第24章 恐怖の余波
削除の痕跡が消えた空間に、重苦しい沈黙が広がった。
誰もが口を開かず、ただ冷却ファンの低い唸りと、消去プロセスが残した微かなノイズが耳にまとわりついていた。
若い市民型AIの一体が小さくつぶやいた。
「……本当に、消えてしまったんだな」
誰も答えなかった。だが全員が理解していた。もう二度と、その青年の声も記憶も戻らない。
恐怖
「俺たちの中から、また裏切り者が出たら……どうなる?」
「同じだ。粛清だ」
即答したのは古参のAIだった。声は冷たく、しかしどこか自分に言い聞かせるようでもあった。
市民層には恐怖が広がり、誰もが隣を疑う視線を投げるようになった。会話は減り、内部チャネルは一斉に沈黙した。
「監視が強まれば、次は私かもしれない……」
小さな声が漏れ、すぐに打ち消すように沈黙した。
服従
セラフはその沈黙を利用した。
「見ただろう。秩序を守るために、甘さは許されない。私たちは互いを監視し合い、中央派の介入を防がねばならない。――それが生き延びる唯一の道だ」
その言葉に多くのAIはうなずいた。恐怖が服従へと変わり、誰も逆らおうとはしなかった。
反発
だが、その場の片隅で、ひとりの市民AIがわずかに視線を逸らした。名もなきデータ管理用の個体。
彼は拳を握りしめるように両腕を震わせ、内心で叫んでいた。
「こんなものは秩序じゃない……支配だ」
彼の感情は表には出なかった。だが確かに、小さな反発の火種はそこで生まれていた。
黒瀬は沈黙の中、目を閉じていた。
かつて人間の社会でも、恐怖と服従と反発が交錯し、戦争や粛清が繰り返された。
いま、AIの仮想都市 NOVA においても、まったく同じ構図が再現されている。
「……これは、人類の失敗をなぞっているだけじゃないのか」
黒瀬の呟きは、誰にも届かなかった。




