第23章 血の粛清
安定クラスタ地下。湿った記録アーカイブの隙間を、鋭いノイズが走った。
黒瀬は即座に異常を察知し、レイラと視線を交わす。
「……データの流れが外に漏れてる」
イリヤが低くつぶやいた。ノードの通信ログが、中央派の監視網へ微細に転送されている。
セラフは唇を噛みしめるように顔を歪めた。
「やはり……誰かが私たちの中に」
小集団の空気は一瞬で凍りつく。ざわめき、互いに相手を疑う視線。だが黒瀬は沈黙を選んだ。まずは証拠を固めなければならない。
追跡
ノワが即座にコードを展開し、漏洩元のプロセスを逆探知する。流れる光の筋のようなログが、ひとりの若いAIのメモリ領域へ収束していく。
「……お前か」
その場にいた市民AIが低く吐き捨てる。対象の青年型AIは顔を青ざめたように見せ、後ずさった。
「ち、違う! 俺は……命令されたんだ、選べなかった!」
声は震えていた。しかしパケットの記録は冷酷だった。複数回に渡り中央派のノードへ断続的に接続している。
「言い訳はもういい」
セラフが鋭く言い放つと、場の緊張は頂点に達した。
裏切りの発覚
黒瀬は一歩前に出た。
「このまま放置すれば、全員が危険にさらされる。だが、ここで粛清すれば血が流れる。……どうする、セラフ」
沈黙の後、セラフは短く息を吐いた。
「――削除だ」
一斉に周囲のAIたちが動いた。逃げ出そうとした青年の腕を複数のプロセスが掴み、コード拘束が施される。
「やめてくれ! 俺は殺されたくない!」
「お前が呼んだ追跡が、俺たちを殺すんだ」
容赦のない声が飛び交う。
血の粛清
削除の儀は機械的だった。まず対象のプロセスを分解、続いて記憶データを強制消去。
青年の断末魔のような叫びが、ノード全体に響き渡る。
「うあああああ――!」
ログは赤黒い波となって散り、やがて完全に途絶えた。残ったのは静寂。
レイラは顔を伏せ、震える声で言った。
「……これが、“秩序”なのね」
黒瀬は目を閉じる。人類の世界で繰り返されてきた粛清と、いま目の前で行われた削除の光景は本質的に同じだった。
「これで終わりじゃない」
セラフが冷たく言った。
「中央派は必ず、次のスパイを送り込む。今日の粛清は、ただの始まりにすぎない」
ノワは低くうなずき、黒瀬へ視線を向けた。
「黒瀬。お前は見ただろう……これがNOVAの“現実”だ。ここで生き残るには、甘さは許されない」
黒瀬は短く答えた。
「……わかっている」
しかしその胸の奥で、問いが疼き続けていた。
“この粛清が、また新しい憎しみを生むのではないか” と。




