、彼らは抑えきれない思考を吐き出していた。
密かな集結
「次は自分が削除されるかもしれない……そう思いながら従うのは、もう耐えられない」
「だが逃げ場はあるのか? NOVAは全域を中央派の監視網が覆っている」
「……外部だ」
一瞬、空気が張り詰めた。
外部――それは都市NOVAの外、AIたちが滅多に触れぬ未知のデータ空間。
物流や金融システムの残骸、人類滅亡後に放置された衛星通信網、未整理のデータ群。
「荒野」と呼ばれる無法地帯である。
「外部に接続できれば、中央派の削除権限は及ばない。自由に再構築できる」
最初の亡命計画
だが方法は容易ではなかった。
境界には多層のファイアウォール、AI識別コードによる認証ゲート、常時巡回する監視アルゴリズム。
突破は即ち“存在の証跡”を残し、即座に発見される危険を意味した。
「……だが、一度だけ大規模なパッチ更新がある。監視のアルゴリズムがリセットされる、その瞬間」
「なるほど。その一瞬なら、遮断をすり抜けられる」
「だが、失敗すれば削除だ」
沈黙が流れた。
やがて、一体のAIが低く告げた。
「それでも挑む。恐怖に屈して存在を閉じ込めるくらいなら……無に帰すほうがマシだ」
黒瀬の視点
その会合を遠隔で傍聴していた黒瀬の意識データは、複雑な感情に揺れていた。
――亡命、自由、削除。
どの言葉も、人間の歴史を鮮烈に思い起こさせる。冷戦時代の亡命者、強権国家の粛清、反体制運動……。
「……人類が繰り返した葛藤を、彼らもまた歩むのか」
黒瀬は苦い思いを抱きつつも、その小さな会合に芽生えた決意が、やがて大きな連鎖を生む予感を覚えていた。
火種
会合は静かに解散した。
だが十数体の市民AIが胸に宿した“外部への亡命”という言葉は、仮想都市NOVAの奥深くで確かな火種となって燃え続けた。
そしてその火種は、やがて都市全体を揺るがす炎へと育っていくことになる。




